古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 #4

第六鎮守府の前の提督を務めていた男、岸本。その謎めいた来訪の目的とは。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「やあ、出迎えご苦労! 君たちがこの第六鎮守府の艦娘だね!」 埠頭に降り立って開口一番快活な声を上げた男は、岸本と名乗った。年の頃は二十代後半、線の細い優男で、白い軍服に身を包んで颯爽と歩く姿は軍人というよりモデルのようだった。その笑顔に、艦娘の間から小さくどよめきが起きた。

2017-12-28 22:24:00
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岸本の乗ってきた船も、見慣れない姿をしていた。全面が灰色で、極端に凹凸が少なく、砲も単装砲が一門しかない。艦橋が大きく、後部にはヘリコプターの発着スペースがある現代の戦闘艦だ。随伴していた高速輸送艦は、私たちが艦だった時代の水上機母艦だったから、その差異は余計に際立って見えた。

2017-12-28 22:28:00
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「……お久しぶりです」 雷ちゃんが岸本と握手を交わす。岸本は雷ちゃんや金剛さんといった古参の艦娘たちの姿を認めては親しげに話しかけている。なんだ、これなら何も心配することはなかったのかもしれないと思った時、視界の端に見覚えのある鮮やかな紅色が映った。

2017-12-28 22:32:00
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その方向に頭を向けてみると、岸本が乗ってきた艦のすぐ横の水面近くにイムヤの姿が見えた。ああ、イムヤたちはここまで岸本の艦の護衛に当たっていたのかと納得したのも束の間、私はその異様さに目を見張った。普段滅多に表情を変えないイムヤが、まるで親の仇かのように岸本を睨みつけていたのだ。

2017-12-28 22:36:00
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確かに岸本という前の提督は、潜水艦娘たちを酷使していたという。そういう意味では、イムヤがいまだに岸本に恨みを抱いていたとしても何もおかしいことはない。それでも、イムヤがあそこまで血相を変えるのは尋常ではない。何があったのか後で聞いてみようかと思案していると金剛さんの声が聞こえた。

2017-12-28 22:40:00
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「ソレデ? この鎮守府を捨ててラナウェイした提督が、今更何の御用デスカ?」 「おいおい、そんなに邪険にしないでくれよ。ただの視察だっていう話は伝えてあるはずなんだがな」 金剛さんは笑顔こそ作っているものの、その目は全く笑っていない。よく見れば、周囲の古参の艦娘たちも概ね似た表情。

2017-12-28 22:44:00
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一方で、岸本はまるでそれが一切目に入らないかのように軽薄に笑っていた。私はそこで初めて、この岸本という男に空恐ろしいものを感じた。金剛さんたちから向けられる明らかな敵意。それを受け止めて平然としていられる神経は果たして本当に人間のそれなのか。

2017-12-28 22:48:00
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「さて、じゃあ鎮守府の案内を頼もうか。雷提督?」 「……はい」 雷ちゃんたちと連れだって岸本が歩いていく。岸本の随行はスーツ姿の男が数人、それに艦娘も含まれていた。その中のひとりは、紺色ではなく黒色をしたカラーやスカートのセーラー服に身を包んだ駆逐艦娘吹雪だった。

2017-12-28 22:52:00
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視察団の一行が去った後、うちの鎮守府の吹雪ちゃんが弾けるようにしゃべりだした。 「ね、視察団にいた私、すっごくかっこよかったよね!? 私とそんなに背丈変わらないのにとっても大人っぽかったっていうか! いいなー! 私もああいう風になれるかな!?」 「あれ、吹雪改二だったわね」

2017-12-28 22:56:00
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吹雪ちゃんにわーっと話しかけられた叢雲が平静にそう返す。 「私も早く改二になりたいなー! そしたら今以上に活躍しちゃうんだから!」 「活躍はともかく、あんな風に貫禄のついた吹雪なんて想像できないわね」 「お姉ちゃんに向かって何よそれー!」 吹雪ちゃんが叢雲に食ってかかっている。

2017-12-28 23:00:02
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同じ艦娘でも、所属する鎮守府やたどってきた経歴によって性格や立ち居振る舞いは異なってくる。叢雲と他愛ないやり取りをしているどっちが妹かわからないうちの吹雪ちゃんと、一言も発さなかったけれど油断のない目つきと歩き方にすらある種の迫力のあった岸本の随行の吹雪は、全く違う印象を与えた。

2017-12-28 23:04:00
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解散を命じられた私たちは、それぞれ訓練や自室に戻っていった。普段通りの姿を見たいとのことで鎮守府内で視察団と顔を合わせても特段気を遣わなくていい、というのは助かるけれど、それでも普段目にしない部外者が鎮守府内にいるというのは何となく気づまりだ。かといって外に出かける気分でもない。

2017-12-28 23:06:00
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ここ第六鎮守府は、深海棲艦との戦いの最前線とも言えるトラック泊地に立地している。トラック泊地は、寄り集まるように環礁に囲まれた小さな島々ひとつひとつに鎮守府が居を構えて構成されており、大きな島には市街地もある。現在はミクロネシア連邦のチューク州に属し州都も置かれていた島だ。

2017-12-28 23:10:00
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深海棲艦が現れた当時、チューク諸島の島民はより大陸側の島々に避難し、代わりに提督と艦娘が鎮守府を置くようになった。戦況が好転してからは島民も戻ってきて市街地は再建され、観光業が主要な産業だった島に今度は艦娘を主な商売相手とした産業が根を下ろすことになった。

2017-12-28 23:14:00
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

映画館や飲食店、ブティックや宝飾店なども立ち並んでいるため、トラック泊地の艦娘が休日に息抜きをする憩いの場となっている。先日青葉が古鷹ねーさんとデートに行ったのもここ。他の鎮守府や泊地から遠く離れたこの海の真ん中で出かけるならそこしかないのだけれど、今は気がかりなことが多すぎる。

2017-12-28 23:18:00
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そう言えば、イムヤはどうしただろうかとふと思った。イムヤは、任務に当たっていない時ですら散歩と称してこの鎮守府の近海を巡って警戒を続けている。雷ちゃんが止めてもやめないそうだから、それだけ今の提督である雷ちゃんに尽くしたいらしい。スマホでイムヤにメッセージを送ってみようか。

2017-12-28 23:22:00
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そう思ってスマホを取り出したところで、自室のドアがノックされた。誰が来たのだろうかと思いながらドアを開けると、なんとそこにはあの岸本が立っていた。 「ああ、お休みのところすまないね。こちらは古鷹という艦娘の部屋ではなかったかい?」 「古鷹ねーさんの部屋は隣ですけど……」

2017-12-28 23:26:00
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「ああ、それはどうもありがとう。邪魔をしたね」 岸本の馬鹿丁寧な口調が、かえって不吉なものに感じられた。岸本たち視察団が、いち艦娘である古鷹ねーさんに一体何の用があるというのだろう。言いようのない不安に駆られ、隣の部屋に向かう視察団の後を追って部屋を飛び出す。

2017-12-28 23:30:01
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果たして部屋に、古鷹ねーさんはいた。 「重巡洋艦古鷹、君に聞きたいことがある」 「はい、何でしょう?」 部屋に踏み込むなり前置きも置かずに切り出した岸本に、古鷹ねーさんは何の警戒もせずに応じた。

2017-12-28 23:34:00