陥没アヒルチャンのフォロワー百合小説 EP4
- ahiruchan_phi
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駆除班の面々は顔を見合わせた。「私たちは現場に到着してもいません」センが応答する。『……ということは』「百合が仲間割れでもしてたってことかもしれません。離れた方がいいと思います」シアが提言。「キナ臭いな」はんちょ〜が呟く。「そこかしこに、だ?何匹いやがるってんだ」
2017-11-25 17:37:20はんちょ〜は神妙な顔で考え込んでいる。……ようだが、隣に座るセンだけは、彼女の口元が僅かに歪んでいること、そして脚の動きが落ち着きを失っていることを見逃さない。「座席汚さないでくださいよ……」センは誰にも聞こえないように呟き、車を停めた。「着きました」廃病院。それが今回の狩場だ。
2017-11-25 17:42:17「うえー」車から降りたクロは、辺り一面に転がる炭化死体を見て露骨に嫌な顔をした。「私たちの分、残ってるのこれ?」「百合が心中するとも思えないからな……殺した奴がいるはずだ」はんちょ〜もバンから降りる。センが助手席シートを確認して息を吐く。「汚れてたら寝るときどうしようかと……」
2017-11-25 17:45:53「ざっと10は超えてますね」シアが目視で死体の数を測る。「10体殺せるような奴がCランクのはず無いだろうが……」「それより、これ全部私たちが殺したことにできませんかねー」センがバンの窓から顔を出す。「降りてこい」「ハイ……あれ?」クロが建物のある一点を見つめている。「どうしました?」
2017-11-25 17:49:50「ヒャア!」クロがお決まりの奇声とともに鉈を構えて駆け出す。数メートルの高さにまで跳躍し、落下の勢いのままにコンクリート柱の裏にいる存在に鉈を振り下ろす。「ヒャア……エ?」鉈が突き立てられるその寸前で、クロの体は弾き飛ばされた。その瞬間、柱の陰から異形の腕が伸ばされたのが見えた。
2017-11-25 17:53:5710mほど飛ばされたクロは、空中で体を捻り器用に着地する。はんちょ〜らは一斉にひび割れた柱の方へ銃口を向ける。柱の陰からゆっくりと、その存在は姿を現した。それは左右非対称な7つの目を持ち、頭部左右に巨大かつ艶やかな角を生やした女怪人。悠然と歩みを進めるたび、長い漆黒の髪が揺れる。
2017-11-25 17:58:24「何だ、アイツ……百合か?」「アヒル顔じゃない……」駆除班は戸惑いを隠せないが、その只ならぬ威圧感に銃口は下ろさない。「腰に変なの巻いてますね……機械のようですが」センが怪人の腰の陥没アヒルバックルベルトを指す。「あんな工業製品を持つ百合なんて初めてですよね」「アヒル顔だ……」
2017-11-25 18:01:54「貴女がたが駆除班ですか」怪人は鋭く尖った歯の並ぶ口を開き、外見に見合わぬ落ち着いた声を発した。そしてはんちょ〜に7つの視線を向ける。「そう、貴女が……リーダー格というわけですね」「対話の意思はあるようだな」はんちょ〜は銃を突き付けたまま言葉を返す。「何者だ」
2017-11-25 18:05:30「お前は百合か、それとも別の何かか」「難しい質問ですね」怪人はベルトに手をかける。「こうしたところで、人である証拠は示せないのですから」ベルトを取り外す。瞬間、その肉体が変質。怪人は黒髪の長身美女へと姿を変えていた。「ですが、この姿なら分かるのではないですか?私が何者なのか」
2017-11-25 18:08:31「知らない顔ですね……芸能人の方です?私そういうのに疎いんですが」センが頭を捻る横で、絶句している者が一人。「そんな……」はんちょ〜である。「久しぶりですね、はんちょ〜」女性はぎこちなく、だが柔らかに微笑んだ。「……にょーふや姉さん」そう口に出したはんちょ〜の声は震えていた。
2017-11-25 18:12:41「……にょーふや姉さん」はんちょ〜の声は小さく、震えてさえいたが、確かにそう言った。「え……はんちょ〜のお姉さん……?」クロが二者を見比べる。似ても似つかない。「いつの間にか、こんな子供までこさえて」にょーふやはクロをじっとりと見つめる。「教育がなっていませんよ」
2017-11-28 11:58:25「あの……お姉さん?なんか勘違い」「今までどこにいたんだ、姉さん」センを遮ってはんちょ〜が詰め寄る。「あの姿はいったい」「はんちょ〜。積もる話は」にょーふやは再びベルトを装着する。「あの百合どもを始末してからにしましょう」駆除班の後方で、無数の風切音が轟いた。
2017-11-28 12:03:15駆除班が振り向いた先には、20を超える数の陥没アヒルヘッド。黄と黒の縞模様。両腕と下半身から3本の太く鋭利な毒針を突き出させ、透き通る翅は喧しく空を切る。アヒルバチである。「え、何この数……」「どうやら私は、百合を集めてしまう体質らしいのですよ」戸惑うシアににょーふやが言った。
2017-11-28 12:07:21「集める……って、これもしかして全部」地面に転がる百合の死骸。「ええ、私がこの手で」にょーふやはその一体を踏み潰しながら、駆除班と百合の間に歩み出た。「でははんちょ〜、せいぜい死なないように」冷たい目で妹を一瞥し、彼女はベルトのグリップに手をかけ、捻る。「百合ゾン」
2017-11-28 12:11:51『ALPHA』くぐもった電子音声とともに彼女の体が高熱を帯びる。それは肉体の変質を呼び起こすための莫大な熱量。その余剰エネルギーが高温蒸気として放出され、一瞬のうちに怪人への変貌が完了する。そのプロセスにセンは嘆息する。「なんですかアレ、私もシアさんに作ろうかな……はんちょ〜さん?」
2017-11-28 12:15:49はんちょ〜はその変貌の一部始終を呆けて見ていた。「イヤーッ!」怪人にょーふやは跳躍しアヒルバチの一体に組みつく。そして翅を力任せに引きちぎり、諸共に落下。その空中でアヒルヘッドをチョップ切断して息の根を止めた。アヒルヘッドははんちょ〜の足下に転がり、即座に紫色に炭化した。
2017-11-28 12:20:35