僕らの出会い

∞妄想∞っぴ @icecoppi

51 ヤスの店に ちょこんと座ってた彼女は あの日とおんなじように 白いTシャツにジーンズ姿で ただちょっとつらそうに 背中を丸めてて... 突然汗だくで現れた俺に 驚きながらも 事情を話してくれた

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52 会社の健康診断の 胸のレントゲンでひっかかって 再検査を受けた病院で ただちに入院、と言われたこと 一人暮らしだから...と 医者が止めるのも聞かずに 入院支度をしに戻ってきたこと

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53 「ほんでたまたま ヤスんとこ予約しとったんか...」 『はい...せっかくだし スッキリしてから行こうと思って』 「...で大丈夫なん？しんどないの？」 『全然...病院に自転車で行ったくらい なのに歩いてもダメだ、なんて...』

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54 「とにかく早よ病院行こ！あ... ...彼氏さん、迎えに来たりすんの？」 そう尋ねると 一瞬ヤスと顔を見合わせた後 彼女が首を振る 『彼には...言わないです』 「え、なんで？！」 『し...んぱいさせちゃうし...それに きっと...仕事やめろって』

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55 なんか事情がありそうやな... そう思ったけど 聞いたらあかん気がして... 「とにかく俺、送って行くわ」 "そうしたって、うちの車つこて" 仕事で抜けられないヤスが くれぐれもよろしくって ほんで病院へ連れて行った

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56 彼女の大きなバッグを持って 病棟についていくと "あ！〇〇さん！遅かったわね ダンナさんは こちらでお待ちくださいね！" 「い、いや...あの...」 "さ、早く処置室へ！" ...聞いてへん ま、ええか どうせ暇やし待っとこ

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57 数分で処置室から出てきた彼女は 胸にチューブを通されて 車イスに乗せられていた "漏れた空気が抜けるまで 絶対安静ですからね... トイレ以外は ベッドからも降りないでね" 体格のいい看護師さんが 病室でてきぱきと指示を与える

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58 彼女の病気はどうやら 生命に関わるものではなかった １週間ほど安静にしてれば よくなるらしかった ちょうど１週間休みをとっていた俺は 毎日病室に顔を出した ちょっとでも暇つぶしに なったらええかなぁって

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59 初めのうちこそ のんびりできるって言うてたけど 俺の休みが終わる頃には 精神的に参ってんのが見て取れた 「もし、これで治らんかったら？」 『手術する...って』 「なんぼなんでもそん時は 彼氏に言うた方がええんちゃう？」 『...うん...』

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60 ６月の彼女の誕生日に 例の彼氏からプロポーズされて まだ返事はしてないって まあヤスから聞いた話やけど... 「さすがに心配しはるやろ」 『うん...』 「もっと話し合うてみたら？」 『うん...』 「とにかく連絡してみぃ？」

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61 彼氏の話になると とたんに歯切れが悪くなるのも 少し気になってた... 結局１週間が経っても良くならず 彼女は手術を受けることになった 夏休みが終わった俺は いったん東京に戻って わざと大阪出張の仕事を作って 手術日に病院に向かった

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62 「調子はどぉやー？」 『...村上さん！』 「ビビってないかな～思てな」 『こわいけど... 早くここから出たいから』 「そぉか...がんばれよ ...あ、電話や...ちょっとごめんな」 ポケットの中で携帯が震えて あわてて待合室に走った

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63 病棟の入口にある待合室で 会社からの電話を終えると １人の男性が走ってくるとこやった どっかで見たことあるような... 大柄なその人はおそらく... 「なんやうまいこといってんやん」 俺はそのまま 病院をあとにした

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64 それからしばらくは 仕事に没頭した ほんまに忙しかったんもあるけど 時々ヤスから 聞くところによると １度目がうまくいかんかって ２度目の手術をすることに なったらしかった

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65 入院が長引いて ストレスたまってるんやろなぁ なにか持ってってやれるもんないかな いつのまにかそんなこと考えてて ちょっとへこんだりもした

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66 彼氏に連絡しろ...言うて 結果、仲取り持ってもうてんもんな アホやな俺... でもそれで彼女が 幸せになるんやったらな 飲み友達のひとりでもええかな...って

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67 少し肌寒くなった頃 ヤスから連絡もらった 東京で仕事やねんけど 飯行かへーん？ ほんまに久しぶりやな 東京で会うんは 彼女と初めて会うた日以来やな... 半年ほどしか経ってないのに えらい昔のことみたいに思えた

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68 待ち合わせの居酒屋 仕事が押してもうて ちょっと遅れて駆け込んだ 名前言うたら こちらですって通されたのは 奥の個室になってる座敷 さすが売れっ子のやすネエやわ 「悪い～！遅なっ...」

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69 勢い良う引き戸を開けたら ヤスと並んで彼女が座っとった 「あ...れ？」 "わはは!!びっくりしてるわ" 『こんばんは！』 「え、と...もうええの...？」 『はい！今日安田さんと現場が一緒で』 え？仕事してんの？ 結婚するんちゃうの？

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70 "まー座りいや、ビールでええか？" はてなマークだらけの俺を促して 注文をするヤス ふたりはコロコロとしゃべって よう飲んでよう食べた なんやわからんけど まあえっか こやってまた会えたんやから

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71 ピコン♪ トイレに立ったヤスからのメール ちょっと用事思い出したから あとよろしゅう！ 「なんやこれぇ食い逃げやないか」 ほんっまにあいつはー キャラオネエなんバラシたろかな ブツクサ言うてたら 彼女が俺の正面に座り直した

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72 『...あ、あの...村上さん... 私彼とは別れたんです...手術の前に』 「...え？ほなあの時...？ 俺はまたてっきり...」 『プロポーズの返事してなくて ずっと... でもやっぱり仕事やめられなくて』

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73 「そっかぁ...」 『それが言いたくて...それで... 会いたくて...』 「へぇっ？！」 俺が自分を指差すと 真っ赤になった彼女が 黙ってコクコク頷いた

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74 「なぁなぁ...アリスがちっさなる映画 またやんねんてー！」 『観に行く？』 「せやなぁ...」 お互い顔を見合わせて吹き出した 『DVDが出たら家で観よっか』 「せやな」 ...初めて会ったあの日から 何度目かの夏が来た

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