部族化シリーズ 最終話?~空からやってきた王子様が最強ロボに乗っていろんなものを壊す話~

2月のハットマンズショーもいよいよ最終幕……かもしれない
3
帽子男 @alkali_acid

みんな見て!空から親方が!

2018-02-17 12:05:27
帽子男 @alkali_acid

親方が空から来る。ままある。 親方の家族なら驚かない。不思議ではないと証言もする。 空飛ぶ親方の家族、弟のカズヨシ君に聞いてみると。 「前々から怪しいところはあった。変ながらくたを集めていて、いつもにたにた笑っていたので、いつかやるんじゃないかと」

2018-02-17 12:12:45
帽子男 @alkali_acid

といってもカズヨシ君は小さい頃からそんなに兄と仲良くなかった。 再婚でできた子なのでいわゆる腹違い。そして両親は長男である親方をちょっとうっとうしがっていた。気持ちは分かる。

2018-02-17 12:14:10
帽子男 @alkali_acid

カズヨシは小さい頃、母に尋ねたことがある。 「どうして兄さんと仲良くいちゃいけないの」 返事はかなり電波だった。 「カズヨシさん。あなたのお父様は大東亜連邦皇国南朝クマザワ家の連枝にあたる尊き御血筋。世が世ならば万乗の君であらせられたでしょう」

2018-02-17 12:14:33
帽子男 @alkali_acid

「うん…」 「だというのに、あなたの兄の母親…カオルコは…妻の務めをはたさず…卑しく野蛮な部族のもとに逃げた。浅ましく淫らな女…その血で穢れたあなたの兄も、いずれ同じようにお父様やあなたを裏切りかねない」

2018-02-17 12:16:14
帽子男 @alkali_acid

「でも…兄さんは…」 玩具をくれたのに。託児所で作った変な飛行機。ちゃんとバネではばたいて飛ぶ。 「オーニ…オーニソプターというんだって」 「ふうん」 「ユミちゃんが見つけた本にあたんだ。皆で作った」 「ふうん」 「カズヨシ君も今度来て一緒に作らない?」 「作らない」 「そっか」

2018-02-17 12:18:37
帽子男 @alkali_acid

「じゃあこれあげる。ユミちゃんが重さ調整したからよく飛ぶよ。一番よくできたやつでさ」 「…兄さん」 「なに?」 「兄さんはケガレてるんだよ」 「え、くさい?そんなに?託児所、水の配給減ってるんだ…こまっちゃうよ」

2018-02-17 12:20:48
帽子男 @alkali_acid

頭はよくも悪くもない兄だった。ただちょっとずれていた。 カズヨシは白昼夢から身を引きはがすと、防衛団に集結した部隊を眺める。 顔に変な塗装してたり、ロボや車両にもおかしな模様を描いてて野蛮な空気。ハッパの匂いもする。ごろつきめいたオッサン、オバサンが多い。 「やろうども!」

2018-02-17 12:22:30
帽子男 @alkali_acid

隊長が呼びかける。そいつも柄が悪い。 行政委員としては不機嫌になるところだが贅沢は言えない。兵員不足で、北の開拓団から退役組を呼び戻してきたのだ。まあ腕は鈍ってようだからよしとする。 「行政院のカズヨシ閣下だ!へっぽこ王子の弟君だが、あっちと違ってしっかり王子だ!」

2018-02-17 12:24:25
帽子男 @alkali_acid

ヒャッヒャという笑い声や口笛が鳴る。オバサンとか露骨に性的な仕草で抱かせろよみたいな意思を伝えてくる。 カズヨシはむかつくがこらえる。作戦に必要な命知らずなのだ。 「いよいよこの時が来た!!くそったれな部族を皆殺しにし!俺達文明人の強さを知らしめる時がな!」

2018-02-17 12:26:00
帽子男 @alkali_acid

防衛団の駐屯所にはあちこちからかき集めてきた得物が沢山。ロボの炒鋼や刀焦。履帯つき車両に砲を取り付けた新型兵器。北七十六居住区から開拓団が発掘した翼ではばたく航空機、オーニソプター。こいつは攻撃ドローンをばらまく母艦だ。

2018-02-17 12:28:05
帽子男 @alkali_acid

本来ならここに切り札となるロボが加わるはずだったのだが、ないものはしようがない。 「閣下どうぞ」 「ご紹介にあずかったしっかり王子だ」 歓声が上がる。 「知っての通り、作戦名〇〇森森(マルマルモリモリ)は、部族の根拠地である密林を破壊するもので…」

2018-02-17 12:30:03
帽子男 @alkali_acid

「詳細はすでに説明があったと思うので省くが、要するに奴等は死ぬ。初めにこの計画を立案したのは当時防衛団の攻撃隊長だった私の兄だったが、無謀にすぎるという理由で封印した」 「へたれなんだ!」 「あいつは女に未練があるんだよ!」

2018-02-17 12:31:27
帽子男 @alkali_acid

隊長が野次を制止する。復帰組の言葉にこもる調子がわずかにカズヨシのいらつきを掻き立てる。彼等は兄を馬鹿にしているようで、そうでもない。当たり前か。兄が防衛団時代に育てた叩き上げで、大型獣の襲撃をともに撃退したのだ。そういう絆は簡単には切れない。

2018-02-17 12:33:56
帽子男 @alkali_acid

カズヨシは額を軽くたたく。アンガーマネジメント。 「兄が慎重だったおかげで、計画は改良を重ね、弱点を潰してより精度の高いものに仕上がった。今の我々は部族について多くを知り、奴等を圧倒できるだけの火力もある」 ここに切り札となるロボ、夜鳥(ぬえ)があれば。だがあるものでやるしかない。

2018-02-17 12:35:33
帽子男 @alkali_acid

「作戦は明日早朝に開始する。我々はまず延焼弾で森を焼き払い、炎の壁に守られながら最深部へ電撃戦をしかけ。敵の中核を遠距離からのロボビームおよびロボミサイル攻撃で破壊する。槍の射程の外から仕留める」

2018-02-17 12:37:34
帽子男 @alkali_acid

オッサン、オバサン達の双眸が歓喜にきらめく。しんきくさい開拓団の暮らしなどうんざり。そういう派手なのが良いという態度。 ハッパもキマっているようだ。構わない。 「そして我々は!この国!大東亜連邦皇国を取り戻す!」 拳を振り上げる。怒号のような賛同が起きる。

2018-02-17 12:39:41
帽子男 @alkali_acid

演説を成功裡に終えて引き揚げながら、カズヨシはわずかに胸を差す痛みを覚えた。防衛団の復帰組にすべてを明かすべきだったろうか。 通信塔が、周期外れの異様な反応があったことを。 「いや時間がない…やるしかない…今部族を除かねば…もっと危険な敵が来た時…迎え撃つことが…」

2018-02-17 12:42:41
帽子男 @alkali_acid

伝令が駆けてくる。防衛団に所属する監視船、といっても普段は漁船だが、そこから鳥文が届いた。兄の総隊長時代に作った制度で、無駄なので予算削減でなくす予定だったが、初めて機能した。 「大量の海棲大型獣がこちらに…」 「なに…なぜ今…くそ…通信塔のせいか…」 「どうしましょう」

2018-02-17 12:45:14
帽子男 @alkali_acid

カズヨシは額を叩く。アンガーマネジメント。できる男は慌てない。 「作戦名〇〇森森は中止する。全部隊は大型獣の迎撃にあたれ」 「了解!」 「獣どもにここがもう奴等の餌場ではないことをたっぷり教えてやれ」

2018-02-17 12:46:33
帽子男 @alkali_acid

悔しい。めっちゃ悔しいが。 「…構わんさ。やるべきことをやるまでだ」 居住区は生き延びる。生き延びれば復讐の機会はある。 都市部族の氏長であるカズヨシは、ばっちり状況判断した。

2018-02-17 12:48:40
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「氏長をやめる?」 「ああ。俺より強い男が出てきたのだ、当然だろう」 キョウマは、吊るし駕籠の中を赤ん坊を慈しむように眺めながら、出産を終えたばかりの妻のユミと喋っていた。部族の女は乳酒をぐいぐい飲んですぐ回復しちゃう。とはいえさすがにまだ起きられない。

2018-02-17 12:50:35
帽子男 @alkali_acid

「シメちゃんを氏長に推すの」 「すぐにではない。シメが部族のならわしを覚えてからだ。この赤子がひとりで狩りができるようになるぐらいまでは助言役にとどまる」 「…あなたがそんなことを考えるなんて」 「意外か?」 「ええちょっと」

2018-02-17 12:52:08
帽子男 @alkali_acid

「お前と一緒に外の世界を見て回りたい。ユミ」 「えっ」 「スンシンや…あのけむくじゃらも一緒にな。望むならほかにも誰か連れていく」 「だって、ここはあなたの森」 「スンシンに以前言われた。俺はこの森で獣と戯れていただけだと。当たっていなくもない」

2018-02-17 12:53:25
帽子男 @alkali_acid

「そんなことない。あなたは北や南の部族とも」 「みんな、密林部族とあまり変わらん。だがスンシンは海洋部族だ。まるで違う狩り、ならわし、生き方を知る。スンシンはさらに世界の多くを知る。お前にもそれを見せたい」 「あ、あの」 ユミはなぜか胸が苦しい。喜び。悲しみ。どちらか。

2018-02-17 12:55:34
1 ・・ 6 次へ