日向倶楽部世界旅行編第31話「地図にない島」

那珂の過去、野分の旅立ち、トラック泊地はほんの僅かに揺れ動いた。 それはさておきブルネイ王国を満喫していた日向達は、ある日ブルネイ泊地司令部に呼び出されることとなる。
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三隈グループ @Mikuma_company

「いやぁしかしファラ殿は不思議な方でありましたなぁ、同性として素顔が気になるのであります。」 あきつ丸は三隈と共に歩きながら言った 「んー…そうですわねぇ…」 だが三隈はイマイチ不明瞭な返事をする、あきつ丸は気になった。 「…三隈殿、何か気になる事でも?」

2018-01-23 21:51:31
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あきつ丸がそう訊ねると、三隈は立ち止まって彼女の肩をグイと抱き寄せた 「み、三隈殿!?何するのであります!」 「落ち着いて丸ちゃん。…これはデリケートな話だから、人に言ってはダメよ。」 彼女の耳に囁く三隈の吐息がかかる、あきつ丸は訳もなくドギマギし、白粉の下で顔を赤くした。

2018-01-23 21:52:33
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「ひ、三隈殿?近いでありますわよ!?」 「こうしなきゃ聞こえないでしょう?」 体温すら感じ取れる距離、あきつ丸にそういう趣味は一切なかったが、三隈の溢れ出る気品が彼女のウブな心を刺激した。 そしてその中で三隈は人目をはばかり、誰も居ないのを確認し、あきつ丸の耳元で囁いた。

2018-01-23 21:53:26
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「…あの方、男性ですわ。」 「え?」 あきつ丸は思わず三隈の顔を見る、二人の鼻先がごっつんこした。 「え、えぇ…!?」 彼女は二重に驚いた。 〜〜

2018-01-23 21:54:23
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〜〜 その日の夜 「私の言った通り、良い人間達だろう?」 褐色肌の女、武蔵はジャグジーに身体を沈め、豊満な胸を惜しみなくさらけ出し、ゆったりとくつろいで言った。 「自由な生を謳歌する連中だ、実に素晴らしい。」 彼女は真っ赤な目をギラギラと輝かせる。

2018-01-23 21:55:29
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そんな彼女に、側の椅子でくつろぐアラブ系の美男子が訊ねた 「…あの小さい子供か?お前の正体を見破ったのは」 武蔵は笑いながら大きな声で答えた 「そうだぜ、私を殺すと、深海棲艦は皆殺しだと、そう言っていたぜハハハ」 彼女は右手を掲げた、その手は異形のものだった。

2018-01-23 21:56:30
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「最も、"もう一人"気付いているだろうがな…奇妙な奴がいる…」 ニィッと笑って腕を元に戻す武蔵、男は呆れて言った 「全くお前は良い、正体がバレてもそんな風だ。」 「ククッ…別に困らんからな、死という現象にも興味はあるし、そもそも死が私に当てはまるか、そこも気になる。」

2018-01-23 21:57:37
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ヒトに擬態した深海棲艦である武蔵、その未知なる精神は滅びすらも興味の対象としか認識していなかった。 「主こそ、あの三隈というのには見破られているぞ?」 鼻で笑う武蔵に男は、ファラは不貞腐れて言った 「ああ、あの娘…見かけによらず強かで食えん、親の七光りという訳でも無いらしい。」

2018-01-23 21:58:35
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昼を思い出し彼は眉間にしわを寄せる、三隈の見立て通りファラ提督は男性であった、名前も当然偽名である。 「どうする?」 「どうもしない。あの娘は強かだが下劣ではない、知ったところで何もしないだろうからな。」 ファラはそう言ってため息をつき、椅子に寝転びながら空を見上げる。

2018-01-23 21:59:35
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見上げたそこには満天の星空が拡がっていた。星々の一つ一つはどれも競うように輝いている、だが彼等は互いを縛り付けず、ただひたすらに己を輝かせていた。 「…ハッ、こんな自由な星空が見えるのに、俺はしたくもない女の格好をして、窮屈な思いをしなくちゃあならない、ヘンだよな。」

2018-01-23 22:00:29
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ファラはそんな輝きとは真逆の、ひどく後ろ向きで暗い愚痴を漏らす。 そんな彼に武蔵も同じ星を見ながら言った 「やめれば良いじゃないか」 ファラは首を横に振る 「バカ言うなよ、そんな事すればもっと窮屈、いやそれより酷い目に遭う。」

2018-01-23 22:01:56
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彼はそう言うと気持ちを落ち着けるように、不満を押し殺すように目を閉じる。 すると彼の元に何かが這い上がり、上からひたひたと水滴を滴らせた。 目を開くと、武蔵の真っ赤な目があった。 「だが今も窮屈なんだろう?」 「…ああ、そうだよ。」 この問答を二人は幾度となく繰り返していた。

2018-01-23 22:02:22
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おもむろにファラが言った 「なあ武蔵、俺はお前がいても怯えて生きるのが精一杯だ。」 彼がそう言うと、武蔵は更に顔を近づけて囁く 「また言ったな…?ククッ…これで何回目か教えてやろうか?」 彼は鼻で笑って目をそらした 「やめてくれよ、情けなくなる。」 「ククククク…」

2018-01-23 22:03:26
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プールサイドにジャグジーの音が響く、二人は身体を重ねたまま、無言で見つめ合っていた。 やがて武蔵が貪るように言った 「ファラ…いや、ジャバード。この世界は本当に面白く、素晴らしい、最高だ。」 ジャバードと呼ばれた男は素っ気なく答える 「…俺にとっちゃ窮屈で最悪だ」

2018-01-23 22:04:31
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彼は武蔵の頬に触れる、人の温かさなど微塵もない、化け物のものだった。 「…でもお前がいれば、俺はファラじゃなくてジャバードとして生きられる、最近特にそう思う。」 彼は真っ赤な瞳を見つめて言った。 すると武蔵は恐ろしい深海棲艦へと姿を変え、異形の右手で彼の首を掴んだ。

2018-01-23 22:05:27
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「ククッ…生憎だが私はこういうモノだ、主に興味以上のものは持ち合わせていない、このままこの右手を握る事も容易いぞ?」 冷たく尖った右手が彼の首を痛めつける 「私は生を満喫して生く…勿論、その為に主をこうしてしまう事も厭わないのだ。ジャバード、それでも私に縋るのか?」

2018-01-23 22:06:24
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命を掌で転がされるジャバード、だが彼は臆する事なく応えた 「ああ…武蔵、俺にはお前が必要だ。それに…」 彼は武蔵の手に、自身の首にかけられた化け物の手に触れて続ける 「殺されるなら、お前が一番良い。」 彼がそう言うと化け物は鋭い歯を見せて笑い、武蔵の姿へと戻った。

2018-01-23 22:07:25
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「…私を恐れる者、憎む者、殺そうとする者もいれば、こうして縋る者もいる。ククク…クククッ…一つでないという事は素晴らしいなァ…」 彼女は愉快そうに笑い、ジャバードの目の奥を覗き込む 「そしてジャバード…お前はその中で一番に興味がある、楽しいぞ、見続けたいと思えてくるぞ…」

2018-01-23 22:08:24
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武蔵の表情は悪鬼そのものと言えるほど邪悪でおぞましいものだった、だがジャバードはそこに手を伸ばし、彼女の顔に触れる。 「俺もだ、喰われてしまいそうな距離なのに、ずっとこうしていたくなる…」 「ククク…奇妙…奇天烈…異常…」 互いの息が交わる場所に、一つの世界が出来上がる。

2018-01-23 22:09:24
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「…言っても伝わらないだろうが武蔵、俺はお前が愛おしい。」 怪物に愛を告白するジャバード、狂気でもあり、純粋でもあった。 その狂気に武蔵も答える 「ああ、私も主に対するこの興味をそう表してやる。人間の愛情というものは、言葉で定義して初めて成り立つと解釈したからなァ…」

2018-01-23 22:10:32
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彼女は舌舐めずりをして囁く 「愛してるぞォ…ククク…もう1回だ、愛してるぞジャバード…」 自由を求める人間、自由に生きる怪物、愛という言葉すら軽薄にしてしまう奇妙な関係がそこにはあった。 二人の関係を表すに相応しい言葉、それはこの奇妙な世界の何処かにあるのだろうか。 〜〜

2018-01-23 22:11:31
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〜〜 数日後、ヒューガリアンは海を行く 「こちらヒューガリアン、異常ありませんわ。」 「了解」 ソロモンから来た時と同じように、三隈はオペレーターとして航海を補佐する。 船は現在、ブルネイ王立海軍の哨戒艦と共に地図にない島の捜索を行なっていた。

2018-01-23 22:12:24
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「この辺りなんですよねぇ、その島」 最上は双眼鏡片手にぼやく、様々なデータから計算すると島はこの付近にある筈だった。 「深海棲艦の近くに…との事だが、何も無いな。」 「あの島は地図にあるものねぇ」 日向と初霜も喋りながらあちこち捜す、今の所は何もなかった。

2018-01-23 22:13:23
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とその時、操縦席の扶桑が言った 「…来ます」 「ん?」 するとレーダーが反応した 「深海棲艦!2時の方向に来ましたわ!」 三隈はモニターを映し出す、深海棲艦がわらわらと海を駆けていた。 「よし来たな!いくぞ!」 日向と最上と初霜はブリッジを飛び出し、そのまま出撃した。

2018-01-23 22:14:24
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そして同行していた哨戒艦の艦娘と共に深海棲艦を蹴散らした。 しかし島はまだ見えない 「まだ見当たらんか…簡単には見つからんらしい」 新たな得物であるクワガタマンの剣を鞘に収め、日向は周囲を見渡す。 「瑞雲飛ばします?」 「いや、船のレーダーを頼った方が良いだろう、とっておけ。」

2018-01-23 22:15:24