こじらせていたリーマン不定期更新2
- tsutsujishika
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「出張って来週からだっけ」 「そー。月曜から。急に決まるんだもん。このクソ忙しい時期に」 おそ松は文句をいいながら、弁当箱を開ける。すると明るい顔になって、うまそう!と笑顔になる。こいつの表情はいつも忙しいな。ここが社食でなければ、僕の顔もだらしなく崩れたかもしれない。
2017-02-10 12:14:04今日の献立はポテトサラダと、茹でたブロッコリー、えのきをベーコンで巻いて焼いたもの。いつも入れてる卵焼きと彩にプチトマト。そんなに特別な料理でもなく、変わり映えもしないのだが、彼は美味しそうに食べてくれるから嬉しい。そしてちょっと照れる。
2017-02-10 12:15:08「ていうかさ、5泊4日て。長くない?どうせ行くならって色々予定詰め込まれてさあ」 おそ松はこう言うけど、忙しいことは良いことだ、と思う。最近調子が良いのか、上からの評価も上々らしい。ちなみに人柄においても評判は良い方だ。男女問わず。
2017-02-10 12:16:04色々な意味で、すこし嫉妬してしまう。同じ勤め人としてもそうだし、男としても、恋人としても。僕と彼じゃ何もかも違うから、比べたってしょうがないのだけど。
2017-02-10 12:17:01「いいじゃん。美味しいものいっぱい食べてきなよ」 「えーチョロ松の弁当のほうが絶対美味いよ」 「すぐ調子の良いこと言うんだから」 「ほんとだって。……チョロ松はなんとも思わないの?」 おそ松は少し声を潜める。 「俺ら1週間も会えないんだよ?寂しくない?」
2017-02-10 12:19:01「……っ会社でそういうこと言うなよな」 顔が赤くなりそうになって、慌てて手で煽いだ。あーあつい。ここ暖房効きすぎなんじゃない?
2017-02-10 12:19:04おそ松の言うとおり、まるまる5日間も会えないなんて初めての出来事だ。もちろん付き合いだしてから考えて、の話だけど。職場が一緒だし、休みの日だって会っているから、むしろ顔を見ない日のほうが珍しいくらいだ。それが、来週5日間は、会えない。
2017-02-10 12:20:05「それより、出張の準備はちゃんとできてんの?」 とりあえず話題をすり替える。寂しい気持ちを伝えるのは、仕事が終わった後でいい。 「準備?準備。あー。そもそも何持っていけばいいのかわかんねえ」 「え?でも出張自体は経験あるよね」 「つってもせいぜい一泊だし」
2017-02-10 12:22:01「……おそ松、もしかして。お前が持ってるスーツケースって」 「……一泊用の小さいのしかない」 「足りない。絶対足りない」 とりあえず明日、スーツケースを買いに行こう。というところでこの話は終わった。
2017-02-10 12:23:01「やあっと纏め終わったあ」 ぐっと腕を伸ばすと、向かいの同僚からおつかれーと声をかけられる。ほんと疲れた。出張に備えての資料作り。こういう仕事は基本的に苦手だ。
2017-02-10 20:24:02「おそ松がいないと、この席も静かだろうなあ」 「さみしいだろ?」 「せいせいするよ」 「薄情なやつには土産買ってこねえぞ」 「冗談。にしても残念だったな。よりによって来週」 「ん?来週ってなんかあったっけ。」
2017-02-10 20:25:02「反応薄いな。お前、彼女いるんじゃないの?」 「えーそんなこと言ったっけ」 彼女はいない。彼氏ならいるが。 「言われてはない。でも見てたらわかる」 「なにが?」 「浮かれてるのが」 おう。俺はそんなふうに見られてるのか。
2017-02-10 20:27:00「ま、昼に男と仲良く弁当つついてるやつに、彼女もクソもないか」 ぐ。それもばれてた。いや、社食で食ってんだから隠すも何もねえんだけど。
2017-02-10 20:28:10「仲良いよな。お前ら。」 「俺とチョロ松?」 「ん。それは前からか。でも最近特に」 営業のフロアは、人が座っている島だけ、電気がつくようになっている。ほとんどの人が帰っているせいで、明かりはまばらだ。俺たちの周りなんて、誰もいないからぐるりと暗い。まるで切り取られたみたいに。
2017-02-10 20:29:06同僚は何かを言いたそうにして、でも結局やめたらしい。 「まあ、俺は彼女といちゃいちゃ過ごすから。お前は出張頑張れ」 そう言ってひらひら手を振られた。はいはい。 ……少し気を使われた、のかもしれない。
2017-02-10 20:30:12それにしても、バレンタイン。本当になにも考えてなかった。なんとなく、男女のイベントみたいな先入観があって、自分たちのこととは切り離していた気がする。どのみち当日はチョロ松に会えないんだから、何もしようがない。
2017-02-10 20:31:12「えー、これ?でかくねえ?」 「スーツとシャツを日数分って考えるとこのくらい必要でしょ」 「シャツはコインランドリーで洗うから。スーツも替え1着で十分じゃね?冬だし」 あれこれ言いながら、おそ松のスーツケースを選ぶ。大きすぎず、小さすぎず。仕事用だから、派手すぎないもの。
2017-02-11 11:18:02僕らが来た大型店舗の中は、生活雑貨や文具なんかの目的ごとにフロアが分かれている。ここはトラベル用品のフロア。スーツケースにボストンバッグ。圧縮袋やネックピローなんかのグッズが陳列されている。
2017-02-11 11:19:02「こういうの見ると旅行に行きたくなるね」 「行こうぜどっか」 「休みとれるかな。行きたいところ、ある?」 「んー熱海とか?」 「なにそのチョイス」 新婚旅行かよ、というツッコミは飲みこんだ。
2017-02-11 11:20:04