第6話 「彷徨う風」 パート2

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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

6-2-24「承知しました」 入ってきた時より更に難しい顔をして、風見は部屋を出て行った。 「…綾香ちゃんも、今日はもう遅いし、休んだ方が良いわ…綾香ちゃん?」 扶桑が浜風から綾香の方に目線を移してみると、綾香は何やらぼんやりとどこかを見つめていて、声が届いていない様子だった。

2016-06-03 22:47:41
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6-2-25「…綾香ちゃん」 「はっ!な、なんでしょう!」 漸く気付いたようだ。 「今日はもう遅いから、休んだ方が良いわ…浜風ちゃんは私がちゃんと見ておくから」 「そう、ですね…分かりました」 扶桑にお辞儀をすると、綾波も部屋を後にした。 「…何を考えていたのかしら?」

2016-06-03 22:47:50
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6-2-26 後手に自室のドアを閉めると、綾香はそのままドアにもたれかかった。心臓は早鐘を打ち、呼吸も荒くなっていた。 …綾香は浜風の部屋で、虚空を見つめていた訳では無い。 先頃までは浜風に意識が集中していて気付かなかった、部屋の机上にあった「ある物」に心奪われていたのである。

2016-06-03 22:51:24
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6-2-27「あれは…でも、何で?…」 綾香は、頭の中で引っ掛かっていたものが解きほぐされ、思考が加速していくのを感じた。 「…そうだとしたら、私にも出来る事がある!」 残念ながら『今』それを行うには色々足りないし、時間も悪い。 …夜が明けてすぐの行動を誓い、綾香は眠りについた。

2016-06-03 22:51:34
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6-2-28 翌朝、悪夢から目を覚ますと浜風は驚いた。何しろ、自分の知らぬ間にベッドの脇に扶桑と、提督までもが控えており、心配そうな顔で自分の事を見ていたのだから。 朝食が済むと、直ぐに風見は執務室に浜風を呼びつけた。 浜風が扉をくぐると、部屋には風見、鳳翔、扶桑、大淀が居た。

2016-06-03 23:00:16
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6-2-29「…何故君を呼んだかはもう君にも理解出来ていると思う」 「…はい」 浜風が小さく答える。 先日と比べて、彼女が更に弱ってきている事は誰の目にも明らかだった。 「分かる範囲で良いので聞かせて欲しい。君がここに来た時の事、そして今君がどういう状態にあるのかを」

2016-06-03 23:00:31
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6-2-30「…ここへの配属が決まる前の日、私は軍の施設の医務室と思われる場所で目を覚ましました。そして、その日は身体検査を受け、その日の夜にはここではない別の鎮守府への配属を予告されていました」 自分の身に起きた事を正確に思い出すため、浜風は目を閉じ記憶に意識を集中させた。

2016-06-03 23:03:27
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6-2-31「しかしその翌日、唐突に配属先が変わった事を告げられ、そのまま船に乗せられ…着いた先がここです」 「それを告げられた時に、何か変わった事はあったか?」 「…変わった事は有りませんでした。しかし、私に配属先を告げた人は…どこか憎々し気な表情をしていたように思います」

2016-06-03 23:03:50
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6-2-32 この辺りまでは綾波と変わらない… 「では、次は君に起きている事を教えてくれないか?」 風見は綾波の話を注意深く思い出しつつ、先を促す。 「…夢を、見るんです。最初の日から、毎日ずっと同じ内容の夢です。私は見知らぬ広い海の上に居て…そして誰かを探しているんです」

2016-06-03 23:06:51
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6-2-33「探す?」 「はい、誰かがどこか遠いところで私に助けを求めていて、夢の中で私はその誰かをひたすら探しています」 それだと、浜風自身が寝ている間譫言で助けを求めていたのとどうも噛み合わない。 「でも、その人を見つける事は出来なくて…それに…」 「それに?」

2016-06-03 23:06:56
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6-2-34 浜風はここで暫く言葉に詰まる。 「…夢を見る度に、少しずつ真っ暗になっていくんです。最初は昼間のような景色だったのに、回数を重ねるにつれてどんどん日が沈んでいって…そして、昨日の夢ではもう夜になってしまって。星も月も出ていない、真っ暗な夜の海の上です…」

2016-06-03 23:08:23
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6-2-35「暗闇の中でも私も必死にその人の事を探すのですが、だんだん右も左も分からなくなって、そして結局見つける事が出来ません。日を重ねるうちに、次第に助けを求める声も弱弱しくなっていくのが分かって…」 ほた、と 頬を伝って大粒の涙が浜風の足元に零れ落ちていく。

2016-06-03 23:08:31
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6-2-36「私自身が魘されてるなんて、今朝聞くまでは知りませんでした…提督…私に…私には何が起こっているのでしょうか?これからどうなってしまうのでしょうか?」 自分でも薄々と不安を感じていたのかもしれない。 ひとたび堤防が崩れてしまうと、恐怖が一気に心の中へと流れ込んでくる。

2016-06-03 23:09:42
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6-2-37 鳳翔はそんな浜風のもとに歩み寄ると、子どもをあやす母親のように抱きしめ、頭を撫でる。 「大丈夫、大丈夫よ…私達で、きっと貴方のことも、その人の事も助けてみせるから…だからね、安心して…」 「うっ…うぅ…うああ…ぐすっ」 声を塞き止めておくのも最早浜風には限界だった。

2016-06-03 23:19:28
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

…静かな建物に、不安に押し潰されてしまいそうな泣き声が響いていく…

2016-06-03 23:19:32
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6-2-38 一方その頃。工廠には浜風の事を気にしつつも開発作業を進める明石の姿があった。しかし作業の手はやはり捗らない。 「浜風ちゃん、大丈夫かな…」 と、そこへ… 「明石さん!」 息せききって工廠へ駆け込んで来た艦娘。綾波だ。 「綾波ちゃん?どうしたの、そんな急いで…」

2016-06-03 23:20:53
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

6-2-39 見れば綾波は靴も靴下も履いておらず、腕も足も砂まみれになっている。手には何やら袋を持っているようだが… 「協力してほしいんです!浜風ちゃんのために!」 「!…分かったから落ち着いて。それで、私は何をすればいい?」 真剣な表情になると、明石は綾波と言葉を交わしていく。

2016-06-03 23:21:00
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第6話「彷徨う風」パート2終わり パート3に続く

2016-06-03 23:21:54