看板娘【2016加筆修正版】◆2

帝都の曇り空の下キノコを売る店。看板娘のメイは奇妙な客と出会います。初期の掌編を加筆修正、新たな味を追加しました。 全31ツイート予定 最初↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_看板娘【2016加筆修正版】◆2

2016-08-28 19:38:07
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_歩み寄る男がカウンターの前で立ち止まる。しばらく男は無言でメイを見つめていた。商品を見るというよりは、恐ろしい目つきでメイを品定めしているようだった。  メイは笑顔のまま首をかしげる。 「ご注文はございますか?」  愛想良く彼女は男に語りかけた。 11

2016-08-28 19:41:49
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_恐ろしい客、不躾な客、無礼な客。そういう客もいる。そういう客にも笑顔で答え、営業を妨害するようなら厳しく接していた。  現れた男はまだどういう客か分からない。ただの人見知りかもしれない。沈黙は続く。男の目の奥、虹が砕けるように光る。やがて男が動いた。 12

2016-08-28 19:48:21
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_男はメニューを指さす。白きのこの特製ソース煮込みだ。 「あら、これかしら。まいど~」  男は頷く。少しシャイなのかもしれない。悪意があったとしても、今この瞬間彼は注文をしただけの客だ。そう思えたらメイの緊張もほぐれた。紙製の小鍋に味のしみたきのこをいれ、封をする。 13

2016-08-28 19:54:56
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_カウンターに戻ると、男はすでに代金を置いていた。 「どうぞ」  笑顔で差し出すメイ。男は小鍋を受け取り、フードの奥で優しく微笑む。それだけで心が通じ合ったような気持ちだ。 「えへ、またいらっしゃってくださいね」  メイはそう言って代金を手に取る。 14

2016-08-28 19:58:15
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「最近魔法使いがよく出ますから、暗い帰り道気を付けて。生贄になっちゃったら、悲しいです」  再びにこりと微笑むメイ。そのとき、再び列車が通った。騒音が場を埋め尽くす。店はきしみ、ガス灯が揺れ影が躍った。男の目が虹色に光る。 (またこの目だ……) 15

2016-08-28 20:02:42
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_ひょっとしてこの男が魔法使いだったら……メイは悪寒がした。男は何かを話そうとして口を開き、動きを止め、そして何も語らぬまま店を出ていく。メイは時計を見る。21時だ。 (魔法使いだとしても、今はただの客だ)  そうして彼女は店を閉めた。それが彼との初めての出会いだった。 16

2016-08-28 20:07:21
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_彼は一週間に一度のペースで閉店間際にやってきた。話すことはほとんどなく、いつも白きのこの特製ソース煮込みを注文した。  少々不気味だったが、常連客であることには変わりない。メイはそのたび愛想よく接した。 (笑顔、笑顔よ……でも気になるわ~) 17

2016-08-28 20:12:36
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_メイの興味は日増しにつのる。どんな生活をして、どんな夢を見て、誰と話すのだろう。思いが漏れないように苦心した。客と店員の垣根を越えるのが怖かった。そして彼も同じであろう。  実際彼はいい客だった。何も話さない。用事を済ませたら、すぐに帰ってしまう。 18

2016-08-28 20:17:21
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_2ヶ月が経っただろうか? いつものように彼は閉店間際にやってきた。 「あら、いらっしゃい。いつものかな?」   しかし、その日は様子が違う。彼は戸口に立ったまま一歩も動かない。こんなことは初めてだ。 (怒らせちゃったかな……何かしたかな) 19

2016-08-28 20:21:49
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_不思議がるメイに、彼は初めて口を開いた。 「もう、ここには来れない」 「えっ……どうして……?」 20

2016-08-28 20:26:07
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_看板娘【2016加筆修正版】 ◆2終わり ◆3へつづく

2016-08-28 20:26:34
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【用語解説】 【白きのこ】 人類帝国が市民の主食として開発したキノコ。豆乳パンに似た味がする。形はエリンギに似ているものが一般的だが、様々な亜種が存在する。砂を固め養分を染み込ませた菌床から生え、3日で成熟する。地球のキノコと違い、炭水化物が非常に多く含まれている

2016-08-28 20:34:26