部族化シリーズ 2話~宇宙から来たシーメールはかわいくて強いという話~

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帽子男 @alkali_acid

さてさてそのころ、カイとシメは駐屯所の方へ向かっていた。 「ねーどうやって部族になるの?」 「んー…わかんねえけど…でもなー…やっぱ」 「やっぱ?」 「親方の言うことも正しい気がしてきた」 「そっかー」 「親方と一緒に船乗りになるのもいいかなあ」 「いいね!」

2018-02-14 00:29:22
帽子男 @alkali_acid

そうこう言ってるうちに、密林がざわめく。双影が飛び出してくる。 部族。分からない言葉で話し合っている。瓜二つの姿。いずれもカイやシメと変わらない年頃の少女。手には弓を携えているが矢筒は空だ。 「あ!部族だ!」 「女だ!女の狩人!でも小さい…怪我してる!」 「かわいそー」

2018-02-14 00:31:37
帽子男 @alkali_acid

双子の娘はじろりと旧人の仔等をねめつけ、威嚇するように歯を剥くが、すぐに背後を振り返る。木々の梢を揺すって、何かが飛び立つ。 大きい。翼を持つ飛行獣。しかもあまり見たことがない形をしている。 鰓のようなところが膨らみ、とりもちじみた粘液を散弾よろしく撃ち出す。

2018-02-14 00:33:34
帽子男 @alkali_acid

双子の片割れはうまくかわすが、もう片割れが粘液に捕まる。 激しい痛みの叫びを上げる少女。肉の焦げるような匂いがする。 「シメ!」 「まかせてー!えーい!」 ビビビビビ。飛行獣は一瞬虚空で均衡を失うが、すぐまた勢いを取り戻す。 「あれー?」 「でっかすぎんのか?」

2018-02-14 00:35:03
帽子男 @alkali_acid

「もっぺんえーい!」 ビビビビ。また怪物はくらっとくるがそれだけ。 「あーんシメちゃんおなか減ったー。もうやだー」 「んもー!」 双子が相方に駆け寄り、なんとかとりもちをはがす。脚はひどいただれよう。 「おい、お前等こっちだ!」 カイが差招く。

2018-02-14 00:36:28
帽子男 @alkali_acid

新人達はためらうが、最初の飛行獣に続いてさらに増援があらわれる気配を察して、ついていく。 「駐屯所に逃げ込むぞ!だいじょうぶ!あそこには秘密兵器があるってうわさだ!」 「えーシメちゃん歩きたくなーい」 「走れ!」

2018-02-14 00:37:59
帽子男 @alkali_acid

飛行獣はスペシメ光線を警戒してか、すぐには襲いかからず、コブラ機動みたいのをして偵察してくる。 そのあいだに何とか駐屯所にたどりつく、といいたいところだが、シメがこける。 「いったー!もーやだー!かっこいい男の人ー!」 「立てってば!」 とうとう降下する怪物。

2018-02-14 00:41:45
帽子男 @alkali_acid

銃撃が阻む。続いて防衛団が出撃してくる。 ロボだ。数機いる。銃持ってる。 「さっさと来い!ちびども!」 門の横の戸口を開けて団員が合図する。 みんな急ぐ。

2018-02-14 00:43:00
帽子男 @alkali_acid

「もう安心だ…危なかったな…なに見てろ、炒鋼改が三機もいりゃあんなやつら秒殺だ。乗ってるのも昔みたいな素人じゃない。専門訓練を受けた操縦士だ」 「旧人の、機械、役に立たない」 ばかにしたように双子の片割れが告げる。 「なんだこの…おい、まさか部族?それも女?子供?どうなって」

2018-02-14 00:44:50
帽子男 @alkali_acid

ロボはかっこいい動きで連携して戦うが。とりもちに捕まる。 関節がきしんでがりがり言ってるところを急降下してきた飛行獣が叩き潰し、ミンチになった操縦士を引っ張り出してばらまく。 無双。異世界転生した生態系が原住民相手にするあれ。 「ばかな!最強ロボ炒鋼改が!」

2018-02-14 00:46:24
帽子男 @alkali_acid

残り二機も危うい。 「そんな…」 「はやく秘密兵器でやっちゃってくれよ!」 「だから今戦ってるのが秘密兵器だ…」 「ええ?くそー…やっぱ部族じゃなきゃ」 ちらっとカイが見つめるが、双子は見物の構えを崩さない。飛行獣が弱ってからしとめるつもりだろう。最も単に勝てないと思ってるのかも。

2018-02-14 00:47:56
帽子男 @alkali_acid

地鳴りがする。 双子が緊張し、互いにまた囁きかわす。 「なに?」 「なんか来るのかまだ?」 いきなり門の真下が崩落し、中型獣が出る。ドリルつき。コワイ。空中で体勢を立て直し。短剣を抜いて斬りかかる部族の娘等をビッグドリルの周りに密生したミニドリルではじき、逆に手傷を負わせる。

2018-02-14 00:50:05
帽子男 @alkali_acid

「やべえ!!」 「あーんシメちゃんもうやだー!」 そう言いながらもシメちゃんはまたビビビ。 ドリル中型獣をひるませる。 「おなかへったー!」

2018-02-14 00:50:57
帽子男 @alkali_acid

中型獣は我に返ると暴れまくる。双子はグロッキー。部族といえども無敵ではないっぽい。まだ小さいし。 防衛団が銃持ってくるけどまあ弾かれる弾かれる。 旧人非力。 そのあいだを影が抜けていく。 「しぃやっ…」 叫びとともに抜刀。ドリルを斬り落とす。手に持つは片刃の直剣。

2018-02-14 00:52:48
帽子男 @alkali_acid

残る二体の最強ロボ炒鋼改の片方をとりもちだらけにして潰そうとしていた飛行獣を熱線が貫く。ロボビームって感じだが、撃ったのはどこかの高台にいる誰かっぽくロボみはない。 「親方!あとは!」 「はいはい…もっと死んでからでもよかったのに。スンシンはまじめだな」 ロボがあらわれる。

2018-02-14 00:54:33
帽子男 @alkali_acid

「刀焦!?がらくたやか?くっそまた法外なお助け料をとられる」 「隊長、今はそれどころじゃ」 撤退する防衛団。 ロボは銃を手に全身。炒鋼改よりはしょぼめな雰囲気。 「…はーしんどい。僕はもうこういうのやめたいとこなんだけどねえ」 ドリル中型獣が襲い掛かるのを、ロボ銃で撃つ。中枢を。

2018-02-14 00:56:44
帽子男 @alkali_acid

「おー大型獣の骨で作った徹甲弾は利くなー…あそこの白骨死体からまたちょっと削っとこ…あとは…飛んでるやつか」 空からのとりもちを落ち物ゲー感覚でひらりひらりと回避しながら、銃を上に向ける。 「ばーんばーん」 飛行獣に照準を合わせてひきがねを引くふり。

2018-02-14 00:58:26
帽子男 @alkali_acid

しかし、刀焦ではなく、まだ高台からほとばしった熱線が飛行獣を貫く。 「もう一体はスンシンがやってよ」 「親方!」 「僕はもうおじさんなんだよぉ…」 「ええい」 なお会話は投光器でやっております。さしのべたロボの腕を助手が駆け登る。 「そーれ」 ロボが人ぶん投げると、飛行獣に届く。

2018-02-14 01:00:18
帽子男 @alkali_acid

部族のチート無双でずたずたに怪物を切り裂く。 「お見事」 「親方でもやれたでしょう」 「むりむり…僕旧人だし」 異世界転生生態系のものどもを殲滅させたところで、双子の娘が肩を貸し合って進みでてくる。 「なぜ旧人の味方をする!」 スンシンに叫ぶ。若者はむっつりと黙ったまま。

2018-02-14 01:02:10
帽子男 @alkali_acid

「色々事情があるんだ。君達は森へお帰り。まだ二人だけで狩りに出るには早かったね」 親方が流暢な新人の言葉で呼ばう。 「旧人が我等の言葉を使うな!」 「弱虫!」 スンシンが歯を噛み鳴らす。 「親方を侮辱するならただでは済まさん」 ヒゲ男はロボから投光器明滅。 「子供に大声出すな」

2018-02-14 01:04:27
帽子男 @alkali_acid

また森がざわめく。強い殺意の波。大型獣にも匹敵する脅威の接近を、場にいた誰でも感じ取れる。 一方、ようやく防衛団が態勢を立て直して戻って来る。牛に引かせた重火器つき。とりもちをはがした炒鋼改二機も合流する。 「さがれがらくたや!後は我々が」 「悪いができないな」

2018-02-14 01:06:30
帽子男 @alkali_acid

親方はあえて防衛団と森とのあいだを遮る。 「今度のは皆さんの手には負えない」 部族があらわれる。大人の男達。どれもイケメン。刺青でおおった筋肉質でむだのない長躯。槍を手にして強そう。めっちゃ強そう。 「父上!」 「父上!」 双子が近づいてく。

2018-02-14 01:08:11
帽子男 @alkali_acid

「まったく。これだから女の狩りごっこなどろくなことにならんと…あとでたっぷりしおきだ」 「おしおき…」 「父上がしてくれる?」 「ほかの氏(うじ)がやるに決まっている…いいからおとなしく…」 氏の長が振り返る。スンシンを一瞥する。 「裏切りものか。旧人に従うなど、あわれな弱虫」

2018-02-14 01:10:15
帽子男 @alkali_acid

「部族の女子供も守れぬ役立たずに何を言われる筋合いもない。親方がたまたま居合わせなければ、お前の娘どもは死んでいた」 スンシンは怒りをぶつける。親方は操縦席の中で頭を掻く。 「それくらいにしとけ」 の投光器。氏の長はロボに目を戻す。 「その殻から出てこい旧人」

2018-02-14 01:12:03
帽子男 @alkali_acid

「気のせいじゃないかな?」 でも一応降りる親方。氏の長はじっと観察する。 「覚えているぞ…お前は…ユミにつきまとっていた弱虫だな」 「どうだったかな。ずいぶん昔だ」 「旧人にとってはそうでも我等にはついこの前だ…ユミは今も毎晩俺の腕の中で鳴いているぞ弱虫」 ヒゲ男は目を閉じて無言。

2018-02-14 01:14:34