[R-18]魔女シリーズ3~少年放牧場におけるしつけ、お姉さんの趣味と実益を兼ねた妙技

災いの仔ムンリトと冬鬼ハヴァフ、それに火妖サルウ、海霊シュトイ、天魔ウィリンカの物語 ほかのお話は以下 魔女シリーズ一覧 続きを読む
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帽子男 @alkali_acid

また牧場を囲む柵が揺れる。 さすがに容易ならぬ気配を察し、ムンリトは豆を入れた籠を髪から切り離して地面に置くと、泡の幕に向きなおった。 氷柱でできた槍が、柔らかく透明な障壁を貫こうとしている。 「なにかごようでしょうか」 尋ねると同時に、柵が凍てつく武器をはじき返す。

2018-07-08 18:18:01
帽子男 @alkali_acid

いつのまにか、氷柱と雪塊が組み合わさった百足(むかで)のおばけのような怪物が、すぐそばまで迫って来ていた。 「なにかごようでしょうか」 ムンリトはなおも問いかける。 答えて霰と雹の嵐が泡の幕を乱打し、とうとう百足のなげつける槍の一本が障壁を突き破った。

2018-07-08 18:20:45
帽子男 @alkali_acid

「すいません。さむいのでしめてもらえますか」 だが霜があっという間に豆畑を凍り付かせると、さらには地面に足を差し入れていた小さな農夫をも白く凝らせた。 ムンリトはとろんとした目つきになって、瞼をおろし、やがて眠りについた。

2018-07-08 18:23:43
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 居心地のよい厩舎の片隅に湿った音と喘ぎが重なる。 「カズサ…カズサぁ…」 「苦しいか?ウィリンカ」 「ちがうの…ちが…きもちいいの…」 獣人の雌は有翼の少女を膝に載せて愛撫していた。爪をひっこめた毛むくじゃらの指が、うっすらと羽毛の生えた割れ目をかき分け、刺激する。

2018-07-08 18:26:13
帽子男 @alkali_acid

「乱暴ではないか?」 「ううん…やさしいよ」 「そうか…私は、やさしくされたことがないから…うまくできているか自信がない」 「カズサ…かわいそうな…でもカズサ…やさし…んっ…」 牙の生えた牧童のあぎとと、艶やかな家畜の唇が重なり、長い舌が幼い口腔にもぐりこんで唾液を交換する。

2018-07-08 18:28:21
帽子男 @alkali_acid

カズサがウィリンカの全身を指と舌で愛撫すると、治りかけの四枚の翼が痛々しいほどはげしくはばたき、恍惚を伝える。 「噛んで、がぶってして」 「でもウィリンカ」 「カズサに…たべて…ほしぃっ」 「ああ…」 女児のなめらかな肌に、そっと大人の女が犬歯で跡をつけていく。

2018-07-08 18:31:19
帽子男 @alkali_acid

ほのかなうずきとともに広がる快さに、ウィリンカは涙を流しして随喜の歌を囀る。 獣人の雌のたわわな四つの乳房のあいだに、有翼の少女のほっそりした首がうずもれ、汗に濡れた金髪が窓から差し込む陽射しにきらめく。 「あ…ぅ…もっと…がぶってしていいのに」 「ウィリンカの肌は柔らかすぎる」

2018-07-08 18:33:58
帽子男 @alkali_acid

少女は深呼吸をしてから親がわりの女に上目遣いを向けた。 「ごめんねカズサ…こんなことばっかりさせて」 「何を言う。お前達を、一度は牧場主の食用として差し出した私に…できることがあれば…」 「ううん…カズサをよろこばせてあげたいのに…いつも自分ばっかり」

2018-07-08 18:36:01
帽子男 @alkali_acid

牧童は優しく家畜の背を撫でて揺すりながら訊ねる。 「やはりムンリトから“鎮まり茸”をもらった方がいいのでは…あれで体のほてりはおさまるだろう」 「…いや」 「どうして」 「だって…ムンリト…なんだか怖い…」 「怖い?」 「まるで…私達を食べようとした…牧場主…神仙みたい…」

2018-07-08 18:37:41
帽子男 @alkali_acid

カズサはウィリンカを抱いたまま黙り込む。両の瞳を閉ざすと、最年長の少年の、はた目には性別の定かならぬ容貌が浮かぶ。確かに萌葱のかんばせの奥には近頃どこか、底知れぬものが潜んでいるように思える。 「お前達を救ったのはムンリトだ」 「うん…でも…」

2018-07-08 18:40:08
帽子男 @alkali_acid

黄の娘は翼を閉じ、年嵩の女の腕の中で縮こまる。 「なんだか私達、また別の牧場主に飼われてるみたい」 「そんなことは…」 「いつか…ムンリトが…私達を食べちゃうのかな…」 「そんなことはない…ムンリトはそんなことはしない」 「ほんとに?」

2018-07-08 18:42:27
帽子男 @alkali_acid

獣人の雌は返事をしようとして、窓から入ってきた冷風を嗅いだ。 「ウィリンカ…」 「うん。わかるよ。風が変わった」 二人はまじめな顔で見つめ合う。 「風はどっちからだと思う」 「豆畑の方から」 「もしかして…ムンリトに何かあったかもしれない。見てくる」 「私もいく!」

2018-07-08 18:45:03
帽子男 @alkali_acid

「だめだ」 カズサは短く告げて、抱いていた荷を下ろし、立ち上がると、すばやく神鋼の付け爪を腕と踵に帯びようとする。だがウィリンカは従わなかった。 「ムンリトだけじゃない!私だって役に立つよ」 「危険だ」 「へいきだってば!」 「分かった…でも危なくなったらすぐに逃げて」 「うん!」

2018-07-08 18:47:11
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 樹人の仔は、気づくと氷でできた宮殿にいた。手足は凍てついたまま動かせない。 目の前には全身から結晶の花を咲かせた少年が立っている。肌は新雪の白さ。双眸は煌めく銀だ。 「こんにちわ」 寒さに震えながらムンリトはあいさつする。 「人食いも礼儀を知るか」 冷たい声が響く。

2018-07-08 18:50:50
帽子男 @alkali_acid

「人食いではないとおもいます。豆は食べます」 「お前は人食いの牧場の主だ。人食いでなくてなんだ」 「人食いではないとおもいます」 「ではなんだ」 「主に豆を食べています」 「豆だと」 「豆です」

2018-07-08 18:52:52
帽子男 @alkali_acid

緑の子と白の子はにらみあった。というか一方が一方を憎々しげにねめつけた。 いきなり氷柱の槍が、萌葱の肌に斬りつけ、血を流させる。たちまち凍てついた命の雫を、結晶の少年は白い舌で舐めとった。 「お前の血は…かすかに人食いの味がする」 「そうかもしれません」 「人食いでなくても手下だ」

2018-07-08 18:55:23
帽子男 @alkali_acid

「違うと思います」 「ではお前はなんだ」 「主に豆を食べています」 「余を馬鹿にしているのか!」 「馬鹿にしていません」 応対しながらだんだんと気が遠くなってきたムンリトはなんとかまた眠けに呑まれまいと頭を振った。霜の張った蔦の髪が揺れて、白い欠片を落とす。

2018-07-08 18:57:23
帽子男 @alkali_acid

白い子はどこからともなく入って来る光を反射させながら、虜囚の周りを歩き回った。 「余を侮っているな。人食いどもにとって、冬鬼などもはや敵ではないと言うつもりか」 「よく分かりません」 「はぐらかすな。お前達が先祖の領土を切り取り、あの牧場を作ってから、どれだけ経ったと思う」

2018-07-08 18:59:25
帽子男 @alkali_acid

「よく分かりません」 「余は幾度も偵察を送り込んだのだ。お前が柵を出て周囲を警戒しているのも見たぞ。あそこに囚われたただの生贄ならそんなまねはできまい」 「確かにそうですね」 「何!やはり馬鹿にしているな!余などその気になれば倒せるとでもいうつもりか!人食いの手下!」 「いいえ」

2018-07-08 19:01:52
帽子男 @alkali_acid

冬鬼を名乗る男児はいっそういきりたって霰と雹をぶつけた。 打ち身のできた樹仁の仔はしずかに抗議する。 「いたいです」 「痛めつけているのだ」 「なるほどそうですね」 「ぐぬ…お前!!お前すごく気に入らぬぞ!!」 「ごめんなさい」 「お前達は皆気に入らぬ!!生贄のくせに!」

2018-07-08 19:07:19
帽子男 @alkali_acid

「人食いの餌のくせに、あの泡の中でふざけ回り、逃げようともせぬ!おまけに…近頃はあんな…変な…どきどきする…とにかく許せぬ!」 雪の肌を氷の花で飾った少年は、宮殿にこだまする金切り声を挙げてから落ち着いた。 「お前だけではない…家畜に甘んじる輩は皆殺しにしてくれる!」

2018-07-08 19:09:58
帽子男 @alkali_acid

「それはよくないと思います」 今にも寝入ってしまいそうなけだるさの中でムンリトはどうにか反駁した。 「よく知れば皆と仲良くなれます。サルウも、シュトイも、ウィリンカも、カズサも」 「誰が誰やらわからぬ!」

2018-07-08 19:12:03
帽子男 @alkali_acid

緑の子はあくびをこらえて告げる。 「赤い鱗のある子がサルウ、青い透き通った肌の子がシュトイ、黄の翼があるのがウィリンカ、とがった耳と毛皮があるのがカズサ」 「カズサ…あの狼のような…熊のようなものはカズサというのか」 「はい」 「…そうか…カズサだけは生かしておく」

2018-07-08 19:14:49
帽子男 @alkali_acid

ムンリトはうとうとしながらもつれた舌をどうにか振るった。 「ほかの子とも仲良くなれます」 「いらぬ!余はカズサだけいればよい」 「たくさんいたほうがにぎやかでいいですよ」 「黙れ!お前はそのまま凍え死んでゆけ!お前が一番気に入らぬ」 「ごめんなさい」

2018-07-08 19:16:11
帽子男 @alkali_acid

ささやくようにあやまったあと、蔦の髪を持つ少年はうなだれて覚めぬまどろみに落ちていったようだった。結晶の花を咲かせた少年はじっとかがんでそのかんばせを覗き込む。 「おい…もう…死んだか…」 「あ…まだです」 のろのろと返事をするムンリトに、冬鬼はかっとなって雪玉をぶつける。

2018-07-08 19:18:06