異世界小話~異世界に召喚された普通の兄妹その他がチート無双する話・前篇~

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帽子男 @alkali_acid

「僕はタイ…でいいのかな…魔物だけど、今だけ視目と休戦してる。ほかの魔物と戦うためにね…魔物の湧き出す場所は、寺院の跡地周辺だ。どういう訳か、ほかの場所からは出られなくなったみたい。あそこへ向かって」 「よし来た」 「そう。じゃあ行くね。僕は、今日ほかによるところがあるから」

2018-01-28 19:20:36
帽子男 @alkali_acid

魔王はさっさと飛び立とうとして、省みた。 「そうだ。名前聞かせてよ。ヒロのお友達の名前なら知りたいな」 「牛頭っす」 「馬頭です。あの、ヒロとはどういう」 獣はちょっと考えてから返事をした。 「この首の持ち主が、ヒロのお兄さんだったんだ。タイっていうのも本当はその子の名前だよ」

2018-01-28 19:22:36
帽子男 @alkali_acid

視目が呼び止める。 「待てよ。お前は、ヒロの兄貴じゃねえのか。タイじゃねえのか」 「…分からないよ。首から下は魔物だし、ときどき、自分がタイみたいな気持ちになるし、そうじゃない気持ちにもなる。でもどっちだっていい」 「よくねえよ!ヒロは…」

2018-01-28 19:24:27
帽子男 @alkali_acid

若者は食い下がる。 「ヒロは兄貴のことをすごく気にしてんだ。ずっと…言わなくても分かんだ…ともかく嗅鼻はそう言ってた…だからよ。もし、お前がその…タイなら…ヒロに…あいつに…」 「ヒロにはもう沢山お友達がいる。きっと寂しくない。きっと好きな人もできたんじゃないかな」

2018-01-28 19:26:22
帽子男 @alkali_acid

淡々と魔王は述べた。 「だから僕は、視目。君に殺されてあげる。冒険者の君にね。すべて終わったら。もしこの街を救えたら…この世界を救えたら…それまで君も僕も死なないでいたらね」 「死ぬ訳ねーだろ!俺を誰だと思ってんだ!」 「いい子だね」

2018-01-28 19:28:13
帽子男 @alkali_acid

タイは、むぞうさに距離を詰めると、びろうどのような足の裏で視目の頭をぽんと載せ、撫でた。 「視目はいい子だ」 「な…なっ…なっ…」 合成獣が飛び立つと、耳まで朱に染まった冒険者はめちゃくちゃに鉄球を振り回した。 「死ね!くそ魔物!」 「うわー」 「すごい…」

2018-01-28 19:29:55
帽子男 @alkali_acid

牛頭と馬頭は声を落としてささやきかわす。 「なんか、魔性って感じだよね」 「ああいう魔物に魅込まれた冒険者の最期って悲惨なんだよなあ」 「ああ聞いた聞いた。ほら、おおむかし双剣使いの鷲鼻ってやつが…」 「うんうん」 「お前等るっせーぞ!聞こえてんぞ!…くそ!寺院跡地に急ぐ!」

2018-01-28 19:32:37
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ ヤマダサンは王冠から流れ込む景色、声、座標、文字などを黙々と処理し続けていた。無数の妖精の心がそばに感じられ、それらが並んでつながり、一つの意識のようになって助けてくれる。 とある街角で、少女が立ち尽くしているが見える。孤児だ。色町の呼びかけに応じず、避難しない。

2018-01-28 19:35:43
帽子男 @alkali_acid

「どうして逃げないのですか」 孤児はにらみつけてくる。ヤマダサンは意識の中でしゃがみ、目線を合わせる。かなたで生きた鎧が同じ格好をとる。 「なにかお役に立てますか」 「あんたは…騎士なの…?」 「ええと…鎧です」 「騎士の鎧?騎士はもういないんでしょ?王様と一緒に滅んだって」

2018-01-28 19:37:55
帽子男 @alkali_acid

妖精が注釈をつけてくれる。 "驚きました。この子が話しているのは、女神の時代以前、魔物が湧き出して滅ぶ前この地にあった王国の話です。北方の土豪は貴紳と称しその後裔を名乗っているそうですが" ヤマダサンはじっと考える。 「騎士がいたら、何をお願いしますか」 「あたいの弟を助けて」

2018-01-28 19:40:30
帽子男 @alkali_acid

孤児は手で瓦礫を示した。 「あの下に、あたいの弟がいる」 「…それは」 「声がまだする!あたいを呼んでる!でも弱くなってる」 ヤマダサンは状況判断した。 「この兜をおとりなさい。鎧を操れます。瓦礫をどかせる」 少女はためらう。 「騎士は助けてくれないの?」 「…そうではありません」

2018-01-28 19:42:38
帽子男 @alkali_acid

ヤマダサンは芝居がかりもせず、かといっておずおずともせずただ事実のように告げた。 「あなたが騎士です」 「あたいが…騎士…?あたいは孤児だよ…街の大人はあたいをダニだって」 「いいえ。あなたは騎士です。魔法の王冠に与えられた権能に基づき、妖精の王国の騎士に叙します」

2018-01-28 19:44:24
帽子男 @alkali_acid

意識が別の場所へ。 僧侶の群が石を投げている。狙っているのは色町の空飛ぶ財宝、羽衣天女と管弦童子。あたりはしない。 「どうしましたか?」 ヤマダサンは話しかける。 「魔物め!民を惑わす堕落の化身め!愚昧どもは操れても我等影僧は…」

2018-01-28 19:46:18
帽子男 @alkali_acid

賢者は、天女の双眸を通じて影僧を名乗った一団を見下ろす。絶望し、追い詰められ、なげやりになった男達、女達を。 「お許し下さい。お坊様。私達は時間がなかった。このやり方しか思いつけなかったのです」 「ほざけ!天変地異に乗じて人々を滅びに向かわせる悪の権化。哲究様がいれば…」

2018-01-28 19:48:50
帽子男 @alkali_acid

哲究、固有名詞。 ヤマダサンは情報をたぐる。会話がある。衛士と盗賊と吟遊詩人のやりとり。 “しかし哲究が作った魔性の道具を…影僧どもは女神の申し子と讃えようとも” “ああはいはい。じゃあ置いてきまさ!それでいいんでしょ!ったくもったいねえなあ…じゃあなお嬢ちゃん”

2018-01-28 19:52:03
帽子男 @alkali_acid

「女神の申し子を知っていますか」 「ああ…我等の神体…だが衛士隊のせいで失われた…大いなる希望…なぜ貴様が?!何を企んでいる」 「そう遠くないところにあります。こちらにおいでになります」 八つの車輪を備えた山車を動かし、最寄りの呼び出しの大釜へ。転送する。

2018-01-28 19:53:41
帽子男 @alkali_acid

「ご神体だ!ご神体が戻ったぞ!いったいどうやって!?」 「皆さんの大切なものだと思い…」 「あなたは…もしや女神の申し子の…肉体から離れた魂では?それが財宝を通じて話しかけてくるとは…なんと不思議な…」 「とにかくよかった…この女神の申し子には大きな力があります。どうか」

2018-01-28 19:55:28
帽子男 @alkali_acid

「うむ…知っておる…哲究様はいずれ民に女神の偉大さを知らしめるために」 「今こそその時です。お坊様たちの力で、この申し子に人々を救わせてください…まず…ほかの…ええと僧院の皆さんを」 「そうしよう!…いえそういたします女神様」 「私は女神ではありません」

2018-01-28 19:57:09
帽子男 @alkali_acid

天女が兜を一つ落とす。 「それと女神の申し子に組み込んである生きた鎧を王冠経由でつなぎました…うまく…動かせると思います…女神の申し子はひとりでは無力。お坊様の祈りが必要です」 「分かりました…」 「散らばっている僧侶の皆さんを見つけたら私に連絡してください。兜の追加を送ります」

2018-01-28 19:59:15
帽子男 @alkali_acid

「女神様のおっしゃるように」 「女神ではありません。兜には、生きた鎧という…女神の申し子の一部にもなっている財宝を動かす力があります。それで多くの人を救い、連絡をとりあって、僧院をまとめ、禍を避けて下さい」 「このうえまだ禍が?」 「はい」

2018-01-28 20:00:58
帽子男 @alkali_acid

「おお、女神様…どうすれば」 「寺院を滅ぼしたのと同じ魔物が、迷宮からさらに魔物を呼び出そうとしています。できるだけ街から人を逃がし、生きた鎧などを使って身を守って下さい…魔物の動きは可能な限り兜に送ります…衛士隊や…傭兵衆とも…力を合わせて下さると…助かるのですが」

2018-01-28 20:02:53
帽子男 @alkali_acid

「衛士隊と?」 「む、無理にとは申しません…すいません…そんな簡単ではないですよね…できるだけ戦いを避けていただければ」 「…いえ、女神様に従います」 影僧は応じた。ヤマダサンは深呼吸する。大切な人の手を握りたい。でも今はそれどころではない。 「私は女神様ではありません」

2018-01-28 20:04:36
帽子男 @alkali_acid

「では何者なのです」 「地獄の猟犬団という冒険者集団の新入団員です。山田花子と言います。本当は異世界…つまりこことは別の世界から来たただの人間です。魔法の王冠という財宝の力であなたに話しかけているだけです」 「異世界から来た…」 「はい…」 「それは、女神様のことです」

2018-01-28 20:06:28
帽子男 @alkali_acid

影僧は語った。 「異世界から訪れ、見ず知らずの私を信じ、女神の申し子という大いなる力を委ね、迷える僧侶に進むべき道を示してくださった。ヤマダハナコ様。あなたが私の女神だ。私はあなたを信じよう。哲究殿ほどの知勇も、古読殿ほどの学識もないが…私には女神の加護がある」

2018-01-28 20:08:24
帽子男 @alkali_acid

「ありがとうございます。お坊様にお味方していただけてとても心強いです」 意識が切り替わる。色町のやくざ、忘八達が血まみれになって倒れている。 逃げようとしたのか、戦おうとしたのか。半ば魔物のようになったものもいる。 地下からあらわれた、異形の人型が襲ったのだ。

2018-01-28 20:10:44
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