#ダークエルフ王国見聞録　その8

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

自ら見聞きしたことに加え、里長の手元に残る記録を調べたり、里の古老への聞き取りを重ねたり、薬師の所有していた書物をあたることで、依頼されていたこの里の村史の執筆は一応の完成をみた。里長に許可をもらい、その一部をこの見聞録に書き残すこととする。 #ダークエルフ王国見聞録

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村史の記述は、この里の成立の縁起とこれまでの主要な出来事、税として納める物産を中心とした村の産物、狩場等この里が管理する範囲、古老に伝わる伝承、輩出した人物等の記述で構成されている。比較的雑多な記述が多く、里の体面を配慮した里長による修正も少なくない #ダークエルフ王国見聞録

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この里の成立は古く王国建国初期に遡る。建国の英雄の一人たる“山を覆う熊鷹”氏族の祖は、異種族との戦の後、王国の南部にある大きな湖の畔、トネリコの大樹のある良き土地を探し当て、そこに住むことを初代女王に許された。これが氏族長の住む町の縁起である。 #ダークエルフ王国見聞録

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その町には氏族に連なるダークエルフ達が集い、また子を為し、大いに栄えた。その一方、住人が増えたことで、新たな集落を切り開く必要があり、族長は氏族にとっての新しき土地を探し出すべく、自ら旅に出た。現在の里の幾つかはこの旅で見いだされた土地に作られたという。 #ダークエルフ王国見聞録

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氏族の長たる英雄が湖に注ぐ川を北東に遡りながら山を歩むと、川が二股に分かれるところに至った。一方は湖へと注ぐ川であり、もう一方は南へと流れていく支流であった。南への流れの水面には美しい白い花が浮かび、それに心惹かれた英雄は支流に沿って南へと旅を続けた #ダークエルフ王国見聞録

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幾つかの急峻な渓谷を抜けたところ、川の流れを挟む東西の山々の間隔が開き、広い山裾に美しい花々が風にそよぐ緑の草原が広がる土地に至った。すると、連れていた熊鷹と魚鷹が飛び立ち、熊鷹は白銀の毛並みを持つ兎を魚鷹は黄金の鱗を持つ大鱒を捕えて主の許へ戻ってきた #ダークエルフ王国見聞録

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また、熊鷹が鋭く鳴くとその声は山々に響き渡り、南東にそびえる山々の尾根から熊鷹の多しい若鳥が何羽も飛び上がった。これらの瑞兆を見た英雄は、熊鷹の巣が多数ある山林と美しい獣と魚を育む豊かな土地に新たな集落を築くことを決め、その娘の一人に開拓を命じたという #ダークエルフ王国見聞録

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英雄の娘は、東岸にある丘を切り開いて集落の根城となし、土地を開いて堅果の樹園を育てた。また、里の繁栄を願って北西の山裾に月と豊穣の女神を祭る祠を築き、族長自ら黒木より掘り出した神像を賜り、据えた。これが熊鷹の巣山の麓にある西の里、およびその祠の縁起である #ダークエルフ王国見聞録

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里では胡桃、栗、林檎を産し、周囲の山林では獣の毛皮や鷹の矢羽を採り、山蚕の絹や大蜘蛛の糸を集めて布とする。また、里では蜂を飼育し、蜂蜜や蜜を産す。これらはその一部を税として族長に収める。その他、蕎麦や黒麦なども若干を育て、川では鱒や川鱸などを捕る #ダークエルフ王国見聞録

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養蜂については蜂飼いの女性から興味深い話を聞いた。三代目の里長の頃、ある狩人が獲物を求めて山中を歩んでいる時、大きな洞から黄金色の蜜が零れ出す大樹を見つけた。その洞を覗き込むと、大きな蜂の巣があり、数多の働き蜂の中から女王の蜂が歩み出てきた #ダークエルフ王国見聞録

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「貴女達の種族は我々と同じく麗しい女王が国や里を治め、また女達が勤勉に働くという。もしも、良き家を用意してくれるのであれば、我々は里に住まい、貴女達の世話になる代わりに蜂蜜を分け与えてもよい」女王蜂はダークエルフの狩人にそう語ったそうである #ダークエルフ王国見聞録

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狩人はこれを喜び、村人に伝え蜜蜂達の家を作ることにした。初めは藁で編んだ家を、次に土器の壺を用意したが、藁の家は寒く、土器の家はもろいと、蜜蜂の女王はどちらも好まなかった。そこで村人達は相談し、木箱に木製の蓋をした家を作り、その戸板に色鮮やかに絵を描いた #ダークエルフ王国見聞録

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女王蜂は絵の描かれた木箱の家を気に入り、里に住まうようになった。今でも木の巣箱の入り口付近に様々な絵を描くのは、蜂達がそれぞれの家を覚え、またそれを気に入ってもらうためだと伝承は伝えている。これは里における養蜂技術の発生と進歩を物語るものであろう #ダークエルフ王国見聞録

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また、里の南側にある岩山の崖にあった洞窟を掘り進み、山向こうの滝裏へ通じる隧道は五代目の里長の時に完成されたそうである。里長の意向を受け、村史の記述ではこの隧道の先にある南の山林や湖もこの里の者が利用・管理していると書き残すことにした #ダークエルフ王国見聞録

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隧道の向こう側に広がる山野は、現在では、人里との交易に通う道として使用しているのが主な様であるが、そう大っぴらに書き残すこともできないため、また里にとっての権益確保のため、里長はそのように記録する様に私に指示したのであろう。 #ダークエルフ王国見聞録

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その他、この里の何某が戦でこれこれの武功をあげた、何代目の氏族長はこの里の出身であるといった、里の権威を高める様な逸話が列挙されているし、種々の祭礼や敵対する種族との戦などについても記した。この書物に人間である私の名は残らないが、私は自分の仕事に満足した #ダークエルフ王国見聞録

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館の机で、提出した記録を読み終え、満足げな表情を浮かべる里長に、報告と共に調査への協力について礼を述べる。 「ご苦労様でした。このまま族長に提出しますが、族長も大変喜ばれることでしょう。」 羽筆でサインをし、紙束をまとめて熱した蝋で封をし、指輪印章を捺す #ダークエルフ王国見聞録

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高山に降り始めた雪が、風に乗ってちらちらと里まで運ばれる冬の始まりに私の里での仕事は終わった。山路が雪で閉ざされる前の、最後の人里との交易で、往路と同じく少年達が私を宿場まで案内してくれると里長は言う。それまでに別れの宴席も用意してくれるそうだ。 #ダークエルフ王国見聞録

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里長の館から居候先の家へと戻ると、戸口に女戦士が立って私を待っていた。貂の毛皮の襟巻に顔を埋め、以前にプレゼントした柘榴石の首飾りを指で弄んでいる。 「・・・里長殿は喜んでいたか？」 彼女はこちらを見ずにそう問いかける #ダークエルフ王国見聞録

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満足して頂いたようだと私が応えると、「そうか。良い仕事をしたのだな」とゆっくり頷きながら続ける。 「・・・寒くなってきたな、早く家に入るとよいぞ」 何かの言葉を飲みこむようにして彼女は先に屋敷の中に戻っていった #ダークエルフ王国見聞録

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滑らかな黒木の幹の間、夏の夜露の如くひっそりと濡れる秘所に指を這わせれば、冬の雪の如く美しい白銀の髪が揺れる。春に咲く花の蜜の如き香りの舌を吸い、秋の満月の如く金色に輝く瞳が潤む。彼女こそ私にとっての里の四季であったのやもしれぬ #ダークエルフ王国見聞録

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山々の落葉樹が紅色や黄金色に染まり、常緑樹もその緑を深くする晩秋の夜入り、里長の館の広間にダークエルフの村人達が集った。私はというと、今回の宴の主賓ということで、里長の左横、絨毯が幾重にも重ねられた高座に座らされている。今宵は私の送別の宴である #ダークエルフ王国見聞録

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里長はなみなみと赤い葡萄酒が注がれた銀器の高杯を持って立ち上がる。「ご参集、感謝致します。今宵は学士殿を送る為の宴ですね。皆さまの協力もあって、女王陛下および氏族長の命である我らが里の記録も完成致しました。何より、学士殿のご尽力にも感謝致しておりますよ」 #ダークエルフ王国見聞録