ヒトナラザルモノ

異形設定あり(Kityuのお二方ごめんなさい)
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よつげ @Eight_os

1 その昔。 並外れた強さを誇っていた鬼は、その腕っぷしを人々を傷つける為に使っていた。 鬼を司る閻魔神は深く嘆き、鬼に様々な罰を与えた。 これに観念した鬼は心を入れ替えたので、閻魔神は彼らを人間にしてやったという。 #エイトで妄想

2017-09-11 17:21:33
よつげ @Eight_os

2 しかし現世にも、その時心を入れ替えられなかった鬼たちの子孫が、 いるとか、いないとか━━━━ #エイトで妄想

2017-09-11 17:22:16
よつげ @Eight_os

3 「ちくしょう…アイツどこ行きやがった…」 「しょっちゅうケンカ吹っかけて適当にぶん殴って逃げ足は速いからな…あ、あっちの方でなんか音がした」 「おい!待てやごら、安田ぁ!」 「…ふぅ」 追っ手が通り過ぎた後、路地裏から大通りに出てきた男。 #エイトで妄想

2017-09-11 17:26:01
よつげ @Eight_os

4 渦中の安田である。 ━━いや、この呼び方が正しいのかどうか。 というのも、安田というのは人間に化けている時の名前であるからだ。 そう。 彼こそ。鬼の末裔。 鬼として生き残りのうちの1人。 「全く…ちょっと虐めたくらいで、何ムキになっとんねんアイツら笑」 #エイトで妄想

2017-09-11 17:28:27
よつげ @Eight_os

5 彼には、人に優しくするということがわからない。 人間に悪さをするよう教えられ、嘘と暴力を巧みに使って生きてきた彼には、それこそおとぎ話のようなものなのだ。 1日ケンカに明け暮れ、 バイトはたまにサボり。 そんな、人間に置き換えれば堕落した生活。 #エイトで妄想

2017-09-11 17:33:13
よつげ @Eight_os

6 そして暗くなると公園に向かい、 銅像の前に坐りタバコをふかしたり酒を飲んだり、もしくは何をするでもなくしばらくそこに居座って過ごし、気が向いたら家に戻るのが常。 なのだが。 その日安田がいつものその場所に行った時。 …安田の定位置には先客がいた。 #エイトで妄想

2017-09-11 17:44:34
よつげ @Eight_os

7 日が沈み夜の気配を感じるぼんやりとした暗闇の中では、その先客は単なる黒い物体にしか見えない。 普通の人間なら臆して近づくことはないだろう。 しかし彼は天下無敵の鬼の末裔。 迷うことなくそこに近づく。 「…なぁ、そこ俺の場所なんやけど」 #エイトで妄想

2017-09-11 17:46:45
よつげ @Eight_os

8 すると、「んぇ…?」とか細い虚ろ気な声を出しながらその黒い物体はもぞもぞと動いた。 そして、『それ』がゆっくりと面を上げ、安田と目が合う。 黒い物体の正体は、 黒いジーンズに黒いフードを被った人間の少女だった。 きょとんとした顔で安田を見つめる。 #エイトで妄想

2017-09-11 17:49:06
よつげ @Eight_os

9 安田はもう1度言った。 「そこは俺の座るとこや言うてんの。わかったらとっとと退いてくれへん?」 でないと痛い目みるで。 そんな暗示を言葉の中に滲ませながら。 だいたい安田がこういう口の聞き方をすれば、人間は怯えて去って行く。 というのが安田の経験論。 #エイトで妄想

2017-09-11 17:52:02
よつげ @Eight_os

10 しかしその少女は、 「…今は無理」 と言い、また体育座りした膝小僧に顔を埋めた。 経験論に当てはまらない人間は安田にとって初めてで、頭に来た安田。 「ちっ」 舌打ちと共に銅像の台座を蹴る。 若干のヒビが入った。 #エイトで妄想

2017-09-11 17:55:02
よつげ @Eight_os

11 流石に少女もゆっくりと顔を上げて、黙ったまま真新しいヒビを見つめた。 「これ以上おるんやったら… お前にも、これと同じことすんで?」 すぐに手を出さなかったのは、安田のプライド。 女とは遊び程度で付き合ったことはあるが、それにしたって手は出せない。 #エイトで妄想

2017-09-11 17:58:08
よつげ @Eight_os

12 少女はその台座のヒビにそっと手を当てた。 …まるで怪我人をいたわるかのように。 しばらくの後、手を離すと、真っ直ぐ安田の方を見、 「…行くとこないもん、だから無理。」 そう告げた。 「は?てかお前まだガキやろ、さっさと家帰ればええ話やん」 #エイトで妄想

2017-09-11 18:00:26
よつげ @Eight_os

13 安田の言う通り。 少女は年の頃は高校生くらいだろうか。 黒髪に漆黒の澄んだ目が印象的である。 「家、帰れない」 「何、迷子?」 「じゃなくて、帰れないし、帰りたくない。」 少女の言葉の意味がよく分からない安田。 「…出てきたから。だから帰らない。」 #エイトで妄想

2017-09-11 18:02:48
よつげ @Eight_os

14 「出てきたって、何で」 その問は、安田にとっては何の親切心もない。 ただただ、『とっとと帰ればええのに、めんどくさい』と思ってのことである。 少女は儚げに目を伏せて語った。 「うち、お金ないの。高校も行ってないし、そのせいでろくな職業にもつけない」 #エイトで妄想

2017-09-11 18:05:27
よつげ @Eight_os

15 「それに母親は離婚して男取っかえ引っかえ家に連れてくるし、あんな人と一緒になんかいたくない。 お父さんも、お酒入ると手上げることもあるし。 いつもは従姉妹の家に逃げてたけど、従姉妹が最近彼氏と同棲始めて。 他の親戚筋とは縁切れてるし、だから行き場所ないの」 #エイトで妄想

2017-09-11 18:08:30
よつげ @Eight_os

16 …人間界に片足突っ込んだ程度の鬼にとっては何とも壮絶な話を聞かされた安田。 (できればとっとと散ってほしい…けどコイツ行き場所なかったらテコでも動かへん…) 夜も遅く、こんな時間に少女1人を頼める知り合いは安田にはいない。 ホテルに泊まらす金もない。 #エイトで妄想

2017-09-11 18:10:38
よつげ @Eight_os

17 「…あーもう」 頭を掻き毟る安田。 「しゃーない…今日だけは俺ん家泊まり」 「え」 「明日の朝さっさと出てかんかったらぶっ飛ばすで」 少女は嬉しそうに、でも少し不安そうに聞いた。 「…何もしないよね?」 「『今日は』しない『つもり』やけど」 #エイトで妄想

2017-09-11 18:13:18
よつげ @Eight_os

18 すると少女は意外に俊敏な動きでぴょんと立ち上がって。 「お世話になります」 勢いよく頭を下げた。 フードが取れてサラサラの黒髪が流れる。 それを横目で見つつ、安田は問うた。 「…お前、名前は」 「…峰村、亜衣」 黒く濡れた瞳が、安田を見つめていた。 #エイトで妄想

2017-09-11 18:17:06
よつげ @Eight_os

19 「俺、安田章大な」 安田の服の裾を掴んで付いてきている亜衣に、安田は言った。 「やすだ…しょうた」 「呼び捨てすんなや」 「しょうたさん…しょうたさん… しょたさん」 「ショタちゃうわアホ」 しかし亜衣は面白くなったらしく 「しょたさん…♪」 #エイトで妄想

2017-09-12 12:33:38
よつげ @Eight_os

20 もう1度言った。 (…何言っても無駄やなこれ) 「…勝手にせい」 そんなこんなしているうちに安田の家に着いた。 「お邪魔します…」 「はいはい、邪魔されます」 部屋に入った安田は尚も付いてきた亜衣にコンビニの菓子パンを投げて寄越した。 「飯」 #エイトで妄想

2017-09-12 12:37:15
よつげ @Eight_os

21 「…ありがと」 亜衣は小さく言うと、 「…いただきます」 とちゃんと手を合わせてから食べ始める。 安田もつられて同じように 「…いただきます」 (こんなんちゃんと言って飯食うの…初めてやわ) そう思いつつ安田も菓子パンを咀嚼した。 #エイトで妄想

2017-09-12 12:42:18
よつげ @Eight_os

22 食べ終わると、 「しょたさん、お風呂」 「このアパートボロいから無いねん 一日二日入らんでも平気やろ 嫌なんやったら銭湯行き?」 「…いい」 その返事を聞くと、安田はあるものを出して亜衣の近くの床に放った。 「寝袋。俺はベッド使うから」 #エイトで妄想

2017-09-12 12:53:18
よつげ @Eight_os

23 (流石に匂いでバレるとかはないやろけど、用心に越したことはないやろ) 「…ありがと」 その夜は安田はベッドで、亜衣は床に寝袋で寝ることとなった。 「じゃあ、おやすみ」 「…おやすみなさい」 おやすみと言えばおやすみと返ってくる、なんて (…変な奴) #エイトで妄想

2017-09-12 12:55:43
よつげ @Eight_os

24 暫くして。 「…しょたさん…起きてる?」 亜衣が眠そうな声でおもむろに聞いた。 ベッドからは沈黙が返ってくる。 「亜衣って… 『愛する』とかの『愛』の字じゃないんだ」 亜衣が独り言のように呟く声だけが響く部屋。 #エイトで妄想

2017-09-12 17:54:28
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