異世界小話~異世界に召喚された普通の兄妹その他がチート無双する話・前篇~

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帽子男 @alkali_acid

「なんですって?」 「恐らく色町から出たものだろう。豪商のひとりなぞはあそこのひいきで、不勃(ふぼつ)を治すためだけに回復膏を塗り続け、あとで調べたら孤児を何人も犯し殺していた」 「まるで魔物だ…」 「回復膏は魔物を素材に作るらしいな」 「うへ…」

2018-01-28 18:27:33
帽子男 @alkali_acid

酒屑は胸のあたりをさする。 「この前の怪我の治療に結構使っちまったんですがね」 「お前が魔物になったら、私がすぐに殺してやる」 「そりゃどうも」 「話を続けろ。この件、どうも全部つながっているぞ」 「へい…俺が戻ったときは紅蓮刃はやられた。同士討ちした仲間もね」

2018-01-28 18:29:38
帽子男 @alkali_acid

「同士討ちのあいだに合成獣が来たのか」 「かもしれねえ。ただ残ってた仲間の死体には紅蓮刃のやった痕が残ってた。傷口が凍てついてて…すぐぴんと来た…」 「なぜ酒場で詳らかにしなかった」 「茜の剣…最強の冒険者集団。紅蓮刃の姉さんに…その誉(ほまれ)をまとってて欲しかった…せこい話さ」

2018-01-28 18:32:14
帽子男 @alkali_acid

最長老が話を引き取る。 「背後に東の錬金術師がいた。やつらは当時から街の外縁。市外区に根を張り、龍をあがめる教えを広め、信仰を隠れ蓑に手先を増やしていた。参事会の最長老とは、ひそかに龍を崇める使用人を通じてつながったらしい」

2018-01-28 18:34:33
帽子男 @alkali_acid

「どうして一網打尽にしなかったんで」 「そこまで調べたのは、赤胴殿の力。色町の抱える目と耳、莫大な金。海賊の腕っぷし。もろもろのおかげだ。それに…赤胴殿は言っておった。目に見える敵をしとめても、見えない敵が出るだけ…泳がせておくべきとな」 「危なっかしい」 「うむ」

2018-01-28 18:37:00
帽子男 @alkali_acid

「東の錬金術師と龍の信徒は、色町ともつながっていたし、恐らく商工組合や参事会の内側にも手先はいよう…連中はこの機に乗じて街の財宝をさらい、後々の支配も企んでいると見た」 「へへ、瓦礫の街をですかい」 「だがここには財宝がある。財宝が手に入る迷宮も」 「貿易の要衝でもある」

2018-01-28 18:40:07
帽子男 @alkali_acid

屍体を通じてしゃべる最長老、吟詩と衛士の火傷、盗賊の酒屑は黙りこくった。 「街から民の疎開を急ぎつつ、財宝を帝国から守らねばならん。衛士の意気は高いとは言えぬが、火傷の隊長が戻れば話は違う。僕は正式に君を衛士の総隊長に任命する」 「了解いたしました。この身に換えても」

2018-01-28 18:43:44
帽子男 @alkali_acid

少女のむくろはうなずく。 「特例として、商工組合の傭兵衆を市内にいれた。連携、協力しあってくれ」 「あやつらを?しかしよくあちらがその気になりましたな」 「赤胴殿の術だな。まあ草原部族も、帝国にこの街をとられるよりは、救っておく方がよいと考えたのだろう」 「やれやれ…」

2018-01-28 18:46:25
帽子男 @alkali_acid

酒屑は鼻をかく。 「まるで色町の顔役がこの街を支配しているみたいじゃねえですかい」 「赤胴殿は…生きていれば…おそらくこの街だけでなく、この国すべてを手にしていたであろうよ」 「生きていれば?」 「ああ…惜しい方を亡くした」 屍体のまぶたが悼むように閉じる。盗賊は呆れた。

2018-01-28 18:48:27
帽子男 @alkali_acid

街の政(まつりごと)を司る最長老が、娼婦や男娼の元締めの死をかくも悲しむとは。 「世の中、どうなるか分からねえもんだ」

2018-01-28 18:49:45
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 瓦礫のあいだに無事残った屋根の上から、高いびきが聞こえる。そばでうなされたようなうめきまじりの寝言も聞こえる。 「んが…ヒロ…だからお前は俺の女房によぉ…ふがっ」 飛び起きたのは視目。白金紋章という冒険者の最高位までのぼりつめた若者だ。 「おし!寝た!起きろお前等!」

2018-01-28 18:52:47
帽子男 @alkali_acid

のそのそと立ち上がったのは、視目と同じ冒険者集団、地獄の猟犬団に属する二人、牛頭と馬頭だ。ともに巨漢である。 「ねむ…」 「はらへった」 「ばっか!飯は食ったし!くそもしょんべんもしたし!ひと眠りしただろ!これからが本番だぜ!」

2018-01-28 18:54:39
帽子男 @alkali_acid

白銀紋章の二人はあくびをしてだるそうに応じる。 「本番てさあ」 「そうそう。まじで起きるの?魔物がどっさり沸くなんて…それより瓦礫の撤去とかやった方ががよくない?火事の消し止めとか」 「あ、火の方はいっかいどっかで始末しないともう限界かも」 「そっか…」

2018-01-28 18:56:26
帽子男 @alkali_acid

若者は地団駄を踏む。 「起きるんだよ!起きる!タイがそう言ってたんだからよ」 連れ二人はまた顔を見合わせる。 「タイって?」 「視目はヒロ一筋じゃなかったっけ?」 「意外と浮気性だな」 「まあ可愛いけりゃなんでもいいんだよな」

2018-01-28 18:57:59
帽子男 @alkali_acid

視目が鉄球をからみつかせた棒を背負いあげた。 「てめら叩き殺すぞ」 牛頭馬頭がそれぞれの武器を用意する。ふくべと、たすきだ。 「都合悪い話になると、すーぐあれだもんね」 「あーあ。ヒロがいないと視目静かにさせるやつがいなくて困るよ」 「せめて嗅鼻がいればねえ」

2018-01-28 18:59:48
帽子男 @alkali_acid

白金紋章の冒険者は屋根を駆け下りながらわめく。 「るっせえな。あいつらともすぐ合流するよ。あとな。タイはそんなんじゃねえ。だいたい男だぞ…そりゃ…ヒロに似て…ちょっとだけヒロよりきれいかもしんねえけど…って違うっつの!」 白銀紋章の二人は先頭に劣らぬ速さでついていく。

2018-01-28 19:01:25
帽子男 @alkali_acid

「きれいっていやあさ」 「うん」 「俺達がガキのころ、僧院の炊き出しで嗅鼻をいじめてた子」 「女の子だと思ったけど、男だったやつ」 「あの子きれいだったよね」 「色町に連れてかれちゃった」 視目はぎくりとして牛頭馬頭を振り返る。 「覚えてんのか」

2018-01-28 19:03:15
帽子男 @alkali_acid

「覚えてるよ」 「そりゃあさ。時々夢に見るっていうか、さっき見た。だけど…あの子を連れてった忘八の姐さんには逆らえなかったしさ」 「姐さんは代わりに俺達を守ってくれてたんだもん」 鉄球使いは、仲間に背を向けて走る。 「守って…だけどよ…そういう守るっていうか?…」 「うーん」

2018-01-28 19:05:47
帽子男 @alkali_acid

「間引く、かな」 「そうそう」 「どうしたんだよ視目。そんなの街じゃ当たり前じゃん」 「そうそう」 巨漢達の指摘に、痩躯の青年はいらだつ。 「わっかんねえよ…嗅鼻はずっと気にしてた…俺はどうでもよかった…だけどよ…くそ…」

2018-01-28 19:07:06
帽子男 @alkali_acid

鎖付きの鉄球を虚空に投げはなち、道をふさぐ瓦礫を吹き飛ばす。 「ヒロの…ヒロが入ってからの地獄の猟犬団のやりかたじゃねえ」 「あ、わかるー」 「ヒロってば、冒険者としての稼ぎのほとんど、僧院に寄付してたんだよねー。孤児への炊き出しとかにさー」 「言わないけど、優しいんだ。ヒロは」

2018-01-28 19:08:56
帽子男 @alkali_acid

視目が立ち止まる。 牛頭馬頭が追い付く。 「どしたの急に?」 「お腹痛いの?」 「それ…まじか…」 「それって?」 「寄付の話?」 「まさか知らなかったの?」 「え?馬鹿なの?」 「ヒロのこと好きならそのくらい知っとくでしょ」

2018-01-28 19:10:35
帽子男 @alkali_acid

白金紋章の冒険者は歯ぎしりする。 「そーゆーお前等はどーなんだ!ヒロをどう思ってんだ!」 白銀紋章の二人はそれぞれもじもじする。 「好きだよ…」 「超好き…」 「だけどなんかさあ…」 「距離を詰めるきっかけっていうの…」 「分かる。そういうのないよね」

2018-01-28 19:12:17
帽子男 @alkali_acid

「でもよ。牛頭はほら、棟梁の姪との縁談が」 「だからー。もう遅ぇよ…俺達あんな風に飛び出しちゃったしさ」 「あの娘、ちょっとヒロに似てるって思ってた」 「分かる?でもそれだけじゃないんだよなあ…こう目が見えないから、手で触ってもののかたちを確かめるんだけど…それがすごく精密で」

2018-01-28 19:14:55
帽子男 @alkali_acid

視目は頭をかきむしる。 「今はそういう話はしてねえ!とにかく!気合いだ!気合い!魔物がいつ沸いても」 「元気だね」 ひらりとかたわらに魔物が舞いおりる。女とも男ともつかない可憐な容貌に、獅子の胴と蝙蝠の翼、蛇の尾の異形。合成獣。

2018-01-28 19:16:43
帽子男 @alkali_acid

「た、タイかよ!びっくりさせんな」 身構える巨漢二人と、どこか緊張に欠ける痩躯の若者。 魔王はじゅんぐりにそれぞれをうかがってから、あくびをする。 「こんにちわ。みんなヒロのお友達?」 「ども、こんちわっす」 「ちわっす…えっとどこかで」

2018-01-28 19:18:42
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