鋼の鎧、鋼の拳、鋼の意志

竹村京 @kyou_takemura

今やリアルタイムの映像処理などスマートフォンでもできる。BAX-4にはターゲティングのための画像処理システムが備わっており、それを転用すれば標的の姿を書き換える事も可能だ。#落ちぬい二次

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「音声や光の明滅などで催眠状態に置く事は比較的容易です。そうやって正常な判断力を奪ったうえでトラウマをかき立ててやればいい。他の軍人はともかく、我々には特に大きなトラウマがある」 『尻尾付きか』 長瀬が苦々しく吐き捨てる。#落ちぬい二次

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深海棲艦との戦争の初期、夏目艦隊として出撃した二隻の護衛艦とそこに乗り組んだ532名の将兵が僅か二分程度の交戦でほぼ全滅した事件。 その海戦とも呼べないような一方的な殲滅戦で、敵艦隊を率いていたのが尻尾付きと通称される、識別名称戦艦レ級である。#落ちぬい二次

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その存在は夏目艦隊の生き残りである海ぼうず達に深いトラウマと拭えぬ復讐心を植え付けていた。 『じゃあ、何か。あいつは訳も分からずブリキ人形の中で尻尾付きと殴り合ってるってのか』#落ちぬい二次

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「尻尾付きは存在自体が機密ですが、少なくとも深海棲艦と戦っていると思い込まされている可能性が極めて高い」 電話の向こうで何かが派手に割れる音がした。それを敢えて聞かなかったふりをして、藤郷が言う。 「……それなりのバックアップ能力を持った組織の仕業ですね」#落ちぬい二次

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『パワードスーツを盗み出し、兵頭を拉致し、さらに取得したデータを処理できるとなると、まず間違いなく陸軍。空軍には白兵戦の発想は無い。あるいは、陸上型深海棲艦を抱えた中露も関与している可能性がある』#落ちぬい二次

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『糞が。片目の馬鹿を取り戻して敵をぶっ潰すんだろ。他の奴らにはどうする？』 「今のところは伏せておきましょう。感付かれないようにするには我々だけで動くのがベターです。海ぼうずには敵が多いですから」#落ちぬい二次

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海ぼうずはある種、英雄視されているだけに、実際の階級より大きな影響力や情報網を持っている。故に、彼等を敵視する勢力もまた存在した。#落ちぬい二次

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『体育学校と言えば朝霞ですね。まさかまだそこにいるとは思えませんが、関東に絞れば捜索もある程度早くできそうです』 『いんや、その必要はねえな。探すんじゃねえ、おびき出そうぜ』 「おびき出す？」 藤郷が疑問を投げかける。#落ちぬい二次

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『白兵戦のデータが欲しいんだろ？ じゃあ最高のデータを取らせてやろうじゃねーか』 「モグリが戦うんですか？」 『ああ。体育学校には知り合いがいてな。その伝手で俺が臨時教官やってやる。現役のオリンピック候補を潰したなら、次の餌は元オリンピック候補だろ』#落ちぬい二次

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『無謀ですが、有効な手ですね。ではこちらからはそれとなく軍内部にその情報を流しましょう』 鷲塚が請け負った。 「では、モグリ。朝霞へ行く前に一度こちらに来てください、時間は取らせませんから」 『はいよ』 電話を切ると、三人はそれぞれの準備に取り掛かった。#落ちぬい二次

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翌日の夕方。朝霞駐屯地の奥、体育学校の陸上トラック近くの道を、トレーニングウェアを着た長瀬はジョギングしていた。#落ちぬい二次

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「あーおい海からやって来てー、緑の地球を救う者ー♪ あーかい正義の血を燃やしー、ぎーんの機械の腕ふるう♪」 先程まで体育学校のボクシング選手の指導をしていたが、課業時間が終わると軽く食事を摂り、自主トレーニングと称してこうして走っている。#落ちぬい二次

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「うーみをー、やーまをー、ふーるーさーとーをー♪ 鋼の腕でまーもーるー、むーげんーのー愛のーうーでーでー♪」#落ちぬい二次

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本心では未来あるボクサーたちや知己であるコーチと語り合いたかったが、それは本来の目的ではない。敢えて日没直後で人気のない時間、人通りの少ない場所を選んでこうして走っているのは、敵もそこを狙って襲ってくるという予測からだ。#落ちぬい二次

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「艦長ー、艦長ー、スーパー艦長ー、ながーせれいじはナーンバーワンー♪」 そして、その目論見は当たった。 暗い道の向こうに、より黒い巨躯が立っていた。#落ちぬい二次

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「見つけたぞ」 耳に嵌めたカメラ付きのインカムの向こうで藤郷が答える。 『そのようですね。くれぐれもガードなんて考えないように。私が作った腕は持ちこたえますが、まともに喰らえば生身の部分からもぎ取られますよ』 「おお怖ええ」#落ちぬい二次

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トレーニングウェアの上着を脱ぎ捨て、肩を回して息を整える。先程までのトレーニングで勝負勘は完全に戻っており、身体も温まっている。ベストな状態と言っていい。#落ちぬい二次

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黒い影が迫り、ディテールが見えてくる。高さは2メートル30センチ程度だろうか。首と呼べる部位はなく、肩にドーム状の頭部が乗った異形だ。それ以外はおおよそ人間に準じた形で、五指のある手は拳を握っている。#落ちぬい二次

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「んで、この腕であのアホをぶん殴るのはいいんだが、弱点とかねーの？」 『ありますよ』 「あんのかよ。兵器に弱点あんのかよ」#落ちぬい二次

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『外部から緊急停止する方法は必要ですよ、試作機ですから。腹に三角形のマーキングがあるでしょう。そこを思い切り殴り壊してください。制御系の結節点です』 「あいよ」#落ちぬい二次

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既にBAX-4は5メートルほどの距離まで近付いている。 半ば怒りにまかせてこの役目を買って出た長瀬だが、勝てるという確信があったわけではない。#落ちぬい二次

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いかに世界レベルの技術と異常な心臓、鋼の腕を持つとはいえ、大部分が生身の長瀬と、全身が機械の鎧に覆われた兵頭では耐久力が違いすぎる。#落ちぬい二次

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心臓の鼓動を異常加速すれば一時的にはスピードで圧倒できるだろう。何発かは義手の攻撃を叩き込めるかもしれない。だがそれだけだ。確実にノックアウトできなければ急激な心拍増大の揺り戻しで動きが鈍ったところをやられて終わりだ。#落ちぬい二次