#ダークエルフ王国見聞録 その21

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私は妻が山仕事に向かうのを見送り、昼までに洗濯や畑の草取り、粉惹きなどといった家事を終えてからヴィズムット達の仮住まいへと向かい、そこで人の手によって書かれた書物とダークエルフ達によってまとめられた文献との照合を夜まで行うという日々をしばらく送った #ダークエルフ王国見聞録

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夫たる者が妻の帰りを家で待たないのはいかがなのかとセラは不満を溢していたが、 「あら、これも婿殿のお仕事なのでしょう？妬くのは夫婦仲の良き証ですが、もう少し婿殿を信じておやりなさい。そうですよね、婿殿」 と義母であるフェラフェレスに執り成されていた #ダークエルフ王国見聞録

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ヴィズムットが持参した書物は、彼女の言によれば蔵書のほんの一部であるそうだが、興味深いものが多く、薬毒の分野においての特色なのであろうか、ライトエルフや人間、その他様々な種族とダークエルフ達の間で様々な情報のやり取りが過去にあったことを示していた #ダークエルフ王国見聞録

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古代より、人は不老長寿の秘薬や万病に効く奇跡の薬種、鉛を金に変える術を追い求めてきたが、その知識の探求の中で異種族の知識に手を伸ばしたのは道理であろう。とは言え、そこに他種族そのものへの興味が無かったのは、我ら文化異種族学の学徒の良く知るところである #ダークエルフ王国見聞

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ある日、私はダークエルフの薬師が様々な薬種の産地を記録した書物と、人間を含めた他種族による同様の文献の照合を進めていた。多くのことが書かれており、また私も数日前からこの作業に熱中していたので、この日は夕刻を過ぎてもなお帰宅の目途が立っていなかった #ダークエルフ王国見聞録

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ゲドヴォルの用意してくれた、栗の甘い案を蕎麦餅の皮で巻いた菓子を口にしながら作業を進めていると、 「ふふっ、学士殿が大変に集中しておられる。これは邪魔をしてはいけませんわね。湯浴みでもすることにしましょう。ウレエヌ、支度を」というヴィズムットの声が聞こえた #ダークエルフ王国見聞録

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これは余計なことを考えず、貴人の湯浴みなどを見てしまっては問題である故、自らの作業により集中せねばと思って、解析を続けていると、竜血の産地に関する風聞についてダークエルフである著者がまとめた項目において、ライトエルフが人間から聞いた話が記録されていた #ダークエルフ王国見聞録

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“白エルフ達の記録に、人の薬師より聞く話あり。吹雪の息の雪妖精の住まう高山より東に十里、北に百里、火竜の息吹に白く濁る池を備える山々のうち、琥珀を溢す山中に奥深き洞窟ありて、そこに鮮やかな赤を決して失わぬ竜血の溜まる池のあると言う。” #ダークエルフ王国見聞録

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“人の薬師、この洞穴、闇エルフの地にありて探索すること叶わずと言う也。しかし、彼の説明するところ、我らの領内にあらず、遥か北、オーガの治るところなり。この詳細、明らかにされること今日まであらず”との記述であった #ダークエルフ王国見聞録

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この文章を読んで、私は危うくそのまま読み飛ばすところであったのだが、重大な真実に気が付き、思わず大声を上げてしまった 「あら、どうされたのですが、学士殿。そのように興奮されて」 #ダークエルフ王国見聞録

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私が横を向くと、薄布を体に一枚撒いただけのヴィズムットが興味深げな表情を浮かべながら、いつの間にか私の横に立っていた。湯浴みに用いたのであろうか、陳皮の爽やかな香りがその艶やかな褐色の肌から漂っていた #ダークエルフ王国見聞録

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「お嬢様、下賤のものにそのような御姿を晒すのはよろしくありません」 「まぁ、ウレエヌ！学士殿をそのように言ってはいけませんよ。この方は私が認めた御仁なのですから。ふふ、それに学士殿さえよろしければ、例え裸体を見せても私は構いませんよ」 #ダークエルフ王国見聞録

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それよりも何か面白い発見があったのか、そうであれば聞かせて見せよと艶っぽい格好で迫るヴィズムットに説明しようとした時、 「夜分に恐れ入る。我が夫がまだ帰らぬ故、迎えに参った」とセラが入ってきて、半裸のヴィズムットと目が合ったのである #ダークエルフ王国見聞録

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「・・・これは如何なる状況であるか、お聞かせ願えるか、ヴィズムット殿」 静かな声色であるが、セラの紫を帯びた金色の瞳には憤怒の感情がじわじわと高まる様に思われた。私が誤解を解くべく声を発する前に、ヴィズムットもまた落ち着いた声色で返答する #ダークエルフ王国見聞録

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「あら、パーンセラ殿、はしたない姿を見せてしまい、申し訳ありません。つい、学士殿と夢中になってしまいまして・・・。ふふ、先程もあんなに大きな声を上げられたものですから、私も興奮してしまったのです」 #ダークエルフ王国見聞録

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彼女に悪気があるのかないのか、事実ではあるが、誤解を招く物言いであり、私は更に焦り、またセラの表情はますます鋭くなった 「我が夫を拐し、妻たる私の前で申し開きをしないとは、公子殿とあっても許せぬ！我ら氏族の法に従い、神前にて決闘だ！」 #ダークエルフ王国見聞録

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以前にも書いた通り、成人男性の定住率が低いダークエルフ達には、複数の女性が一人の男性を夫する“共同夫”の風習や正妻以外の女性との性愛を許容する習慣があるが、それらの性愛関係は正妻としての名誉と権利（特に相続権）に反しない範囲であるべきとされる。 #ダークエルフ王国見聞録

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セラの言う通り、正妻としての名誉を傷つけた相手に対しては、正妻側から決闘を申し込むことが可能であり、例えば“熊鷹”氏族においては、里長と主だった家長による裁判にて事実の審理を経た上で、神前にて目隠しをした者同士で遠矢を射合う決闘を行うこととなる #ダークエルフ王国見聞録

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「里の郷士風情が、砒霜公の御子息であるお嬢様に決闘だと？思い上がるな！お嬢様の先程の謝罪でさえ過分であると心得よ！」 「ふん、お前こそ従僕の分際で、砒霜公殿の威をかる女狐よ！そもそも、羅紗問屋の娘とその従僕を名乗ったではないか？」 #ダークエルフ王国見聞録

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このセラの言葉に家の名誉を汚されたと感じたのか、ヴィズムットを庇うように一歩前に出ていたウレエヌは、グッと腰を落して抜き打ちの構えを取る。これに呼応してセラは左足を半歩下げ、右の手を長刀の柄へと伸ばす。 #ダークエルフ王国見聞録

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「どうした、女狐、その小刀を抜いてみろ。我が長刀でもろとも叩き切ってやる！」 「ふん、言葉だけは威勢がいいな、弱い山犬程よく吠えるものよ。先程の雑言を詫びるまで刻んでやる」 二人は獰猛な表情で挑発しあい、じりじりと手を得物に近づけていく #ダークエルフ王国見聞録

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「あらあら、物騒なことになってしまったわ」 明らかに止める気のないヴィズムットに頼ることができないが、私などが二人の激高したダークエルフの女戦士達の間に入っても、争いを止めることができず、彼女らの恐るべき剣技の巻き添えにされるだけであろう #ダークエルフ王国見聞録

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とは言え、私は愛する妻を止めなければならなかった。彼女が剣技で敗れるとは思っていないが、怪我を負う心配はあったし、何より、如何に面目の問題であっても、大貴族たる砒霜公家と事を構えるのは彼女にとってもこの里にとっても良くないことであると思えたからである #ダークエルフ王国見聞録

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私は、大声を上げて、先程気が付いた書物の翻訳の誤りについて述べ、セラに向かってこれは大変な発見である、この場所へと趣き、書き記された通りの多量の竜血を得ることが出来れば、大いに財貨を得ることができ、また二人にとって栄誉となるであろうと伝える #ダークエルフ王国見聞録

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ぎろりと瞳だけをこちらに向け、 「今は取り込み中だ、我が夫よ。怪我をせぬよう、どいていてくれ」 と返すセラに、財貨を得たならば二人で住む新居を建てよう、二人に子が多く出来ても十分な広さの家にしようなどと言葉を紡ぐ #ダークエルフ王国見聞録