鋼の鎧、鋼の拳、鋼の意志

竹村京 @kyou_takemura

「話を戻します。BAX-4の動作方法は操縦者による直接操作、マスタースレーブシステムによる遠隔操作と、自律行動があります」 『ちょっと待て、自律行動って空っぽでも勝手に動くって事か？』#落ちぬい二次

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「真の意味での勝手に、というわけではありません。あくまで動作モードの一つなので、オペレータがそのモードで起動する必要はある。あとは行動目標を与えれば、単純な物であればスタンドアロンでも稼働する」#落ちぬい二次

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例えば作戦地点までの進出は自動で行わせ、到着したら遠隔操作で戦闘・攻撃を行う。暴徒鎮圧など精密かつ慎重な行動を要求される場合には有人で運用する事もできる。基本的にはUAVと同じ考え方である。#落ちぬい二次

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「しかしこれについてはソフトが未完成なので……」 『未完成なのは、自律行動用のソフトだけですか？』 鷲塚の確認に、藤郷は小さく息を飲む。 「初歩的な見落としをしていました。そう、自律行動用のソフトだけです、未完成なのは。有人動作であれば問題なく使えます」#落ちぬい二次

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全ての機能が完全になって初めて完成と考える、技術者ゆえの落とし穴であった。 「奪った機体を有人運用してデータを蓄積し、学習させ、量産した機体にデータをコピーすれば、兵士を訓練する必要もなくあっという間に機械の軍団が完成する」#落ちぬい二次

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『戦力バランスをひっくり返す……とはいかないでしょうがね。高性能なだけに導入できるのは一定以上の経済規模と工業力を持った国だけでしょう』 『ほー。ま、盗みは別としてもそれだけ聞けばいーんじゃねーのとは思うけどな。使い捨てにされる兵士が減るんだろ』#落ちぬい二次

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長瀬が言う。国家は必要とあれば人権さえ容易に無視するという事を、実際に見て、体験しただけに重みがあった。事実、今でも艦娘は軍人であるとともに艦娘システムを構成する部品、つまり兵器の一つとして登録されている。#落ちぬい二次

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長瀬が艦娘の指揮官になれという再三の要請を蹴ってまで潜水艦に乗り続けている理由のいくらかもここにあった。 「歩兵の機械化はトレンドですから、遅かれ早かれどの国でも実用化はするでしょうが。しかし、現状あれは未完成です。無人で動作しない事には商品として弱い」#落ちぬい二次

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『完成した物を盗み出せればベストだったでしょうが、待てど暮らせど藤郷は完成させない』 「ええ。深海棲艦に対抗する手段になり得ない以上、私はこれを当面完成させるつもりはありませんでしたから」#落ちぬい二次

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貴重な艦娘さえ使い捨てにせざるを得ないほど深刻な深海棲艦との戦争であるが、もともと海上輸送に頼るところが少なかった内陸国では、海洋国家が深海棲艦との戦争に全力を挙げているのとは対照的に今でも民族紛争や宗教問題における衝突が絶えない。#落ちぬい二次

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また中露には陸上型の深海棲艦が出現している事も知られている。 それらの国が簡単に兵力を増強できるこのパワードスーツを欲しがるのは不思議ではなかった。 『欲しがる国は多く、しかし物は未完成。であればそれで利益を得たがっている者のやる事は一つ』#落ちぬい二次

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『自分で完成させちまえってか』 『その通り。モグリにしては鋭いですね。とはいえ、国内企業の関与はまずないでしょう。情報漏洩による制裁や取引停止と横流しの利益を比べれば、リスクが大きすぎる。軍の施設から盗み出すとすれば、やはり怪しいのは軍内部』#落ちぬい二次

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「でしょうね。ギンブチがそう言うなら間違いはないでしょう」 藤郷と鷲塚が話している所に長瀬が割り込む。 『んで、俺は何で呼ばれたんだよ。そっち方面は全然だぞ』 「モグリには荒事を頼みたいのです」 『敵のアジトに乗り込んで奪い返すのか？』#落ちぬい二次

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「半分正解ですが、主要目的は片目の救出です」 長瀬はよくわからないとばかりに気の抜けた声で返事をする。 「ああ、モグリにはまだ伝えていませんでした。実は先日来、片目が行方不明になっているのですが、おそらく動力甲冑を奪われた件と繋がっています」#落ちぬい二次

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『あいつが悪者の所に突撃してるんじゃねーの？』 「いえ、おそらくは逆。動力甲冑の完成のため、片目が拉致されたと考えた方が通る」 『もうちょい分かりやすく』#落ちぬい二次

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「いいですか。まずBAX-4が盗まれた直後に片目が行方不明になった。次に、BAX-4に足りないのは自律動作のための動作パターンです」#落ちぬい二次

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BAX-4の動作パターンはプログラマーが手打ちでプログラムするのではなく、実際に人が入って動かし、人工知能に教え込む事で完成するのです、と付け加える。#落ちぬい二次

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「第三に、BAX-4と片目の所在を把握できるのは軍内部。であれば何者かが私の名を騙って片目を誘い出したと考えるのが最も筋が通る」 長瀬が大きなため息を吐く。 『あーの馬鹿、ドジ踏みやがったのか』#落ちぬい二次

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「片目と言えど、軍人の奇襲を受ければ後れを取ることだってあるでしょう。ともかく、片目の所在は私とギンブチで突き止めますから、モグリはそこに乗り込んで救出してほしい」#落ちぬい二次

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正攻法で言えば憲兵にでも通報して洗わせればよいのだが、状況的に兵頭が敵一味に協力していると受け取られかねない。それは何としても避けねばならない。 『しゃーねえ。つっても出航の予定もあるから、あんまり時間はかけらんねえぞ』#落ちぬい二次

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「分かっています。さっそく調査を……」 そこに鷲塚が口を挟んだ。 『ちょっと失礼』 何やら報告を受けているらしい。鷲塚が中座し、しばらく沈黙が続く。一分程度経って電話口に戻ってきた。#落ちぬい二次

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『モグリの出航予定を気にする必要は無くなったようです。おっつけそちらにも情報は入ると思いますが、敵が動き始めました』 『機械軍団が出たってか』#落ちぬい二次

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『惜しい。軍体育学校のボクシング選手が何者かに襲われて重傷を負ったそうです。命に別状はありませんが、選手生命は絶望的だと』 「犯人は？」 『不明です。ですが、被害者によればゴリラなみに巨大で真っ黒だったと。BAX-4を着用しての犯行でしょう』#落ちぬい二次

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「片目だと思いますか」 『十中九まで兵頭でしょう』 『……待てよ。兵頭が何で通り魔なんてやらかすんだ』 「片目は敵と戦っていると認識しているはずです」 『なに？』#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「BAX-4は密閉式ですから、外部からの情報は内部のディスプレイシステムとスピーカーに全面的に依存している。それを、敵は利用しているのでしょう」#落ちぬい二次