冒険者の酒場には#1 うまい話があるという◆3
_ミェルヒは油断なく酒場の様子を見渡した。エンジェもつられて酒場を見渡す。新品の椅子やテーブル、バーカウンター。照明はガス灯で、壁の上の方に灯っている。落ち着く橙色の光だ。 「謎解きの手掛かりは……?」 エンジェはミェルヒに問いかける。 21
2016-07-07 19:55:16「例えばさ、こうだ……爆破テロの計画」 「ぶっそうね」 肩を抱いて辺りを見るエンジェ。確かに、ガスパイプに工夫すればいくらでも爆破することが可能だ。新品の酒場なので工事中から細工することもできる。 薄暗い店内がまるで悪魔の内臓のように見えた。 22
2016-07-07 20:01:59「ターゲットを選んで、一つの店に集結させる。全員揃ったタイミングでドカーン。どう? 一人一人始末するより、ずっと効率がいいし、証拠を残さないようにする工夫もまとめてできる。完璧な計画」 「ちょっとまってよ!」 23
2016-07-07 20:10:17_エンジェが目を白黒させて抗議した。ビールを飲んで心を落ち着けてから、ミェルヒの案の穴を突く。 「わたしたちどこかで恨みでも買ったの? しかもこんなにたくさんのひとたちと一緒に」 「なくて七癖、どこかで嫌われているもんさ」 「それに新築爆破するかなぁ……もったいない」 24
2016-07-07 20:14:57_エンジェは新築を改造できるならもっと役に立つ犯罪の仕方があると説く。ミェルヒは納得した様子で、次の案を繰り出した。 「じゃあ、やっぱり犯罪方面で言うと……資金洗浄だ」 「なにそれ」 ミェルヒはエンジェに軽く説明をする。 25
2016-07-07 20:20:12「まず盗賊ギルドなんかが不正に得たお金を、出所が分からなくするためにいくつか手順を踏ませて正規の収入として手元に戻すという行為さ。例えば、不正なお金を依頼料の名目で僕らに支払う。僕らは酒場に拘束される。必然的に、僕らは酒場でお金を使う。その正規な売り上げが悪の手元へと……」 26
2016-07-07 20:25:35「悪なら悪らしく正々堂々すればいいのに、せこいことを繰り返すのね」 「秩序の前には悪は肩身の狭い思いをするほかないんだよ。盗賊ギルドだって証拠を残せば絞られるんだ。どうだい? 新規に出店したから従業員も全員息のかかった者を集められる」 「ミェルヒ、気づいてるだろうけど……」 27
2016-07-07 20:30:45「報酬を全部食費に使うひとはいないよね」 「うん」 「資金を洗浄するのはいいけど……総量が減っちゃうんじゃない?」 ミェルヒは困った顔もせず話を続ける。 「知らないけど……どうせ使えないなら、減らしてでも使えるようにするんじゃない?」 28
2016-07-07 20:34:57「もっと効率のいい方法あると思うんだけどなぁ……いや、わたしだってさ、盗賊ギルドのことよく知らないけど」 「お客さん……」 気づけば、テーブルの隣に店主。盗み聞きをしてはいけないルールの唯一の例外、店主と給仕。真っ青になるエンジェとミェルヒ。 29
2016-07-07 20:39:44「お客さん、面白い話をしていますねぇ、よかったらもう少し、詳しく、聞きたいものですな……!」 大きな腕を組んで笑う店主。その目は……笑ってはいなかった。 30
2016-07-07 20:44:35【用語解説】 【ガス灯】 光源の呪文は確かに便利だが、感情を消費して光る以上人件費が発生してしまう。なので一般的な街や施設はガス灯を使う場合がある。電球という選択肢もあるが、電力は不安定である。魔力が濃いダンジョンなら通行人の僅かな感情に反応して光るもっと便利な魔法が使える
2016-07-07 20:51:49