男子凍結 第四部

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五十

夢乃 @iamdreamers

子供が産まれ、名付け、出生登録をすると、その時点でIDが割り当てられ、生年月日、血液型、住所、母親のIDなどと共に行政ネットに登録される。このときの各種情報の公開範囲は生まれたばかりの乳児には決められないので、親によって設定される。 #twnovels

2016-06-05 17:44:22
夢乃 @iamdreamers

その範囲は、大抵の場合、親の近しい親族と特に親しい友人程度に絞られるのが一般的だ。 けれど、産まれた子供が男児の場合、手順が異なる。 産まれた男児の出生登録は例外なく即時に行われ、それからは男性保存省の管轄となって全国民の共有財産となる。 #twnovels

2016-06-05 17:45:19
夢乃 @iamdreamers

情報が行政ネットに登録されるのは変わらないが、母親のIDカードから過去一年分の男性保存センター利用情報を吸い出し、保存センターの利用記録と突合せ、さらには遺伝子検査も行われて男児の“父親”が特定され、父親のIDや性交時点で入居していたセンターも記録される。 #twnovels

2016-06-05 17:45:40
夢乃 @iamdreamers

もちろん、これらの情報はごく限られた者にしか公開されていない。そもそも、男性の情報自体、その公開範囲は極めて狭く限定されている。その、限定された情報を参照できる者に、男性減少現象に関する研究に携わっている女性たちも含まれている。 #twnovels

2016-06-05 17:45:58
夢乃 @iamdreamers

その朝、マルヤ生研の次世代クローン先行検討室にある自分の席に、はだけた胸元を直しながら着いたミユキは、いつものように、新しく行政ネットに登録された男児の情報を確認した。 「いつも言っているけど、身嗜みをきちんとしてから仕事を始めたら?」 #twnovels

2016-06-05 17:46:17
夢乃 @iamdreamers

室長席からユリエが溜息を吐きながらかける声に生返事をしておいて、ミユキは表示されている情報に目を通した。今日は月曜日。先週の金曜日から今日までの登録は五人。男性減少現象の進行している今では、概ね平均的といったところか。 #twnovels

2016-06-05 17:46:52
夢乃 @iamdreamers

ようやく身なりを整え終えてから、各人の詳細な情報をチェックする。 (ん?) 一人の男児の情報が、ミユキの目を引いた。いや、正しくは情報が“ない”ことが。表示されている内容を見直し、それから過去の記事を検索にかかる。 #twnovels

2016-06-05 17:47:13
夢乃 @iamdreamers

「おはようございます。冬波菜さん、シンタ君の様子はどうですか?」 部屋に入ってきた蓮丞慈カレンが聞いてきた。彼女がモデルSのクローンの母体となった、もう一人の研究者だ。 「うん、元気元気。ちょっとおっぱいの吸い込みが弱い気もするけど~」 #twnovels

2016-06-05 17:47:34
夢乃 @iamdreamers

答えながらも、ミユキはタブレットの画面から目を離さない。声をかけたのが誰なのかも意識していないだろう。 「私のカオルも、順調そうですよ。じゃ、今日も頑張りましょう」 カレンはそんな彼女の態度を気にすることなく、それだけ言って自分の席へと離れて言った。 #twnovels

2016-06-05 17:48:02
夢乃 @iamdreamers

それから暫くタブレットと対峙していたミユキは突然立ち上がると、ユリエの席に足早に近付き、ユリエの目の前に自分のタブレットを勢い良く差しつけた。 「白羽螺さん、この子なんだけど」 「な、何?」 ユリエはミユキの勢いにたじろいだ。 #twnovels

2016-06-05 17:48:21
夢乃 @iamdreamers

そんなことには構いもせず、ミユキは勢い良く続けた。 「この子の細胞、絶対に手に入れて」 ミユキのタブレット画面には、先週の金曜日に行政ネットに登録された一人の男児の情報が表示されている。 #twnovels

2016-06-05 17:48:40
夢乃 @iamdreamers

「あなたに言われなくても、研究所からサンプル提供の申し入れはするわよ。一人につき研究機関十社までの制約があるから、必ず入手できるとは限らないけど」 「そんなんじゃ駄目。絶対に手に入れて」 「なんでそこまで・・・」 #twnovels

2016-06-05 17:48:56
夢乃 @iamdreamers

そこでユリエは、室内の他の視線が自分たちに集中していることに気付いた。 「こっちは気にしないで仕事してて」 皆に言いながら、自分のタブレットを操作する。 「冬波菜さん、会議室で話しましょう」 そう言ってユリエは先に立って部屋を出て、近くの小会議室に入った。 #twnovels

2016-06-05 17:49:14
夢乃 @iamdreamers

「で、なんでそこまで、その子の細胞を欲しがるわけ?」 先に椅子に座ると、ユリエはミユキに疑問をぶつけた。 「この子のデータを見て、気付かない?」 ミユキは椅子をひきながら、自分のタブレットに表示されたままの画面をユリエに示した。 #twnovels

2016-06-05 17:49:36
夢乃 @iamdreamers

「気付くって何に? えーと、何々。来州環シンイチ。2120年6月21日生まれ。身長51cm、体重3,300g。血液型A型。登能岡市登能岡男児育成施設に入所予定。え? 何? 母親未記載、父親未記載、父親のセンター未記載? どういうこと?」 #twnovels

2016-06-05 17:49:55
夢乃 @iamdreamers

研究者の立場では、母親の情報を見ることはできないが、父親やその男性保存センターの情報は参照できるはず。しかも、これは参照できないのではなく、記録されていない、ということを示している。こんな例が今までにあったろうか? ユリエの記憶には、なかった。 #twnovels

2016-06-05 17:50:33
夢乃 @iamdreamers

「この子、あのクローンの子供よ」 ユリエの反応を見ながら、ミユキは断言した。 「だから、今後の私たちの研究のためにはこの子の細胞が絶対に必要よ。何が何でも」 「ちょっと落ち着いて」 ユリエは、ミユキの見解を頭で認めつつも、宥めにかかった。 #twnovels

2016-06-05 17:51:09
夢乃 @iamdreamers

「まだ情報が更新されていないだけかもしれないじゃない。新生男児の情報は登録されてから一~二日経った後で、更新されるものでしょ? 未記載の情報もこれから書き込まれるかもしれない」 「それはないわよ」 ミユキは再び断言した。 「なんでよ」 #twnovels

2016-06-05 17:51:36
夢乃 @iamdreamers

「今日は月曜日よ? 金曜日に登録されてからもう三日も経ってる。入所する育成施設も決まっている。これで父親の情報がないなんて有り得ない。そもそも、これから更新予定なら『未記載』じゃなくて『未詳』になってるでしょ? これまでもそうだったし」 #twnovels

2016-06-05 17:55:41
夢乃 @iamdreamers

「それはそうだけど」 「だから、これは父親の情報を書けない理由があるのよ。父親が謎の死を遂げた、とか。それに、あの検死のときに聞いたこととか、あの事件が起きた日からの経過日数とかから考えても、絶対に間違いない!」 #twnovels

2016-06-05 17:56:02
夢乃 @iamdreamers

ミユキの言葉を聞きながら、ユリエも“彼”に関連する情報を自分のタブレットで検索した。そして、ミユキほどの自信は持てないものの、同じ結論に辿り着いた。蓋然性は95%といったところか。 「わかった」 暫く考えてから、ユリエは頷いた。 #twnovels

2016-06-05 17:56:18
夢乃 @iamdreamers

「絶対に、とは言えないけれど、なんとかしてみる。ウチの研究所でこの子の細胞を入手できるように。そこまでできれば、私たちのチームにその一部を回してもらうのは、どうにでもなるから」 「ありがとう! 白羽螺さんならそう言ってくれると思った!」 #twnovels

2016-06-05 17:56:37
夢乃 @iamdreamers

ミユキはユリエの手を両手で堅く握り締めると、踊るような足取りで会議室を出て行った。 (ふぅ。あれ以来、ずっと冬波菜さんに引っ掻き回されている気がする・・・まぁいいか。それよりどうやって入手を確実にするか) ユリエは難題の解決にとりかかった。 #twnovels

2016-06-05 17:56:57
夢乃 @iamdreamers

(あっちは白羽螺さんに頼んだけど、こっちは流石に頼めないなぁ・・・) 自分の席に戻ったミユキは、もう一つ、問題の男児に関して手を打とうとしていた。 (こんなことならもっと友達作っておけばよかったかな。どうしようかな・・・) 答えはなかなか出てこなかった。 #twnovels

2016-06-05 17:57:19
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