ゴールデンカモイ #7
「ほっぽちゃん?」《はい!前の上司です!北方海域の司令官でした!ちっちゃいけど抜群に強くて、その思慮はウラル山脈より高く、バイカル湖よりも深いと讃えられていました!特に有名なのは、幌筵泊地を建設しようとした人間たちをたった1人で追い払った時の戦いですね!》23
2017-07-25 21:33:08ブリザードは物凄い早口でほっぽちゃんの戦歴をまくし立てる。「いや、それは今度聞こう」ロングテイルは若干引きながらこれを制し、指示を出した。「なぜそこにいるかはわからんが、戦闘に巻き込むのは忍びない。迎えに行ってくれ」《もちろん!すぐに行きます!》24
2017-07-25 21:36:07ブリザードと護衛のマグロヤブが離れるのを見送ってから、潜水棲姫は魚雷を構えた。敵艦隊にトドメを与えるためだ。しかし、上から爆雷が降ってきたので、潜水は魚雷を捨てて爆雷を避けた。爆雷は1つではなく、彼女を囲むように次々と降ってきては爆発する。25
2017-07-25 21:39:02気付かれている。そう悟った潜水棲姫は、迷うことなく浮上した。飛び上がるように海上に出る。目の前に艦娘がいた。「イヤーッ!」艦娘の右ストレート!「イヤーッ!」ロングテイルはこれをチョップで受け止める!「イヤーッ!」更なるカラテシャウト!右から別の艦娘のハイキック!26
2017-07-25 21:42:02「イヤーッ!」ロングテイルは蹴りを左腕でガード!両腕がふさがった彼女に、今度は爆雷が投げつけられた!「イヤーッ!」ロングテイルの、その名の通りに臀部から生えた長い尾が、爆雷を弾き飛ばす!爆雷はあらぬ方向へ吹き飛び爆発四散!27
2017-07-25 21:45:02「イヤーッ!」ロングテイルと2人の艦娘は、ほぼ同時に連続バク転をし、間合いを取った。「ドーモ、艦娘の皆さん。ロングテイルです」先にアイサツをしたのはロングテイルだった。艦娘たちがそれに続く。「ドーモ、ロングテイル=サン、国後です」「占守でしゅ」「択捉です」28
2017-07-25 21:48:02「爆雷ではなくカラテで立ち向かってきたことは評価してやる」ロングテイルは両手を開き、爬虫類めいた前傾姿勢をとった。「付け焼き刃の格闘技術がどこまで通じるか、見せて貰おうではないか」「バカじゃない?爆雷にビビって飛び出してきた根性無しのパンチなんて、ちっとも怖くないわよ!」29
2017-07-25 21:51:06「私たち、ネオホッカイドウ沿岸警備隊の力、思い知りなさい!」択捉はそう言いながら、新しい爆雷を手に取った。「しゅっしゅっ!」占守は威嚇的なシャドーボクシングを続けている。「海防艦だからといって、容赦はせんぞ!」ロングテイルは両足と尻尾で海面を蹴り、艦娘たちに飛びかかった!30
2017-07-25 21:54:04「……誰も追ってこねえな」阿頼度島の東には、旧ソ連の守備隊が使っていた兵舎跡地がある。杉坂たちは灯台を離れ、そこへ避難していた。灯台が人狼たちに見つかったので、増援を呼ばれる前に逃げ出したのだ。幸い、今のところ追っ手が来る気配はない。32
2017-07-25 21:57:04「戦争するには、数が足りんな」灯台の老人もついてきている。老人は狩猟用らしい旧式のライフルと日本刀を灯台から持ち出していた。「銃はともかく、なんで刀なんて持ってるんですか……」やましろが呆れて呟くと、老人は笑って言った。「いくつになっても男子は刀を振り回すのが好きだろう?」33
2017-07-25 22:00:14「戦う必要はありません。さっさと脱出すればいいのです」「でも船がありませんよ?」「この柩を使うのはどうでしょうか」不知火たちは柩の上に乗り始めた。杉坂と老人が座り、その膝の上に神威とやましろが座る。不知火はその間に無理やり入る。全員が乗った柩を、北方棲姫たちが持ち上げる。34
2017-07-25 22:03:08「おおっと」「きゃっ!?」老人がやましろごと押し出された。流石に5人が乗るのは厳しかった。何度か場所を変えたりしたが、北方棲姫と護衛棲姫の運び方が荒いせいで、どうしても誰かが落ちた。「不知火に、何か落ち度でも……」提案が見事に失敗して、不知火は涙目になった。35
2017-07-25 22:07:02「落ち着くまで隠れるしかないですね」そう言った神威は、ふと、海に向かって手を降る北方棲姫に気付いた。「……ちょっと、ほっぽちゃん!?」慌てて止めようとする。彼女のアイヌ視力は、洋上の深海棲艦を捉えていた。この状況で深海棲艦に見つかっては、全員命は無い。36
2017-07-25 22:09:07波打ち際から巨大な二足歩行ロボットが姿を現した。中央には海水を詰めた防弾ガラスポッドがあり、そこにはマグロが格納されている。「やべーぞ、マグロヤブだ!」杉坂は銃を握り締めた。しかし、ライフル弾が効く相手ではない。すると、北方棲姫がとてとてと外に飛び出していった。37
2017-07-25 22:12:04「おい、危ねえぞ」老人が立ち上がり、後を追おうとする。しかし、北方棲姫はマグロヤブたちの足元でぴょんぴょん飛び跳ね始めた。マグロヤブたちは、意外にも北方棲姫に襲い掛からない。やがて、北方棲姫が不知火たちの方を振り返って言った。「連れてってくれるって!」「は?」38
2017-07-25 22:16:01「マグロ、ブリの仲間!だからほっぽの仲間!」「ブリ!?」「知性ブリ!?」「あー、いえ、違います。私です」新たなる知性魚類の到来かと思いきや、海岸に上がってきたのは戦艦ル級だった。「こんにちは、ブリザードです」「おいおいおいおい!?」どう見ても深海棲艦だ。杉坂と神威は身構える。39
2017-07-25 22:18:02「待って。ヒトがおとなしくしてるのに、なんですかその態度は。機銃で蜂の巣にすんぞ」「ぷ!だめ!」ル級の前に北方が立ちはだかった。「ぬいももいもおっちゃんもおじいちゃんもお友だち!だめ!」「ほっぽちゃんがそう言うなら……」「おい、おっちゃんって、おい」40
2017-07-25 22:21:08「あの、不知火さん。ほっぽちゃんって一体……?」杉坂の主張よりも、神威は北方の正体の方が気になっていた。「軍事機密です」不知火はそう答えた。「いや、でもあれって深海」「軍事機密です」そうとしか言いようがなかった。「おっさん……」「いつまで言ってるのよ、あんた」41
2017-07-25 22:24:12一方、老人は護衛棲姫に連れられてマグロヤブの背中に乗ろうとしていた。「なんかまた妙ちきりんな機械だな、オイ。本当に乗れるのか?」「お爺ちゃんなら乗れる!」「いや、俺らも乗せられる気がしないんですけど」マグロヤブたちは困惑していたが、それでも協力はするつもりらしい。42
2017-07-25 22:27:02そのうちの1機が、突然爆発した。「ゴボーッ!?」マグロたちが慌てふためき、不知火たちはとっさにその場に伏せる。更にもう1機、マグロヤブがどこからか砲撃を受け、爆散した。「砲撃!?」「どこからだ!」「あれだ!」杉坂が見つけたのは、砂浜をこちらに向かって歩いてくる人影だった。43
2017-07-25 22:30:14「艦娘……!?」不知火が言う通り、その女性は大砲を据え付けた武装プラットフォームを背負っていた。だが、その見た目通り艦娘であるならば、海の上にいるのが自然なはずだ。「なんかの間違いじゃないの?」「関係ないな!」ル級が砲を構えた。戦艦砲でまとめて吹き飛ばすつもりだ。44
2017-07-25 22:33:09「ゴボーッ!主砲だ、離れろ!」マグロたちが慌ててル級の射線上から離れる。女性が背負った砲を撃った。「そんな貧弱な砲で――ガッ!?」ル級が吹き飛んだ。本物の戦艦と同程度の強度を持つ深海棲艦が、ただの一撃で吹き飛び、倒れ伏した。「つまらん。一撃か」近付いてきた人影が言った。45
2017-07-25 22:36:09彼女の顔を見て、不知火は目を見開いた。「ガングート……!」それはロシアの艦娘、ガングートだった。「ほう。なんだか、メチャクチャな取り合わせだな」不知火たちの顔を見渡しながら、ガングートは呟いた。「艦娘、深海棲艦、アイヌ、兵士、老人、マグロ。異文化交流でもやってるのか?」46
2017-07-25 22:39:03銃声が響き、ガングートがのけぞった。杉坂のライフル銃が煙を吹いていた。眉間を撃ち抜かれたはずのガングートは、しかし、仰け反りから元の体勢に戻った。まったくの無傷である。「嘘だろ!?」「おいおい、いきなり当ててくるとは、随分とご挨拶じゃないか」47
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