「人工生殖の法律学」から考える「家族」について

読みながら要約しつつ感想を呟いていくスタイル。更新終了です。 他に読んだ本→ https://togetter.com/li/1144604
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日本の堕児の歴史

波島想太 @ele_cat_namy

日本でいつから堕児が行われていたかははっきりしないが、「源順集」に「男の人の国にまかるほどに、子をおろしける女のもとに」と前書きした歌があることから、平安時代にはすでに堕児が「おろす」という表現で存在していたらしい。

2017-09-20 11:48:16
波島想太 @ele_cat_namy

江戸時代には一般庶民までも広く行われるようになった。間引きという嬰児殺しが地方で多かったのに対して、堕児は江戸を中心とする都市で多かったという。当時の堕児法は、水銀を含む朔日丸という薬で中毒症状を起こす方法、植物の根や茎を子宮内に挿入し卵膜を吸い出す方法などがあった。

2017-09-20 11:53:10
波島想太 @ele_cat_namy

江戸で堕児が流行ったのは、風俗の乱れにより婚姻外の妊娠が増えた一方で、不義密通に対する取り締まりが厳しかったためとされる。後半には幕府も堕児の禁令を出したが、対象地域が江戸に限られ、また堕児業者の弾圧に過ぎず取り締まられたのも堕児致死のみだったので、堕児自体は放任だった。

2017-09-20 11:56:46
波島想太 @ele_cat_namy

日本で堕児を犯罪として禁止した最初の法律は、明治13年に制定された旧刑法だった。キリスト教思想に基づくフランス刑法を参考にしたためで、人口を増やすことで富国強兵を図る国の方針とも一致していただろう。

2017-09-20 12:01:32
波島想太 @ele_cat_namy

桜井忠雄裁判官が大正15年からの5年間で全国の地方裁判所で起きた堕胎事件の判決を調査した結果によると、堕胎原因は総数1036件中私通が715件、貧困147、母体保護43、多産41件である。私通が多いのは当時は婚外妊娠への批判が強く、非合法な闇堕胎に頼りがちだった可能性がある。

2017-09-20 14:06:58
波島想太 @ele_cat_namy

堕胎方法は棒状の竹草木挿入が428件で、針金、火箸なども17件あり、「揉み下し」は22件あった。施術者の三割が取上婆で、医師、産婆などが続く。裁判記録であり実際の堕胎方法と割合は違うかもしれないが、昭和初期になっても江戸時代と変わらない原始的な堕胎が行われていたのである。

2017-09-20 14:12:20
波島想太 @ele_cat_namy

大正時代から堕児罪の改正や廃止を求める声はあったし、諸外国でも緩和の動きはあったが、日本国内ではさほど変化はなく、やっと出てきた改正案は戦況拡大の中で立ち消えになった。昭和16年には優生保護法が制定され、堕胎の法規制は強化されてしまった。

2017-09-20 14:51:13
波島想太 @ele_cat_namy

昭和16年には国民優生法が制定された。これはドイツの遺伝病子孫防止法にならい、遺伝性の精神疾患や身体障害を持つ者は優生手術(つまりは去勢)を受けられるというものである。本人申請を原則としており、実際に手術を受けたものは五百人程度ではあったが、差別的な問題のある法であった。

2017-09-20 15:05:05
波島想太 @ele_cat_namy

戦後、昭和23年には国民優生法に代わり優生保護法が制定される。これも遺伝性疾患が理由であれば任意に中絶を認めるが母体保護や強姦妊娠のたむの中絶には審査を要した。メインは「遺伝病者の抑制により日本民族の淘汰を防止する」であり、去勢や胎児保護の問題については考慮のあとが見えない。

2017-09-20 15:10:37
波島想太 @ele_cat_namy

翌年には人口過剰問題を受けて中絶理由が「妊娠の継続や分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがある場合」に拡張された。「経済的理由」を認めることにより合法の範囲が大幅に広がったのである。建前としての反対はあっても多産は喫緊の課題であり、すぐに改正施行された。

2017-09-20 15:15:19
波島想太 @ele_cat_namy

さらに三年後「地区優生保護審査会の審査」を必要としていたケースの中絶も、医師の認定のみで行えるようになった。この背景にもヤミで行われる危険で高額な堕胎手術があった。 これらの改正後、中絶数は急激に増加した。経済的理由追加後は2倍の約49万件になり、審査廃止後は100万件を越えた。

2017-09-20 15:20:05
波島想太 @ele_cat_namy

1949年~91年に報告された人工中絶は3194万件にも及ぶ。実数はその2倍とも3倍とも言われ、2倍でも出生数を上回る中絶数となる。1953年以降、「身体的または経済的理由」が毎年99%を越えている。

2017-09-20 15:26:04
波島想太 @ele_cat_namy

改正優生保護法により広範な中絶合法化により、妊娠の半分以上が中絶されるようになった結果、普通出生率は急落を始め、若年労働力の不足がささやかれるようになる。その原因は安易な中絶を許す優生保護法にあるとし、「生長の家」やカトリック緒団体により優生保護法改廃期成同盟が結成される。

2017-09-20 15:31:25
波島想太 @ele_cat_namy

この動きは国会議員にも波及し、法改正の動きが出てきたが、医師会は運営や指定基準の再検討などで事足りるとした。すなわち我が国で中絶が多いのは戦後における小家族主義への移行の結果であり、中絶基準を今さら厳密にしてもヤミに潜るだけで中絶自体は減らないと主張したのである。

2017-09-20 15:35:10
波島想太 @ele_cat_namy

それでも中絶理由から「経済的理由」を削除するなどの改正案が出ては廃案や継続審議となっていた。女性たちの反対の声が大きかったというのもあるし、オイルショックによる不況で人余り現象が起きていたということもある。 人権配慮の面もなくはないが、結局は立法も経済的理由か、という感はある。

2017-09-20 15:42:12
波島想太 @ele_cat_namy

本書出版後になるが、1996年に母体保護法へ改組され、「優生」の言葉は消えたが、中絶理由に「経済的理由」はそのまま残っている。 人工中絶数の推移は添付画像参照。 gender.go.jp/about_danjo/wh… pic.twitter.com/aBUbMmJ4UG

2017-09-20 15:53:46
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波島想太 @ele_cat_namy

本来「経済的理由」の範囲とは、1953年の事務次官通知により「現在生活保護を受けているか、妊娠、出産により困窮し生活保護対象になる場合」とされているが、実際に「経済的理由」を挙げた中絶のうちどれほどがこの条件を満たしているかは疑わしい。空文化していると著者は指摘する。

2017-09-20 15:58:32

堕児を認める条件

波島想太 @ele_cat_namy

羊水検査などの出生前検査で先天性障害の有無などを調べられるようになったが、母体保護法では優生思想を廃したのか障害を理由とした堕胎を認めていない(胎児条項として検討する動きはある)。ただ現実には他の理由に該当することにして堕胎を行っている事例もあるようだ。

2017-09-21 10:32:02
波島想太 @ele_cat_namy

ただ胎児、特に早産しても生存可能性があるとされる23週以降の胎児については、独立して生存できる以上独立した人権を有し、堕胎でなく殺人に該当するという考え方もある。

2017-09-21 10:34:38
波島想太 @ele_cat_namy

なので障害があるからといって「殺害」してよいのかという見方はあり、身体的、経済的母体保護との兼ね合いは難しい。言い出せないうちに、迷っているうちに23週を越えてしまうことも少なくないだろうが、命にまつわる重大な決断を急がせるのも道義的にどうであろうか。

2017-09-21 10:38:30
波島想太 @ele_cat_namy

1970年代に中絶が大きく自由化されたのは、女性の権利を高らかに主張したアメリカが要因であった。ロウ裁判で女性の中絶決定権が憲法上の権利であることが認められたのも大きい。

2017-09-21 10:45:37
波島想太 @ele_cat_namy

日本でも少子化問題を背景に中絶の規制強化の可能性があると著者は言う。20年経って少子化はより一層深刻さを増しているが、今のところ中絶抑制動きはないようである。そもそも多くの若者が子供を産み育てられる環境でない以上、中絶を禁じたところで貧困の再生産にしかならない。

2017-09-21 10:47:36
波島想太 @ele_cat_namy

一方でどれだけの資金、労力を費やしてでも我が子を望むカップルがいる。人工生殖と人工中絶は表裏の関係にあり、同一の原理で考えなければならない。人工生殖でも夫の精子だけ、妻の卵子だけ、どちらも他人の胚を借りて妊娠出産を行う事例があり、産みの母が引き取るのも卵の母が引き取るのもある。

2017-09-21 10:52:59
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