砂塵の夜に

湾岸戦争で不時着した米軍パイロットが同じく味方に見捨てられた、ソ連のミグ25戦闘機に変身する羽根ッ娘と一緒に逃避行(と言う名のいちゃらぶ)する話 前に渋に上げてたのの再掲
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深海さかな @dzurablk_kai

視界の先にあるものを見つけた。それは、砂丘の陰から覗いた、大きく白い鳥の羽根だった。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:37:58
深海さかな @dzurablk_kai

それは神の思し召しか、はたまた悪魔のいたずらだろうか。俺は目の前にある光景が信じられなかった。砂丘の陰にいたのは、一人の少女だ。その背中からは一対の巨大な白鳥を思わせる羽根が、天を目指して伸び砂漠の風にたゆたっている。どうやら息はありそうだ。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:38:16
深海さかな @dzurablk_kai

まずは目の前の状況を整理する。食料が手に入るかもしれないという当初の目論見は完膚なきまでに外れた。むしろ、見たところ荷物らしい物はなく、水と食料の不安が倍増する結果に。反面、砂漠に一人残された心細さはかなり軽減された。仲間がいるということは悪いことにはならない。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:39:15
深海さかな @dzurablk_kai

だがここでまたもや問題が。目の前の少女はよく見ると、カーキ色の軍服を着ていた。これはアメリカや他の同盟国の制服ではない、イラク軍のものだ。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:39:33
深海さかな @dzurablk_kai

思わぬ形での敵との遭遇にどうしたらよいものか逡巡したものの、とりあえず声をかけてみることにした。お互い遭難仲間である以上は、生き残るために一時休戦とするのが妥当だし、相手もそう考えるはず。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:39:55
深海さかな @dzurablk_kai

幸か不幸か手元にはサバイバルガンがあったが、少女相手に闇雲に突きつけるのも気が引けたので威圧せぬためにスリングベルトで背面に吊る。 「おい、大丈夫か」 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:40:08
深海さかな @dzurablk_kai

肩を叩くと何度かうめき声が返ってきた。脳への損傷なども心配なさそうだ。年の頃は十代半ばといった程度だろうか。150センチほどしか無さそうな体は起伏には乏しく、横顔にはあどけなさが色濃く残る。声をかけ続けると、彼女は眼を開けた。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:40:28
深海さかな @dzurablk_kai

「俺の声がわかるか」 少女はしばらく、何が起きたのかわかっていない様子でぼんやりとこちらを見返していたが、俺のパイロットスーツに目をやった途端敵意のこもった視線と共に跳ね退いた。 「怪我は・・・してないみたいだな。そんな目で見ないでくれ」 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:40:46
深海さかな @dzurablk_kai

笑って見せるも表情は変わらず。ややあって荷物の中からチョコバーを取り出し差し出してみる。 「食うか?」 刺すような目線は変わらない。 「考えてみれば、英語がわかるはずないか・・・」 だが予想に反し、彼女は答えを返してくれた。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:41:07
深海さかな @dzurablk_kai

「バカにするな。空を飛ぶ以上、英語くらいわかる」 「ということは、パイロットなのか? 待てよ、じゃあさっきのミグは・・・」 「私だ」 まさかこんなことがあろうとは。腕の良さに感動を覚えたパイロットが、まさかこんな少女だったとは。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:41:26
深海さかな @dzurablk_kai

「なるほどパイロット仲間というわけだな」 そう言って右手を差し出したのがいけなかった。少女は俺の右手を掴むと素早く鳩尾へ蹴りを入れると同時に、左肩のライフルを奪い突きつけてきた。 「パイロット!? 今パイロットと言ったか貴様!!」 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:41:43
深海さかな @dzurablk_kai

銀髪のショートカットから覗く切れ長な瞳が先ほどまでの猜疑に歪んだ色から打って変わり、烈火のごとき怒りに燃える。 まるで二時間にも感じられた数十秒の沈黙。その後彼女は口を開いた。 「さっき私にミサイルを撃ったのは貴様か?」 「ち、違う」 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:43:01
深海さかな @dzurablk_kai

「だが私の仲間を殺しに来たんだろう!」 「俺はイラクに来てからまだ誰も殺してない! 嘘じゃないって! 攻撃機の護衛を命じられて来たら、ほとんど空中戦は終わってたんだ! 頼むから銃を下してくれ」 そこまで言うとようやく少女は銃を下した。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:43:23
深海さかな @dzurablk_kai

「パイロットなどという人種は、大っ嫌いだ。見るのも嫌だ」 「だが君もさっきミグを操っていたじゃないか」 「だからどうした。ミサイルに狙われただけで回避行動も取ろうとせずに機体を見捨て、自分だけ逃げおおせるような奴は最低だ」 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:43:40
深海さかな @dzurablk_kai

どうも話がかみ合わない。まるでこの少女は『自分自身が戦闘機であるかのような』口調だ。自分が撃墜されたショックから心神喪失に陥ってるのか、はたまた敵の前でそのように演じているのか。判断しかねて俺が黙りこくると彼女は信じられないことを口にした。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:43:57
深海さかな @dzurablk_kai

「その様子だと、私の言葉を疑っているな。まあ、どうせ私にも帰る場所なんてない以上、軍機に縛られることもないしな・・・。いいだろう、教えてやる。さっき貴様らが『撃墜したかのように錯覚していた』ミグは、私自身だ。」 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:44:10
深海さかな @dzurablk_kai

彼女の説明を要約すると、概ね以下のような物だった。米ソの冷戦が始まってから、航空機や精密機器の性能に劣る東側陣営は焦り始めていた。第二次大戦で証明されたエアパワーを確保できなければ、彼らが得意としていた圧倒的な物量を誇る地上軍の縦深陣地や梯団攻撃も灰燼に帰すからだ。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:44:31
深海さかな @dzurablk_kai

この埋まらない航空技術のギャップへの解決策として、ソ連上層部はとある方法を考えた。それが、かの有名な超能力、すなわちESPの研究である。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:55:44
深海さかな @dzurablk_kai

シベリアの奥地で人知れず暮らしていた、背中に羽を有する女性が、どのような物へも変身できる能力を有していることを突き止めた彼らは、この少女たちを集め遺伝形式の研究ののちに計画的に繁殖、増産し、各種兵器に活用した。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:55:56
深海さかな @dzurablk_kai

元来羽根を持つ一族は空を飛ぶことに関しては鳥よりも優れていたため、その彼女たちが変身した奇抜な航空機は驚くような性能で従来の機体以上の性能をたたき出すことができた。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:56:16
深海さかな @dzurablk_kai

その成果の一つとして生まれたのがミグであり、そのミグで得られた技術的成果をフィードバックして生まれたのがスホーイらしい。西側陣営は未だこのことは知らず、同盟国の中でもかなり信頼できる国々にしか情報は公開されていない。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:56:31
深海さかな @dzurablk_kai

ミグは羽の生えた少女自身が変身することで機体の形態を保持している。もちろん全ての機体がそうというわけではなく、ワルシャワ条約機構軍に供与されている機体の大半や練習機は形だけを真似た純機械製のものであり、 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:57:41
深海さかな @dzurablk_kai

その分性能の劣るいわゆる『モンキーモデル』に仕上がっている。さっきミサイルから逃げおおせたのもそれを応用したカラクリで、空中で咄嗟に人間の形態に戻ることで赤外線シーカーを騙しレーダーからも逃れたとのことだった。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:58:00
深海さかな @dzurablk_kai

「つまり、さっきの機体自身が君だった、というわけか」 「そうだ。疑うようなら見せてやる」 そう言うなり、俺の目の前で信じられないことが起きた。突如小さな少女の姿が掻き消えると、巨大な戦闘機が現れたのだ。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:58:16
深海さかな @dzurablk_kai

直線的な造形に巨大なエンジンを内包したそれは、まぎれもなくミグ25その機体だった。  不思議なことにそのミグは、少女が変身したというよりも『最初から変わらずそこに在り続けた』ように思えた。 #砂塵の夜に

2018-02-05 22:58:31
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