日向倶楽部世界旅行編第49話「集う者達」

闘技大会エントリー終了まで残り一週間、ブルネイ泊地には多くの猛者が集い始めていた。そんな中、あきつ丸は三隈に厳しい指導を受けていた・・・
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三隈グループ @Mikuma_company

と、そんなこんなとしていると、射撃の調整を続ける最上に、一人の艦娘が気さくに声をかけて来た 「おっ、最上じゃねーか、久し振りだなぁ」 〜〜

2018-06-05 21:29:28
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〜〜 午後一時、昼食に行く人々によって、演習場の人影がまばらになった頃、あきつ丸と三隈は一旦訓練を終えた。 「はぁ…はぁ…」 あきつ丸は肩で息をしながら三隈の方へと向かう、訓練で忘れていた疲労がドッと出ると、普段使いの艤装もいつもより重く感じた。

2018-06-05 21:31:24
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「お疲れ様、よく頑張りましたわ。」 そこへ、落ち着いた優しい声と共に、三隈が隣へと来る。それは先程まで叱責の声を上げていた艦娘ではなく、あきつ丸のよく知る彼女であった。 「はぁ…はぁ…三隈殿、ありがとう…ございます…」 絶え絶えの息であきつ丸は答え、白粉混じりの汗を拭う。

2018-06-05 21:32:08
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そんな彼女に、三隈はにっこり笑いかける 「良いのよ丸ちゃん、貴方もよく私を手伝ってくれるでしょう?同じ事よ」 呼吸乱れるあきつ丸とは対照的に、三隈は全く呼吸を乱していなかった。運動量は同じ、声を張り上げていたぶん、むしろ彼女の方が体力を使っていたはずだが、それでも呼吸は乱れない。

2018-06-05 21:33:43
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午前の訓練、あきつ丸は三隈に全く歯が立たなかった。そしてそれが技量だけでなく、体力の差でもある事を、あきつ丸は身を以て感じた。 「訓練の映像は全て記録してあるわ、後で見て、改善点を探しましょう。」 そんな彼女の隣で、三隈はスマートフォンを操作し、記録を保存、複製、転送する。

2018-06-05 21:34:55
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やがて三隈は時間を確認し、あきつ丸の手を取った。 「シャワー浴びちゃいましょう、汗もあるでしょうし」 「えっ…でも午後も…」 午後も訓練をする、少々不潔だが、シャワーは今でなくとも良かった。しかし彼女に返ってきた答えは、口元に当てられる、三隈の細い人差し指であった。

2018-06-05 21:36:01
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「良いのよ、午後からは少しメニューが変わるから。さ、行きましょう」 三隈はそう言って微笑むと、指を離し、未だ疑問の残るあきつ丸の手を引いて進んで行った。 〜〜

2018-06-05 21:37:23
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〜〜 ブルネイ泊地の演習場近く、ここのシャワールームは数も多く、綺麗なものだ、マッサージ機もある。 そこでシャワーを浴び終えたあきつ丸は、頭を拭きながら脱衣所へと向かう。白粉を落とした彼女の素顔は、彼女の性分とは些か違う、品良く整った、穏やかな顔つきであった。

2018-06-05 21:38:57
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脱衣所では、一足先に出た三隈が髪を乾かしていた、長くサラサラとした髪の毛が、櫛を通してするりと抜ける。あきつ丸は、その髪の隙間から覗かせるうなじが、とても綺麗だと思った。 やがてあきつ丸が顔を拭き、身体を拭き、下着にワイシャツを羽織ると、髪を結った三隈がやって来た。

2018-06-05 21:39:56
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「ああ、三隈さん…じゃない、三隈殿、お待たせしています」 「慌てなくて大丈夫よ、急かしたりしないわ」 三隈はそう言ったが、あきつ丸はなるべく手早く着替える、待たせたくはない。ワイシャツのボタンをパパッとかけ、黒いスカートを履く。

2018-06-05 21:40:53
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すると三隈が、彼女の濡れた髪に触れて来た。 「乾かして差し上げるわ、いらっしゃい」 「えっ、いや、自分で…」 「ふふっ、前もやったじゃない。それとも不安?」 そんな事は…とあきつ丸は首を横に振る、三隈はそれを見るとにっこり笑い、彼女を鏡の前に座らせた。

2018-06-05 21:41:43
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そして三隈は、ドライヤーと櫛を手に取り、スイッチを入れる。彼女の私物であるそれは、静かな音を立てて風を起こす。 あきつ丸の髪は長くない、櫛で引っ張ると、肩にかかるかかからないか位。三隈はそこへ、風を当てながら静かに櫛を通す。ゆっくり、ゆっくりと髪が引かれ、櫛を抜けていく。

2018-06-05 21:42:48
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「痛くない?」 三隈がそう訊ねると、あきつ丸は大丈夫という意思を示す。暖かく、ゆっくり、優しく髪が整っていく。 「綺麗な髪ね、近くで見ると分かるわ」 乾き、サラサラとし始めたあきつ丸の髪を、彼女は撫でるように弄る。長くない髪は、指の間をこぼれ落ちるようにするりと抜ける。

2018-06-05 21:44:03
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あきつ丸はあきつ丸で、髪越しにその指へ触れていた。優しい指使いに、心が落ち着き、安らぐ。 (この人といると、本当に安心する…) あきつ丸は目を閉じる。彼女は生まれながらの孤児だ、児童養護施設を兼ねた教会で、神父とシスターに育てられた。大切に育てられたが、父親も母親も知らない。

2018-06-05 21:45:00
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だから思う。もし自分に父親がいたら、彼女の様に前に立ってくれるのだろうか、もし自分に母親がいたら、彼女の様に背中を押してくれるのだろうか… 教会でのそれとはまた少し違う、不思議な気持ち。あきつ丸は心安らぐその感覚に、幼子のように浸っている。

2018-06-05 21:46:19
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でも、そういう自分が、そう思う自分が、少しだけ嫌いであった。いつまでこんな風に…とも思えた。 自分は今、なりたい自分を、誰にも出来ない自分を探している。それが何かは分からない、しかしそれは、三隈の庇護の下で眠る、か弱い赤子ではないはずだった。

2018-06-05 21:47:33
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そんな気持ちが無意識に吐かせたのか、あきつ丸はぼそりと呟いた。 「…三隈さんは、どうして私に優しくしてくれるんですか?」 それはいつもと違う、あきつ丸…望月まりあ本来の言葉遣いだった。その言葉に、櫛を入れていた三隈は手を止める。

2018-06-05 21:48:38
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「変な事言うのね。そんなの、お友達だからに決まってるじゃない」 お友達だから、何とも三隈らしい答えが返る。だがあきつ丸は、納得出来ない様に訊ねる。 「でも、それなら最上さんや日向さんだって…私じゃなくても、貴女には友達が居る…」

2018-06-05 21:49:59
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自分でも卑屈なものだと思った、失礼まであった。それでも訊いてしまうのは、まだ自分に何も無いからだ。 それに対し三隈は、不快感一つ露わさず、目を閉じて微笑む 「ふふっ…じゃあ丸ちゃん、貴女は何故、私と仲良くしてくださるの?」 おうむ返し、全く同じ問いがあきつ丸にパスされる。

2018-06-05 21:51:00
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あきつ丸は戸惑いつつ、答える。 「それは…初めて、声をかけてくれたから…」 「あら、たまたまかもしれないわ」 三隈がそう言うと、あきつ丸は首を横に振る。 「それだけじゃ無い…強くて、優しくて…」 あきつ丸は思った事を口にする、すると、今度は三隈が首を小さく横に振った。

2018-06-05 21:52:22
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「ふふふ、でもひゅーちゃんの方が、私より強いのではなくて?」 「えっ…そうだけど、違うの…あの…」 彼女の返しに、あきつ丸は口ごもり、鏡に映った三隈から目を逸らす。すると、彼女の身体に三隈の腕がそっと回され、優しく抱き締めて来た。 「貴女、私の事をよく見て下さってるのね」

2018-06-05 21:54:05
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あきつ丸の耳元に、三隈の吐息がかかる。 「…あきつ丸さん、人ってね、自分の事は結構分からないものよ。鏡に映るのは、外見だけだもの。」 彼女はあきつ丸の顔をそっと正面に向け、そこへ向けて続ける。 「貴女にも、貴女だけの素敵なところがあるわ、だから私は貴女が好きなの」

2018-06-05 21:55:20
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あきつ丸の目に、反転した三隈の姿が映る。鏡の中の彼女は、微笑んで言った。 「それに、人と人の気持ちを、まるで記録のように扱うのは反対よ。要素や数字だけでない、誰かを大切に想う気持ちは、数式にも文字にも出来ないのだから。」 三隈の言葉が、細やかな風と共にあきつ丸へぶつかる

2018-06-05 21:56:44
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その間、あきつ丸は無言だった。彼女の言葉を理解したが、全てを飲み込めはしなかった。この先は、この答えの真偽は、彼女自身が進み、見つけ、掴み取らなければならない。 三隈は、そんな彼女の頭を抱き締めて言う 「…大丈夫、貴女は頑張ってるわ。私に出来る事があったら、何でも言って頂戴ね」

2018-06-05 21:58:20
三隈グループ @Mikuma_company

優しい声が頭上で響く。柔らかな腕の中、あきつ丸は黙って頷いた。 「…それと、ワイシャツのボタン、かけ違えてるわ」 「えっ?あっ…」 「動いちゃダメよ、直すわ」 細い指が、ワイシャツのボタンをさわさわと弄る。あきつ丸は赤面した。 〜〜

2018-06-05 21:59:37