男子凍結 第四部

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六十三

夢乃 @iamdreamers

朝九時にアパートに迎えに来たミユキの自動車に乗せられて二十分、着いたところは寄那濱市の郊外に建つ高層マンションだった。 「あそこよ。あの東側の棟」 指し示された近付いてくるマンションを、マユカは見上げた。天を衝くように聳え立つ、六棟の高層ビルディング。 #twnovels

2016-10-08 20:59:02
夢乃 @iamdreamers

地上から最上階まで、透明太陽光発電パネルの窓が、秋の朝の光を浴びて輝いている。マユカが後席の窓から見上げているうちにも自動車は、ほとんど葉の散った銀杏並木の間を抜けて、マンション群の一棟の地下駐車場に吸い込まれていった。 #twnovels

2016-10-08 21:00:00
夢乃 @iamdreamers

「ここよ。さ、降りて」 駐車場に停めた自動車のモーターを停止してIDカードをバッグに仕舞ったミユキは後席を振り返って言うと、自分は先に運転席から外に出た。マユカも自動車から降りると、自動車の後ろから反対側に回り、備えられたベッドからアユナを抱き上げた。 #twnovels

2016-10-08 21:00:18
夢乃 @iamdreamers

後席のこの乳児用ベッドも、ミユキがこのために取り付けたらしい。もしかすると、この自動車やマンションの部屋もアユナの検査のために? いやいや、流石にそれはないか。マユカがアユナを自動車から抱き上げている間に、ミユキはトランクからベビーカーを降ろしていた。 #twnovels

2016-10-08 21:00:34
夢乃 @iamdreamers

「はい、どうぞ」 「あ、ありがとうございます」 マユカはアユナをベビーカーに寝かせた。アユナが目を開いた。 「あぅあぅ」 「あ、目が覚めちゃったかな~。寒くないかな~」 「あぅ~」 マユカはアユナを覆っている毛布の様子を確かめた。 #twnovels

2016-10-08 21:00:48
夢乃 @iamdreamers

それから頭を上げて周りを見回す。地下駐車場の割に、辺りは明るい。天井に埋め込まれた照明が駐車場を照らしている。照明器具ではなく、外の光を取り込んでいるのかもしれない。その視野に、脚を止めてこちらを振り返っているミユキの姿が映った。 #twnovels

2016-10-08 21:01:02
夢乃 @iamdreamers

その方向へ向けて、ベビーカーを押して行く。毛布の中でアユナが、いつもと違う周囲の様子に気付いているらしく、何かを気にするように視線をせわしなく動かしている。それに笑いかけてから、ミユキに追いついて頭を下げた。 「お待たせしてすみません」 #twnovels

2016-10-08 21:02:06
夢乃 @iamdreamers

「ううん、待ってないわよ。それじゃ、行きましょ」 ミユキはゆっくりと駐車場の奥にあるエレベーターに向かった。ミユキに会うのは今日でまだ二回目だが、先日にくらべて今日は随分と砕けた口調になっている気がする。これが彼女の地なんだろうか。 #twnovels

2016-10-08 21:10:08
夢乃 @iamdreamers

ミユキがIDカードをかざして呼んだエレベータは、二人とベビーカー一台が乗るのに充分な大きさだった。定員を見ると十二人。軽い震動と共に、エレベーターは上昇を始めた。暫く昇ったところで、突然明るくなった。一面窓になっているエレベータの奥の面から差し込んだ光で。 #twnovels

2016-10-08 21:02:25
夢乃 @iamdreamers

「あー、うー」 アユナがぐずりだした。突然の眩しい光に驚いたようだ。 「おお、よしよし」 マユカはアユナをベビーカーから抱き上げてあやした。 「はい、大丈夫ですよー。ほら、アユナ、外を見てごらん。綺麗な景色だよー」 #twnovels

2016-10-08 21:02:38
夢乃 @iamdreamers

マユカの言うとおり、窓からの景色は一見の価値のあるものだった。眼下には、背の低いマンションやアパート、家々が並んでいる。紅葉に染まっている一角は公園だろうか。道を走る自動車が玩具のよう。遠くに見える水色のきらめきは川だろうか。この辺りだと、どこの川だろう。 #twnovels

2016-10-08 21:02:54
夢乃 @iamdreamers

アユナと一緒に外に見とれていると、身体に力が加わるのが感じられた。エレベーターが止まった。 「着いたわ。外にどうぞ」 「あ、はい」 マユカはアユナをベビーカーに戻して、エレベーターのドアを開けているミユキの脇を通って廊下に出た。 #twnovels

2016-10-08 21:03:10
夢乃 @iamdreamers

ミユキが案内した部屋に、スリッパに履き替えて入った狭い部屋の二人掛けほどの小さなソファに座ってマユカが思ったことは、医院の待合室みたいだな、ということだった。 「ちょっと座って待ってて」 と扉の奥に引っ込んだミユキを待つ間、マユカはソファで所在無げに待った。 #twnovels

2016-10-08 21:03:24
夢乃 @iamdreamers

「お待たせ。さぁ、中に入って」 扉を広く開けたミユキに導かれるまま、マユカは椅子から立ち上がるとベビーカーを押して、中の部屋に入った。その部屋も、まるで病室のようだった。いろいろな器具が並んでいる。けれど、病院に特有の臭いがしない。 #twnovels

2016-10-08 21:03:42
夢乃 @iamdreamers

まだ揃えたばかりという感じがする。本当にアユナのために、この部屋を用意したんだろうか? そんな思いを知ってか知らずか、白衣に着替えたミユキはアユナを抱いて椅子に座ったマユカに言った。 「じゃ、まず、アユナちゃんの乳児検診の結果を教えていただいていいかしら?」 #twnovels

2016-10-08 21:04:03
夢乃 @iamdreamers

「乳児検診の結果、ですか?」 「ええ。ここで改めて検査してもいいんだけれど、同じ検査をやっても無駄だから。あ、それだから、アユナちゃんの検診の結果へのアクセス権を私に戴けると嬉しいんだけど。そうすれば、ここの検査も簡単に終わるし」 #twnovels

2016-10-08 21:04:23
夢乃 @iamdreamers

マユカは少し考えただけで、結論を出した。どうせ、ここで検査すればわかることなんだから。 「はい解りました。ちょっと待ってくださいね」 マユカは自分のバッグからタブレットとIDカードを取り出すと、IDカードをタブレットに装着して静脈認証を行う。 #twnovels

2016-10-08 21:04:40
夢乃 @iamdreamers

「冬波菜さんのIDをお願いします」 「はい、どうぞ」 ミユキは白衣の胸ポケットから取り出した自分のIDカードをマユカに渡した。マユカはタブレットにそのIDを読み込ませると、アユナの乳児検診の結果をそのIDに開示するように操作する。 #twnovels

2016-10-08 21:04:55
夢乃 @iamdreamers

「はい、終わりました」 カードを返しながらマユカは言った。 「見られますか?」 「ちょっと待って」 ミユキは、受け取ったIDカードを自分のタブレットに装着して確認する。 「えーと。これか。はい、見られます。ちょっと待ってください」 #twnovels

2016-10-08 21:05:09
夢乃 @iamdreamers

ミユキがアユナの検診結果を確認する様子を、マユカは息を呑むようにして見守った。 「うん、これなら血液検査と遺伝子検査で済みそう」 「今日の検査ですか?」 「ええ。将来的には、MRIやCTも使って全身の検査も検討するけれど、暫くはそれでいきましょう」 #twnovels

2016-10-08 21:05:28
夢乃 @iamdreamers

「遺伝子検査というと、この間みたいな、綿棒の?」 「いいえ、今日は採血します。・・・大丈夫、心配ないわ。何も問題はないから」 マユカの不安そうな表情を読み取ったのか、ミユキは言葉を付け足した。 「それじゃ、アユナちゃんをこっちのベッドに寝かせて、片足を裸足に」 #twnovels

2016-10-08 21:05:50
夢乃 @iamdreamers

「はい・・・お願いします」 言われるままに、アユナをベビーカーから小さな医療用のベッドに移す。 「桐紫路さんはそのままでいいですよ」 ベッドの反対側からミユキが声を掛けた。 「それじゃ、採るわ」 ミユキは、小さな採血器をアユナの踵に近付けた。 #twnovels

2016-10-08 21:06:07

夢乃 @iamdreamers

「それじゃ、また二ヶ月後に」 「はい、よろしくお願いします」 帰ってきたアパートの前で、マユカは頭を下げた。結局、アユナには何の問題も発見されなかった。けれど、定期的な検査で継続的に確認した方が良いらしい。とりあえず、今日のところは、マユカは胸を撫で下ろした。 #twnovels

2016-10-08 21:06:38
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