#ダークエルフ王国見聞録　その8

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

微笑ながらそう語った里長はこちらに杯を捧げてみせ、見目麗しい桜色の唇を杯につけて深紅の葡萄酒を飲み干す。彼女が座ると、私が立ち上がって皆に礼を述べ、やはり杯を飲み干してその場に座す。続いて宴の参加者達も立ち上がり、杯を私と里長にささげてから空けていく #ダークエルフ王国見聞録

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献杯の作法が終わると給仕役の女性達が次々と料理の皿と酒を運んでくる。この日のために用意してくれたのだろう、猪肉のベーコンと林檎の包み焼き、潰した南瓜とチーズを丸めて揚げたもの、山鳥の香草焼きに肉団子とビーツ、玉葱の入ったスープなどが取り分けられて供される #ダークエルフ王国見聞録

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私についての思い出話や先だってのゴブリン討伐の戦の話、今年の秋の収穫と冬備えの話など、様々な話題が宴席で交されている。盛況の中、里長と私が居る高座の前に、二人の乙女が歩み出て、参加者の一人が奏でる弦楽器に合わせて、戦での勝利と勇気を讃える歌を謡う。 #ダークエルフ王国見聞録

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屋外の篝火と室内の蝋燭の灯に包まれながら、邪悪な異種族の軍勢を勇敢な戦士達が迎え撃つという内容の素朴な歌が広間に響き、若い子らはまだ見ぬ勇敢な戦に目を輝かせ、戦士達は自らが従軍した戦を思い出しているのだろうか、静かな表情で聞き入っている。 #ダークエルフ王国見聞録

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彼女らが歌を終えて拍手を浴びながら高座の前から下がり、自分達の席に戻る。再び座に会話が戻り、杯に注がれた葡萄酒や蜂蜜酒、果実酒が次々と飲み干されていく。次いで、里長の娘が、里長から私への贈り物を持ってくる。透明感のある萌黄色の、翡翠製の小さな馬上杯である #ダークエルフ王国見聞録

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蝋燭の光に透かして見ると、いかなる技法によるものであろうか、杯の部分を囲むように、翡翠の中にうっすらと呪文が刻み込まれている。 「その杯に注いで飲めば飲料の毒を清め、腹の病を防ぎますよ。旅の多い学士殿にはよい品と思い、町で買い求めました」 #ダークエルフ王国見聞録

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その効能に加え、ダークエルフの手による珍しい品を頂いたことが嬉しかった。賑やかな場にあまり顔を出さない女薬師も珍しく宴に参加しており、私に何かの粉の入った小瓶を手渡してくる。 「餞別だぞ、学士殿。ふふふ、まぁ、閨房にて色々と役立つものだ」 #ダークエルフ王国見聞録

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馴染みの女獣使いからは、私が鳥好きだということで手彫りの鳥笛が贈られた。 「こっちを押さえると小鳥を、こっちを押さえて吹くと鷹を寄せるんですよ～。しかし、カニティエスも寂しがりますね～」 と私に懐いていた若い雄狼の名前を挙げながら別れを惜しんでくれる #ダークエルフ王国見聞録

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皆の気持ちは本当に嬉しいが、満座の宴の主賓はどうにも落ち着かない。しかし、思いだしてみればこういった場では必ず横に女戦士が居てくれたものだ。彼女が側に居ないことも私が落着けない理由なのかもしれない。座を見渡せば女戦士は談笑の輪の中で静かに酒を飲んでいる #ダークエルフ王国見聞録

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夜も更け、酒も料理も平らげられ、最後の献杯を行って宴はお開きとなった。参加者の村人達は挨拶を交して里長の館を辞去していく。 「最後にもう一杯いかがですか？とっておきの美酒ですよ。まぁ、後ほどの方が更なる美酒やもしれませんが」 里長が朱の瓶子を取り出す #ダークエルフ王国見聞録

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既にかなり酔ってしまっていたが、にこやかな笑みを浮かべる里長からの酌を受ける。薬草や果実を蒸留酒に漬けたものであろうか、複雑な甘い香りと酒精の強さを感じる酒である。この美酒を一口、二口飲み進めると、酔いが一気に進んだ様でふらふらと視界がおぼつかない #ダークエルフ王国見聞録

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「あらあら、今日はここで休まれてはいかがですか？床も用意させますので」 里長の言葉に何とか頷いたものの、高まる深い眠気に包まれ、意識を失ってしまう。それからどのくらい時間が経ったのであろうか。酔気が綺麗に醒めたことに気付き、ゆっくりと目を開く #ダークエルフ王国見聞録

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寝床の横には髪を解いた女戦士が顔をこちらに顔を向けて横たわっている。部屋の窓は閉じられているが隙間からは、天頂を過ぎた満月の柔らかい光が差し込み、女戦士の銀の美髪に不思議な煌めきを生み出している。 「おおお、起きたのか？」 #ダークエルフ王国見聞録

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部屋の隅の燭台の灯りに照らされた褐色の肌の頬に更に赤味が増す。驚いた私が寝床から出ようとするが、しなやかな腕を肩に廻しそれを許してくれない。酒精とは異なる酩酊がじわじわと頭に広がるようだ。 「は、恥ずかしいのだが、まずは私の話を聞いてくれ」 #ダークエルフ王国見聞録

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普段の凛々しい表情を恥ずかしそうな、しかし優しい笑みに包み、私の頬に手を添える。 「里長殿の計らいではあるのだがな、私はもてなしの夜伽はしないつもりなのだ。だ、だがお前が嫌いというわけではない。好きだぞ、○○○○」 私の本名を呼んで、彼女は続ける #ダークエルフ王国見聞録

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「我らのもてなしの夜伽は、里々を巡る男達との一夜限りの営みだ。私はな、この関係をそのようなものにしたくないのだ。必ずやそなたと夫婦の契りを、お前がまたいつか、この里に帰ってくる時まで待ち焦がれているからな」 #ダークエルフ王国見聞録

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私も彼女へ素直な好意を、そして必ずやこの里に再び帰ってくる約束を伝える。 「そうか、嬉しいぞ。今は、私の気持ちを少しでも伝えよう」 しっとりとした薄紅色の柔らかな唇が私の唇に重なる。その後は夜が白むまで、布団の中で里での思い出話を交していた #ダークエルフ王国見聞録

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里を発つ日の前日、私は様々なことを記録した紙束やダークエルフ達の贈り物を背嚢に詰め込み、旅路の支度をしていた。私の横では女戦士も旅支度をしている。人里近くの峠まで同行し、見送ってくれるそうだ。氏族長からの手紙を持った鷹が里に舞い降りたのはそんな時であった #ダークエルフ王国見聞録

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「かーさま、里長さまのところからお使いの人が来たよー」 昼過ぎ、家の外で恐狼の子とボール投げをして遊んでいた女戦士の妹が家に入ってくる。彼女に続いて家の中に入ってきた女性が、旅支度をしていた私と女戦士のセラに館まで至急来てほしいと伝える #ダークエルフ王国見聞録

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旅支度の手を一旦止め、使いの女性と共に里長の館まで歩いていく。館に到着すると、私とセラは里長の執務室に通される。 「お忙しい所、すみませんね。とはいえ、もっと忙しいことになりそうですが」 何やら丁寧な装飾が為された紙と添え状と思しき手紙を持った里長が言う #ダークエルフ王国見聞録

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「先程、里長からの文を頂いたのですが、これは女王陛下の命に基づくものです。端的に言いますと、学士殿、貴方は王都に赴き、女王陛下に謁見しなければなりません。」 静かな笑みを浮かべる里長から発せられた言葉は私にとってなかなか衝撃的なものであった #ダークエルフ王国見聞録

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里長から語られた事の顛末はこうである。先日のゴブリン討伐、氏族の領域での軍事行動である故に、氏族長の権限で行われたわけだが、王都に報告はしなければならない。特に西方の諸侯連合との関係性が疑われた事件であるため、王都の担当官からは詳細な報告が求められた #ダークエルフ王国見聞録

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既に人間の客人がこの里に居ることは、王都の徴税官を経て知られていた可能性があるが、冷静な氏族長は、問題化を避けるため、私の関与に関しては敢えて記述をせずに報告を提出した。軍功一等は大将首のゴブリンを討ち果たしたセラ、そして軍功二等は氏族長旗下の将である #ダークエルフ王国見聞録

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特に問題のない報告書であった様であるが、ここで問題となったのは軍功二等とされたあの人間嫌いの氏族軍の将であった。彼女は氏族領で地道に軍功を重ねていたようで、今回の軍功の加算によっては、氏族長旗下から国軍の将への栄転も王都側では検討していたようである #ダークエルフ王国見聞録

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これを面白く思っていなかったのは、やはり氏族長旗下の魔道兵を束ねる魔道兵長である。弓術に長け、またエルフに多少劣るとは言え、魔道をよく操るダークエルフにおいても、白兵戦での戦果が武勇として重んじられる傾向があり、氏族軍の将の評価もその傾向に由来する #ダークエルフ王国見聞録