2017年出版の新書で印象に残ったもの

2017年に出版された新書のなかから、特に印象に残ったものをまとめました。 合計冊数20冊。レーベルごとに分けると、岩波新書4冊、ちくま新書4冊、ブルーバックス3冊、講談社現代新書2冊、岩波ジュニア新書1冊、集英社新書1冊、星海社新書1冊、中公新書1冊、ぶい&ぶい新書1冊、文春新書1冊、洋泉社歴史新書1冊。 2017年は、ちくま新書が学際的で面白い試みをしている本を多く出版していたように思います。
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『珈琲の世界史』 『コーヒーの科学』という本で、コーヒーのおいしさを科学の目線で一般向けに解説したことのある旦部氏が、コーヒーのグローバル・ヒストリーを扱ったのが本書。内容としてはコーヒーノキがアフリカ大陸内で生まれてエチオピアに広まった経路からはじまり、(続) pic.twitter.com/4ZXQwqpBA6

2018-02-09 00:03:02
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)エチオピアにおける人の流れのなかで飲料としてのコーヒーが歴史の表舞台に登場したことが説明されます。続いて、イスラーム世界からどういう経路でヨーロッパまで伝播したのかや、17〜18世紀のヨーロッパにおいてコーヒーハウスが政治・文化のなかでどんな役割を果たしたのか、(続)

2018-02-09 00:05:07
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)ナポレオンの大陸封鎖令のさなか代用コーヒーが開発されたことや、グローバルな現象としてのコーヒーさび病の伝播と人間側の対策や、市場経済の中のコーヒーの立ち位置などを年代順に、同時に細かな物語やエピソードを交えつつ焙り出しています。(続)

2018-02-09 00:07:05
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)ところで、コーヒーの歴史を西洋世界の歴史と並列的に叙述したものに『コーヒーが廻り、世界史が廻る』という新書が既にあります。それと比べると本書は、コーヒーノキの伝播・近代日本でのコーヒーの展開・最近のフェアトレードやサードウェーブといった点も紹介しており、(続)

2018-02-09 00:08:50
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)人類史的な位置付けや、コーヒーが21世紀の我々にとってどういうものなのかを明らかにしてくれているように思います。本書が刊行された意義は極めて大きいものです。

2018-02-09 00:09:43
アザラシ提督 @yskmas_k_66

そういえば、飲料に関する本ですと、『お茶の科学』(講談社ブルーバックス)という本も2017年に出版されました。お茶の種類・それぞれの歴史、そして何よりおいしく淹れる方法(第5章)を教えてくれましたし、読み物としても実によいものでした。

2018-02-09 00:11:31
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『『レ・ミゼラブル』の世界』 『レ・ミゼラブル』の訳者でもある西永氏の作品読解を提示したものです。『レ・ミゼラブル』における「哲学的」な描写に潜むユゴーの思想―ナポレオン観の変遷、宗教観、貧困や進歩についての認識―という、いわば読みどころを教えてくれます。(続) pic.twitter.com/ogcbA2bbJm

2018-02-09 00:13:45
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)『レ・ミゼラブル』の構成・あらすじ・特徴紹介や、現実・小説内の対照年表もあるので、結構便利な一冊でもあるかと。

2018-02-09 00:14:24
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『イギリス現代史』 1940年から10年刻みに各時代におけるイギリスの政治・社会の性格を説明し、その中で①人々がどう捉えられ、②人々のアイデンティティがどう変わり、③人々がどういう文化を生み出したかを描き出しています。(続) pic.twitter.com/XFziMhH3kF

2018-02-09 00:15:30
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)EU離脱の投票に至ったイギリス社会の変化を、長い目を持って歴史的に、なおかつコンパクトな形で教えてくれる本でした。

2018-02-09 00:16:30
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『奇妙で美しい石の世界』 鮮やかで美しい模様を持つ石、特に石英をフルカラーの図版とともに紹介した視覚的にも楽しめる一冊。人々の歴史や文化の中で、石がどう関わったのか、どう理解されたのかという点にも触れていますから、幅広い読み方ができる良書だと思います。 pic.twitter.com/M0sAGQ4Mem

2018-02-09 00:18:43
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『マンボウのひみつ』 2017年に出版されたもので一番面白かった新書はどれか、と問われたらこの本を挙げます。本書はマンボウの生態、体のかたち、人とマンボウの関わり、民俗伝承、新しく分類されたウシマンボウについてと、一冊全てマンボウのみの日本初のマンボウ入門書です。(続) pic.twitter.com/lKCAXlk0tP

2018-02-09 00:20:25
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)興味深かったのは「人類最古のマンボウの記述」(137〜139頁)でしょうか。澤田氏はプリニウスが記録する"最も巨大でブーブーと鳴く魚、オルタゴリスコスὀρθαγορίσκος"や"硬く、体が丸く、鱗もない、全身が頭の、オルビスORBIS"がマンボウの特徴と一致しているとしています。(続)

2018-02-09 00:22:53
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)実は古代語でマンボウはどれか、という研究って見たことがありません。これが初めてです。さらにいうと、ギリシア語・ラテン語・古英語でマンボウを指す言葉はないんですな、これが。知ってる人がいたら教えてください。(続)

2018-02-09 00:25:20
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)さて、古代語・古典史料からの魚の同定は結構難しいです。それこそ、タコπολύπους(=多足)やヒトデἀστήρ(=星)のように、またオナガザメἀλώπηξ(=狐)ミシマオコゼοὐρανοσκόπος(=天を見るもの)みたいに体の特徴などから類推されているものがほとんどです。(続)

2018-02-09 00:27:01
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)マンボウの特徴に近そうなものに"ブーブー鳴く魚βωξ"や"アタマκέφαλος"というのはいるんですが、これらはどうも、見出される史料の前後の文脈からしてボラの仲間っぽいです。他方で、よく分からない巨大な魚に関わる言及もあることはあるんですが、やはりなんなのかは分からない。(続)

2018-02-09 00:29:03
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)マンボウっぽい絵のとなりにὀρθαγορίσκοςと刻まれた壺や、遺跡・遺構からマンボウの骨とかが見つかってくれればいいのですが……。(続)

2018-02-09 00:30:32
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)古代語/古代世界と魚の研究が始まって150年、今後まだまだ新しい発見があると思いますので、もしかしたらひょっこりとマンボウに関わる何かが土の中から現れる日も来るかもしれません。(続)

2018-02-09 00:31:42
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)……ごめんなさい、脱線し過ぎましたね。ともあれ、この本からは、いたるところから知的な刺戟をもらったように思います。超オススメの一冊です。

2018-02-09 00:32:47
アザラシ提督 @yskmas_k_66

20冊全部紹介しましたかね。それではこれにて。

2018-02-09 00:35:05