考古学者xガイドの軽率なホモを書いていく

大火事だよこんちくしょう。 火元は八鼓火先生@Hachikobiです。
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でこのひと🔞 @moi_deco

そう弁解すると先生は「それもそうだ」と笑った。会話はなんだかぎこちなくて、まるで油の差していない機械のようだ。俺達は言葉を覚えたての子供のように、何度も同じ言葉を繰り返した。先生は"好き"という言葉を噛み締める。世間で軽率にばらまかれるそれと、彼から放たれるそれは重みが違った。

2017-05-25 21:01:41
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堪えきれず、目の前にあった先生の手にそっと触れる。案外大きくて、だが細くて骨ばった手だ。少しばかり荒れ気味だが、スマートフォンを握ると様になる。紙を捲ってるのがしっくりと来る手だ。俺のゴツゴツとして、指にまで毛が生えた手とは違う。

2017-05-25 21:01:52
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今までその手は、何だか触れてはいけない神聖なものだと思っていた。けれど思い切って触れてやる。ビクリと怯えるように動いて、しかしすぐに力は抜けた。力を入れないように優しく握れば緊張しているのか少し振るえているような気がした。

2017-05-25 21:02:04
でこのひと🔞 @moi_deco

「ごめんなさい、こう言うの初めてなんだ。どうすればいいか判んなくて」先生は少し上ずった声でそう言って、俺の手を握り返した。温めるように指先をつかむと、ひんやりとした指先が心地よい。大人の恋みたいな、噛み付くようなキスも、ハグも、増してやセックスなどない。ただ手を握り合うだけ。

2017-05-25 21:02:15
でこのひと🔞 @moi_deco

それだけでも今ままで足りていなかった何かが満ちてくるような気分だった。

2017-05-25 21:02:25
でこのひと🔞 @moi_deco

長い薬指をつまむようになぞる。先生の目は不安と期待に揺れていた。これ以上はダメだと手を離そうとすると、名残惜しそうに指が動いて絡まる。「君は温かいな、ダビッド」先生は天然のジゴロか何かかもしれない。俺は苦笑しながらそう思った。そんな俺を、先生はキョトンとした顔で見ている。

2017-05-25 21:02:38
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何もかも初でど幼ささえ感じるというのに、まるで俺を誑し込むように言葉を紡ぐのだ。本当に可愛い。そう思った。これの相手が普通の女性であったなら、ここいらでぺろりと頂いてしまうところだったが、そういうわけにも行かないのだ。

2017-05-25 21:02:52
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いい年をして手を握りあったまま見つめ合うだけ。このまま時間が止まってしまえばいいと思えど、そんなファンタジーは映画の中にしかなかった。腹からキュルルと音がして、穏やかな緊張感はふつりと切れた。まるでカートゥーンのような終わりだった。何だか可笑しくて二人で笑ってしまった。

2017-05-25 21:03:09
でこのひと🔞 @moi_deco

「……昼食にしよう」時計はもう15時を回っていた。空腹を自覚すると一気に飢えがやってくる。ガッツリとしたものが食べたい気分だった。「車を出そう。隣町でハンバーガー食おうぜ。デッカイやつ」そう言って寝そべる先生をそのまま引っ張り起こす。いいんだ、俺達は、これで。

2017-05-25 21:03:21
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昼飯が特別感なんて全然無いようなメニューでも、緊張しすぎた先生が立てなくて灰皿をひっくり返すところだったとしても、実は俺は緊張しすぎていてシャツが汗染みでペタペタしてても。 自身を持っていい。そう自分に言い聞かせるように、心のなかでつぶやいた。

2017-05-25 21:03:44

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何も遮るものがない昼過ぎの屋外は、白熱した太陽がジリジリと照りつけていた。延々と続いていたアガベ畑は遂に途切れ、それから乾いた土に疎らな灌木が現れる。そんな世界を、小汚いピックアップ・トラックは土埃を上げながら駆けていた。古いディーゼル・エンジンが轟々と唸りを上げていた。

2017-07-11 20:38:42
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そんな可愛くないもの達に囲まれていて、しかし俺達は上機嫌だった。ボロのスピーカーからは、The BeatlesのIn my lifeが流れていた。親父から譲り受けたそれらは、耳が寂しくて再生する度に癖になっている。横目で見やる先生は、外の眩しい世界を真面目な顔で見つめていた。

2017-07-11 20:39:07
でこのひと🔞 @moi_deco

彼の片手に握られたスマートフォンは、立てられたピンまでの道のりを忙しなく算出している。スカイブルーのラインは、あっちに行ったりこっちを回ったりしているが、その結果は出るわけがないのだった。だってもうここに"道"なんてないのだから。

2017-07-11 20:39:21
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そうだ、道なんてない。セオリーに拘って焦っていた俺も、恋人というテンプレートに囚われていた先生も、結局道がほしかったんだ。だから100メートル進むごとにルートを再検索するアプリケーションを、俺は何だか微笑ましく思っていた。俺達はお前をもう、超えたんだ。

2017-07-11 20:39:32
でこのひと🔞 @moi_deco

「この辺だ」先生の号令でブレーキを踏み、ピックアップ・トラックは緩々と減速した。狭い轍の路肩でサイドブレーキを上げ、年季の入ったテンガロン・ハットを被る。運転席を降りれば、黄味がかった土がざらついた音を立てて砕けた。緩い坂の先を見渡せば、オレンジ色の町並みが広がって見えた。

2017-07-11 20:39:42
でこのひと🔞 @moi_deco

俺達の行き先は更にこの先、車では入れない丘の谷間にある。先生はザックを肩に掛け、スマートフォンの画面を消した。それから、首元にタオルを巻き付けて帽子を被った。先生みたいな白人は皮膚が薄いから、こうでもしないと火傷をしたようになるのだ。それでも彼は随分と日に焼けていた。

2017-07-11 20:39:53
でこのひと🔞 @moi_deco

出会ったばかりのころの生白い顔に比べれば、随分と健康的で好ましい。誰が見ているわけでもないからと手を差し出すと、先生は一瞬狼狽えて、それから差し出された手を取った。それだけで舞い上がりそうな俺は、努めて平静を保ちながら、丘を登り始めたのだった。

2017-07-11 20:40:04
でこのひと🔞 @moi_deco

丘を登りきって視界が開けると、俺は息を呑んだ。丘の向こうは窪地になっていた。周囲をぐるっと小高い丘に囲まれた窪地だ。まるで火山湖の水が枯れてしまったような風景だった。地面は疎らに灌木が覆っている。絶好の隠れ家を見つけたような、そんな気分で斜面を駆け下りる。乾いた土が俺を迎えた。

2017-07-11 20:40:15
でこのひと🔞 @moi_deco

「ね、なんかありそうでしょ」先生はそういって、それからはにかんだ笑顔を浮かべた。それからぐるりと辺りを見回して、その光景を写真に収めた。フォト・グラファーにとってはあまり大した値打ちのない場所だろうが、俺には秘密の宝物のように見えた。

2017-07-11 20:40:45
でこのひと🔞 @moi_deco

360度を丸く切り取られた空は、雲一つない晴天だった。少し風が強かったが、それはきっとこのあたりの起伏のせいだろう。先生はそう考察しながら、「こんなに天体観測に適した場所はないだろう」と言った。

2017-07-11 20:40:58
でこのひと🔞 @moi_deco

「このあたりで興隆した文明は大体、高い天体観測の技術があった。もしここに都市国家が存在したのなら、きっと星を見るところを作ったはずだ。解読してもらった文章によると、占星術師の地位が高い文明だったから、権力者がここを都市の中心にしていた可能性もある」

2017-07-11 20:41:09
でこのひと🔞 @moi_deco

先生はそう言って、それからしゃがみ込んで土を掴んだ。丘を構成する赤味がかった粒子の細かい土だ。土塊を指で潰してやればサラサラと流れて落ちる。土質は向こうの遺跡がある場所と大して変わらないようだった。

2017-07-11 20:41:27
でこのひと🔞 @moi_deco

先生はひとつ納得したように頷いて、それから土を踏みしめる音を立てて明後日の方向に歩いていってしまった。彼の表情は真剣そのもので、いつよりも学者の顔をしていた。俺はと言えば、どこかに置いてけぼりにされたような、そんな寂しい気分が嵩を増しているのを感じていた。

2017-07-11 20:41:43
でこのひと🔞 @moi_deco

彼はあのとき、"夢中になるときっと、好きなことすらも忘れてしまう。"と言っていた。現実がその通りになって行くのが嫌で、思わず「センセー!」と声を上げる。俺のことを置き去りにしないで欲しい。俺の手が届く先生のままで居て欲しい。我ながら強欲なことだ。我儘が喉元で引っかかっては消えた。

2017-07-11 20:41:55
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