#ダークエルフ王国見聞録 その20

著者 へどばんさん pixiv版(https://www.pixiv.net/series.php?id=823771) 夜市のはなし
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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

いずれが先に世に出た書物であるのかは私には分からなかったが、大いに興奮した私は、店主にこれらの書物はいつの時代に出されたものなのか、人の手による書物に非常に似た記述があるのだが、いかなる書き手によって記されたものなのか矢継ぎ早に質問を重ねた #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-03 22:07:42
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「おやおや、これはこれは。貴方はだいぶ本草学に詳しいと思える。ご主人、この奴婢は一体何者なのですか?むしろ、本当に卑しい奴婢の身なのかな?」 「い、いやいや、この奴婢は時々よく分からぬ妄言を語るのでな!あまり気にされぬことだ。ほら、行くぞ!」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-03 22:08:07
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

にたりと口角を上げる店主の問い掛けに、慌てたセラは私の首根っこを掴んで古書の露店の前から去る。 「ら、乱暴にしてすまなかったな。お前の正体が露見してはいかんと思って・・・。そ、そう、不機嫌になるな。ほ、ほら、許しの接吻をしよう」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-03 22:08:30
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私が不機嫌であるのはせっかくの興味深い書物とそれに関する論議が中断した故であるのだが、私を奴婢扱いしたことを悔いている妻の姿を嬉しく思い、抱き合って左右の頬を合わせると、セラが額に口づけをして夫婦が互いに許し合う証とした。 #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-03 22:08:45
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

郊外の天幕に戻る前に、私とセラは公衆浴場へと汗を流しに行った。この浴場は蒸し風呂と水風呂からなるものであり、幸いなことに奴婢も主人と共にであれば入れるようであった。荷物を係りの者に預け、裸体となった者はぬるま湯を浴びてから、蒸し風呂へと入る #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-03 22:09:00
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

蒸し風呂の部屋は複数あって、それぞれに十人程がまとまって入室する。部屋の床には香気の強い薬草が敷き詰められ、長椅子の上には布が敷かれてその上に座る。全員が裸体で着席すると、掛かり者が焼石を部屋の中央に運び入れ、その上から薬草入りの水を灌ぐ #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-03 22:09:15
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

熱い蒸気と薬草の香気が部屋に充満し、着席している者はその蒸気を浴びながら、水桶に付けられた石菖の葉束を肌に打ち付けたり、奴婢に按摩をさせたりしている。私もそれに倣って、セラの肩や腰を揉むと、妻は甘い声を漏らしていた #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-03 22:09:41
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

しばらくすると係りの者が入口の布を開けて入ってきて退出を促し、部屋を出ると皆は桶に入った水で体を流して水風呂にざぶりと入る。その後に女性は香油を肌に擦り込んで入浴を終える。浴場の出口にはよく冷えた飲料や酒を売る者がいて、多くの者が買い求めていた #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-03 22:09:57
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私とセラは扁桃の油に薄荷と蜂蜜を混ぜた甘い飲料を飲み、しばし体を休めてからコルヴァスの待つ野営地へと戻って、夜市に備えてひと眠りしたのであった #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-03 22:10:39
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

天幕の中で一眠りしていた私達はコルヴァスから声を掛けられ起きる。目覚めると周囲は闇に覆われ始め、昇り始めた満月の涼やかな光が木々の間を抜けて降り注いでいた。私とセラはコルヴァスが夜市に出す品々を入れた荷を担ぎ、先頭を彼女の背についていく #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:44:55
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

遠くから金目梟の声が響く中、私達は草地を抜けて夕闇に一際黒い塊となって見える森へと近づいていく。森の際まで近づくと、 「ふむ、この道は他の者が使っているか。別の道を使おう」 とコルヴァスが口にして、森の際を右手の側へ回っていく #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:45:11
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

そのまま五十歩程進むと、コルヴァスは立ち止まって何かを見上げて確認すると、ここから森の中へと入ると言う。彼女に何を見て道を決めているのかと尋ねると、 「おっと、忘れていた、人間の学士殿には目印が見えまい。それでは夜市でも不便故、支度をしよう」と答える #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:45:30
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

近くに転がっていた朽木の上に腰掛けるよう言われ、それに従う。コルヴァスは荷物の中から縞瑪瑙の軟膏入れを取り出し、中の軟膏を小皿に取る。 「我らの血が必要であるが、私よりも学士殿と体液が馴染んでいるセラ殿の方がよかろう。数滴ここに垂らしてくれ」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:45:52
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

澄んだ火酒に浸された針を渡されたセラは、それを中指の先に刺して血の玉を作り、小皿の上に数回落としていく。コルヴァスは毛筆を用いて血を青白い軟膏に混ぜていくと、淡い緋色になって弱い燐光を発しているようであった。これを塗るので、目を閉じるように言われた #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:46:12
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

筆が両目の瞼とその周りに這わされる感触に続き、首や手の甲などにも筆が這わされ何かの呪印が描かれる。軟膏が肌に沁み込んでいく感覚と眼球の周囲が少し熱を帯びるような感覚があった。もう目を開けていいとコルヴァスの声がして、ゆっくりと目を開いてみる #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:46:26
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

軟膏が塗られる前に比して、夕闇はより明るく見え、草木からはそれぞれ異なる光の顆粒が零れる様で、草から飛び上がった羽虫の透けた羽の動きが具に見えた。天を見上げると、星々の光の色合いの違いがはっきりと分かり、月光はより黄色を帯びて陽光の様な温かさを感じた #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:46:43
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「どうだ、我らの視力を分け与えるものだが、今、どのように見えている?」 私は自らの見え方について説明すると、 「ふむ、学士殿の体にセラの血がかなり馴染んでいるのか、少々効きすぎたかな?魔力の流れ込みが強すぎるのかもしれん。」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:47:07
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

そう訝しみながら、手にした杖で木の枝を指し示す。 「では、学士殿、これは見えているか」 杖の先を見遣ると、枝から下がる大蓑虫の蓑に“三番”と青白いエルフ文字で描かれているのが分かる #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:47:26
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

大蓑蛾の蓑を形作る小さな枝に、ダークエルフ達のみに見える顔料で案内を描いたものであると言う。コルヴァスが杖の先でこの蓑を揺らすと、文字は青白い色から赤色へと変わる。半刻程経過するとまた青白い光に戻り、入口にあるこの印が赤色の間は道に入ってはならない #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:47:50
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

秘密の夜市である故に、参加者は他の者を追ったり、正体を見破ろうとしたりすることのないよう、個別に森の中の通路を用いなければならない。入口の目印が赤い時に通路に入ると、通路外から森の中に入ろうとしたもの同様、迷いの呪術が掛かって市に辿り着けないらしい #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:48:13
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

月光に照らされた森中の通路は一見では道とは分からない狭く折れ曲がったものであったが、魔術薬の作用もあってか、私は枝や草に当たることなく進める道筋が自然と識別できた。しばらく進んでいくと、道の左右に巨石が横たわり門の様になっている場所に到着した #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:48:28
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

先頭にあるコルヴァスは杖の先で右側の巨石を指示し、よく見ると地衣類に覆われた石の表面にうっすらと赤い文字が浮かび上がっていて“異種族の者はここに左手を付けよ”と記されていた。私がその指示に従う間、コルヴァスは何やら女神を讃える聖句を口にしていた #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:48:47
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

すると、門の先から頭巾を深くかぶり黒衣を来た者二人が錫杖を鳴らしながら現れた。 「ほぉ、お前、短耳の奴婢であるのに“見えて”いるのか?なにか技能のある奴婢であるのか?ともあれ、資格があるのであれば、我らは何者であっても歓迎する」 #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:49:07
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私の荷を下ろさせて中身を検分している片方の者は、私の顔をしげしげと覗き込みながらそのように言う。もう一名は、コルヴァスの持つ三寸ほどの黒木の板に同じ大きさの板を重ね合わせる。この板には六個程の幾何学模様が彫刻され、それが対となる板に嵌るかを確認するのだ #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:49:27
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

荷検めや符の確認が終わると、彼女らによって冬蔦や山葡萄、黒根無蔓などを組み込んだ輪を手首に回され、また筆で額に何らかの印を描かれる。前者は正しい手続きを踏んだ参加者であることを示し、後者は出店する資格を持つ参加者であることを示すそうである #ダークエルフ王国見聞録

2017-11-05 18:49:46
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