昨日発生していたサイトログインできない不具合は修正されております(詳細はこちら)

ヴェリー・クローズ、インフィニトリィ・ディスタント・シー

深海棲艦と人類、彼らの棲む海は極めて近く、そして限りなく遠い
0
前へ 1 ・・ 3 4 ・・ 9 次へ
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「!?」その言葉を聞き、シロは電に撃たれたかのように驚いた。何故驚いたのかは、自分でもわからなかった。只一つ、分かる事。それは自分の胸の内から溢れ出す暖かさだけであった。「アリガトウ…」シロはただそう呟いた。その目からは、涙が零れる。何故泣くのかは自分でも分からなかった。 38

2016-09-04 01:24:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「どういたしまして、なのです」電は振り返らず、ただそう返した。二人は基地へと向けて歩き続ける。((ライオンハート=サン。僕は、どう生きるべきかなんて、まだ分かりません…))シロは己を導く電の背中を、涙で滲んだ視界で見た。((けど、助けられたなら、その恩を返したい…)) 39

2016-09-04 01:27:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

((エゴが何かはわからないけど、まずは、救われた恩を返そう…この暖かい気持ちをくれた人に、僕は。報いたい))シロは心の裡で、そう願った。少し強く握られたことを感じ、電はただ優しく微笑んだ。 40

2016-09-04 01:29:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ヴェリー・クローズ、インフィニトリィ・ディスタント・シー」#2 おわり #3 へ続く

2016-09-04 01:30:07

#3

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

(これまでのあらすじ:血と鉄屑に満ちた海、西方海域。その海を臨むはポート・ブレア前線基地。この基地に査察に訪れた歴戦の艦娘・電は、一人の漂流者を救う。白い髪、黒い装甲服、そして碧の目を持つこの少年を、電は己の独断で生かすことを決める。その判断は、吉か凶か…?)

2016-09-12 21:11:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ヴェリー・クローズ、インフィニトリィ・ディスタント・シー」#3

2016-09-12 21:12:21
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

BANG!BANG!「5番、ネジどこやった!」「替えの砲塔と一緒に持ってきましたよ!」BANG!BANG!「龍田=サンの艤装修理急げ!20分でまた出るぞあの人!」「ワーホリが過ぎるんじゃないですかね!?」KKKRAKA!「シロ坊!レンチ持って来い!」「ハ、ハイ!」 1

2016-09-12 21:23:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あれはいったい、何をしているのかしら?」「あはは…」ポート・ブレア前線基地工廠施設は、いつもと変わらぬ喧騒を掻き鳴らし、艦娘の矛たる艤装を修理する。作業着を着た男たちが油に塗れて駆けずり回るいつもと変わらぬ光景。只一つ、白い頭の小柄な少年がその作業に加わっている点を除けば。 2

2016-09-12 21:29:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

工廠の壁に凭れ掛かり、龍田は猜疑に満ちた剣呑な目をその白い少年へ、シロへと向ける。「深海棲艦が人間の猿真似かしらぁ?まったく笑えないわね」「深海棲艦ではありません。シロなのです」電はそう訂正し、シロを視線で追った。「何でも、助けてくれた恩返しをしたいそうなのです」「へぇ?」 3

2016-09-12 21:43:19
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「貴女、それを信じたのかしら?」龍田は侮蔑するかのように問う。電は信念を以て睨み返した。「疑う理由がありませんから」「そう」龍田はこれ以上の問答は無駄と判断し、目下の懸念対処であるシロへと視線を戻す。((記憶を失った深海棲艦なんて、ありえるのかしら?)) 4

2016-09-12 21:53:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

((そもそも、深海棲艦に自我なんて高尚なものがあるのかしら…この前の剣持ちの奴もそうだけど、変な深海棲艦が増えてきたわねぇ…嫌だわ本当に。天龍ちゃんに害を為す前に皆殺しにしなきゃ…))「……田=サン、龍田=サン!」己を呼ぶ声を聴き、龍田は思案の海から意識を浮上させた。 5

2016-09-12 21:58:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」龍田は己に呼び掛けた者の姿を見、目を白黒とさせた。「ア、アノ…?」声の主たるシロは不安げな表情で龍田の顔を覗き込む。「龍田=サン…?」「……何かしら?」「艤装、修理デキマシタヨ!」シロは龍田の艤装を細腕で持ち上げて見せた。ここまで運んできたというのか。この鉄塊を。 6

2016-09-12 22:05:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」龍田は無邪気に鉄の塊たる艤装を持ち上げて笑うシロを見た。その笑みに一切の邪気はなかった。龍田は、シロから艤装を引っ手繰る様に奪い(アイエエエ!)、素早く背負い装着した。「…調子に問題はないようねぇ」「ヨ、良カッタデス…」ふん、と鼻を鳴らし、龍田は工廠から去って行った。 7

2016-09-12 22:16:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

出撃ドックへ向かい、龍田はシロの表情を思い返した。あの邪気の無い、子犬めいた笑みを。「何だか、馬鹿らしくなっちゃったわ」龍田はただそう言って笑い、仲間の待つドックへと急いだ。 8

2016-09-12 22:22:12
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ふぅ…」書類整理の疲れを溜息として吐き出し、平賀は思い切り伸びをした。「腹減ったな…」平賀はそう呟いて立ち上がると、己の居城たる指令室を後にして、食堂へと足を向けた。「しかし、センセイの好き勝手には困ったものだ…」彼は目下の懸念事項を思い、重く溜息を吐く。 10

2016-09-12 22:32:47
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

数日前“鹵獲”…電曰く“捕虜”としたあの子供タイプの深海棲艦が、何を血迷ったか「命を救われた恩返しがしたい」と、鎮守府内の業務を手伝うようになった。記憶を無くしているとはいえ、深海棲艦は人外の力を持つ者。得にシロはその中でも優秀なようであった。彼は直ぐに周囲に溶け込んだ。 11

2016-09-12 22:41:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

同じ場所で生活し、積極的に他者を助けていくシロの姿勢は、次第に艦娘たちの警戒心を解いていくこととなった。平賀にはそれが信じられなかった。「いくら献身的な姿勢を見せたところで、あれは深海棲艦なんだぞ…いつ破壊工作を始めることか…そもそも仮にも捕虜なら大人しくしてくれ…」 12

2016-09-12 22:44:28
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ブツブツとシロや電への恨み言を呟き、平賀は食堂へとたどり着いた。「エーラッッシェー!」食堂の奥から、コックの老婆の威勢のいい声が響いた。平賀は慣れ親しんだその声に安堵を覚え、注文をした。「Aランチ」「ハイヨー!座って待ってて!」コックの声に従い、いつもの席に座る。 13

2016-09-12 22:57:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

食堂には平賀以外に誰もいない。時計を見れば時刻は14時。艦娘たちは午後の哨戒任務の時間だ。電も赤レンガへの報告書と格闘している時間だろう。「しばらく一人か…」「Aランチオマチドウサマ!」「ああ、ありが…!?」礼を言いかけ、平賀は絶句した。ランチを持って来たのはシロであった! 14

2016-09-12 23:03:37
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「アイエエエエエエ!?」平賀は想定外の事態に情けない悲鳴を上げ、椅子から転げ落ちる!「ダ、大丈夫デスカ!」突然の事態に、シロはランチを机上に置いて平賀を助け起こす。平賀は茫然と呟いた。「ナンデ…ここに…」「今日ハ食堂ノオ手伝イヲサセテモラッテイマス」シロは堂々と答えた。 15

2016-09-12 23:08:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ホラ、オバアチャンノ御飯ガ冷メチャイマスヨ?」「あ、ああ…」シロに促され、平賀は立ち上がって席に着いた。「ゴユックリ」シロは奥ゆかしくお辞儀をし、厨房の奥へと姿を消した。平賀は届いたAランチを凝視した。白米、お浸し、味噌汁、そして今は贅沢品となった焼き魚。 16

2016-09-12 23:18:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

どれも普段と変わらない。食欲をそそる匂いのする旨そうなランチであった。しかし、運んできたのがシロであるという事実が平賀を躊躇させた。「毒とか、盛ってないだろうな…」ごくり、と平賀は生唾を飲んだ。厨房の奥から、コックとシロの視線を感じる。 17

2016-09-12 23:25:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

古事記にも記されているが、注文した料理を食べないのは失礼にあたる。「ええ、ままよ!」平賀は覚悟を決め、焼き魚の身を箸で解し、白米と一緒に口へと放り込んだ。十二分に咀嚼し、飲み込む。「……」目を閉じ、平賀は天を仰いだ。そして、拍子抜けしたかのように呟いた。「旨いな…」 18

2016-09-12 23:30:38
前へ 1 ・・ 3 4 ・・ 9 次へ