日向倶楽部世界旅行編第26話「深く潜み、熱く躍動する」

ブルネイに向かう航海の最中深海棲艦と遭遇した日向達。鈴谷、あきつ丸、初霜が迎撃に向かうが、功を焦ったあきつ丸が暴走し窮地に陥る。だがそこに、金属バットを持った武蔵が駆けつけた!
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三隈グループ @Mikuma_company

そう言って彼女は右手をあきつ丸に伸ばす、だがあきつ丸はその手を払った 「ぅえ?」 「なっ、何でもないであります!」 「いやでも」 「自分は通りかかっただけでありますッ!失礼します!」 もう一度手を払い、戸惑う鈴谷を置き去りにし、あきつ丸は薄暗い廊下を駆け出していった

2017-12-12 21:53:15
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薄暗い廊下を走りながら奥歯を噛み締める。 (自分は、自分はなんと、なんという…!) 白粉の下で顔が赤くなる、あきつ丸は自分が情けなかった。 怒られるのではないか、責められるのではないか、そんな器量の小さい事を考え、あまつさえ笑顔で迎えられた自分が情けなかった。

2017-12-12 21:54:15
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そして今、彼女は謝る事も出来ずに逃げ出した、その事実が、かつて三隈が自分にかけた言葉を想起させる。 (丸ちゃんは正直で優しいのね) 脳内を駆け巡る三隈の言葉、あきつ丸はかき消すように首を振った、今の自分はどこまでも矮小な人間である、正直で優しいなど、真っ赤な嘘だ。

2017-12-12 21:55:22
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気が付けば視界が霞んでいた、熱い涙が頬を伝い、前がよく見えなくなった。 「うぎゃっ!」 そのせいかあきつ丸は何もないとこで蹴躓き、勢いよく前にすっ転んだ。 彼女は泣いていたが、あまりの情けなさにさらに泣きたくなった、そして追い討ちをかけるように、彼女の頭上から優しい声がした。

2017-12-12 21:56:17
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「丸ちゃん?大丈夫?」 今一番聞きたくない声が、尊敬する友人の声が聞こえた、顔は見えなかったが、三隈はきっと優しい顔をしているだろう。 「へ、へいきであります…」 あきつ丸はそんな彼女に顔を見られまいと下を向きながら立ち上がり、逃げるように走り去った。

2017-12-12 21:57:18
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やがて自室に戻ったあきつ丸はかけた事のない鍵をかけ、ただひたすらに泣きじゃくり、そのうちに疲れて眠ってしまった。 そして朝起きると前日の事を思い出し、頭から布団を被り、もう一度眠った。 その後深夜に目が醒めるとドアの前に食事が置かれていた、あきつ丸はまた、泣いた。 〜〜

2017-12-12 21:58:19
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〜〜 そんなこんなでヒューガリアンと調査船マリクは航海を続け、長旅の末ブルネイ泊地へと到着した、世界地図を見ると分かるが、ソロモン諸島からブルネイはものすごい距離があるのだ。 到着したのは日の沈む頃、だが沢山の艦娘や兵士が武蔵と調査船の帰還を出迎えていた。

2017-12-12 21:59:19
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「調査船マリクだ!武蔵様のご帰還だ!」 「武蔵様!武蔵様!」 出迎える艦娘や職員、マスコミに対し、武蔵は笑顔で手を振る 「この武蔵がこうして戻れるのも主らにここを任せられるからに他ならない、誇れ!ブルネイの勇士達!もっと誇れ!ハッハッハッハッハッハ!」

2017-12-12 22:00:15
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武蔵が声を張り上げるとそれに負けぬ程の声援が辺りを包む、彼女の求心力はトラック泊地の那珂に勝るとも劣らないものがあった。 「すごいなぁ、大歓迎ですよ日向さん」 「うむ、国王の覚えも良いとは聞いていたがこれ程とはな、名実共に只者ではないらしい。」

2017-12-12 22:01:26
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日向達は思い思いの感想を述べ、離れたところからその様子を見る、武蔵の計らいにより彼女達は群衆に巻き込まれる事なく泊地へ降り立つ事が出来ていた。 「日向倶楽部様、宿の手配は済んでおります、どうぞこちらに」 武蔵の部下らしき男が恭しく日向達を案内する

2017-12-12 22:02:25
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その道中にはイスラム文化に基づいた品の良い調度品が並んでおり、巨大な美術館の如き光景が続いていた。 「ブルネイって無茶苦茶お金持ちの国なんですよね?」 「ああ、ここは資源が潤沢なんだ。福祉も充実しているし、国民一人当たりの所得も先進国と肩を並べるほどだ。」

2017-12-12 22:03:27
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それだけでなく将来の資源枯渇に備え第二第三の手を打ち続けている国家、それがブルネイ・ダルサラーム国なのである。 「我々からすると些か現実味のない国だが…世界は狭いようで広いな、うむ。」 辿り着いた豪勢なエントランスを前に日向は頷く、余りのスケールに半ばヤケクソだった。

2017-12-12 22:04:15
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通された部屋も綺麗で広く、はるばるソロモン諸島から着いて来てよかったと思わざるを得ない素晴らしい宿であった。 イスラム教国ゆえにあまり馴染みのない食事が振る舞われたりもし、これまた貴重な体験、一行は一晩も経たぬうちからブルネイを満喫していた。

2017-12-12 22:05:22
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「文化や暮らしに触れるスタイルの旅も良いが、こう、豪華を真っ向から叩きつけられるのも良いな、最高。」 ふんわふわのベッドに寝転ぶ日向、隊長としての威厳はかけらもない。 「本当ですよね、いや本当に」 同じく寝転ぶ最上、海上で発揮する勇ましさは微塵も見えない。

2017-12-12 22:06:17
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そんな二人を見て扶桑は微笑む、彼女はベッドに腰掛けていた。 「ふふっ、こういう国もあるのですね、来てよかったと思います。」 「物凄く得した気分だ」 「ブルネイ最高〜」 日向達はベッドの上で肥えたアザラシのようにだらける、その姿は最早艦娘でもなんでもなかった。

2017-12-12 22:07:15
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だがそんな部屋の中、四人の中、初霜だけは静かに窓の外を見ていた。 「初霜ー、どうしたのー?」 最上は寝ながら声をかける、いつもなら初霜も一緒になってだらけるのだが、今日に限っては随分と静かだった。 訊かれた初霜は首を横に首を振る 「…えっ?ううん、なんでもないわ。」

2017-12-12 22:08:20
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彼女がそう答えると、最上は笑ってベッドを指差す 「そっか。それより初霜も寝転んでみなよ、すっごい柔らかいよこの布団」 「え、ええ…後でね…」 最上の誘いを初霜はやんわり断る、普段の明るい様子はなりを潜めており、随分と悩ましげであった。

2017-12-12 22:09:18
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「…大丈夫か?どこか悪いのか?」 日向も心配そうに訊ねるが、初霜は笑って誤魔化した 「いえ…ここ豪華だからなんか落ち着かなくて、ちょっと外に行って来ます。」 「一人で平気か?」 「平気です、少ししたら戻ります。」 初霜は一人、足早に部屋を出て行った。 〜〜

2017-12-12 22:10:16
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〜〜 「フゥーッ…賑やかなのは好きだが、落ち着くのはやはり夜のシジマだな。」 夜のブルネイ泊地、高台にある、海の見える小さな公園に武蔵は立っていた。 そこでは静かな波音のみが響き、満月だけがその場所を照らし、花や緑色の芝生は月光に輝いている。

2017-12-12 22:11:20
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武蔵は眼鏡越しの真っ赤な瞳で満月を見つめ、長学ランをたなびかせながら磯香りのする海風を浴びる、時さえも歩みを休める空間、ここは彼女にとって聖域のような場所であった。 が、その深閑を崩すように、武蔵はよく通る声で呟いた。 「誰かは知らないが、そこに居るのだろう?」

2017-12-12 22:12:15
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武蔵は振り返り、赤い瞳から一本の大樹に向けて鋭い眼光を放つ、するとその後ろから小さな影が一つ、ゆっくりと姿を現した。 「ほう…?こいつは予想外だな…」 月光が影を、一人の少女の険しい顔つきを照らす 「こんな夜更けに何の用だ?初霜。」 影は、初霜は表情を変えずに武蔵を睨む

2017-12-12 22:13:15
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やがて彼女は口を開いた。 「最初に見た時からピンと来てたわ…でも、それが本物かは分からなかった。」 彼女は上着に手をやって続ける 「だけど、海上でお前が現れた時、戦いを始めた時、ハッキリ分かった…」 「ククッ…何が分かった?言ってみろ。」 武蔵は愉快そうに笑った

2017-12-12 22:14:19
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対する初霜は憎悪を剥き出しに叫ぶ! 「お前からはあいつらと、父さんと母さんが死んだ時と、同じ臭いがするッ!」 そして取り出した拳銃の狙いを定め、迷う事なくトリガーを引いた! 「お前は深海棲艦よ!消えてしまえッ!」 静音仕様の拳銃、気の抜けた銃声が響く!

2017-12-12 22:15:17
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だが! 「ククク…大した嗅覚だ、実に冴えているな…」 武蔵は銃弾を掴んでいた、黒い鎧の様な、極めて頑強な異形の右手で! 「しかし冴えていると言っても半端だな…まだまだだ。感覚というよりは観察力、思考力、そういったもので突き止めているに過ぎない…だから分からないのだな。」

2017-12-12 22:16:21
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そう言いながら掴んだ銃弾を学ランの内ポケットにしまう 「…まあ良い、汝が見たいのはこいつだろう?」 武蔵は黒く鋭い右手で初霜を指差し口角を吊り上げて笑う、それは彼女が人ではない事の証明であった。 常人なら震え、腰を抜かしかねない状況、しかし初霜は冷静だった。

2017-12-12 22:17:15