おやうみまとめ4
- kikkasatsuki
- 5243
- 169
- 0
- 0
月明かりも薄い夜だった。雨上がりの空気が、潮風と混じって、肌に絡みつく。工廠と桟橋の間の柵を持って、海風は、ぼうっと、細い月を見上げていた。 「海風さん、お待たせいたしました」 「あ、いえ……。時間通りですよ」 今朝がた、夜に、と親潮を呼び出したのは、海風だった。
2016-09-05 00:00:14「お話し、頂けるということですよね」 海風は頷く。少し深く呼吸をするだけで、思いの外、落ち着くことが出来た。 「まず、すみませんでした。親潮を不安にさせてしまいました。困ったら助けると約束しておいて、困らせるなんて……ごめんなさい」 海風は、深々と頭を下げる。
2016-09-05 00:00:26慌てて親潮は、顔を上げてもらおうと、気にしていませんから、と返した。 「えっと、それと……ごめんなさい、これから言うことは、親潮にとって、迷惑なことだと思います。……それでも、聞いてくれる?」 か細い質問に、親潮は、静かに頷いた。海風が話しだすのを、ゆっくり待つ。
2016-09-05 00:00:39海風は、自分の手を握って、震えを押さえる。浅くなる息を深く吸った。 「あ……えっと……。海風は……お、親潮が、親潮のことが……すき、です……」 親潮は、耳を疑いながら、予想外の言葉に硬直した。海風は、大きく息を吐く。僅かな明かりに煌めく、不安に濡れた青い瞳が、親潮の目を惹いた。
2016-09-05 00:00:50twitter.com/kikkasatsuki/s… @kikkasatsuki pic.twitter.com/cJPfgnYIdQ
2016-09-05 00:01:10「えっ、あのっ!? 好きって、そういう、意味……ですよね? あっ、あたし、どうすれば?」 親潮は、にわかに焦り出す。海風は、特別何かを要求することはなかった。親潮は、理解も解決もかなわず、ますます困惑の色を強めた。 「あ……やっぱり、困らせてしまいましたね」
2016-09-05 00:01:54「いえ……困っていないといえば嘘になりますが、こういうときにどうべきかわからなくて」 途方に暮れる親潮に、海風は、申し訳なさそうに苦笑する。親潮から少し離れて、表情をうかがう。 「一緒にいて、お話して、笑ってくれて……それだけで、こんなに幸せだと思ったのは、親潮が……初めてです」
2016-09-05 00:02:11親潮は、驚いたように顔を上げる。海風は頬を染めて、小さく微笑んでいた。 「親潮が笑ってくれるなら、海風は、それが一番です」 親潮が、拳を握りしめ、手袋が軋む。意を決して、一歩、二歩、と海風との距離を詰めた。久しぶりに、海風の瞳が、まっすぐにこちらを見ている。
2016-09-05 00:02:25「あ……あたしっ、あたしも、同じです! 海風さんが笑ってくれるなら、一緒にいて、また笑ってくれるなら、海風さんの気持ちに応えたいです! それでも……いいですか?」 いっそ苦しそうなほど切実な訴えに、海風は目を丸くする。それから、呆然と聞いていた言葉の意味を理解した。
2016-09-05 00:02:37「えっ、ほ、本当……? 親潮も、好きになって、くれるの?」 はい、と短い肯定は、海風の頬を濡らすのに十分だった。親潮は、急いで涙を拭う。その手に自分の手を重ねる海風は、親潮の待ち望んだ笑顔だった。
2016-09-05 00:02:48twitter.com/kikkasatsuki/s… @kikkasatsuki pic.twitter.com/CvT5gzpOWw
2016-09-05 00:03:22それからの事。 @kikkasatsuki pic.twitter.com/0sXpYkFZOF
2016-09-05 01:07:01今日の補足 ここしばらくヘアピンを外していた海風ですが、この日は決意の表れとしてつけています。二人がいる桟橋と工廠の間は、一緒に花火を見たところであり、親潮が初めて海風の笑顔を見たところです。(ピクシブまとめ雛菊の書下ろし参照)お互いにとって、思い出深い場所の一つです。
2016-09-05 00:29:22流水落花 椿編 画像版 twitter.com/kikkasatsuki/s… twitter.com/kikkasatsuki/s… pic.twitter.com/gq3tqkjUiI
2016-09-05 00:03:59海風は、寝る前に、昨日分を含めて日記をつける。部屋の角では、八月中旬から同室になった水無月が、朝顔に水をやっていた。 「ねぇ、うみちゃん何書いてるの? 日誌?」 「ふぇっ? あっ、み、見ちゃだめです!」 急いで、青いカバーの日記帳が閉じられる。水無月は、ああー、と頷いた。
2016-09-06 00:00:14「日記かぁ。ごめんごめん。見てないから、安心してよ」 頭をかいて、水無月は、軽く謝る。もう、と言いながら、海風は、何かあっても、素直に謝られると、いつもすぐに許してしまっていた。調子が良いところがある水無月は、海風にとって、放っておけない妹が増えたようだった。
2016-09-06 00:00:33「うん! 今日はなんか、嬉しそうだね。水無月が来たときからずっと浮かない顔だったからね、心配してたんだよ?」 「それは……すみません。でも、もう大丈夫です」 そっか、それならよかったよ、と水無月は笑った。出会って日が浅いながらも、水無月はルームメイトを気にかけてはいた。
2016-09-06 00:01:08「それにしても、みんな秋満喫してるよね~。二十二駆のみんなもそうだしさ。うみちゃんは……恋の秋、だったり?」 「あ……み、水無月! やっぱりさっき日記、見たんですか?」 さぁ~?どうだろうね?と誤魔化すと、今度は見ないように念押しされる。水無月は、はぁい、と楽しそうに返事をした。
2016-09-06 00:01:21えへへ、よかったね♪ twitter.com/kikkasatsuki/s… @kikkasatsuki pic.twitter.com/8gRZmqXsea
2016-09-06 00:02:01今日の補足 水無月は8月中旬に着任しました。1人部屋だった海風の部屋に居住しています。2016年5月~現在の寮の部屋割りはこちら。A棟(棟長:如月)C棟(棟長:白雪)は2人部屋、B棟(棟長:浦風)は1人部屋。海風は501号室です。 pic.twitter.com/HWrYEgdiPn
2016-09-06 01:46:02今日の補足2 1人部屋は成績上位25名が居住しています。また、2人部屋と同じ広さなので、仲が良い子を呼んで一緒に住んだり、転がり込むことも出来ます。
2016-09-06 01:49:06