2017年出版の新書で印象に残ったもの

2017年に出版された新書のなかから、特に印象に残ったものをまとめました。 合計冊数20冊。レーベルごとに分けると、岩波新書4冊、ちくま新書4冊、ブルーバックス3冊、講談社現代新書2冊、岩波ジュニア新書1冊、集英社新書1冊、星海社新書1冊、中公新書1冊、ぶい&ぶい新書1冊、文春新書1冊、洋泉社歴史新書1冊。 2017年は、ちくま新書が学際的で面白い試みをしている本を多く出版していたように思います。
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)このほか、歌を流通させた人々の存在(第三章)、歌が書かれた木簡(第四章)、古代における日記の実用性と文学史的意味(第九章)なども、比較的面白く読めました。

2018-02-08 21:57:11
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『兼好法師』 兼好法師の家族や人間関係を一次史料から再考し、人脈を活かして都で活躍する兼好の姿を明らかにしたのが本書。で、その兼好さんですが、没後に「吉田兼好」として様々な経歴が捏造されてしまったようです。この本は、その捏造の方法や経緯も暴き出しています。(続) pic.twitter.com/8YGE4A7bNQ

2018-02-08 22:02:05
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)骨太な人文書でありつつも、推理小説もかくやとばかりの面白さを併せ持つ良著でした。

2018-02-08 22:03:09
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『日本史のまめまめしい知識(2)』 29人の研究者が、専門とする領域の史料から見出だされる人物や事件について、あるいは史料そのものについて、おおむね10頁ほどでその魅力や面白さを紹介する本です。心なしか、前作よりマニアックさが増したような気がします。(続) pic.twitter.com/OKJsTC9XXY

2018-02-08 22:06:57
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)どちらかというと手軽に史料の面白さや魅力を専門外の読者に伝えてくれるシリーズですから、こうした試みは今年も来年も、長く続いて欲しいと思います。(続)

2018-02-08 22:08:45
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)ちなみに、私が今回特に面白く読んだのは、江戸時代の人びとの埋蔵金に対する感性を教えてくれた「江戸時代における埋蔵金発掘」、“鬼義重”というあだ名に潜む思想を探った「佐竹義重の渾名についての小考」、(続)

2018-02-08 22:09:36
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)そして、大名の年齢という基本情報に対して怪しさや注意点があることを指摘した「室町時代における大名層の生年・年齢」の三点でした。

2018-02-08 22:10:53
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#2017年の新書 『今川氏研究の最前線』 今川氏研究の「ここまでわかったこと」と「これからはじまること」を広く伝えようとするもの。天下一名字(今川という名字は駿河今川氏のみに許された)が創作であること、雪斎が今川家の外交の在り方を大きく変えた人物であることなどを教えてくれたほか(続) pic.twitter.com/AoF7VqDjNF

2018-02-08 23:13:54
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(承前)今川氏の城館の特徴、今川氏の検地の実像(領主が検地を実施し、今川氏は領主の収入把握を行なう)、義元・氏真の和歌を研究するのは難しいけれども“こう読める”という解釈など、今後新しい研究が期待されるものまで、読み応えのある論考が12本収録されています。

2018-02-08 23:16:28
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#2017年の新書 『宣教師と『太平記』』 本書の著者神田千里先生は、『島原の乱』など戦国期の人々の宗教意識や心性について多くの本を書いておられます。その神田先生による一般向け読書文化史がこの本。本書の冒頭ではまず、17世紀にイエズス会によって出版された『太平記』が紹介されています(続) pic.twitter.com/1y2hKKTwhc

2018-02-08 23:22:54
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)本書は、キリシタン版太平記を導き手に、何故イエズス会が『太平記』を出版したのかや、『太平記』が当時の人々にとってどういう本なのかといった謎解きをしつつ、戦国期における人々の歴史認識と「日本人」意識の成立を考えるためのヒントを与えてくれる本と言えるでしょう。(続)

2018-02-08 23:25:35
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(承前)本の内容に移りましょう。第一章では、15~16世紀の人びとにとって『太平記』が百科事典的な性格を持ち、色々な人々に広く読まれ、親しまれた共有財産であったことが説明されます。(続)

2018-02-08 23:27:07
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(承前)続いて第二章で、当時の『太平記』の性格を見抜いていたイエズス会が、日本文化を知るために(適宜改竄しつつ)『太平記』を抜粋訳したこと、第三章以下で『太平記』の「源平交代」史観や、歴史意識のようなものが様々な人々(=「日本人」)に共有されていたことを明らかにします。(続)

2018-02-08 23:28:18
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)本書はこのように、当時の読書文化史にとどまらず、歴史意識や国家意識にまで分け入って考察をしています。なんと申しますか、教養が迸っているような本です。

2018-02-08 23:31:15
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『一茶の相続争い』 小林一茶…こと北信濃は柏原村のお百姓弥太郎さんと、その異母弟弥兵衛さんの相続争いに関わる史料を読み解いたものです。相続争いの舞台となった柏原の歴史、当時の農村社会や法システム、そしてそこに住んだ人々の中に「一茶」を位置づけることで(続) pic.twitter.com/pXkRvrWWH1

2018-02-08 23:32:55
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)ロクデナシではあるけれど、何としてでも生きて子孫を残そうとする近代的な個人主義者…といった彼の人物像に迫っています。

2018-02-08 23:34:29
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『文部省の研究』 「理想の日本人像」を鍵語に、文部省(と、それを巡る人々)及び近現代日本の教育史に切り込んだ一冊。無難でどうとでも解釈できるものとして成立した教育勅語、無理な解釈のせいで国民や文部省を縛った『国体の本義』など、戦前部分から読みどころは多いです。(続) pic.twitter.com/9vCunuz4az

2018-02-08 23:36:58
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)本書の後半にあたる戦後史の部分も、「理想の日本人像」を巡って色々な人や組織の、いわば攻防が紹介されます。企業戦士を育てるぞ→ゆとりある日本人を育てるぞ→グローバリズムとナショナリズムのなかでさてどうする、というのがそれぞれの時代ごとの「日本人像」の模索なわけですが、(続)

2018-02-08 23:38:12
アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)こうした先人の試行錯誤を踏まえた上で、今後はある種の「安全装置」として「理想の日本人像」を活用することを提案し、本書を結んでいます。 教育を巡る出来事の評価は極めて鋭く、なおかつ説得的です。教育や近現代日本史に興味のある方々に広く読まれて欲しい一冊です。

2018-02-08 23:40:01
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『江戸東京の聖地を歩く』 東京(特に東部)には、寺社・石碑・塔など、何かしらの物語と記憶が特定の場所と結びついた「聖地」的なものが存在します。本書はそうした場所が「聖地」となった過程を、アニミズムやフィクションといった鍵語をもとに分析し、(続) pic.twitter.com/uN1QLYRZVf

2018-02-08 23:48:37
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)その場所がどういう役割・意味を持つのかを深く掘り下げたものです。 「聖地」を扱った研究の、一般向けアウトプットとしては比較的読みごたえがあったように思います。

2018-02-08 23:49:04
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『天災と日本人』 古典や民具、仏具の分析、フィールドワークを通して得られた知見から、かつて何かしらの災害―水害・地震・津波・噴火・風害・雪害―に直面した者たちの記憶の仕方やその在り方に民俗学的手法で迫った本。(続) pic.twitter.com/pNrlOoSF34

2018-02-08 23:51:46
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)多面的に災害を捉えようとする点で珍しいコンセプトの本ですし、他方で堀辰雄や幸田文の文学世界の背後にある自然災害を指摘するなど、刺戟に満ちた本でもあります。

2018-02-08 23:52:07
アザラシ提督 @yskmas_k_66

#2017年の新書 『ハプスブルク帝国』 ハプスブルク家千年史を彩った人物・政治・社会・文化を扱った概説。複合国家論のような比較的新しい知見を盛り込み、各時代の制度や出来事(例えばウェストファリア条約やウィーン体制)などの評価も一般読者に分かりやすく提示しています。(続) pic.twitter.com/gnlMT5gGZw

2018-02-08 23:54:41
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アザラシ提督 @yskmas_k_66

(承前)正直、千年史をここまで細かく叙述したなら400頁を超えるのも無理はありません。なかなかにすごい本でした。

2018-02-08 23:59:38