妖怪ウォッチ二次創作長編:くれは舞う風第四話「人と妖を繋ぐもの・前編」

少し長めに書いてしまいましたが、今回はついにあの三人が少しばかり登場となります。今後もこの三名は登場しますので、ささやかなお楽しみというとこでひとつ。 前→http://togetter.com/li/910304 /次→
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みなみ @minarudhia

その音を聞くより先に地に伏せたメラメライオンの頭上すれすれを、凄まじい重量がかすめた。「きゃーっ!」数体の妖怪がそれになぎ倒され、そこへ生物の口が大きく裂けて迫った。誰一人それを助けられる余裕のあるものはない。口角まで覆いかぶさり生物はその場をしばらく動かない。 130

2016-06-17 21:25:04
みなみ @minarudhia

「うちの署の者を放すべ!!」なまはげが果敢にも斬りかかるが結果は先程と同じく生物はびくともしない。一方、馬のような像の陰に身をひそめながら、秋奈はその生物が妖怪達を丸呑みにするさまを覗き見ていたが生物に変化を見てとった。「あれ…」生物の喉と思しき箇所が、おぼろげに光っている。

2016-06-17 21:28:04
みなみ @minarudhia

生物の身体が蠕(ぜん)動するたび、その光は明滅を繰り返している。この間、メラメライオンやなまはげ達は生物の動きが止まったことを機に攻撃を繰り返していたが…彼らの攻撃のほとんどが生物に通じていないことは明らかだった。メラメライオン達は生物の喉の変化に気が付いているのだろうか?132

2016-06-17 21:35:03
みなみ @minarudhia

しかし、今メラメライオン達にそれを伝えようと動けば生物の狙いは再び秋奈に集中するだろう。やがて、丸呑みを終えた生物が犠牲者の妖怪達を吐きだし、再び動き出す。喉に見えたかすかな光はすでに消えている。長大な身体を使った薙ぎ払いや口から汚泥のようなものを吐きつけて生物は暴れる。 133

2016-06-17 21:41:09
みなみ @minarudhia

戦いの振動や空気の流れが秋奈の隠れている所まで届く。今まで生きてきたなか、生命の危機に晒されるかもしれぬ状況はこれで二度目だろう。そう秋奈が思った時。「バカ!そっちへ誘導するな!!」メラメライオンの怒号が響いた。何事かと像から覗き見ると、隊のうちの一体がこちらに向かって来ていた。

2016-06-17 21:46:53
みなみ @minarudhia

「こっちだよ!こっちこっち!」必死の形相で手招いているのは、以前鬼時間に引き込まれた時に見た、みちび鬼といった小鬼の妖怪だ。しかも悪いことに生物はそちらへ導かれるように長い身体をうねらせ迫ってくる。「いやーっ!?」接近したことで生物は秋奈を照準に捉えた。「アキナ!!」 135

2016-06-17 21:53:46
みなみ @minarudhia

助けに入ろうとする者を生物の身体が阻む。みちび鬼も自身を無視し像の陰に隠れていた人間に生物の狙いが定まったことに狼狽した。「ど、どうして!?こっちだってば~!」みちび鬼の誘導は、しかし空振りし、生物は大きく回り込んで秋奈を逃がすまいと動く。「あ…あ…」 136

2016-06-17 22:05:51
みなみ @minarudhia

頭が真っ白になっていく。遠くで声が聞こえた気がする。自分に迫る大きな影。デジャヴ。戦いの音、倒れた者、悲鳴や怒号。それらが秋奈に幼き頃の記憶を呼び出させる。足の間を生温かいものが伝う。脚が震える。誰か――― 誰か、助けて―――。 ≪助けが 要るか?≫ 「え?」 137

2016-06-17 22:12:16
みなみ @minarudhia

生物が秋奈を丸呑みにしようと鎌首をもたげ口を開いた時。像から突如光が放たれた。それは、暖かく、目の前の生物を退けさせた。像の形はゆっくりと変化を起こし、それはやがて生きているかのように動いて見せた。「な、なんだべ?」それを遠目に眺めたなまはげが怪訝に呟く。 139

2016-06-17 22:20:28
みなみ @minarudhia

光の中像から形を変え、生き物と化したそれは、秋奈と生物の間を阻むようにして浮かび上がった。その姿は馬のようだったが、美しい色彩のタテガミと皮膚に覆われ、足元に雲を纏っていた。一瞬だけ、光を前に腕で顔をかばった秋奈だったが、そのシルエット、その神々しさに見覚えがあった。 139

2016-06-17 22:30:17
みなみ @minarudhia

「……き、りん?」それは、秋奈もよく買うビールのパッケージなどに描かれた空想上の聖獣に似ていた。やがて、その獣は秋奈に向き直り、口を開く。「私は麒麟。憂える余り三千年近くも身をやつしていたが、人の子よ。私の力が必要か?」「え、ええと…」秋奈は麒麟と生物を見比べた。 140

2016-06-17 22:38:24
みなみ @minarudhia

「アキナ!」メラメライオンが走り寄り火の妖術を生物にぶつける。そして麒麟の姿を目にして眉根をひそめた。「なぜ麒麟がこんな所に?」「それは今話すには長すぎる。それよりそこな妖怪、あの面妖なモノに苦戦しているようだが力添えを望むか?」麒麟の問いにメラメライオンは頷いた。 141

2016-06-17 22:46:33
みなみ @minarudhia

「頼む!お前の癒しの力、貸してくれ!」「御意」メラメライオンがなまはげの方を向き直る。「なまはげ!この麒麟が味方として加わる!隊全員に連絡を!」「わかったべ」麒麟が雲を纏った脚で宙を蹴り飛び上がった。メラメライオンも体勢を立て直した生物を追撃しようとした。「メラメライオン!」

2016-06-17 23:06:16
みなみ @minarudhia

秋奈が呼びとめる。振り返るメラメライオンに秋奈は先程自分が見たものを伝えた。「そんな光、見えなかったゾ」「でも確かに見たの!喉になにかあるかも」「…なるほど、お前の眼にしか見えなかったものか…弱点かもしれない」メラメライオンが麒麟を呼んだ。「ひとつ頼まれてくれないか!?」 143

2016-06-17 23:13:10
みなみ @minarudhia

「如何様か?」「オレを乗せて……なまはげ!」メラメライオンは立て続けになまはげへも声をかける。「なんだべ!」「包丁を!」「なんだべ!?」「包丁をオレに一本…おっと!」生物が大口を開け、秋奈と周囲を呑みこもうと迫る。秋奈にぶつかるように彼女を背に乗せ麒麟が飛び上がった。 145

2016-06-17 23:22:53
みなみ @minarudhia

なまはげはメラメライオンの言動にいささかの不安を覚えたものの、この場において高ランク妖怪の自身ですら有効なダメージを与えられず不利に向かっていく状況を変える案があるのだろうと察した。「メラメライオン!投げるが、なくすでねぇべ!」なまはげは叫び、包丁をメラメライオンへ投げた。

2016-06-17 23:46:51
みなみ @minarudhia

なまはげの投擲した包丁は空気を切り裂きながらメラメライオンへ飛ぶ。普通ならば迷わずそれを大ぶりに避けたところだろうが…。「メラーッ!」身を大きく傾がせるように捻り、包丁の背に添うような手つきで彼はそれを掴み取る。ステンレス製のものにはない重みが手に伝わってくる。 146

2016-06-23 22:22:31
みなみ @minarudhia

秋奈を地面に下ろした麒麟がその傍らへ寄った。「メラメライオン殿、お乗りくだされ」「…ああ」一瞬、メラメライオンが神妙な顔で麒麟を見たが、かぶりを振り直しその背へまたがった。「いかがした?」「いや…それより、奴の口の中へオレを放り込んでくれ」「承知した」麒麟は再び飛び上がった。

2016-06-23 22:33:23
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