【Голубй крейсер-空色の巡洋艦】

初霜×グラーフという珍しい組み合わせ
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葛葵中将 @katsuragi_rivea

頷いたグラーフだったが、ふと何かを思いついたように初霜に問いかけた。 「…君は怖くはないのか?」 「何がですか?」 その疑問に対し、初霜は疑問で返した。意図が読めなかったからだ。 「君の国では我々のような人種を見ると怖がる者もいるかもしれないとあの男(葛葵)が言っていた」

2016-04-28 23:46:56
葛葵中将 @katsuragi_rivea

人は自身と異なる姿の者を敬遠する傾向にある。 実際、グラーフ自身も目の前にいる小さな姿に内心、少し怯えていた。 嫌われるのではないか、仲良くやっていけるかの不安から疑問が口から出たのだろう。 そう結論づけたグラーフに対して発せられた言葉はそれら全てを吹き飛ばすものだった。

2016-04-28 23:47:58
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「私にはそれはよくわかりません。けど…全然怖くはないですよ? 私の前にいるのは私と同じ艦娘。 それも皆と仲良くしたいだけの気取った恥ずかしがり屋さん…ですね」 微笑む初霜の言葉にグラーフは開いた口が塞がらないといった表情を浮かべた。

2016-04-28 23:49:26
葛葵中将 @katsuragi_rivea

それを見た初霜は慌てたように取り繕う。 「ごめんなさい!私ったら、初めてこうして話すのに色々と勝手に…」 「はは、いや。気取った恥ずかしがり屋か…その通りだ。変な質問をしてすまなかった。」 気まずそうにした初霜にグラーフは笑いかけながら謝罪の言葉を口にする。

2016-04-28 23:50:55
葛葵中将 @katsuragi_rivea

(なんというお人好し…言うなれば天使か何かか。恥ずかしいものだな…私も私なりに早く馴染めるように努力しなければこの優しき天使に顔向けが出来ない) 微小とともに鼻を鳴らすグラーフの顔を覗き込む初霜は目を丸くしていたが やがて何かを思いついたように手をポン、と叩いた。

2016-04-28 23:52:40
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「これから自主的に鍛錬でもしようかと思っていたところなので…よかったらご一緒しませんか?」 差し出された小さな手にグラーフは迷うことなく握り返した。 「…喜んで。出来れば色々教えてくれないか?日本語もそうだ。君のこと、これから私が向かう国のことも」

2016-04-28 23:54:19
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「そうだ。知ってるとは思うが改めて…私はGraf Zeppelin。 気取った恥ずかしがり屋。君と同じ、艦娘だ」 片目でウインクしてみせたグラーフに初霜は満面の笑みと共に言葉を返した。 「私は初霜。貴方と同じ、艦娘です」 二人は手を取り合ったままそれが可笑しくて笑いあった。

2016-04-28 23:56:13
葛葵中将 @katsuragi_rivea

早朝の甲板の上で二つの笑い声があがる。 異国同士の、姿も形も、艦種も違う二人の艦娘。 端から見れば奇妙な組み合わせだが、そこには確かに新たな友情が芽吹いた。 (シュトラッサー、君がもしこの世界に存在するのなら…この話をしたいものだ…)

2016-04-28 23:57:29
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「…Danke」 「?」 小さく異国の言葉で口にした言葉は波の音に混じり混んだ。 その日の海面は穏やかの一言に尽きた。 風一つ無く、 月の引力により引き起こされる海水の動きが朝日をきらびやかに映し出す。 まるで、嵐の前の静けさを示すかのようにーーー

2016-04-29 00:27:46
葛葵中将 @katsuragi_rivea

コロンボ仮設泊地、元は深海棲艦の支配下にあった地に物資を搬入し設営された臨時の泊地である。 「つるみだけ」が停泊する港湾部に敵陸上棲艦級港湾棲姫が根をおろしていたためか… 比較的内地に近い位置の建物郡は老朽化こそしていたが彼女達に支配される以前の状態のままで残っていた。

2016-05-17 20:29:52
葛葵中将 @katsuragi_rivea

西方への海上交通網はあくまでも一時的な打通に過ぎない。 制海権が完全に確保されない限り、人類が恒久的にこの地を支配下に置くことは不可能であろう。 しばしの間、この臨時泊地を踏みしめるのは人類であるだけのこと。 それも武力を有した者達のみである。

2016-05-17 20:31:51
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「臨時総司令部施設」 三つの国の言葉で急ごしらえでそう書かれたベニヤ板が打ち付けられた元は書庫か会議室であったであろう施設の一室。 一人の男が早朝から壁に貼り付けた海図を睨み、低く唸るような声を喉の奥からかき鳴らしていた。

2016-05-17 20:34:08
葛葵中将 @katsuragi_rivea

ステンレス脚のついた折り畳み机の上には…男が食い散らかした即席麺の容器と甘味の空が置かれたまま。 その脇には灰皿と大量の書類、カバー付きの書籍なども無造作に散らばっている。 前日から彼がここに篭っていたことを示す証でもある。

2016-05-17 20:35:56
葛葵中将 @katsuragi_rivea

男が懐から煙草を取り出し、口にくわえようとした時だった。 彼の背後数m先、海図の貼り付けられた壁の反対側には蝶番が少し歪んだ扉がある。 その扉をノックする音が聞こえた。 「…鍵は壊れてるのは知ってるだろ?形式ばったもんはいらん、入っておいで」 「失礼します!」

2016-05-17 20:38:08
葛葵中将 @katsuragi_rivea

入室してきたのは赤髪の少女。作業着を意匠とした上着を羽織る駆逐艦、男の秘書艦である「睦月」であった。 「提督、おはようございます!」 「………おはよう」 睦月は男の気だるそうな態度と、目の下のクマから彼がまた徹夜したことを看破した。 「…またですか?いい加減に…」

2016-05-17 20:39:59
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「あ〜〜っ!」 睦月は叫ぶ。机の上の食料の残骸を発見し、それを嘆いた。 「またこんな栄養の偏ったものばかり食べて!今は自家発電に頼ってるんですよ?お湯を沸かすガスだって貴重な…」 「お湯なんか沸かしてない。水を入れた」 怒鳴る秘書艦と対照的に男は悪びれる素振りも見せない。

2016-05-17 20:43:16
葛葵中将 @katsuragi_rivea

男の言うことは真実であるらしく、紙コップの底には溶け切っていないコーヒーの黒い塊すら残っていた。 睦月はため息をついた。同時にジッポライターが火を立てる音が響く。灰皿の中には大量の吸い殻。 この人には出来るだけ長生きしてほしい、睦月のささやかな願いは叶いそうもない。

2016-05-17 20:44:53
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「まぁまぁ、そう怒るなよ…」 男の名は葛葵冷士。睦月を始めとして、初霜や翔鶴、木曾といった面子の艦隊を統率するれっきとした司令官。 …のはずなのだが、普段の奇矯な振る舞いと子供のような言動から威厳の欠片を微塵も感じさせない男だ。 睦月の悩みの種の諸悪の根源である。

2016-05-17 20:47:21
葛葵中将 @katsuragi_rivea

いざとなれば頼りになる。そう自身でも豪語しているように…頭の切れる男ではあるのだが、 普段が普段なだけに周囲からも「喰えぬ男」という評価が常に付き纏う。 半ば諦めるように机の上を整理し始める睦月。 これもまた秘書艦としての業務には違いないが…常日頃、腑に落ちることはない。

2016-05-17 20:49:26
葛葵中将 @katsuragi_rivea

睦月が書類の束を手にかけ持ち上げると…その間から一枚の写真が床に落ちた。 「おっとと…落としちゃった…」 拾おうと屈んで机の下を見たその先には先ほど睦月が入室してきた扉がある。 …突然の出来事であった。閉めてあった扉が音を荒げて勢いよく開けられた。 「!」 「パパ!!」

2016-05-17 20:52:21
葛葵中将 @katsuragi_rivea

その声の主を見た葛葵は戦々恐々とした表情を浮かべた。 「おい、にゃっしぃ…何故、鍵を閉めなかった!?」 「この部屋の鍵、壊れてますし」 「クソッ…!」 淡々と返す睦月を恨めしく睨む葛葵。 そんなやり取りをしている間にも声の主はパタパタと足音を立て葛葵に近づいていった。

2016-05-17 20:54:06
葛葵中将 @katsuragi_rivea

背は睦月よりも低く、少女というより幼女という表現が正しい。 日焼けした肌に茶色の髪、特徴的なノースリーブの制服。国籍は伊国の…南西の風を意味する駆逐艦。 「おはよ、パパ!」 「…リベ。私は君の父親ではない、その呼び方はやめたまえ」 葛葵は幼女にしかめっ面を向けた。

2016-05-17 20:56:08
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「えーいいでしょ?」 「良くないでしょ」 童女の名はリベッチオ。とある理由から葛葵を「パパ」などと呼ぶ。 その瞳はまるで邪気など皆無。それ故に葛葵が困惑する…彼が最も苦手なタイプであった。 睦月はさらにため息をついた。時津風がこの場にいたらさらに騒がしくなるに違いない。

2016-05-17 20:57:21
葛葵中将 @katsuragi_rivea

周囲からどこぞの女でも引っ掛け産ませたなどという噂まで立ち、白い目で見られたが(おそらく)事実無根。 リベッチオの父親に似ていたが故にそう呼ばれるはめになったらしいが葛葵本人は納得がいかないようだ。 臨時司令部室の中は早朝から幼女と言い争う司令官の声で騒がしさを見せていた。

2016-05-17 20:59:29
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