部族化シリーズ 3話~キモオタの家に裸族の双子美少女がいそうろうに来た話~

2月のハットマンズショーは異世界が転生してきて人類が交代しちゃう話
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帽子男 @alkali_acid

「下へ降りてきちゃだめだって言ったでしょおぉ!?」 「言ってない」 「どけ。それを食わせろ」 鍋をぶんどってがつがつと手を突っ込んで食い始める双子 「あ、熱くないの?」 「熱い」 「うまい。ちょっと母上の作るのに似てる」 「似てる」

2018-02-14 21:49:42
帽子男 @alkali_acid

また歩行器の車輪の音。老女が厨房兼食堂兼居間に入って来る。 「あら?誰かいるの?」 「なななんでもなななあいよマママママママ」 「うまいな」 「うまい。すごい。あんなまずい食い物がこんなうまくなるのか」 ママは歯の抜けた顔で笑う。 「まあ!アマルちゃんに女の子のお友達?」

2018-02-14 21:51:27
帽子男 @alkali_acid

「ぷぎゅろぶぎょべべご」 もはや返事が言葉にならないキモオタ。ナギが立ち上がり、ナタも続く。 「おい、これをもっとよこせ」 「べつのでもいい」 「あら…」 老女は手を伸ばして、触ろうとする。とっさにナタが身を引くが、ナギは進む。指が頬に触れる。意外と寡婦の手はふっくらしている。

2018-02-14 21:53:07
帽子男 @alkali_acid

「まああ小さい子ね!アマルちゃんと同い年かと思ったのに」 「ナギ」 「ナタだ」 「ぐじょぶぎょぶべばぼ」 オッサンのうめきは無視していい。 「小さい子にはお菓子をあげなくちゃ。遅いけど…あとで歯をしっかり磨いてね…そうだ。チョコレートが少しだけ残ってた」

2018-02-14 21:54:23
帽子男 @alkali_acid

ママは歩行器を進めて、棚から手探りで缶を取り出す。 「目、見えないのか」 「どうなんだ」 双子が驚いて尋ねるのに、アマルはおどおどとうなずく。 「ママは病気なんだ…原因は分からないけど…でも居住区じゃ結構みんな…ある日体が悪くなって」 「不適応だな」 「旧人だからな」

2018-02-14 21:56:04
帽子男 @alkali_acid

不適応。 異世界が転生してきたあと、原住民である人間のあいだにあらわれるようになった病気。新しく書き換わった動物や植物、微生物、自然現象を受け入れられず、心身に生じる異変だ。 衰退し、既存の疾患さえ治すのが難しくなりつつある医療では、成すすべがなかった。いや、ひとつだけ方法がある。

2018-02-14 21:57:56
帽子男 @alkali_acid

「なぜ部族化しない」 老女、いや病気によって変わり果てた寡婦の手が止まる。 「えっ…?」 「なんでもないよマママアアアアアアアアア!!!」 デブの息子が大声を出す。そして新人の娘等へ向かって懸命に首を振る。 その話題はNGという意思表示。 ナギとナタはあっさり黙る。

2018-02-14 21:59:29
帽子男 @alkali_acid

「はい、チョコレート。おいしいの。本物のカカオじゃないんだけどね…そうだ。お茶も入れてあげる…こっちも本物じゃないけど」 「ママ拙者がやるでござ」 「アマルちゃんはお友達をちゃーんともてなすの。それにお茶を淹れるの上手じゃないでしょ。あなたは昔からロボロボってそればっかり」

2018-02-14 22:00:53
帽子男 @alkali_acid

「う、うう」 「本当にパパそっくりなんだから。ああ、あなたのシスがいてくれたらねえ」 ナギがまた進み出る。 「とってほしいものがあったら言え」 「あら?いいの。じゃあ赤い缶を探してくれる。この辺に入れたはずなんだけど…」 置き場がきちんと決まっていれば、目が悪くても探せるが。

2018-02-14 22:02:28
帽子男 @alkali_acid

たまたまどこかへやってしまうこともある。ナタも手伝ってお茶の缶を見つけ、ボンベのガスで火をつけて貯水タンクから出した水を沸かしてお湯にする。 「…ああ、うれしい。やっぱり家に女の子がいるって素敵。アマルちゃんは気が利かないし」 「ひどいよママ…」 「冗談冗談」

2018-02-14 22:04:43
帽子男 @alkali_acid

お茶の時間。 ほぼ裸の全身刺青の美少女の双子と、キモデブ中年と、髪もまばらで歯も抜けた病人の女。のんびりと熱い飲み物をすすり、チョコレートを舐める。 「どう?」 「なかなか」 「そこそこ」 「よかった。ライラ…アマルちゃんのシスの好物だったの」

2018-02-14 22:07:07
帽子男 @alkali_acid

「ライラは…看護師でね…私のことを心配して…非番の日に廃棄地区でいい薬がないかって…でも…そこを部族に襲われたの…きっとそう…パパの命を奪っただけじゃなくて…あの子まで」 旧に涙ぐむママ。はらはらするデブ男。すましてチョコを食べるナギ。ナタがつぶやく。 「きっと幸せに暮らしてる」

2018-02-14 22:09:08
帽子男 @alkali_acid

「えっ…」 「ライラはきっと幸せに暮らしている」 「そ…生きてるってこと?そ、そんな風に考えたことなかった…そうね!生きてる…あの子は生きて…どこかで幸せに暮らしてるかもしれない…まあナタさんありがとう!そんなこと言ってくれた人初めて!いえ、一人いたっけ…学校の卒業生の…モト…」

2018-02-14 22:10:48
帽子男 @alkali_acid

「ママは学校で家庭科の先生だったんだ…病気になるまでね…すごく人気あったんだよ」 うるうるしながら言うキモオタ。部族の少女等はどうでもよさそう。 「お茶、もっとくれ」 「チョコ、もっとくれ」 でもママは大喜びだ。

2018-02-14 22:12:04
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ ああそうそうモトキ君。家庭科の先生だったママの教え子で、調理実習の成績がそこそこよかったほかは取り立ててこれとって目立ったところのない男子生徒だったその彼ですが、今はがらくた屋の親方として雑な暮らしを送っているんだな。 ま久しぶりに故郷である東四居住区に戻った。

2018-02-14 22:25:55
帽子男 @alkali_acid

理由は養育権がらみの話。まあありがち。 「実験た…あの子を引き取りたい?」 「そうそう。そうなんだよ」 向かい合って座っているのはまだ若さが残る男。多少、親方に顔立ちが似ている。だが身分は違う。科学委員会の副委員長で行政委員でもある。要するにエリートだ。 「諦めてなかったのか」

2018-02-14 22:28:07
帽子男 @alkali_acid

「頼むよぉ…兄弟のよしみでさ…なっ、父さんなら聞いてくれたよ」 「私は父のような縁故主義はとらない。だいたいあなたを兄だとは思っていない」 「え、冷たいな。僕は今でも君を頼りになる弟だと思っているが」 「よくもまあ…あれだけのことをしておいて」 「頼む!この通り!」

2018-02-14 22:29:42
帽子男 @alkali_acid

行政委員は腕組みして、がらくた屋を観察する。 「子供には医療、教育、安全のそろった環境が望ましいと納得したはずでは」 「いや…あの時は防衛団連れてきてロボの銃で脅したんじゃないか…あんな説得はないよ…」 「そっちは部族の少年をけしかけようとした」 「してないよぉ…」

2018-02-14 22:31:47
帽子男 @alkali_acid

ヒゲ男は気弱な笑みを浮かべる。 「うちの助手は昔からちょっと頭に血がのぼりやすくて」 イケメンは静かな怒りをあらわにする。 「それだけじゃない…あなたは…我々から大事なものを盗んでいった」 「なんだっけ?」 「あれを返してもらおう。考える機械を」 「…そんなのあったっけ?」

2018-02-14 22:33:59
帽子男 @alkali_acid

行政委員はいきりたつ。 「とぼけるな!あなたが我々の計画を邪魔するのは何度目だ!今度の実験体の脱走も…」 がらくた屋はあわてて手を振って遮る。 「シメちゃんだよ。そういう呼び方はやめよう。な?」 「…ごまかすな。あなたはまだ、あの女…ユミに未練があるのだろう」

2018-02-14 22:35:48
帽子男 @alkali_acid

弟が鋭く指摘すると、兄はうなずいた。 「ある…めっちゃあるな…夢に見るよユミちゃんのこと」 拍子抜けしてイケメンはしばし口ごもる。 「…あいかわらず…あなたという人は…」 「でもさ…それシメちゃんの養育権の話と関係なくない?」 ヒゲ男がおずおずと申し出る。

2018-02-14 22:37:59
帽子男 @alkali_acid

行政委員が机をたたく。 「ごまかすな!あなたが防衛団の隊長時代、再三にわたって部族に対する攻撃計画を拒否し」 「無謀だったからなあ…」 「さらにはあの…実験た…シメの乗ってていた、空から来た船の中核である考える機械を盗んだのも、あの船の力を部族に対する攻撃に使わせないためだ」

2018-02-14 22:39:48
帽子男 @alkali_acid

「うん。いやっていうかさ。正体の良く分からない機会をちゃんと調べずに兵器として使おうとするのは危ないからさ…科学者だったらまずすべてを解明してから」 「今はそういう時代ではない!力がなければ生き残れない!我々にあの船の力があれば…どれだけ」 「まあまあ…船本体は無事だろ」

2018-02-14 22:41:23
帽子男 @alkali_acid

兄は落ち着かせるようにゆっくり話しかける。 「船はじっくり好きなだけ調べるといい。ただシメちゃんは解放してやってくれ。検査でもただの旧じ…人間だって分かってるだろ」 弟は収まらない。 「あれがただの人間?だったらどうやって檻を逃げ出した」 「檻って言うなよ。家」 「同じことだ」

2018-02-14 22:43:40
帽子男 @alkali_acid

行政委員は額を叩いて少しトーンダウン。アンガーマネジメント。 「あなたは…我々を危険にさらしてるんだ」 「大型獣の襲撃は阻止したじゃないか」 「という、あなたの法螺(ほら)を信じるものはここにはほとんどいない」 「ひどいな…」 「まだ自分を英雄だとでも?あなたは裏切もの…いや」

2018-02-14 22:45:38
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