部族化シリーズ 2話~宇宙から来たシーメールはかわいくて強いという話~

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帽子男 @alkali_acid

シメのことは輸送隊の大人にばれる。しかし追い返すわけにもいかない。 「なにか事情がありそうだが…とりあえず牛車を救ってくれたのはありがたい。このまま東七居住区跡までいこう。あそこの駐屯地で処遇を決める」 「シメはいいやつだよ!」 「はーい♪」

2018-02-13 23:47:09
帽子男 @alkali_acid

巨大な白骨死体の横たわる廃墟にたどり着く。海のそばの一画が壁をめぐらせた小さな集落になっている。駐屯所らしい。まわりに掘立小屋なども沢山ならび、ちょっとした町と言ってもいいかも。もっともシメやカイがあとにしてきた居住区と比べればしょぼいが。

2018-02-13 23:48:14
帽子男 @alkali_acid

「さてと…まず君のことを報告せねばな…一緒に来てくれ」 「おじさんごめんなさーい」 スペシメ光線が放たれ、ぼんやりする防衛団の隊長を置いて、シメはすたこらさっさと逃げ出す。遊びたいのに籠の鳥はいや。カイはあわてて追いかける。 「こら、シメ、どこいくんだよ」 「親方のとこー」

2018-02-13 23:49:46
帽子男 @alkali_acid

「がらくた屋の?親方が戻ってるかどうかなんて…」 「シメちゃんが会いたい!って思ったんだからいるよー!あ!いたー!」 港の桟橋の一つに帆船が一艘。 タラップの前で、パンダと若者が組手をしている。 パンダは中国武術、若者はテコンドーだが、まあ子供等には分からない。

2018-02-13 23:51:20
帽子男 @alkali_acid

「スンシン!と…おっきい白黒?」 「パンダだ…なんで」 パンダは抱拳の礼をとる。器用。スンシンと呼ばれた若者は振り返る。顔には刺青。腕にも。ほっそりしているようで引き締まった体躯。細マッチョ。なかなかの美形。 「シメか。どうしてここに?そっちは…カイ?友達なのか?」 「うん!」

2018-02-13 23:53:46
帽子男 @alkali_acid

「紹介する。は親方の新しい助手。マオパンダのライライ」 「ライライ?かーわいい!」 お腹にもふっと抱き着くシメ。ちょっとまだびびっているカイ。 「そいつ。噛みついたりしない?」 「ふだんは笹とか食ってる」 「ふだんは?」 「ふだんはな」

2018-02-13 23:55:13
帽子男 @alkali_acid

「親方は?」 「舳先で喫煙中だ」 「またハッパかよー」 「親方はくつろぐ必要がある」 しばらくしてよれた服装のヒゲの男がおりてくる。むさくるしいがまだ青年らしさの名残がある。 「いよぉ。シメ…にカイ?大きくなったな」 「親方!ひさしぶり」 「シメちゃんあいたかったー!」

2018-02-13 23:57:03
帽子男 @alkali_acid

親方は傷跡だらけの両腕を伸ばして、それぞれ子供を抱く。 「はっぱくせえぞ親方」 「んもーかっこよくしてて!」 ヒゲ男はへらへら笑う。 「いや。僕はもとからかっこよくないからさあ…どうしたんだ?」

2018-02-13 23:58:43
帽子男 @alkali_acid

二人は一斉にしゃべくる。 「あーうんうん。へーほう」 ちゃんと聞き分ける親方。パンダもスンシンも聞いている。 「そっか…そりゃ悪かったな。やっぱり僕が引き取ればよかった」 「それよりかっこいい男の人ー!」 「スンシンは?」 「スンシンはかっこいい!でももっと」

2018-02-14 00:00:26
帽子男 @alkali_acid

「もっと?」 「もっとシメちゃんをちやほやしてくれる人がいー!」 「だってさ?」 笑いながら親方が目線をあげると、スンシンはぷいと横を向く。 「俺は、親方の助手だ」 「かたいなあ」

2018-02-14 00:01:27
帽子男 @alkali_acid

みんなでご飯。親方がとれたての魚で簡単な料理をしてくれる。 「おいしい!」 「親方厨房係でやってけるよ」 「ははどうも」 「ねえなんでライライはパンダなの?」 「そうそうなんで」

2018-02-14 00:02:36
帽子男 @alkali_acid

ヒゲ男は火を入れていないパイプの端をかみながらつぶやく。 「んまあ…君等に話して分かるかな…大陸にはね。マオパンダっていてね。ライライはその一員。マオパンダが生まれたのは異世界転生が起きてすぐのこと。大陸にあった、人民共和国というそれはそれは大きな国が」

2018-02-14 00:04:50
帽子男 @alkali_acid

「人民共和国?」 「そうだよ。とっても大きな国…居住区みたいなもんだね。それがその叡智を後世に伝えるため、象徴として最も神聖な動物を選び、科学の粋を集めて新しい種へ作り変えた」 「へー?よくわかんないけどすごい」

2018-02-14 00:06:41
帽子男 @alkali_acid

「うんすごい。すべてを進めた科学者たちは、だらしないほかのお偉いさんと違って、理想に燃えていた。人民共和国の最初の理念、革命の原理、マオイズムを第一にパンダの中に刻んだんだ」 「マオイズム?」 「マオマオ、ってね」

2018-02-14 00:08:53
帽子男 @alkali_acid

「マオパンダは適応した。大陸では異世界転生生態系の頂点を新人…部族と争い、今ではとても数を増やして、人民共和国の再建をめざしている」 「すごいんだー!かわいい!」 「うん。ライライはそのために来た。科学者として旧人、つまり僕等を調査するのが目的だ」

2018-02-14 00:10:53
帽子男 @alkali_acid

パンダは愛くるしい瞳で皆を見つめ、むしゃむしゃと竹を食った。 「こっちの竹の味はどう?」 毛皮のあいだから取り出したちかちかまたたく投光器を使って返事をする。 「おいしいって。密林にいけばいくらでも生えてるからね」

2018-02-14 00:12:21
帽子男 @alkali_acid

「あーかわいいパンダさんもいいけど、かっこいい男の人ー。スンシンみたいなー…でもシメちゃんをちやほやしてくれないとー」 「なあ親方!おれ、部族になって狩人になろうかなって思うんだけど」 親方が凍り付く。 「それは…どうして」 「だってかっこいだろ」

2018-02-14 00:13:44
帽子男 @alkali_acid

スンシンが無言で席を立つ。 「カイ。もう十分だ。輸送隊にもどれ」 「なんだよ!スンシンだって部族なんだろ!」 「俺はもう違う!」 大声に子供等がびくっとなる。ヒゲ男は気弱な笑いを浮かべて助手に合図する。 「子供に大声だすな」 という。

2018-02-14 00:15:17
帽子男 @alkali_acid

「部族になったら、普通もとの暮らしには戻れない。スンシンは生まれつきの部族だが…例外だ。もっと大きくなって色んな生き方を知って、それから選んでも遅くないと思うぞカイ」 「はー。うっぜえの。けっきょく親方もほかの大人と同じか。部族なんてとーんでもありませんだって先公みてえ」

2018-02-14 00:17:17
帽子男 @alkali_acid

スンシンが険しい顔になる。 「カイ!お前は何も…」 「よせって…あのなカイ。新人…部族についてどれぐらい知ってる?獣を狩るだけが彼等の暮らしじゃない。もっと勉強して」 「あーはいはい!もういいよ」 「えーカイが部族になるならシメちゃんもー」 「よっし!シメいこうぜ」

2018-02-14 00:19:08
帽子男 @alkali_acid

子供等が駆け去る。 「…難しいな。こういうのは」 「あいつら…まだ分別がない。部族でも小さいうちはそうだ」 「いや、大人でも、部族になろうとするやつは多いよ。女だけを連れていくが、この前は女装した男が生贄になろうとした。去勢までしてね」 「くだらない」

2018-02-14 00:20:43
帽子男 @alkali_acid

親方は助手を見てほほ笑む。 「スンシンは強い。だけど、旧人はみんな弱いんだ。心も体もな。頼りにしていた機械が役に立たなくなってきて、よりどころを求めてる」 「…親方は違う。親方は部族より強い」 「弱いよ」 ライライが投光器を瞬かせる。 「マオパンダも強い」 との合図。

2018-02-14 00:22:37
帽子男 @alkali_acid

ヒゲ男は笑う。 「違いない!旧人も新人もパンダにはかなわないな!」 「組手では三十三勝三十二敗だ」 ライライはまた投光器を瞬かせる。 「手加減してるって?」 「なまいきなもふもふ野郎」 断続した閃き。 「自信過剰のつるつる野郎だって」

2018-02-14 00:24:23
帽子男 @alkali_acid

またひとしきり親方は笑ってから、ふと巨大な白骨死体を見つめる。 「ちょっと気になる感じだな」 「海で獣が騒ぐときに似てる…」 スンシンが応じると、ライライが投光器で続ける。 「森のかなたで何かが動いている」 「…あの子達に何もないといいが…まあこの駐屯所にはあれがあるしな…」

2018-02-14 00:26:23
帽子男 @alkali_acid

助手は振り返る。 「でも操縦するのは親方じゃない」 「…おいおい僕はもう引退だよ…最近節々が痛くて」 「…刀焦を出せるようにしておく。ライライも狙撃点を確認しておいてくれ」 了解と、大熊猫は応じる。

2018-02-14 00:27:54