小島寛之氏の測度論的確率論批判は妥当か?

経済学者で数学エッセイストでもある小島寛之氏は著書やブログなどで度々測度論的確率論への批判をしています. しかし,それらの批判は自説を立てるための不当なものに見えます. 今回は1つのブログ記事をピックアップしてその内容の検討を行いました. ここで扱ったのは10年近くも前の記事ですが,最近の著書でも同様の主張をしています.
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小島氏の批判に対する批判のまとめ

paleperlite @paleperlite

くどいようですがまとめておきます. 小島氏は測度論的確率論を「心理的確率」「物的確率」を扱えないことをもって「もうそろそろいいかげん、確率論の新しい時代に入ろうよ」と述べているのですが,ここまで見てきたことから,いずれの確率に関する説明も不適切だということが分かりました.

2017-10-12 00:24:49

↑ 正確には「『物的確率』『心理的確率』を扱えない」ではなく「『物的確率』『心理的確率』については加法性が成り立たない」です.

小島氏による批判3ー測度論的確率論の枠組

paleperlite @paleperlite

この時点でこの記事の大体は意味不明だということが分かりますが,先ほど飛ばしたパラグラフにもおかしなことが書いてあります. そこには ・コルモゴロフが測度論的確率論を作ったのは大数の法則,中心極限定理を示すため ・独立性の定義は「人工臭のする」「予定調和的」なもの とあります.

2017-10-12 00:30:51
paleperlite @paleperlite

まずは前者についてです.僕はこのような主張を初めて見ました.コルモゴロフが独立確率変数の和の理論に多大なる貢献をしているのは事実です.しかし,大数の法則も中心極限定理も1933年の『確率論の基礎概念』の前から多くの数学者によって研究され,既に多くの深い結果が出ています.

2017-10-12 00:49:13
paleperlite @paleperlite

これらの歴史については調べればすぐにわかります. また『確率論の基礎概念』の第1版の序文には「本書の目的は,確率論の公理的基礎づけを行うことにある.」「確率論の基礎概念を,現代数学の一般的な考え方の中に自然な形で置くことを試みた」とあります.

2017-10-12 01:05:24
paleperlite @paleperlite

つまりコルモゴロフの目的はそれまで曖昧であったり,異なる枠組みで扱ったりしてきた確率論を統合することだったのです.コルモゴロフの定式化以前から枠組みは違えど既に確率論の研究はなされており,結果も出ていたのです. 小島寛之氏が書いているのは端的に嘘です.

2017-10-12 01:09:19
paleperlite @paleperlite

後者の「独立性の定義は『人工臭のする』『予定調和的』なもの」という主張についてみていきます.小島寛之氏による独立性の定義に対する批判はこの記事に限らず複数の著書にも書いてあるのですが,そのいずれも「人工的」とか言うだけで特に何が人工的かは説明されません.

2017-10-12 01:13:21
paleperlite @paleperlite

測度論的確率論を知っている人ならわかると思いますが,確率論を測度論で定式化すること自体への疑問ならまだしも,測度論における定式化を前提化してしまえば,独立性の定義は極めて自然です.中学,高校以来の独立性の自然な拡張ですし直観的にもおかしなところはありません.

2017-10-12 01:15:38
paleperlite @paleperlite

とはいえ何を自然と感じるかは各人の感性による部分がありますから,一概には言えない部分はありますが.しかし根拠もろくに述べずに「予定調和的」などというのは流石に不誠実です.

2017-10-12 01:17:23

小島寛之氏の常套手段

paleperlite @paleperlite

ここまで小島寛之氏のブログ記事「2007-12-11 もういいかげん、確率論の新しい時代に入ろう」を見てきましたが,この記事には今後見ていく他の記事に見られるような小島氏の典型的な「手口」が現れています.

2017-10-12 01:20:04
paleperlite @paleperlite

その手口というのは, 1測度論的確率論は大数の法則を示すために作られた 2大数の法則を示せるように独立性等は人工的な定義になっている 3フォン・ミーゼスのコレクティフを発展させたゲーム理論的な確率解釈が自然 という順序で自分の専門に近い確率論を宣伝するというものです.

2017-10-12 01:24:22

↑ この記事では3は書いてないですね.すみません.先走りました.

paleperlite @paleperlite

別に小島寛之氏が自分の専門に近い理論を宣伝するのは良いのですが, そのために不当に測度論的確率論を貶めているように見えます.

2017-10-12 01:31:13

最後に

一応このまとめを作成した理由を簡単に述べておきます.

第一には小島氏の主張が雑で腹が立ったというのがあります.
第二には小島氏のこの言説が流布するのを防ぎたいという思いがあります.小島氏の著作は一般向けのものが多く,読者の多くは数学の専門的知識を持たない人でしょう.それらの人々が小島氏の言説の偏りに気づくのは難しいと思います.小島氏の主張を信じ込み,測度論的確率論を学ぶ機会が損なわれるようなことはあってほしくないという考えからこのまとめを作りました.

補足

paleperlite @paleperlite

昨日の小島寛之氏に対する批判についてですが,勢いで書いたせいか批判の矛先が曖昧になってしまったように思うので少し補足することにします.

2017-10-12 17:06:46
paleperlite @paleperlite

昨日のツイートでは小島寛之氏の ・ベイジアン的確率論,量子力学的確率論において加法性は成り立たない という主張についての反論を述べましたが 僕の批判は ・小島氏がベイジアン的確率論,量子力学的確率論という言葉で○○のことを指しているのならばおかしい という形になっています.

2017-10-12 17:08:38
paleperlite @paleperlite

僕が言いたかったのは, ・これら2つの確率論の説明が曖昧でどのようなものかが不明瞭 ・通常これらの名前で想起される確率論は加法性を満たす という2点から小島寛之氏の批判はよく分からないということです.

2017-10-12 17:09:44
paleperlite @paleperlite

またこれは追加で言っておきたいことなのですが,僕は測度論的確率論でうまく定式化できない現象を扱うのに,他の枠組みを使うことを否定している訳ではありません.

2017-10-12 17:10:29
paleperlite @paleperlite

小島氏の記事の末尾に「心理的確率にはそれ用の新しい公理系、物的確率には、それ用の新しい公理系があるべきじゃないか、そしてそれは全くもって別個のものであっていいのではないか。」とあります. これに関しては実際に「心理的確率」「物的確率」が測度論の枠組みを外れるのであれば同意です.

2017-10-12 17:11:25