[R-18]魔女シリーズ2~食用人種なのに貧相で出荷されない少年がお姉さんに世話してもらう話

災いの仔ムンリトと戎牙(じゅうが)すなわち獣人の牧童カズサの物語 ほかのお話は以下 魔女シリーズ一覧 続きを読む
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帽子男 @alkali_acid

尋ねてから牧童は歯噛みした。ほかの三人の仔を見送ったときには決して口にしなかった問いだった。 少年は表情を変えずに答える。 「こわいです」 「逃げないのか」 「逃げたら、サルウやシュトイやウィリンカのところにいけない」 「…あの子等はもういない」 「まだいます」 「いない」

2018-07-07 19:00:33
帽子男 @alkali_acid

「とにかく、いってみます」 すたすたとムンリトは橇に乗り込む。カズサはうなってから、後に続いた。 「私もゆく」 「どうして」 「お前が何かしでかさないか見張る」 「ここにいた方がいいと思います」 「だめだ」

2018-07-07 19:02:03
帽子男 @alkali_acid

だが神鋼でできた召使が牧童を押し戻した。出荷するのはあくまで味のよい食用人種であり、肉の硬そうな労役人種ではないのだ。 「…ムンリト!」 「いってきます」 「まて!お前!何をたくらんでいる!」 「なにも」 「まて!」 甲冑もどきの群がひく橇が柵を抜けて走り出す。

2018-07-07 19:04:51
帽子男 @alkali_acid

女は一声吠えて四つ足になると、尾を振りたてて出荷物の後を追った。 距離を置いて、雪原を二つの影が駆けてゆく。あとには常春の牧場だけが、家畜も牧童も失ってただ青々とした草を茂らせていた。

2018-07-07 19:06:27
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 神仙の住処は何重もの泡の幕でおおってあり、内側からは、それらが虹のように煌めくようすが見えたが、外側からはただの荒れ果てた禿山でしかなかった。

2018-07-07 19:09:13
帽子男 @alkali_acid

泡は、いただきあたりから落ちる大瀑布から次々に生まれ、膨らみながら、すでにある泡にくっついて幕を強くする。 たとえ荒々しい風雨や雪、雹などによって一番外側の泡が弾けても、内側にはすでに新たな泡がついているので、すべてが消えてなくなる恐れはない。

2018-07-07 19:10:58
帽子男 @alkali_acid

最後の畜童を運ぶ一行は、事実、雷雲とどろくなかをほうほうの態で戻ってきた。 雪は途中で消えていたので、橇は輿になり、がらんどうの召使達が担いで運んできたのだった。 旅のさなかに襲撃にあったのか、数体がびっこをひき、あるいは腕をだらんとぶらつかせている。

2018-07-07 19:14:18
帽子男 @alkali_acid

"天魔…海霊が…手をたずさえたがごとく…嵐が…我が庵を震わす" 山の中腹に開いた窓から嵐をながめながら、詩を吟じるがごとくつぶやいたのは、食用人種の牧場主であり、牧童の馴らし手である神仙だった。

2018-07-07 19:16:48
帽子男 @alkali_acid

森の巨人の何倍も大きな神鋼でできた甲冑にくるまっているが、中身である姿はどこかやせ衰えているようだった。 幅広い金属の胸郭(きょうかく)には、三つの宝石飾りがはまっている。それぞれ青、赤、黄で、あと一つ暗くなっている部分がある。 大きくしかし優雅な指が、青の飾りをつついた。

2018-07-07 19:19:35
帽子男 @alkali_acid

すると宝石の内部が透き通り、瑠璃の肌をした男児が浮かび上がる。 くらげのような透き通った、なよやな肢体をしているが、耳や鼻の孔、なだらかな胸やへそ、性器、排泄口などに大小の神鋼の管が刺さり、四肢にもそこかしこに食い込んでいる。

2018-07-07 19:24:02
帽子男 @alkali_acid

"奏で…よ…" 水の化身のような少年は痙攣し、声変わり前の喉から苦悶と恍惚の混じった悲鳴を上げるが、管はざわめくように動いて、音程に強いて抑揚をつけ、楽曲のように整えてゆく。 "いまひとつ" 神鋼の指が黄の宝石を叩くと、断ち切れた翼を持つ少女が浮かぶ。同じく金属の管が刺さっている。

2018-07-07 19:26:29
帽子男 @alkali_acid

少女も嬌声と絶叫の混じった甲高い歌をほとばしらせる。管はそれぞれの未熟な体と心から何かを吸い上げ、甲冑の芯に座す神仙に運ぶ。 まるで老人がむせないように用心深く羹(あつもの)をすするように、わずかずつわずかずつ、幼い命を味わい食らいながら、牧場主は満足の吐息をついた。

2018-07-07 19:29:21
帽子男 @alkali_acid

"まもなく…かように…味を見る…でなく…我が飢(かつ)えを…満たす…ときがくる…" 甲冑の指が、赤い宝石を叩くと、真紅の鱗を持つ少年があらわれる。ひどく暴れたせいか管が複雑に肢体にからまり、牙のあるあぎとはそのうちの一本にかじりついたまま、双眸は白目をむいていた。

2018-07-07 19:33:02
帽子男 @alkali_acid

懲罰のように菊座に数本の太い管がまとめて押し入ると、蜥蜴のようなおもむきのある赤の子はまたもがき、意識を取り戻したが、大きく開いたk句碑は舌を突き出してあえぐだけで、ほかの二人と違い声が出ない。 "四つを…一度に…さすれば…ふたたび…"

2018-07-07 19:35:32
帽子男 @alkali_acid

牧場主が視線を下方に振り向けると、待ち望んでいた最後の食材が到着したところだった。 "よきかな" 緑の子はおっとりした面持ちで雲つくような甲冑を見上げた。 「こんにちわ」 "よき…ひよりなり" 山のあなたでは暗雲のあいだを稲光が走っていた。

2018-07-07 19:37:38
帽子男 @alkali_acid

"緑の畜童よ…汝は…ほかの子等と異なる" 「そうでしょうか」 "樹々の民は…どこか変わった" 「そうかもしれません」 "だが…我が聖餐にはかかわりなきこと" 「そうでしょうか」 "来るが良い" 巨大な胸郭にある四つ目の暗い宝石飾りから神鋼の管があまた伸びる。

2018-07-07 19:40:28
帽子男 @alkali_acid

「お待ちを!!」 だしぬけに滝でさえぎられた入り口を貫いて、矢のように一匹の獣が駆け込んでくる。剣呑な神鋼のつけ爪をつけた牧童。カズサだった。 「神仙よ…牧場主よ…どうかお待ちを…その子は…正しい育ち方をしていません」 "牧童よ…牧場を離れてはならぬ” 神仙は感情を見せず叱った。

2018-07-07 19:43:10
帽子男 @alkali_acid

女はとがった耳を伏せ、縮こまって伏せたが、気力をふりしぼって頭をあげた。 「その子はムンリトは…牧場の柵の外に出て大きくなりました…よからぬ育ち方をしたのです。だから…口にされては体に毒になるかもしれません」 ”案ずるな…緑の子からは十分に健やかだ” 牧場主の反応はにべもなかった。

2018-07-07 19:45:24
帽子男 @alkali_acid

"緑の子だけ…新たに集めていては…ほかの子等がもたぬ…すべてやり直しになる" 牧場主は、牧童に対して、育ててきた家畜のようすを見せつける。透き通った青の子と、翼ある黄の子と、鱗ある赤の子がそれぞれ絶頂を繰り返し、失神と覚醒を繰り返すさまを。

2018-07-07 19:48:21
帽子男 @alkali_acid

カズサは鼻を鳴らし、ウィリンカ、シュトイ、サルウの末路を凝視した。 「わ、私は…私は…」 "野生から…馴らした…おちつきが…ない…だがよく…働いた…飴をやろう…" 宣告とともに、鐘に似た音が鳴り、四つの胸や秘所に食い込む神鋼の輪が震えると、逞しい雌は甲高く哭いてもんどりうった。

2018-07-07 19:51:52
帽子男 @alkali_acid

がらんどうの召使がぞろぞろと暗がりから進み出て、女を官能で責め苛むために群がろうとした。 その一体の頭に、ごつん、と音を立てて何かがあたる。 輝く輝石だった。結晶は石床に落ちると、まるで生きもののように棘を伸ばして食い込み、巨大な人型に育つ。 "この術は…" 「魔女の術」

2018-07-07 19:54:52
帽子男 @alkali_acid

萌葱の肌をした少年が、聞かれたからという風情で答えた。 巨大な甲冑が身を乗り出す。 "魔女…神仙の道を外れたもの…なぜ…畜童がその術を…" 「なんとなく」 "なんと…" 「なんとなく」 蔦の髪を持つ男児は次々と輝石をほうって、巨人を生み出していく。

2018-07-07 19:57:19
帽子男 @alkali_acid

"そなたは…はじめから…" 「古き牧は滅びよ」 "はじめから…わざと食用になりに" 「そうかもしれません」 石床がことごとく巨人に変わると、剥き出しになった地面にムンリトは根を下ろした。

2018-07-07 19:59:30
帽子男 @alkali_acid

なめらかな背中から鹿角のような根が伸び、髪の毛がどこまでも広がって蔦となってからみつくと、緑の子は巨樹へ変じていた。 "…天魔…海霊…火妖…樹精…食用となるべきものども…すべて手を結んだのだな…" 「そうかもしれません」 "だが…衰えたりとはいえど…神仙に抗えようか" 「はい」

2018-07-07 20:03:14
帽子男 @alkali_acid

山の中の広間で巨大な甲冑と樹木は組み打ち、互いを拉ごうと争った。 "魔女…魔女は…樹精とのあいだに…子をなしたのか…" 「わかりません」 "おお…おお…" 根と枝が関節から甲冑の隙間に押し入り、蹂躙し尽くすと、とうとう神仙の座す場所にまで回って四方から貫いた。 "おお…これも…よい…"

2018-07-07 20:07:24