- Jindai_Komaki_
- 547
- 1
- 0
- 0
血泡を吹き、仰向けに倒れた男子生徒の胸には机の足が突き刺さっている。 「ば、爆発がおまえの力か」 「それだけじゃ……ないけどね……」 オレンジ色の煙に満ちた教室。ボクを中心にして、なにかが爆発したかのように机や椅子が吹き飛ばされていた。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 17:45:47「このままやられて、たまる──」 「バイバイ……」 別れの言葉と同時に指を鳴らすと、小さな爆発とともに彼の頭が吹き飛ぶ。飛び散る血しぶきが花火のように見えた。 「最高だよ……この力……」 歓びに身震いし、ボクは微笑む。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 17:46:00そんな余韻に浸るボクの邪魔をするかのように教室へ生徒が入ってきた。 「……なにか用?」 「これお前がやったの?」 「そうだけど……」 つり目の美少女。金色の髪をなびかせた彼女は確か三年の── 「私は嘉手納リサ」 女は指の鋭い爪を伸ばし、構える。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 17:51:29「お前を殺す者! ……な、なに、このオレンジの霧?」 「……花粉」 彼女の周囲をみるみる煙状の花粉が覆う。 「バイバイ……」 小さく指を鳴らすと同時に響く轟音。そして大爆発とともにリサは粉々に飛び散る。 「はあ……最高だ……」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 17:55:30爆発。そして、その破壊を見るのは本当に心が沸き立つ。 「あと一人……吹き飛ばせばいいんだっけ……」 手の甲に『2』と数字が刻まれている。おそらく、これはボクが殺害した数なのだろう。 「楽しく狩ろう……」 ボクは浮かれた気持ちで教室を後にした。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 18:01:53「み……見つかんない……」 困ったなぁ。そうぼやき、ボクは廊下を歩く。しかし、歩けど歩けど見つかるのは死体ばかり。 「もう……生きてる生徒いないの……?」 夕方までにあと一人殺さなければボクも死ぬらしい。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 18:06:46どう死ぬのかは知らないが、夕方までに三人を殺害できなければ『非業の死を遂げる』とシャッターに書かれていた。ろくな死に方はしないだろう。できれば非業の死とやらは避けたい。 誰でもいいから吹き飛ばされてくれないかなぁ。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 18:08:34三人目の獲物が見つからず、途方に暮れているとなにやら泣き声のようなものが聞こえてきた。「女の子の声……?」 どうやら近くの教室から聞こえてくるようだ。 誰かの攻撃かもしれない。ボクは警戒しながら教室へ足を踏み入れる。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 18:21:20中を確認する前に有無を言わさず吹き飛ばそうかな。 ボクはいつでも爆破できるように花粉を教室内へ漂わせる。 注意深く、さらに一歩踏み込むと机の影に座り込む少女の姿が目に入った。床を見つめながら涙をこぼしている。 「だ、誰?」 こちらに気づいた。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 18:23:57「ボクは……百合鴎ゆりか……」 誰と問われて思わず名乗ってしまった。 「わたしは枝垂桜。一年生」 「ボクも一年生だ……」 そっか。そう答えて微笑む彼女に悪意や敵意は見られない。 「キミ……いい子でしょ」 「いい子。かな」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 18:27:30微笑む彼女の瞳から光が失せた気がする。 「ほら、数字」 桜は右手の甲を見せて悲しげに笑う。 「誰かを殺したんだ……?」 それじゃ、ボクも殺される前にキミを殺し── 「人を傷つけるのって本当に悲しいことだよね」 「え……?」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 18:29:43「こんな風に殺し合うくらいなら、ここで制限時間まで隠れてようかなって」 やはり彼女の瞳には敵意はない。本気でそう思っているのだろう。 「そうやって戦いを避けようとした子たちは……早い段階で殺されていった……」 「殺すより殺されたほうがマシなんだよ」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 18:32:38「うーん……」 「百合鴎さんは違う?」 「うん。殺されるよりは……殺したほうがマシだな……」 「わたしのことも殺しに来たのかな」 「そのつもりだけど……」 「そっか」 桜は微笑み、できるだけ苦しめないでねと呟いた。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-03 18:41:25「い……いいのか? ボクに殺されるんだぞ……」 「いいよ。最後にお話できて楽しかったから」 そう言われると逆にためらってしまう。 「数字」 「え……?」 「『2』でしょ? 見えたんだ」 ボクは手の甲と桜を見比べて頷く。 「わたしを殺せばクリアー」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 10:33:46「そうだけど……」 「遠慮しないで。ほら。……危ない!」 突然、桜はボクを突き飛ばしてきた。不意を突かれて机を巻き込みながら尻もちをつく。 「いてて……なにを」 「怪我、なかった?」 「桜……!」 彼女の胸は刃物で斬られたかのように裂けていた。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 10:37:14「よく気がついたねぇ〜」 明るい口調。教室のすみにショートヘアーの少女が剣を構えて立っていた。 「いつの間に……」 「私は星川きらり」 「わたしは枝垂桜です」 桜の胸を斬り裂いたのは、きらりのはずなのに律儀に名乗り返す気持ちがわからない #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 10:43:34「私ね、いつの間にか近づくの得意なんだ」 きらりは剣を桜に向け微笑む。同時に周囲を白い霧が覆っていく。 「こんな風に!」 「き……消えた!?」 霧の中に溶け込むように彼女は姿を消し、桜は前方に駆け出す。 「なにっ!?」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 10:54:04桜がなにもない宙を掴むと、そこには剣を振り上げたまま手首を抑えられたきらりの姿が現れた。 「わ、私の位置をどうやって知ったの」 「秘密」 彼女たちは掴み合い膠着状態に陥っている。 どうする? 爆破で支援するか? 「ためらわないで百合鴎さん!」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 10:58:44「……っ!?」 まるで桜に心を見透かされたような。しかし、今は彼女の言うようにためらっている場合じゃない。 「吹き飛べ……!」 きらりの周囲はすでに花粉が覆っていた。それは爆発性の百合花粉。百合の花粉は粘着性。一度ついたらとれない。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 11:01:29指を鳴らすと同時に爆発が起き、桜ときらりは吹き飛ばされる。しかし、きらりは吹き飛ばされながらも空中で体勢を整え、黒板に両足をつく。 そしてそのまま廊下へと飛び去った。 「悪くないねぇ」 廊下から笑い含みの声が聞こえてくる。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 11:06:49「あなたち超可愛いよぉ〜。あはは」 笑いが遠ざかっていく。 「逃げたか……」 きらりのそばに桜もいたため、花粉の量を少なめにしておいたのだ。本来なら、きらりを粉々に吹き飛ばせていたのだが。 ……どうして、ボクは桜を気にかけた。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 11:11:03「手加減する未来を選択してくれたんだね」 「みらいの……せんたく?」 倒れた桜は半身に火傷を負い、爆破の衝撃であちこちの皮がめくれて血が溢れている。 「わたしごと、星川さんを粉々にする未来も見えたのに……ごほっ……」 「キミは未来が見えるの……?」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 11:21:02「何千何億何兆通りの未来がわかるよ」 「すごい力……」 「友達と別れてから急に見えるようになったの」 その力があれば三人殺すなど容易いはずなのに。 「きらりの攻撃からボクをかばってくれたんだ……」 「うん。百合鴎さんとは友達になれそうだったから」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 11:26:24「……ありがとう」 「どういたしまして」 ボクのためになにかをしてくれた人は初めてだ。親にも疎まれ、友達もできずにいた爆弾魔。たくさんの命を奪ったテロリストと呼ばれてきた。なのに、この子は命がけでボクを守ってくれた。一円の得にもならないのに。 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 11:28:17「ボクはキミを守りたい……」 守られっぱなしなんて冗談じゃない。借りは返す。 「もう無理だよ。わたしボロボロだもん」 血泡を吹きながら桜は微笑む。 「やってもいないのに……無理とか言うな……」 「ごほっ……!」 #へるげえむアリスロンド
2017-05-04 11:31:30