マーセナリイ・マージナル #1

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リンク note(ノート) 第2話【マーセナリイ・マージナル】 | ダイハードテイルズ | note 「助けてくれ」「ただし相応の代価をもらう」「サツガイという男を知っているか」「おれは生かされた。奴が全ての始まりだ」「ならば一人、ニンジャを売れ」「ナハト……ローニン……」「オレはサツガイを知っているぜ。マジにな」 オレが拾ったのは、死神だったんだ。 マスラダがマッチを擦って火を灯し、それをオリガミに移していくのを見て、アユミは驚きに目を見張った。「ちょっと、何をしてるの!」「なにが」マスラダも逆に怪訝そうにアユミを見返した。金属の盆の上で、アブストラクトな水晶枝めいたオリガミ作品は燃え萎びてゆく。「もっ
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆「助けてくれ」◆「ただし相応の代価をもらう」◆「サツガイという男を知っているか」◆「おれは生かされた。奴が全ての始まりだ」◆「ならば一人、ニンジャを売れ」◆「ナハト……ローニン……」◆「オレはサツガイを知っているぜ。マジにな」◆オレが拾ったのは、死神だったんだ◆

2016-10-13 22:15:27
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マスラダがマッチを擦って火を灯し、それをオリガミに移していくのを見て、アユミは驚きに目を見張った。「ちょっと、何をしてるの!」「なにが」マスラダも逆に怪訝そうにアユミを見返した。金属の盆の上で、アブストラクトな水晶枝めいたオリガミ作品は燃え萎びてゆく。「もったいない!」「何?」

2016-10-13 22:20:33
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「だって……作品が」「作品?」マスラダは灰溜まりと化したオリガミを見た。そして合点がいった。「ああ。そういう事か。成る程」「でしょ」アユミは持ち上げかけた木箱を下ろした。マスラダは頷いた。「作品として出さないオリガミはその場で灰にする。万一これが市場に出れば俺の作品が値崩れする」

2016-10-13 22:25:52
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「そういうものなの」「そういうものだ」マスラダは肩をすくめた。「他の分野は知らないが、少なくとも、おれはそうする。周りの連中も。特に注意深く扱うんだ」彼は薄く透ける正方形の紙をつまんで見せた。「凄い技術で作られたワ・シだ。だけど、これは単なる素材だから、二束三文」「うん」

2016-10-13 22:31:25
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マスラダは長い指を紙の表面に滑らせた。すると、一秒後、彼の手のひらの上にあったのは、歩きながら振り返った姿勢で凍り付いた鳩だった。アユミが息を呑んだ。「……ただの紙を、おれがこの形にした。これで価値が生まれた。おれという人間と、おれの技術と、注意深い取り扱い。意味と価値になった」

2016-10-13 22:38:09
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「凄い」アユミがおそるおそる鳩に触れた。マスラダは言った。「別におれはカネモチになりたいわけじゃない。カネ、好きだけどな」微かに笑い、「意味と価値を壊すのは容易いんだ。だけど、おれはおれの作品にしかるべき敬意を求める。カネのやり取りは一番公正な敬意の尺度だ。だからそれを守りたい」

2016-10-13 22:45:34
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マスラダは鳩を金属の盆に乗せ、やはり火を灯して灰に変えた。アユミを見て、問いかけるように首を傾げて見せた。アユミは苦笑した。「どうしても勿体ないと思っちゃうけど、わかった」「誠実に話したつもりだよ」マスラダは真顔で言った。アユミは頷いた。「本当に立派だ、カイは。私なんか平凡で」

2016-10-13 22:48:19
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「平凡かどうかは知らないけど、アユミは凄いだろ」マスラダはチャに手をつけた。アユミが淹れてくれてからだいぶ経っており、ぬるくなっている。「それに、おれは立派じゃない。少なくとも、まだ立派じゃない」ようやくオリガミ・アート市場で買い手がつくようになった。ほんの最近のことだ。

2016-10-13 22:53:49
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今度の個展にはセバタキ・ケンロが来る。セバタキの方から、わざわざ声をかけてきたのだ。お前のオリガミに幾つか、油断ならないアトモスフィアを持つ作品があった。次は展示を直接見に来る。セバタキはマスラダにそう言った。個展は黒字と赤字を行ったり来たりだ。ブレイクスルーできるかもしれない。

2016-10-13 22:58:06
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「私は凄くないよ」アユミは木箱を持ち上げた。「これ、外の配管の脇でいいね」少し日に焼けたしなやかな身体に正しいエネルギーを感じる。マスラダは伸びをして、凝りをほぐした。「義父さん、きっとカイのこと喜んでる」「思うのは自由だな」マスラダは次のワ・シに触れ、割れたボンボリを折る。

2016-10-13 23:05:30
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……風が唸り、破れ窓の覆いをガタガタと鳴らす。マスラダは物思いを断ち、掌の上、割れたボンボリのオリガミを見る。たったいま折りあげたものを。掌が赤黒い輪郭を帯び、オリガミは苦痛に身をよじるように揺れながら黒い灰と化した。

2016-10-13 23:08:27
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「アイエエエ!」店内に蹴り込まれたタキは明け方の光が縞になった板張り床を不様に転がった。顔の横を油虫が足早に通り過ぎた。逆光を受けて入って来るのは全部で四人。「なんで戻って来たかは知らねえが」「帰巣本能か何かか?想像できねえかなあ、こうなるッて事が」指をボキボキと鳴らして嘲る。

2016-10-13 23:16:24
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開店前。否、そもそも、タキがやらかして攫われた事は客の間で周知の事実だったから、そもそも店には誰もいない。ヤクザ四人はナックルダスターや金属バットを光らせ、這いつくばるタキを余裕ある足取りで取り囲む。「一応殺してもいいみたいなんだわ、タキ=サン」「どうする、タキ=サン」

2016-10-13 23:19:22
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「ふざけるな」タキは尺取虫めいて逃れようとする。「ここはオレの店だ。オレが戻ってきて何が悪い……」「ああ、何も悪くねえ!」「何も悪くねえな、少しもな!帰って来るのはな!」ヤクザ達は答えた。「でも悪い事をしたよな、タキ=サン?間違いなく、した!」「謝るような事をな!」「誤解だって」

2016-10-13 23:22:28
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「スッゾオラー!」顔の横の床が爆ぜた。ヤクザが金属バットを振り下ろしたのだ。「アイエエエ!」「テメッコラー!どうやって逃げて来たのか知らねえが、皮を剥いでから送り返すのと、そのまま送り返してあっちで皮を剥いでもらうのとどっちがいい!」「誰に?」「ストリングベンド=サンだ!」

2016-10-13 23:24:17
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「ア……そいつは、遠いとこで忙しいみたいだし……当分帰ってこねえんじゃ……ずっと……」「スッゾオラー!ワケワカンナメッゾラー!」「アイエエエ!」脇腹に蹴り!タキは床をのたうち回り、尻ポケットの端末を指で探った。「ク、クソが!」ホットラインがあるのだ。ソウカイヤのスンゴ=サンへの!

2016-10-13 23:27:02
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彼の端末には五つのホットライン・キーがある。ヤクザ召喚スイッチである。なかでもソウカイ・シンジケートは、ニンジャすらも顎で使う若きオヤブンのラオモト・チバが率いる強大なヤクザ組織。手痛い代償は待つが、この際、背に腹は…『このIDは現在使われておりませんドスエ』マイコ音声が応えた。

2016-10-13 23:32:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハア!?ナメるな!使えねえクソ!勝手にID消して……」タキは焦って四つん這いになった。その尻にヤクザが蹴りを入れた。「アイエエエ!」「もういい、めんどくせえ」リーダー格がショットガンを構えた。「キモチよく殺して終わろうぜ」「だな」「待ってくれって!」「取り込み中悪いが」別の声。

2016-10-13 23:38:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こっちが取り込み中だコラ!」ヤクザが反射的に怒鳴り返し、タキに向けていたショットガンを構える。銃口を添える手の甲に鋼鉄の星が突き刺さった。スリケンである。「グワーッ!」逆光の中、黒いシルエットがツカツカと入店する。ナックルダスターのヤクザが迎え撃つ。「イヤーッ!」「グワーッ!」

2016-10-13 23:44:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナックルダスターヤクザの下顎が吹き飛んだ。裏拳を打ち込んだ影は歩みを止めず、更に近づく。ヤクザ二人が得物で襲い掛かる!「イヤーッ!」「「グワーッ!」」影はその二人の頭をそれぞれの手で掴み、力任せにかち合わせた。一呼吸のうちにこれが起こった。最後の一人はようやく異常事態に気づく。

2016-10-13 23:49:58
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……KRAAAAASH!店外、「ピザタキ」のネオン看板の脇の窓ガラスが内側から爆ぜ飛び、ヤクザが射出されて、手足をあべこべに折れ曲げながら廃車に叩き込まれた。そのやや後、下顎の無いヤクザがよろよろと路上へ出、暴走自動車に撥ね飛ばされて動かなくなった。

2016-10-13 23:53:54
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「オーゴッド」タキは緩んだ笑顔で逆光の影を見上げ、手を差し出す。「起こしてくれ。腰が抜けた。誰だか知らねえが助かったよ。こいつら死んでる?全く捨てるの大変……お前?」タキは目を見開く。ようやくわかった。「サツガイについて話せるな」マスラダはタキの手を掴み、ジゴクめいて見下ろした。

2016-10-13 23:57:29