忘却の天井 第一部 ~塔を目指して~

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夢乃 @iamdreamers

「そう、それ。それで、その熱を地球側に向けて放射しているから、それほど気温が下がらない、っていう説」 「なるほどね」 「でも、私はこれ、違うんじゃないかな~、って思ってるよ」 「ん? なんで?」 アリューは水で口を潤してから続けた。 #twnovels

2017-04-29 20:36:32
夢乃 @iamdreamers

「古い資料を見ると、天井って地球を完全に覆うまでに広げる計画があったらしいのよ。その計画が事実だとすると、内側に向けて放熱したら、全然放熱の意味がないじゃない?」 「なるほど。でもその計画は破棄されたんじゃないのか? 天井は地球を完全には覆っていないし」 #twnovels

2017-04-29 20:36:50
夢乃 @iamdreamers

「うん。だから、私の予想の方が間違っているかもしれない。それで、もう一つはね、地球が発生した熱が温室効果で留まっている、っていう説」 「温室効果? そうか、天井が温室の窓と同じ役割を果たしているのか」 「そう。元が太陽の熱じゃないのが違うけどね」 #twnovels

2017-04-29 20:37:03
夢乃 @iamdreamers

簡素な食事を終えてチューブを椅子の下に戻したカイムは両手を頭の後ろに回した。 「そっちの方がありそうかな。いや、寧ろ両方が合わさっているんじゃないかな。北と南は天井が開いているわけだし、温室効果があっても地熱だけじゃ足りない気がする」 #twnovels

2017-04-29 20:37:18
夢乃 @iamdreamers

「そうかもしれないね」 「それも天井に行けば判るかな」 「そうだね。まずは行ってみないとね」 カイムは真っ暗な外を見た。アリューも。ヘッドライトを消し、自動車内の照明を点けているため、何も見えない。 「もうそろそろのはずだよな」 #twnovels

2017-04-29 20:37:36
夢乃 @iamdreamers

「だね。塔に着いてからも長いけど」 「それもそうだな。明日に備えて、今日はもう寝るか」 「そうだね。その前におしっこしておかないとね」 いつものように、二人はそろって用を足した後、椅子を倒して眠りについた。 #twnovels

2017-04-29 20:37:59

夢乃 @iamdreamers

「なんだか地面が柔らかくなってる気がする」 左の座席でハンドルを握っているアリューが言った。 「うん・・・なんとなく、車の震動が昨日までとは違うよな」 カイムも言った。ヘッドライトに照らされる地面も、これまでと比べて黒味が増しているように見える。 #twnovels

2017-05-13 11:35:09
夢乃 @iamdreamers

「あんまりスピード出すなよ」 「うん、解ってる」 二人を乗せた自動車は、ゆっくりと暗闇を進んで行った。自動車のライトが照らす狭い範囲だけが、二人に見える世界のすべて。他は何も見えない。 「センサーと地図が正しければ、そろそろのはずなんだけど」 #twnovels

2017-05-13 11:35:43
夢乃 @iamdreamers

ホロパッドの表示を見ながらカイムが言う。 「こう暗くちゃ、目の前のあっても解らないよな。真正面に見えればいいんだけど」 「でも、それしか手掛かりがないんだもの。仕方ないよ」 「まあね。せめて、少しでも左右が見えるようにしておくか」 #twnovels

2017-05-13 11:35:59
夢乃 @iamdreamers

カイムはパネルのスイッチを操作して、自動車の上についている照明の角度を左右に向けた。これで、前方百五十度ほどは見える。見える距離は二百メートルと少し。あまりにも心許ないが他にどうしようもない。何も見落とさないようにと、二人は窓の外に注意しながら進んだ。 #twnovels

2017-05-13 11:36:15
夢乃 @iamdreamers

「あれ」 アリューが言った。ほとんど同時にブレーキを踏む。速度を落としていた自動車はすぐに止まった。 「どうした?」 「前のあれ、真っ黒だけど、水、かな?」 「え?」 カイムも目を凝らした。進んできた地面とほとんど見分けはつかない。 #twnovels

2017-05-13 11:36:44
夢乃 @iamdreamers

けれど確かに、数メートル先から地面の様子が違っている。 「・・・そうみたいだな。ということはつまり、この先に塔がある?」 「多分。ここの塔は湖の真ん中に建てられたらしいから」 「それじゃ、今いるここも、昔の湖底か」 「多分そうだと思う」 #twnovels

2017-05-13 11:37:02
夢乃 @iamdreamers

周りを見ても、暗闇しかないここでは、それが事実かどうかは判らない。 「どうする?」 「どうって?」 「水の中は流石に進めないだろ。どれだけ水が残っているかは判らないけど、それなりに深いはず」 「塔の周り、塔に続く道が造られているでしょ。道っていうか橋だけど」 #twnovels

2017-05-13 11:38:21
夢乃 @iamdreamers

カイムはホロパッドを操作して、塔の図面を表示させた。確かに、塔へと続く三本の橋が造られたらしい。 「ここから方向を変えて、その橋を見つければ塔に行けるよ」 「橋があっても渡れるか判らないんじゃないか」 #twnovels

2017-05-13 11:38:38
夢乃 @iamdreamers

「まぁ、半分賭けになるけど、その図面見た感じだと、橋も塔の一部だと思う。だったら、例の自己修復素材でできてる可能性も高いと思う」 「そうか。確かにこの図だと、橋と塔が滑らかに繋がっているな」 「うん。じゃ、ここから右か左だね。どっちにする?」 #twnovels

2017-05-13 11:38:57
夢乃 @iamdreamers

「・・・左、かな。理由はないけど。この間も左に行って正解だったし」 「じゃ、そうしよう」 アリューはハンドルを左に切ってアクセルを踏み込んだ。水際に沿うようにして、ハンドルを操る。カイムも、ホロパッドと窓の外を交互に見ながら、何も見落とさないように注意する。 #twnovels

2017-05-13 11:39:17
夢乃 @iamdreamers

三キロメートルほど進んだだろうか。 「あ」 アリューがブレーキを踏んだ。その理由はカイムにも解った。自動車のライトが照らす先、百メートルほどのところを銀色の構造体が左右に伸びている。 「あれが、橋か」 「そうみたい。塔の反対側から登れるはずだから・・・」 #twnovels

2017-05-13 11:39:43
夢乃 @iamdreamers

「塔が湖の真ん中の方なら、左の方から登れるはずか」 「うん」 アリューはまた左にハンドルを切った。カイムは自動車の上、右側のライトを真横に向けて、橋を見失うことのないように注意した。橋はどこまでも続いているように思えた。 #twnovels

2017-05-13 11:40:03
夢乃 @iamdreamers

図面によると、一本の橋の長さは二百キロメートルほど。それが、塔から三方向に伸びている。まるで、塔を支えているかのようだ。途中で一度自動車を止めてペーストと水だけの簡素な食事を済ませてから、運転をカイムに代わって再び進んだ。 #twnovels

2017-05-13 11:40:30
夢乃 @iamdreamers

昼食を摂ってから一時間近く経って、ようやく橋の終端が見えた。 「あ、カイム、あそこから登れそう」 「そうだな」 「長いねぇ。世界の果てまで続いているかと思っちゃった」 アリューは笑った。塔を目前にして、気が昂ぶっているようだ。 #twnovels

2017-05-13 11:40:46
夢乃 @iamdreamers

それはカイムも同じだった。かつて、人類が建造した最大の構造物である、天井。そこから地上へと降りて来ている塔。それを間もなく、この目で実際に見ることができるのだ。いやでも興奮してしまう。さらに自動車を進めて、真直ぐ伸びる橋を正面でカイムは一度自動車を止めた。 #twnovels

2017-05-13 11:41:03
夢乃 @iamdreamers

「それじゃ、行くぞ」 カイムがアクセルを踏み込もうとする。 「あ、待って」 アリューが静止した。 「何?」 「えーと、ここからはまた、運転を代わって欲しいなぁ、って。駄目かな」 カイムはアリューを見た。控え目にそう言ったアリューの目は、好奇心で輝いていた。 #twnovels

2017-05-13 11:41:17
夢乃 @iamdreamers

「そうだな。この旅はそもそもアリューの旅なんだし、俺は付き添いだもんな。いいよ。ここからはお前が運転して」 カイムはハンドルを跳ね上げ、アリューからホロパッドを受け取った。 「ありがとう!」 アリューは嬉しそうにハンドルを下ろした。 #twnovels

2017-05-13 11:41:30
夢乃 @iamdreamers

「それじゃ、行くよ」 自動車はまた進みだした。初めのうちこそ、細かい石や砂利が散っていたが、進むにつれて整地された路面が顕になった。アリューは、これまでに無いほどの速度で自動車を先に進めた。 「走りやすいからって、あまりスピード上げすぎるなよ」 #twnovels

2017-05-13 11:41:55
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