駆逐艦若葉【艦これのえほん:第2巻】
「というわけでな、毎年この時期、夜になると、恐ろしい幽霊船が航行していく船に恐ろしい腕を伸ばして捕まえようとするんだ」 天龍は、初春型の駆逐艦たちに言いました。 「な、なんで腕を伸ばしてくるの?」 子日が聞きました。
2014-05-31 11:30:43「そりゃあお前、難破して乗組が死んじまったからだよ。足りないクルーを補充しようとするんだ。『乗組を置いてけ……。乗組を置いてけ……』みたいにな。フフフ、怖いか?」
2014-05-31 11:31:03「子供だましじゃのう」 初春が言いました。 「そもそも、船の怨念と言われる深海棲艦と戦っておるというのに、今更幽霊船も何もなかろう」 初春は冷静なものです。
2014-05-31 11:31:30「やっぱり子供だましか。昔、イギリスのダーバンって船から聞いた話なんだがな。これくらいじゃおめえらも怖がらせられんか……」 天龍はがっかりしました。
2014-05-31 11:32:55「でも、天龍さんのお話、面白かったです!」 「おう、初霜、ありがとな」 「ね、若葉ちゃん。面白かったよね!」 「おもしろかったぞ。でも、それくらいじゃ怖くないぞ」 若葉はいつもどおりにクールに応えます。
2014-05-31 11:33:46その夜、若葉は初霜と一緒に母港沖合にいました。鼠輸送任務を終えて、自分の泊地に戻る途中です。若葉はなにか落ち着かない様子であたりを見回します。
2014-05-31 11:35:31若葉は夜でも寝なくても平気です。いつでも一生懸命で、寝食を忘れて働こうとします。初霜はそんな若葉が心配でした。
2014-05-31 11:36:31「若葉ちゃん、どうしたの?」 初霜が聞きます。 「なんでもないぞ。敵潜を警戒しているだけだ。でも、霧が濃いからな。初霜、気をつけろ。もうぶつけられるのは嫌だぞ」 「わかってるわよ」
2014-05-31 11:37:34「……もしかして、若葉ちゃん、天龍さんのお話で怖くなったんじゃ……」 初霜が意を決して若葉に声をかけます。 「ば、馬鹿なこと言うな。こ、怖くなんかないぞ……」 でも、本当は怖いのです。
2014-05-31 11:38:44初霜も若葉の仕草でよくわかります。 「だ、大丈夫よ若葉ちゃん。私もいるから……」 「何言ってるんだ。若葉は怖くないぞ!!」 そう言って、足を速めます。
2014-05-31 11:39:44その束の間に若葉と初霜は霧の中から船を見つけました。最初はほかの艦娘かな、と思ったのです。こっちに向かってきます。若葉も初霜も、誰だろうと思いました。
2014-05-31 11:40:16でも、その瞬間、その船は大きな腕を伸ばして若葉と初霜を捕まえようとしてきたのです!! 「うわ、幽霊船だぞ!!!」 「ほ、ほんとにいたんだ!!」 2隻とも全速で逃げます。
2014-05-31 11:41:03初春型の駆逐艦は駆逐艦の中では足が遅い方です。それでも30ノット以上の快速で幽霊船の魔の手を振りきりました。 「わ、若葉ちゃん、怖かったね……」 「こ、怖くなんか無いぞ」 でも、若葉の目元にはじんわり涙が滲んでいたのを初霜は見ていました。
2014-05-31 11:42:49若葉と初霜は大きく迂回してようやく自分の泊地に戻りました。もう朝焼けも見えてきました。泊地では、誰かと誰かが話していました。 「聞いてくださいよ青葉さん」 工作艦の明石です。重巡洋艦の青葉となにか話しています。
2014-05-31 11:44:00「昨日の夜、私、艦娘とすれ違ったんですけどね、霧が濃くて見えなかったんですよ。近づいて挨拶しようとしたら、『幽霊船だぞ!!』って言われちゃって逃げられちゃって」 若葉と初霜はよく明石を見ました。そう、幽霊船の腕は明石のクレーンだったのです!
2014-05-31 11:44:04「そ、それは明石さんが幽霊船を見たってことですよね!」 青葉が興奮して聞き返しました! 「うーん。幽霊船って言ってたし、そうなのかも」 「これはスクープです!」
2014-05-31 11:44:36それから、鎮守府では夜に出る小さな2隻の幽霊船の噂で持ちきりとなりました。その正体を知っているのは、若葉と初霜だけです。
2014-05-31 11:45:13【艦これのえほん:駆逐艦若葉】第2話 眠れない若葉 (第1話はこちら togetter.com/li/674029)
2014-06-18 17:24:05若葉はとても働き者でした。海戦も船団護衛も鼠輸送も、どれをとっても自信があります。1日じゅう働いて、夜も寝ないということも多くありました。
2014-06-18 17:25:22