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異世界小話~異世界に召喚された普通の兄妹その他がチート無双する話・前篇~

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帽子男 @alkali_acid

二人、と一台が移動を始めようかという段になって、今度は頭上に音楽と光彩があふれた。 「ご町内の皆々様、お待たせいたしました♪色町は英三劇場の赤胴一座、かねて瓦版にてご案内の通り、初の北方巡業を開催いたします」 「こ、今度はなんでえ!?」 「…悪趣味な…」

2018-01-28 17:35:12
帽子男 @alkali_acid

衛士と盗賊がどぎもを抜かれる頭上を、羽衣の天女と管弦の童子が飛び回り、さまざまな言語で口上を述べ立てる。 「このたびは震災で不幸に遇われた皆さまのため、また日頃のご愛顧への謝恩といたしまして、赤胴一座の北方巡業にご同行いただける方には、雅茶五枚が無料で引き放題の特典を…」

2018-01-28 17:36:27
帽子男 @alkali_acid

「どうやら…こいつは色町のしかけだ…さっきの揺れでびびってる奴等を皆、街の外へ誘い出そうって寸法ですぜ」 「ふん…最長老様が言っていた計画とはこれか…実にくだらん…だが街の住民には効くだろう」 「へへ…剛零飲み放題かあ…すげえなあ」 火傷が酒屑の耳をつねる。 「いでっでで」

2018-01-28 17:38:29
帽子男 @alkali_acid

「まだ仕事が終わっていない」 「俺ぁ旦那の部下じゃねえんですよ!?っとに怪我人をいたわる気持ちってのが全然ねえんだからこのお人は」 いちゃつく二人のそばで、少女屍体溶接物が不意に首を動かし、煙水晶の双眸で周囲を走査すると、落ちた顎を閉じ、人間に似た様相を形作った。

2018-01-28 17:40:45
帽子男 @alkali_acid

「あの、そこのおふたり」 少女屍体溶接物がしゃべったので、さしも怪異になれた火傷と酒屑も跳び上がった。 「じ、地獄から娘っ子が戻ってきやがったのか」 「哲究かもしれんぞ」 弩を構える衛士のうしろに、盗賊がさっと隠れる。 「お前…」 「いや、もともと荒事は旦那の専門でしょぉ」

2018-01-28 17:42:56
帽子男 @alkali_acid

「はじめまして、あの、私、冒険者集団、地獄の猟犬団の新入団員、ヤマダハナコと申します」 「地獄の猟犬団?地獄の猟犬団がなんで屍体かくりなんぞに?」 「屍体からくり?というのですか?この機械に、生きた鎧というものが組み込んでありまして」 「おう…」

2018-01-28 17:44:42
帽子男 @alkali_acid

「私はええと、持ってる財宝から、生きた鎧とか、そういう一部の財宝にこう…離れたところから声や何かを伝えることが…できるのですが」 「ほほん。地獄の猟犬団ならそんな財宝を持ってて不思議じゃねえやな…そういやヒロもいるのかい?」 「お知り合いですか?」 「いや面識はねえ」

2018-01-28 17:47:03
帽子男 @alkali_acid

「ただ、うわさで、ヒロが戻ってきたとか聞いたもんでね」 「はい。こちらにおります。お話されますか」 「いや、俺みてえなくたびれたおっさんと話してもいいこたあねえや…そんで…おたくらは何をしてるんで」 「はい。色町の赤胴一座の皆さんと協力して…」

2018-01-28 17:48:41
帽子男 @alkali_acid

ヤマダハナコという人物は、屍体の口を通してことのあらましを語った。 「なるほどね…衛士隊の本拠はだめみてえだ。だがばらばらになった衛士の生き残りを、参事会堂で、最長老のじいさまが集めてると。生きた鎧とやらをじゃんじゃん送って。そいつで瓦礫を片付けてる…手際がいいね」

2018-01-28 17:51:36
帽子男 @alkali_acid

「はい。生きた鎧は怪我人でも兜をかぶっているだけで操れます。でも、まとめて動かすと複雑な作業が…ぜんぜんできないんです。私がもっとプログラミングがうまければ…それで、ひとりでも多くの人に、鎧を受け取ってもらいたくて」 「だが、うかつなやつには渡せねえ。衛士隊ならまあ…どうだか」

2018-01-28 17:53:30
帽子男 @alkali_acid

「いちおう、私とその妖せ…仲間が、おかしな動きをする鎧がないか見張りをしていますが…それと…あと…最長老様?はお年のせいかお疲れみたいで、誰かかわって衛士の皆さんを指揮してくださる…あ、今、最長老様とかわりますね」

2018-01-28 17:54:56
帽子男 @alkali_acid

しばらく屍体が沈黙し、男の声で語り始める。張りのある喉で、一瞬老人のものとは信じられないほどよく響く。 「火傷殿。そこにいるね…おお見える。便利なものだな」 「最長老様。これはいったい…」 衛士の長は、ややためらったあと、少女のむくろの前にひざまずく。 「堅苦しい挨拶はぬきだ」

2018-01-28 17:57:25
帽子男 @alkali_acid

「は」 「参事会堂の地下宝物庫にも、生きた鎧がいくつかあった。僕が着られればよかったんだが、世話してくれる娘にとめられてね…どうにか利用できないかと考えていたら、色町の空飛ぶ財宝がまた飛んできて、この…地獄の猟犬団のヤマダサンとつながったのだ」 「ヤマダサン、ヤマダハナコですね」

2018-01-28 17:59:35
帽子男 @alkali_acid

「早筆さんといい、ヤマダサンさんといい、今の時代も昔に劣らず素晴らしい淑女ばかりだな。まったく若者がうらやましい。僕もあと六十、いや五十若ければ…まあそれはいい」 火傷は絶句する。酒屑が横から口を出した。 「あの最長老様。失礼ですが剛零かなにかキメておられる?」

2018-01-28 18:01:45
帽子男 @alkali_acid

「さあ。どういう訳か今日は体の調子がよくてね。街にただよう、まるで迷宮みたいな空気のせいかな」 「ああ…確かにねえ」 「君は、もしかして火傷君が言っていた、酒屑殿かな」 「へえまあ」 「群青鞭か。その節は色々と」 「は、いや何のことだか」

2018-01-28 18:03:57
帽子男 @alkali_acid

「君が参事会堂に忍び込んだあの事件がきっかけで、守りが硬くなり、めぐりめぐって、略奪を防げたのだよ」 「はは…どうも…心当たりはないんですがね」 「紅蓮刃を謀殺した参事会の前の最長老に、君が罠の事故に見せかけて復讐したから、僕の地位もあったしね」

2018-01-28 18:06:20
帽子男 @alkali_acid

衛士の長が愕然と見やるのを、元冒険者はへたな口笛を吹いて目をそらした。 「いやーどうもまったく寝耳に水の話ばかりでねえ」 「僕もつい先日まで疑ってもみなかった。知ったのは赤胴という…とある女性の調べものの結果なのだ」 「赤胴…ええと、色町の新しい顔役」 「だった」

2018-01-28 18:08:37
帽子男 @alkali_acid

「赤胴殿は、西の草原部族の首魁である汗、それに東の皇帝の動きに気を配った。魔物が湧きだす禍が起きたとき、双方がどうかかわってくるかが読めなければ、計画を立てにくいのでね」 「それと…俺と、どういうかかわりが」 「紅蓮刃は、東の皇帝の一族、正統な皇位継承者だった…見解の一つによれば」

2018-01-28 18:11:05
帽子男 @alkali_acid

「さよで」 「紅蓮刃は政変によって帝位を継いだばかりの両親を失い、みずからも片目をなくして、命からがらこの街に落ち延びた。そうして冒険者に身をやつし、次第に頭角をあらわし、美貌と手腕で街の人々のあいだでも声望を得た。参事会にも支持する向きがあった」

2018-01-28 18:13:16
帽子男 @alkali_acid

「らしいですね。最長老様はは反対されたとか」 「紅蓮刃のやり方は危険すぎた。この街に渦巻く欲望や怨念を甘く見過ぎていた。みずからの信念が道を斬り開くとかたくなだった。僕は烏の女剣客を通じて幾度か懸念を伝えたが逆効果だったようだ」 「ええ…おっしゃる通りでさ…あの人は…誇り高い…」

2018-01-28 18:15:14
帽子男 @alkali_acid

「紅蓮刃は、迷宮最高の財宝、魔法の王冠を手に入れたら、それを参事会に献上する見返りに、街が兵馬を貸し、帝国に挑む助けをして欲しいと訴えた」 「とほうもねえ…誰も本気にするはずがねえ」 「いや、参事会にも心を動かされたものはいる。それだけの魅力が紅蓮刃にはあった」 「…」

2018-01-28 18:17:20
帽子男 @alkali_acid

「だからこそ、参事会の内部にいる親帝国派は恐れた。街が本気で帝国と敵対することになれば、彼等の立場は危うくなる。その親帝国派には、当時の最長老も密かに含まれていた」 「だろうと思っちゃいましたよ」 「当時の最長老は…どうやってか紅蓮刃が率いる冒険者集団、茜の剣を迷宮で全滅させた」

2018-01-28 18:19:25
帽子男 @alkali_acid

「この裏切りがなければ、あるいは紅蓮刃と茜の剣こそ、ヒロと地獄の猟犬団よりも先に、魔法の王冠を手にしていたかもしれない」 「…起きるべくして起きたんでさ…」 「教えてくれ。何があった…迷宮で」 群青鞭、酒屑。白銀紋章の元冒険者にして街の飲んだくれは頭を掻いた。 「よくある内輪もめ」

2018-01-28 18:21:08
帽子男 @alkali_acid

「茜の剣には俺と姉さん以外に、黄金紋章の冒険者が何人かいましてね。そいつらがいざ最深部ってところで、姉さんを襲ったらしい」 「らしい?」 「俺が斥候に出てるあいだに始まったんでさ…馬鹿な話だ…妙な空気には気づいてた…だけどまさか…龍の寝床の近くでおっぱじめるとはね」

2018-01-28 18:23:23
帽子男 @alkali_acid

「なんと…」 「当時、冒険者のあいだでは回復膏や蘇生液を使って体を増強するやり方がはやってた。あれが皆をおかしくしてたのかもしれねえ。使い続けてると、魔物みてえに心が荒ぶることがある」 「ああ」 衛士の長が請け合う。 「合成獣が街で襲って殺した人間もすべて回復膏を常用していた」

2018-01-28 18:25:26
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