#ダークエルフ王国見聞録 その21

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

この薬酒と焚火で炙った干魚を食べながら、茶会に招待した薬師は砒霜公の長子であったこと、彼女が薬種に関する様々な文献を渉猟していること、そして私を雇用する誘いを受けたが断ったことなどをコルヴァスに語った。 #ダークエルフ王国見聞録

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「協会の中では、若いのに切れ者と知られていたが、まさか公子殿であったとはな。そんな貴人からの条件良き誘いを断るとは、少々勿体ない気もするがなぁ」 三白眼の瞳を丸くして驚きを示すコルヴァスに依れば、彼女は薬毒の調合や精製にも秀でているらしい #ダークエルフ王国見聞録

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「それにしても、セラは気が気でなかったのではないか？夫殿が美しき才女に奪われたかもしれぬのだからな」 「わ、わが夫はそのような不埒者ではないと確信しております故、心配などしておりませぬ」 悪戯っぽい笑みで投げかけた言葉にセラが慌てた素振りで反論していた #ダークエルフ王国見聞録

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夜市で売買されていた珍しく高価な薬種や、夜市で暴れた奇怪な怪物とそれを生み出したライトエルフの稚児達、口にしている薬種の効能などについて語り合いながら、時間を過ごした。酒も肴も尽き、明日には祭礼の閉会を見届けてから里への帰路につくこととした #ダークエルフ王国見聞録

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セラと共に天幕に入り、寝床を整える。天幕の奥で布を丸めて枕にしている私を、セラが呼ぶ声がしたので振り向くと、体を抱き寄せられ、接吻が何度も為された。 「お前の言葉に安心したけれども、ふ、夫婦の絆を確かめるのに、言葉だけでは不足であるぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

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褐色の頬を赤く染めながら、私の頬を両の掌で愛おしげに包む込んでそのように言う妻を抱き返して、私達はそのまま柔らかい寝床に倒れ込んだ。 その夜はセラが特に熱情的であったと記憶している。 #ダークエルフ王国見聞録

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翌日の夕方に、聖堂前の広間に行くと、“医薬と毒薬を司る女神”の像の前に盛大な火がくべられており、参列者達は奇妙な面相の仮面を付けた藁人形をその火に投じている。これらは病魔や害虫を模したもので、薬効のある香と共に火にくべることで病魔や作物の害の無いことを祈る #ダークエルフ王国見聞録

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更に並べられた篝火には聖堂の司祭達の手によって、鉱物を細かく砕き、炭の粉などと混ぜたものが振りかけられ、青や緑、紫など、様々な色彩の炎が高く立ち上る。その度に祭礼に加わった者達の口から驚嘆の声が上がる。笛や鐘の音は常に賑やかで止むことはなかった #ダークエルフ王国見聞録

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式典の終盤には、領主たる砒霜公自らが薫衣草の束と一際大きな病魔の人形を火に投じて聖句を唱え、参列者達もそれに唱和した。彼女によって式典の終了が告げられ、参列者達は広間から次第に離れていったが、今宵は今宵で様々な宴が町中で広かれるそうである #ダークエルフ王国見聞録

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私達は郊外の野営地に戻って一晩を過ごした後、明朝早くに、この町を発った。里への帰路は行きと違って天領を通らず、街道を南に進み、“群れ為す賢き大鴉”“千里を見下ろす灰色鳶”そして“勝利を先触れする鵲”の氏族領を通過して、“熊鷹”氏族の領地に戻った #ダークエルフ王国見聞録

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山里の見張り櫓が見えてきて、ようやく戻ってきた実感が湧いた私は、長旅ではあったが、興味深いことを数多く見聞でき、また良き商いをして里の者達にも土産を買うことが出来てよかったとセラと話していた。私達は見張り櫓の上に居たミュニリスに手を振る #ダークエルフ王国見聞録

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すると、彼女はやや当惑した声色で私達に声を掛けてきた 「お前達に用があるという妙な客人が里に来ているぞ。旅先で何かあったのか？」 はて客人とは誰であろうかとセラやコルヴァスと顔を見合わせながら、ともかく環濠の入り口へと急いだ #ダークエルフ王国見聞録

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水堀にかかる橋を渡ると、そこには豪奢な作りの荷馬車が止められており、そこから荷をおろす銀髪の少年と目つきの鋭い黒髪の女性の姿があった。里の者達はそこから少し離れてその様子を見守っていた #ダークエルフ王国見聞録

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「あら、調度よくお帰りですわね。これからしばらく厄介になりますわ」 床几に腰掛けていた女性がこちらに気が付いて声を掛ける。私は呆気にとられてすぐに返事をすることができなかった。それは砒霜公の嫡子・ヴィズムットであったのだ #ダークエルフ王国見聞録

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様子を見守っていた里の者達の中から里長が私の方に歩み寄ってくる。 「氏族長様より文がありまして、なんでも氏族長様がお迎えしたお客人であり、仔細は学士殿に尋ねるようにとのことです」 そう言って私に書状を手渡す #ダークエルフ王国見聞録

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氏族長の判が押された書状には里長の言う通りのことが記されており、丁重に扱うようにとの言葉がありつつヴィズムットが砒霜公の嫡子という貴人であることは書かれていなかった。 「というわけなのですが、こちらの御方はどちら様なのでしょうか、学士殿？」 #ダークエルフ王国見聞録

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「私ですか、そうですね・・・そう、王都にある羅紗問屋の娘ですわ。こちらの氏族長様とは商いでお付き合いがあるのですけど、このニンゲンの学士殿とは縁あって本草学の同好なのですよ。この度は学士殿に珍しき書物があると聞いてお招きいただいたのです」 #ダークエルフ王国見聞録

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涼やかな顔で淀みなく虚偽を奏でるヴィズムットは私の方に目配せをしてみせる。私は余計なことは言わずに、彼女が説明したことと辻褄の合うように里長に事情を話した。 「なるほど、そういった事情があったのですか・・・。何より氏族長様よりのご依頼であるわけですし」 #ダークエルフ王国見聞録

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里長と主だった家長達はこの客人が滞在する家屋をどうしようか相談を始めた。氏族長の客人であれば土蔵などを用いるのは以ての外であるし、居候のような形で里の者と同じ屋根の下というのも失礼であろう、環濠の外の家屋も非礼となるかもなどと話し合っていた #ダークエルフ王国見聞録

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結局、娘の一人が兵役に出ている山羊飼いの家長がその娘と共に母の家に間借りすることにして、その家をしばらく使ってもらうこととなった。私とセラはその一家に厚く礼を述べて、幾許か謝礼を支払うことになったし、家財などの移動を手伝うこととなった。 #ダークエルフ王国見聞録

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「あら、庵といったところかしら。とはいえ、薬師であれば知識の探求のためには野山に寝所を取るのも厭わぬべき。ウレエヌ、ゲドヴォル、書物や机を運び込む前に先ずは掃除をすべきですね」 #ダークエルフ王国見聞録

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貴人故の斯様に明け透けな物言いや、周囲の横隊を当然のものとする態度に、家移りの作業を手助けする里の者達は、当初不信の念を抱き、私が厄介者を里に連れてきたなどという風聞も生じたが、結論から言えば、ヴィズムットは里の者達から大いに歓迎されることとなった #ダークエルフ王国見聞録

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先ず、従僕である二人が彼女の世話と家事に励むも、諸々の生活必需品や食料は必然、里の者達から購入することになり、ヴィズムット一行は町の市での売値よりも良い値で買い取ったため、氏族長への納税を控える里の者達にとって、予想外の現金収入をもたらしたのである。 #ダークエルフ王国見聞録

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また、ヴィズムットは、高貴の身でありつつ、気さくで親分肌であるらしく、里の子らが珍しい茸や甲虫を持参すれば、菓子や小銭を与えて引き取った上に、時間がある時には生活に役立つ本草学や、書物の読み解き方などを講義したため、子らの親や里長からは感謝された #ダークエルフ王国見聞録

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里の者達はすっかり彼女の滞在に馴れたものの、妻であるセラはどうにも彼女の滞在に対して敵対的であり、心休まらぬ様子であった。それと言うのも、私が彼女の仮住まいに毎日のように趣き、セラのほとんど興味のない書物の解析にヴィズムットと共に従事していたからである #ダークエルフ王国見聞録