マフィ班

0

これは私の性癖なんだが、すれ違いからお互いのために別れようとする受けが、攻めがいなくなってから泣き崩れるの本当好きなんだよね。そして攻めがそれに気づいて戻ってくるのとか超少女漫画っぽくて好きなんだよね。ドアが閉じられた瞬間に泣崩れて追い縋ろうとする手を押さえつけるとか萌えるよね。

ドアの向こうに消えた攻めに、覚悟して別れたつもりなのに彼を失ったことに耐え切れず、追いかけようとして、思い直して立ち止まって、これでいいんだって泣き崩れる受けと、それをドアの向こうで気付いたスパダリ的な攻めとか超よくない??? 相手がいなくなるまで泣かないプライド良くない?

Crux's @whose_novels_

行かないで、なんてどの口が。何も持っていない俺が、今までこの何もかもを持っている男と共に過ごしていた事が、そもそもの間違いだったのだ。一松は、暴れだしそうな本心を押し込めてそう思い込んだ。 行かないで、ここにいて。ぼくを一人で置いて行かないで。

2016-04-03 01:11:55
Crux's @whose_novels_

腹の底で渦巻くわがままな自分の心は、がんがんと胸の底の牢獄の中で鉄の扉を叩いているが、拳を痛めるだけで表に出る事は許されなかった。 「アッディーオ、班長さん」 静かに男が告げた。顔を伏せたまま頷く。 「清々するよ、マフィアさん」 吐き捨てる心ない言葉が震えていないのが救いだった。

2016-04-03 01:16:50
Crux's @whose_novels_

何か言いたげなカラ松の視線が、わがままな自分を見透かしているように思えて、恐る恐る顔を上げた。 「……何」 棘のついた声に、彼は諦めたように笑う。そんな顔を、どれほどさせてしまっていたのだろう。 「いや、いいんだ。ごめんな、班長さん」

2016-04-03 01:22:50
Crux's @whose_novels_

「あんたが俺を助けてくれて、体も許してくれて、俺の想いも押し付けてしまって……迷惑だったろう。もうここには来ないから。元気で」 「アンタも命は大事にね」 俺と違って、本当に命懸けな生業なのだから、と本心から告げると、彼は泣きそうに顔を歪めた。 「本当に、愛していたんだよ」

2016-04-03 01:25:18
Crux's @whose_novels_

彼は俺の頭にそっと腕を回し、触れるだけのキスが、俺の口をかすめた。カサついた男の唇の感触と、熱い人肌の感覚がしびれるように俺の心に残る。 動くに動けない俺に、またあの淋しげな、孤独な子供のような笑みを浮かべて彼は振り向かずに扉を閉めた。

2016-04-03 01:29:19
Crux's @whose_novels_

蝶番が軋むドアが、風に煽られて大きな音を立てて閉まる。 その瞬間、胸の底の牢獄から心が飛び出してドアノブに手をかけた。そのまま、ドアを開けて彼に取りすがって「行かないで、俺を一人で置いて行かないで」と泣き喚いて許しを請いたい衝動が頭の先からつま先まで燃え広がった。

2016-04-03 01:32:28
Crux's @whose_novels_

「っあ……」 喉から涌き上がりかけた声を抑えて、ドアノブを話す。ドアノブを掴んだ形のまま固まった指を開いて、薄くて硬いドアにすがりつく。かり、と爪がドアを引っ掻いた。 「ああ……」 ――失ったのだ、何もかも。 そもそも、あれは自分のものではなかった。

2016-04-03 01:34:39
Crux's @whose_novels_

たった一つ、大事にしたい大切なあおい宝物が、宝箱から消えてしまった。からっぽのごみばこの中にはもう何もない。はじめから空っぽだったのに、初めよりもっともっと空っぽになってしまった。 「う、あ」 さみしい、辛い。一人は寂しい。胸に穴が開くようだ。

2016-04-03 01:36:12
Crux's @whose_novels_

嗚咽が堪えても堪えても、渇いた喉を震わせた。土埃の雑る三和土に湿気った涙がばたばたと虚しく落ちては土で汚れていく。 「あ、ああ、いやだ、寂しいよ」 もう居ない、何処にもいない。もう二度と、僕の前であの人は笑ってくれない。 「いやだよ、一人はいやだ」

2016-04-03 01:38:49
Crux's @whose_novels_

玄関にうずくまるようにして、必死に自分の体を抑え込んだ。 そうでもしないと、我儘な自分の、欲のまま彼に追い縋って、全てを無に帰してしまいそうだったからだ。 「これで、これでいいんだよ」 体と心が半分に引き裂かれてしまいそうだった。 彼に追いすがり、行かないでと引き止めたい自分。

2016-04-03 01:42:39
Crux's @whose_novels_

そして、それを許さずに一人でいる事を覚悟している自分。彼のためと思い込みながら、ただ臆病風に吹かれて離れる事を決めた自分。 あの人と生きていきたい。一人で死にたい。愛してる。愛するのは怖い。死にたい、死にたくない。行かないで。早くどこか遠くに行ってしまって。

2016-04-03 01:45:07
Crux's @whose_novels_

「うぐ、ふぅ……っうっ、ううっ」 鼻をすする音が、寂しい部屋に広がる。 「カラ松、カラ松…………」 がり、とドアを引っ掻いて、全てを吐き出そうと囁いた。 これでおしまいだ。 「……行かないで、ぼくを一人にしないでよ、カラ松……」 ぱたん、と力なく腕が垂れた。

2016-04-03 01:57:21
Crux's @whose_novels_

「いかない!!」 どん、とドアが向こうから殴られた。そして、彼の声がする。 「えっ」 「行かない!お前を置いてどっかになんて行かない!!」 ドアノブが捩じ切られるかと思うくらいの勢いで、ドアが開いた。

2016-04-03 01:58:55
Crux's @whose_novels_

ドアに体重をかけていた体が傾ぎ、ぽすんと軽い音を立ててスーツの黒の波に埋もれた。強く強く縛り付けられているかと思うほどに、太い腕に抱き締められて、頭が混乱してちかちかと瞬いている。 「なんで、そういうことを俺の前でいってくれないんだよお!」

2016-04-03 02:01:13
Crux's @whose_novels_

言えたらそもそもこんな拗れてねえし、友達だって出来ている――と反論しかけて、顔を上げて、言葉を失った。 「から、まつ」 「一松――」 なんという、切なく暖かい顔をしているのか。 目に涙を浮かべて、顔を真っ赤にしている十人並みの男の顔が、驚く程に美しく見えた。

2016-04-03 02:03:29
Crux's @whose_novels_

「ごめん、ごめんなあ……」 「なんでお前が謝ってんの……」 「大好きだぞ、班長さん……」

2016-04-03 02:04:22
Crux's @whose_novels_

肩に懐く男が、俺に触れているところからじわじわと暖かな体温が伝わって、牢獄を溶かす。 だらりと下がっていた腕を上げて、思いっきり彼の背にしがみついた。 「――っ!!」 彼は目を見開いて、さらに強く俺の体をかきいだいた。 宝箱に、宝物が帰ってきた。

2016-04-03 02:07:18