福島県民健康調査の甲状腺検査1巡目の遺伝子検査結果を読む

姉妹編まとめ「福島の甲状腺検査の1巡目から3巡目の結果を振り返る」https://togetter.com/li/1393484 もあわせてご覧ください。 (こちらでは年齢分布曲線、組織型、遺伝子変異の3種類のデータを検討しています)
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(↑検査の間隔が2年というと、福島県民健康調査の甲状腺検査の計画はこの共同研究プロジェクトを参考にして立てられた可能性があります。もっともこの共同研究では、福島と違ってまず触診し、超音波はそのあとの精密検査に使用しています。

[2018.10.5追記]
この共同研究の方法は2004年に次の論文として公表されています。
Stezhko VA et al. A Cohort Study of Thyroid Cancer and Other Thyroid Diseases after the Chornobyl Accident: Objectives, Design and Methods. Radiation Research, 2004;161(4):481-492.
http://www.bioone.org/doi/abs/10.1667/3148
改めて読み直してみると、実際には超音波検査の専門医がまず甲状腺の触診を行って結果を記録してから超音波検査を実施しており、あわせて内分泌専門医が病歴聴取と甲状腺の触診を行っています。両者の結果が食い違った場合は協議、必要な場合3人目の医師による検査で解決するとあります。
すなわち「まず触診して、おかしいと思った場合は精密検査として超音波」というわけではなく、全員に触診と超音波検査を両方とも実施していたのです)

nao @parasite2006

pic.twitter.com/DDB671Z2Je この表に載っている甲状腺等価線量は1) 事故後2ヶ月以内に首にサーベイメーターを当てた実測結果(通常各人1回測定)、2) 環境および体内動態モデルを用いた甲状腺中のI131による放射能の変動の評価結果、3) 事故後の行動や食生活の聞き取り調査結果に基づいて算出したもの

2018-06-17 12:08:28
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nao @parasite2006

pic.twitter.com/DDB671Z2Je 米国・ウクライナ共同研究は開始時期が1998年(事故12年後)と遅いため、事故時18歳未満と言っても追跡中に甲状腺乳頭癌と診断された人はすべて成人。点突然変異が検出された人(青枠)は遺伝子再構成が検出された人(赤枠)より1) 事故時年齢が高い2) 甲状腺等価線量が低い

2018-06-17 12:19:55
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nao @parasite2006

チェルノブイリ事故時(1986年)18歳未満で1998-2008年に甲状腺乳頭癌と診断された65例を甲状腺等価線量で3グループに分け(0以上0.06未満、0.06以上0.3未満、0.3-6.15;単位はGy=グレイ)、点突然変異(青字)と遺伝子再構成(赤字)が検出された人数を比較(続く) pic.twitter.com/62Txqosnnk

2018-06-17 13:42:16
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全65例(事故時年齢5-17歳)中に占める割合は点突然変異17/65 x100 = 26.2%、遺伝子再構成46/65 x100 =70.8%です。先にご紹介したチェルノブイリ組織バンクの26検体(すべて事故時年齢10歳未満、うち24例は5歳未満)の結果は点突然変異4/26 x100 =15.4%、遺伝子再構成22/26 x100=84.6%で、対象の事故時年齢の違いと遺伝子再構成は事故時年齢が低いほど多い傾向を考えればこの割合の違いは納得できます。

nao @parasite2006

(続き)図B(右側)は縦軸が全体に占める比率(%)になっているのでかえってわかりにくくなっていますが、カッコ内のように実数に直して考えるとすっきり。点突然変異は甲状腺等価線量にかかわらずほぼ一定数発生しているのに対し、再構成は線量の増大とともに急増しています pic.twitter.com/2WdXYqGbvz

2018-06-17 14:38:25
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nao @parasite2006

pic.twitter.com/2WdXYqGbvz 図に書き込んだ福島の1歳児の甲状腺等価線量推計値の出典はこのファイルpref.fukushima.lg.jp/uploaded/attac… のp.31(引用したのは浪江町の値で次のp.32に出ている他の地域の値ははもっと小さい。年齢が上がればさらに減少)

2018-06-17 14:48:26
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nao @parasite2006

福島県民健康調査の甲状腺検査1巡目(青枠の円グラフ)pic.twitter.com/XxAvsRC1Er とチェルノブイリ事故後のウクライナ(青枠の棒グラフ)pic.twitter.com/2WdXYqGbvz の甲状腺癌遺伝子変異に占める遺伝子再構成(放射線被曝線量とともに増大)の割合。前者は25%、後者は37.5%。

2018-06-17 14:57:06
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(↑福島の甲状腺検査1巡目=青枠の円グラフの対象の事故時年齢は18歳未満、チェルノブイリ事故後のウクライナ=青枠の棒グラフの対象の事故時年齢は5-17歳でした。「甲状腺等価線量が同程度なら、福島でもウクライナでも起こったことは同じ」と言いたい気がしてきました。
余談ながら、福島の1巡目と同じ図の同じ段の左端に出ているチェルノブイリ事故後のウクライナの円グラフの事故時年齢は10歳未満ですのでご注意ください。)

関連論文3:Midorikawaら(2018)

nao @parasite2006

最後に、福島県民健康調査の甲状腺検査1巡目で甲状腺乳頭癌と診断されて手術を受け、遺伝子検査の結果点突然変異BRAF V600Eが検出された人(43例)と遺伝子再構成が検出されたか変異未同定の人(20例)の特徴twitter.com/parasite2006/s… を頭において、緑川論文jamanetwork.com/journals/jamao… の表を見てみます pic.twitter.com/uM99COlIxp

2018-06-17 15:18:52
nao @parasite2006

2015年論文では、篩状型乳頭癌4例と低分化癌1例を除外した乳頭癌63例を通常型乳頭癌に特徴的な点突然変異BRAF V600Eを持つ43例と再構成変異または未知変異を持つ20例に分け比較。前者は後者と比べて1) 手術時年齢が高い、2) 腫瘍径が小さい、3) 微小癌の割合が多い pic.twitter.com/385U0eIRmz

2018-06-16 22:26:49
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nao @parasite2006

遺伝子再構成または変異未同定の20例は、点突然変異(BRAF V600E)43例より1) 手術時年齢が低い2) 腫瘍径が大きいのが特徴。この20例(中でも再構成16例)のどれだけが緑川論文の表(悪性+疑い116例全体)pic.twitter.com/uM99COlIxp腫瘍成長速度最大のグループ(28例)に入るか非常に興味があります

2018-06-17 15:41:16
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低分化癌1例(検査した遺伝子変異のどれにも該当なし)は乳頭癌より悪性度が高いので、当然増殖速度最大グループに入ると考えられます。これに対し乳頭癌の中で最も悪性度の低い濾胞型乳頭癌2例(検査した遺伝子変異のどれにも該当なし)は最も増殖速度の小さいグループに入ると予想されます。

nao @parasite2006

twitter.com/parasite2006/s… 甲状腺検査1巡目の悪性+疑い116例のすべてについて、1次検査と2次検査の間の腫瘍サイズの変化と遺伝子検査結果の有無(ある場合その結果)の情報を持っているのは福島県立医大だけですから、ぜひ両者を照合して遺伝子変異と腫瘍の成長速度の関係を検討し続報を出してほしい

2018-06-17 15:51:29
nao @parasite2006

また米国・ウクライナ共同研究の結果twitter.com/parasite2006/s… からは事故時年齢が低いと遺伝子再構成変異が多く生じる傾向が見えますが、1巡目より事故時年齢が2歳若い人が自然発生の甲状腺癌が出現しやすいティーンエイジに達する2巡目の検査で再構成変異の比率が上がるかどうかも検討課題でしょう

2018-06-17 16:12:24

(↑甲状腺等価線量の推計値が最大でも数十mGy程度なら、2巡目3巡目でも再構成変異の比率はほとんど1巡目と差がつかないだろう、すなわち放射線と無関係な成人の甲状腺乳頭癌のパターンと大差ないだろうと個人的には考えています)

補足:広島長崎の被爆者の甲状腺癌でも、被曝線量が増えるほど遺伝子再構成変異の頻度が増えていたと教えていただきました

F1ABS @F1_ABS

@parasite2006 原爆被爆者甲状腺乳頭がんの遺伝子変異パターンと線量の相関です。線量の増加と共にRet/PTC再構成が増加しています。本人によるレビュー omicsonline.org/open-access/th… と放影研の抄訳。 rerf.or.jp/library/scidat… 低線量域では、非被爆者と変異のパターンが変わらないですね(放射線を起因としない)。 pic.twitter.com/2pyhXUlvDk

2018-06-17 18:11:18
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nao @parasite2006

@F1_ABS ご紹介感謝です。このグラフの書き方は米国・ウクライナ共同研究報告のEfanov論文pic.twitter.com/62Txqosnnk にそっくりですね。数十mGy程度まではゼロと差がないのは、チェルノブイリ事故後のロシア南西部で50 mGyまでを基準にした場合約200 mGyまで差なしだったのと符合twitter.com/parasite2006/s…

2018-06-17 18:47:47
nao @parasite2006

2016年9月国際シンポのIvanovの発表スライドから2012年に出た英語先行論文のデータを一つご紹介。調査対象地域は発表&2016年論文と同じロシア南西部4州だが追跡調査期間が1991-2008年で5年短い。相対リスクは甲状腺等価線量0-0.05 mGyのグループを基準に算出 pic.twitter.com/iiJlLj7ZhP

2017-11-25 02:00:12
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nao @parasite2006

2016年9月国際シンポのIvanovの発表スライドから2012年に出た英語先行論文のデータを一つご紹介。調査対象地域は発表&2016年論文と同じロシア南西部4州だが追跡調査期間が1991-2008年で5年短い。相対リスクは甲状腺等価線量0-0.05 mGyのグループを基準に算出 pic.twitter.com/iiJlLj7ZhP

2017-11-25 02:00:12
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nao @parasite2006

@F1_ABS ご紹介のHamataniら(2008)の論文cancerres.aacrjournals.org/content/canres… 読んで粛然たる思いにかられました。甲状腺等価線量が数十mGyぐらいまでなら(福島もこのレベル)非被爆者と比較して甲状腺癌につながる遺伝子変異の発生状況にほとんど差がつかないことを、広島長崎の被爆者の方々が身をもって示して下さった

2018-06-18 09:12:34

(↑福島県の1歳児の福島第一原発事故後1ヶ月間の甲状腺等価線量の推計値が最大でも38.7 mGy
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/238778.pd
であることを頭に置いた上でHamatani論文の図1Aを見てください。甲状腺等価線量の値がこの程度の場合、甲状腺検査を続けたところで放射性ヨウ素による被曝が全くなかった場合との間に差はまずつかないことをおわかりいただけると思います)

F1ABS @F1_ABS

@parasite2006 これは手間のかかる研究ですね。 色々な病院に分散しているパラフィンブロックを集め、切片を複数作って最初と最後を染めてがん組織の領域を特定し、未染色の切片からがんを切り出し、RNAを回収する。 数十年前の古い試料だと回収率も悪いしRNA長も短いし・・・

2018-06-18 12:27:39

(↑論文のMaterials and Methodsの項を見ると、対象71例=被爆者50例+非被爆者21例が甲状腺乳頭癌と診断され手術を受けたのは1956-1993年だったとあります。これは1945年の原爆投下から11-48年後に相当します)

F1ABS @F1_ABS

@parasite2006 経緯は大津留らの総説にも簡単に触れられています。 jstage.jst.go.jp/article/naika/… 当初はリスクの程度は不明で、白血病も含め「原爆症」として被爆者は不安を抱えていた。 調査の結果被爆による発がんリスクが数値化されたが、周知されているわけではなく、今でも健康に不安を覚える方は多いと思います。

2018-06-18 13:23:25