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太田忠司さんが語る「小説家が単行本に挑戦する理由」

「文庫になるのを待ちます」という読者からのコメントにたいしての太田さんの回答のまとめ。時代小説やラノベでは若干事情が異なりますが、ほぼこんな感じです。
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太田忠司 @tadashi_ohta
新刊が出たよ、という話をすると「読みたいけど文庫になるのを待ちます」とコメントされる方、いろいろ事情があると思うので理解はしますが、ただ単行本が売れなかったら文庫化しない、という事実があるとも念頭に置いていただければと。すべての本が文庫になるとは限らないのです。
太田忠司 @tadashi_ohta
「単行本が売れなかったら文庫化しない」というツイートにいくつかの反応をもらったんですが、その中に「なぜ最初から文庫で出さないの?」という疑問が結構多く寄せられました。そのことについて僕が知っている限りのことをを書いておきます。
太田忠司 @tadashi_ohta
そもそも文庫というのは評価の定まった名作を廉価に提供するために作られたものでした。文庫の先駆けともいえる岩波文庫巻末の「発刊に際して」という文章には「生命ある不朽の書を少数者の書斎と研究室とより解放して街頭にくまなく立たしめ民衆に伍せしめる」とあります。
太田忠司 @tadashi_ohta
つまり文庫とは智を広く民衆に解放しようという意図の元に、手軽に安価に名作を読めるようにしたものなんですね。だから当初は名作しか文庫にならなかった。最初の岩波文庫は夏目漱石『こころ』、幸田露伴『五重塔』、樋口一葉『にごりえ・たけくらべ』などだったようです。
太田忠司 @tadashi_ohta
そんな文庫の性格は昭和50年代くらいから少しずつ変わってきます。いわゆる文学だけでなくエンターテインメントの名作も文庫化するようになるんですね。僕の若い頃はすでにそんな雰囲気でした。1971年から角川文庫が横溝正史の作品を文庫化しはじめて、それが大ブームになったりね。
太田忠司 @tadashi_ohta
で、僕らにとって文庫で出る作品は、生まれる前に書かれてものであってもすでに知っている名作ではなく、まったく目新しい作品でした。だから横溝の新しい文庫をまるっきりの新作みたいな感覚で読んでいた。ここで文庫の認識が変わりはじめるわけです。
太田忠司 @tadashi_ohta
でも文庫が廉価版であるという位置づけは変わりませんでした。本とは単行本のことでした。ただ、次第にリアルタイムで新作として出た本であっても、ある程度の間隔を置いて文庫化するというシステムが出来上がってきました。出版社としても著者としても、それは「二度美味しい」売り方でした。
太田忠司 @tadashi_ohta
以前にもツイートしたことですが、僕がデビューして間もない頃、東野圭吾さんに「最初はいい作品をたくさん書きなさい。そうすれば3年後にはそれが文庫になって、生活が楽になるから」と言われました。言われたとおりに一生懸命書き続けたら、たしかに3年後から文庫化が始まりました。
太田忠司 @tadashi_ohta
単行本→文庫という二段構えの本の売り方は、そうして確立しました。その場合もちろん単行本がメインです。僕の場合はノベルス(新書)という廉価版の判型がメインの戦場でしたけどね。でもノベルズであっても3年後には文庫になっていた。
太田忠司 @tadashi_ohta
その売り方に大きな変動を与えたのには、ライトノベルの台頭があると思います。若い読者向けに安価で手軽な文庫版から新作を出す。それがヒットしました。読者はいきなり文庫で新作を読むようになり、このジャンルにおいては単行本の存在は忘れられました。
太田忠司 @tadashi_ohta
読者の意識も変わってきます。「別に新作であっても最初から文庫で出してもいいんじゃない?」というひとが増えてきました。でも出版業界はあくまで「単行本で出して後に文庫にする」というシステムの上で経営を成り立たせてきました。加えて、単行本という形に愛着を持つ読者も、まだまだ多いです。
太田忠司 @tadashi_ohta
しかし、そういう旧来からの経営システムも、そろそろ変更を迫られているんだろうな、と僕は思っています。理由は言うまでもなく、21世紀に入ってから続いている出版不況です。とにかく本が売れなくなりました。特に単行本に冠しては、どの出版社でも壊滅的に売れなくなっています。
太田忠司 @tadashi_ohta
だからライトノベルでない小説であっても最近はいきなり文庫で刊行されることが多くなってきました。文庫ならまだ売れる見込みがある、という考えからです。まあ、最近はその文庫も売り上げが落ちているという怖い話も聞こえてきますけどね。
太田忠司 @tadashi_ohta
そんな状況なのになぜ単行本で出すのか。それは「当たればでかい」からです。新聞の本の広告を見てください。「〇万部突破!」「〇〇で第一位!」というコピーが躍っているでしょう? 雑誌さえ売れなくなってきた昨今、そういうヒット作が今の出版社の屋台骨を支えています。
太田忠司 @tadashi_ohta
しかし当然のことですが、どんな本がヒットするのか前もって予測はできません。絶対売れると言われた本が駄目だったり、こんなの誰が買うんだとまで言われた本が大ヒットする。そんな状況で出版社が、そして著者ができることは「とにかく単行本を出すしかない」なんです。
太田忠司 @tadashi_ohta
つまり今、単行本で本を出すということは「これ、売れるかもしれない。頼む、売れてくれ!」という思いが詰まっている、ということです。そして当たれば万々歳。外れてしまったら「これは文庫にしても売れないよなあ」と烙印を押されます。
太田忠司 @tadashi_ohta
「最初から文庫で出せばいいんじゃない?」という当初に問いには、僕はこう答えます「気持ちはわかるけど、トライさせてください」と。
太田忠司 @tadashi_ohta
「最初から文庫で出せばいいんじゃない?」という当初に問いには、僕はこう答えます「気持ちはわかるけど、トライさせてください」と。
太田忠司 @tadashi_ohta
このシステムが続けられるかどうか僕も疑問に思っています。電子書籍のことも含め大きな変革が必要になっている。出版社の形態も変わっていくかもしれない。本の形も変わるかもしれない。 でも、最後に個人的な気持ちを言います。僕は単行本という本の形が、好きです。なくなってほしくありません。

コメント

通りすがりのだいこん @KansaiF 2018年8月14日
プロデビューで、単行本にしてもらって、嬉しがって親戚中に配る、夢ですよね…
denev @_denev_ 2018年8月14日
安い文庫本じゃなくて、高い単行本のほうを買えってことだよね。
すらーく @slarq 2018年8月14日
このまとめ読んでも最初単行本で出版、売れたら文庫化システムのメリットがわからないんだけど。出版社や作者側の見栄やメンツみたいな勝手な都合のように思えてしまう。
tama @tamama666 2018年8月14日
slarq 最初は単価高い単行本だから数はでなくても出版社の売上と作者の印税的に美味しくて、もしそこで売れればすごく美味しい さらに業界の目に止まればドラマ化や映画化もあってさらなる売上と印税を期待 そして三年後に文庫本で同じサイクルのチャンスという事では? 少なくとも新刊として書店に広く並ぶチャンスが2度あるので
ナコ @nako_harunatu 2018年8月14日
漫画本だって単行本と文庫は違うんだから小説だって別にいいでしょ 漫画に最初から安く文庫で売れって人全然いないじゃん まぁ漫画の場合はサイクルが全然違うし結構なヒット作でもないと文庫にならんから事情は違うけど
NTB006 @NTB006 2018年8月14日
サイズが大きい。というのは、保存場所の問題もあるけど、電車などで読むなら小さい方が楽。というのもあるから。
キャンプ中毒のドライさん(Drydog(乾)) @drydog_jp 2018年8月15日
一周遅い。 今のキーワードはなんで電子書籍で出さないの? だ
ehoba @htGOIW 2018年8月15日
紙に比べて、てんで売れないからでしょ
棚橋青 @ao_tanahashi 2018年8月15日
slarq 映画を映画館でやって、ソフトを売って、それからテレビで放映するようなもんじゃない。単行本の方が売り場でも目立つし、後々他の形態で売り出すためのCMにもなってた、とか……?
闇の聖母ガラテア @galatea_rs3 2018年8月15日
そういえば東野圭吾は電子書籍反対派だったが今はどうなんだ
フローライト @FluoRiteTW 2018年8月15日
今は ”置き場を取らないからいくらでも買えるぜ”電子書籍 vs ”愛ゆえに生活空間をお前にささげよう”リアル書籍 の戦いで、リアル書籍もコンパクトな文庫本が求められていると思うんだよ。文庫が先、売れたからファンアイテムとしてハードカバーを出すって方針に切り替える方がいいと思うんだよなあ。
フローライト @FluoRiteTW 2018年8月15日
図書館とかも、先に文庫なら「待つな、買え」の主張を強く出せるし、人気定着後のハードカバーなら収蔵する意味も耐久性もキチンと確保できてるから置きやすいと思うんだ。
tama @tamama666 2018年8月15日
FluoRiteTW 図書館が書店に与える売上機会損失が最大13.5%もあるという論文もあるので出版社としてもあまり図書館が今以上に大量には扱って欲しくないかも
フローライト @FluoRiteTW 2018年8月15日
tamama666 だからこその上記の展開です。図書館は文庫発売の「数年後」にベストセラーに限って限定で出版されるハードカバー単行本を収蔵する。売上機会を言うならそれまでに文庫で稼いでいるし、そもそも刷る部数が少ないので影響は今よりも低くなる。 貸出するためには文庫よりも頑丈なハードカバーの方が適しているし、現状のように話題作を複数購入して順番待ちで貸し出すような状況にもならないし、「人気の新刊がない」という事以外は上手く収まるのではないかと。
まっくろなねこ @blackcat009 2018年8月15日
結局のところ、売る側の都合だけで、買う側の利便性とか都合はどうでもいい、と。
はるを待ちかねた人でなし @hallow_haruwo 2018年8月15日
電子書籍で売れた作品がコレクターズアイテムとしてハードカバーで売りだされるみたいなのが一般化する時代もそのうち来たりするのかしらね。いや、ジャンルによってはもうなってるか。
🦅あえとす⛩️ @aetos382 2018年8月15日
結局、中身の文章は同じわけじゃない? それでも媒体としてちょっと豪華な単行本が好きだという人は、それはそれで構わないけれど、何に価値を見出すかは人それぞれだし。この前、某所でやってた「お前は紙束に価値を見出すのか」みたいな話と絡めるとどうなるかね?
senjuhidenobu@千石堂 @hdnbsnj1010 2018年8月15日
後で見ようとモーメントにしていたが、まとめられていたのか
F414-GE-400 @F414_GE_400 2018年8月15日
単行本だと本屋にディスプレイする時に訴求力があるのかな?特に普段本を読まず、TVなどで「~が大ヒット!」などと目にしてやってくる層には効果がありそう。文庫で売り出してヒットしたら単行本を「豪華版」として出すというビジネスモデルはどうだろうか?
F414-GE-400 @F414_GE_400 2018年8月15日
コメ欄で文庫→単行本にしたらって意見はもう出てたのか。読まずにコメントしてスマン。
🤓k.bigwheel🤓 SREエンジニア@Speee株式会社 @k_bigwheel 2018年8月15日
立場が中立でないにもかかわらず、ポジショントークを堪えて冷静に現状を考察している良いまとめ
悟りを壊すもの @satoriwokowasu 2018年8月15日
ハードカバーは500冊(?)ほど刷って、後は文庫版でいい。  いっそのこと作者のぶんだけハードカバー作ってもらえば?
想 詩拓@文芸サークル『文机』 @sou_sitaku 2018年8月16日
作者さんには申し訳ないが、理解しない。単行本好きじゃない。文庫で売って欲しい。
バニー@Captain・bookseller @bunny0521 2018年8月16日
まとめ作ってくださったのね。見易いです。ありがとうございます!
バニー@Captain・bookseller @bunny0521 2018年8月16日
このまとめの真意は「文庫よりもハードカバーを買え」では無い。 「文庫本になったら買いますね」を作者に直接言わないで欲しい、という事。文庫も電子も買って貰えるのはありがたいの。でも文庫本を買いますね=お前の本はハードカバーの価値はないでしょ、と同義語にとる作家さんもいる。(図書館で借りますも同じ) 文庫化を待つなら「新刊楽しみです。早く読みたいです」 図書館で借りたとしても「読みました!おもしろかった!」でいいの。 直接でなければご自由に呟いてください。でも大好きな作家さんに言う時は考えて欲しい
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