#ダークエルフ王国見聞録　その8

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ここで魔道兵長に加勢したのが、なんとこの里の長である。今更ではあるのだが、他種族である人間を客人としていたことを、徴税官を通して王都に知られた結果、何かしら不利益がある可能性を里長は憂慮したらしい。その一方で、里から帰ってしまえば問題もないと考えてもいた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

氏族長の下で行われた里長達の会議にて、魔道兵長の不満を知った里長は魔道兵長にゴブリン討伐の際に客人である人間の功が大きく、将の功績は二等とは言えないのでは？と王都の奉行に報告するように助言したそうである。明らかに里長の独断専行である気もするが・・・ #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

里長としては、けがの功名ではないが、この里で抱えていた人間が討伐において一定の功を上げ、西方国家との軍事摩擦の可能性をなくした貢献を報告することで、里の名誉を高める狙いがあったようである。そして、王都の側では魔道兵長からの報告を真面目に検討した #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「とりあえず陛下があなたを召喚するとのことで、どのように対応されるのかは分かりませんね」 相変わらず笑みを浮かべる、本件のある意味では元凶である里長は続ける 「まぁ、捕縛の命が下ったわけではありませんので、決して悪い様にはされないとは思いますよ」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「軍功一等はセラでありますし、これに学士殿の軍功も加われば、この里への陛下の覚えもよくなることでしょう。私の姪、現在の氏族長はまだまだ若いですし、活躍して貰わねば困るのですが、次の氏族長の推挙でもなるべく有利に立ちたいのは本音ですね」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

平穏な山里を束ねる長は、普段は笑みを絶やさない温和な人物であるが、政治家としてはなかなかにやり手の様である。とはいえ、この辺境の里でのフィールドワークで留まると思っていた私には、ダークエルフの王国をより探索するにはよい機会であるのは間違いない。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「これは氏族長の案件ですので、王都への旅費は彼女から出して貰うとしましょう。一人では旅路に支障もあるでしょうし・・・そうですね、セラ、貴女が同行しなさい。近衛を務めた貴女には王都につなぎもあるでしょうし、何より軍功一等の貴女の証言には重きを置くでしょう」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「ふふふ、先日の送別の宴の後で何があったか知りませんが、これまで以上に仲睦まじくなったようで、一緒に旅をするのも両人とも嬉しいのではないですか？」 あの計らいも里長によるものであり、何か彼女の掌の上で転がされている印象もあるが、嬉しいことは間違いない #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

隣の女戦士を見ると、彼女もこちらを向き、視線が合う。驚いた表情の後に笑みをこぼし、里長の方を振り返って頭を下げる 「氏族長そして里長の命とあれば、喜んで承知いたします」 むろん、私も同様に快諾する。如何なる結果が待つか知らぬが、王都への道が開けたのだ #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

里長から話を聞いた翌日の早朝、私は人里に赴くダークエルフの兄弟に宿の主人への手紙を託す。ダークエルフ王国での滞在が更に延びるが心配しないで欲しいこと、彼らに学士院から支給された為替を預けるので、両替商か教会で換金し、彼らに手渡して欲しいことを記した。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

南の隧道へと向かう彼らと、北の街道へと向かう騎乗したダークエルフの女戦士と荷駄を曳く私とを里の皆が見送ってくれる。集落のある土城を出て、環濠を渡ったところで、兄弟と別れ、川から立ち上る朝靄の中、私達は納税の際に赴いた氏族長への町へと出発した。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

前回よりはやや遅く、夕刻を過ぎた頃に氏族長への町へとたどり着く。事情を知る氏族長の少女は、入口の関所に役人の女性を遣しており、彼女が我々を城にある彼女の館へと案内してくれた。彼女の執務室に通されると、旗下の将、魔導兵長、そして幾人かの役人も控えている #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「お二人とも、御足労をかけまして申し訳ありません。早速のご対応、感謝致しますわ」 笑みの中に少々の困惑を混ぜた表情を浮かべながら氏族長の少女がこちらを労う。 「陛下の命による召還とのことですが、軍功の詮議ともあり、いったい何故にこんなことになったのか…」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

氏族長は、魔導兵長の訴えや叔母である里長の策動については正確に把握していないようである。おそらく王都の担当官も横筋からの訴えについて詳細は氏族長に伝達せず、風聞を聞いた程度として改めて軍功の詮議と私の召還を行う旨を要請してきたのであろう #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

脇を見れば、苛立たしげにこちらをあからさまに睨みつける氏族軍の女将軍と、冷静を装いつつ、したり顔をしている魔導兵長とが認められる。ここに至る事情を考えればさもありなんというところであろう。この不仲な二人を部下とする若い氏族長の苦労が察せられる #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「族長様！此度の王都の旅、私も同行し、軍務官殿に我らが軍功を改めて詳らかに説明したく思います」 「フン、その増上慢が今回の面倒事を引き起こしたと分からぬか。そこの学士殿にも申し訳ないであろう」 同行を求める将とそれを妨げたい魔導兵長とが言い争いを始める #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「二人とも、私の客の前ですよ。みっともない諍いは止めなさい。」 ぴしゃりと氏族長に説き伏せられ、二人は不満げな顔のまま押し黙る。 「学士殿、セラ殿、こちらにも氏族領の政と軍務が諸々ありまして、申し訳ありませんが、お二人だけで王都まで行って頂けませんか？」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

王都までの旅費は氏族長が支給するとのことで、脇に控えていた役人から貨幣の詰まった革袋と氏族長の公印が押された通行許可書が渡される。 「とりあえず、街道を北へ向かって下さい。陛下の天領との境にある城まで赴けば、そこの兵達が王都まで案内してくれるでしょう」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「学士殿は馬が不得手とのこと。こちらで、何か乗り物を用意させましょう。ああ、そうですわ、勅には不要とありましたが、陛下に拝謁するのであれば何か献上の品もありませんと・・・」 予想外の出費でもあろう、困った顔をしながら氏族長は役人達に指示を飛ばし始める。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「明朝までにはこちらで準備を整えさせて頂きますので、今日はこの館にお泊り下さい。」 氏族長の申し出を有難く受け、客間に通される。内湯を使わせて貰い、セラと供された夕食を共にする。 「あ、改めて二人きりであると、き、緊張するな」と真っ赤な顔のセラの弁である #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

夜更け、そろそろ明日に備えて二人で寝床に入ろうかと話していると部屋のドアが音もなく開く。黒い靄が世闇にまぎれながら部屋に入ってくると共に、その靄が霧散し、中から先程の魔導兵長が現れる 「夜分にすまぬな。む、お前ら、そういう関係であったのか？」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「まぁ、私には関係のないことだが・・・。ともあれ、事情を説明しにきた」 魔導兵長から伝えられる内容は里長から聞いたものとほぼ同様である。追加されたものと言えば、事を大きく荒立てることなく、かつあの女将軍を適度に貶めておけという類の要請である #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「近衛の魔導兵に私の姉妹弟子が居る。元・近衛のお前なら渡りも付けられるだろう。これは私からの紹介状だ。困ったことがあれば彼女に助けて貰うとよい。私個人の感情でもあるが、あの女に我らを差配する将器があるとは思えん。魔導兵達の面目のためにもよろしく頼むぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

そう伝えると魔導兵の長は、魔術の生み出す再び黒い靄に身を包み、部屋の窓からふわりと飛び降りて館の外へと出ていく。突然の訪問に驚いたが、ともあれ明日からの旅路のために寝ることにする。上等な羽毛の布団と女戦士の柔肌の温かみに包まれて私は眠りに落ちた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

館の使用人がドアをノックする音に目覚め、金盆に入れられた水で顔を洗い、用意された朝飯を部屋でセラと共に頂く。城の北西にある湖に響く雁や鴨の鳴き声を聞きながら、旅支度を改めて整えていると、使用人が城の入り口前の郭に来るように伝えてくる。 #ダークエルフ王国見聞録