[R-18]魔女シリーズ3~少年放牧場におけるしつけ、お姉さんの趣味と実益を兼ねた妙技

災いの仔ムンリトと冬鬼ハヴァフ、それに火妖サルウ、海霊シュトイ、天魔ウィリンカの物語 ほかのお話は以下 魔女シリーズ一覧 続きを読む
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帽子男 @alkali_acid

「馬鹿にしているな!」 「して…いま…せん…そうだ」 「なんだ!」 「お名前を聞いてもいいですか」 「死にゆくお前にか?余の名を?」 「はい」 「余は…ハヴァフ…もはや呼ぶ同胞とておらぬが…」 「ありがとう…ございます…あと皆と会うときには、それ、名乗った方がいいと…思います」

2018-07-08 19:19:42
帽子男 @alkali_acid

今度こそがっくりと首を落としたムンリトを、ハヴァフはなおも疑わしげにようすをうかがった。 「おい…本当に…死んだか…?余…余はようしゃなど知らぬが…おい…」 「むにゃむにゃ…おかゆ…おいしく…ないです」 「馬鹿にして!」 狂ったように囚人に雪玉をぶつけながら、冬鬼はなお猛り狂った。

2018-07-08 19:22:14
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 赤、青、黄の子等と、養い親とは霜にやられた豆畑にたたずんでいた。 「ムンリトがさらわれた?」 「あいつがやられるなんて信じられないけど」 「でも間違いないの。だって牧場の柵がどんどん弱まってる。外の冷たい風が入って来るよ」 少年少女が高い声で喋り合う。

2018-07-08 19:24:56
帽子男 @alkali_acid

やや離れたところで、年嵩の女は両手両足をつけて鼻面を地に押し付け、匂いを嗅いでいた。やがて泡の幕の一角に視線をあげてうなり、子供等をかえりみる。 「…お前達はここにいろ。私がムンリトを取り戻してくる」 「私もいく」 「俺も」 「俺もいく」

2018-07-08 19:27:01
帽子男 @alkali_acid

カズサがたじろぐと、赤のサルウが火の鼻息を噴いて告げる。 「ムンリトはなんかえらそうだけど、命の恩人だし。次は俺が助ける」 青のシュトイがその背に飛びついて言う。 「こいつだけだと、かっこつけてへまするから俺もついてく」 黄のウィリンカは翼で肩を包むようにしてもじもじする。

2018-07-08 19:30:03
帽子男 @alkali_acid

「私…ムンリトがこわい…前とちがってるから…でも…だから…ちゃんとお話しないと…」 牧童は幼い家畜を見渡して牙を鳴らした。 「分かった。だが相手の正体は不明だ。私が逃げろと合図したら、従えるか。例え私やムンリトを置いてでも」 「うん」 「もちろん!」 「ちゃんとやる」

2018-07-08 19:32:08
帽子男 @alkali_acid

あまり信用できないという表情で、獣人の雌は、火妖、海霊、天魔を眺め渡してから、しかたないと受け入れた。 「ではゆくぞ。ついてこい」 すぐに四つ足をついて迅雷のごとく駆けだす。あとの三人は劣らぬ速さでついていった。

2018-07-08 19:35:21
帽子男 @alkali_acid

「サルウ。あんまりいそいじゃだめだ。カズサのうしろにいないと」 「わかってるよ!」 青と赤の子が呼び合うのを、黄の娘は横目で一瞥する。 「ねえ、二人とも、何かあった?」 「え?」 「な、なにが?」 「…なんか、仲良しになった」 「べ、別に」 「そ、そうだよ 「ずるい」

2018-07-08 19:36:33
帽子男 @alkali_acid

「そっちこそ、カズサにべったりじゃんか」 「そうだよ。俺達だってカズサと一緒がいいのに」 「…だって…ずっと会えなかったんだもん…そっれより…私のこと仲間外れにしてる?」 「してないよ…えっと」 「サルウ。約束だぞ」 「うん。ウィリンカもあとで混ぜてやるよ」 「ほんと!よかった!」

2018-07-08 19:38:03
帽子男 @alkali_acid

そうして獣が導く先に、火、水、風が随(したが)ってゆく。いずれも疲れを見せず、またたくまに十里を踏破する。 やがて地平に氷の宮殿があらわれる。 「なにあれ!」 「あんなのあったっけ」 「牧場から出たことないから分かんないよ」 幼い家畜のざわめきに、牧童は低く唸った。 「気を付けろ」

2018-07-08 19:40:07
帽子男 @alkali_acid

氷柱を逆向きにしたような尖塔の一つから、白い光が飛び立ち、まっすぐ向かってくる。 「ちぇっ、不意打ちしようと思ったのに。まあいいや。やっつけてやる!」 真紅の鱗を持つ少年は紅蓮の焔にくるまって迎え撃とうとする。 「待て!」 獣人の雌が制止するが、かまわず先走る。

2018-07-08 19:42:16
帽子男 @alkali_acid

「もお…サルウの馬鹿!」 紺碧の透き通った肌を持つ少年が水柱を蛇のようにうねらせながら後に続く。 「シュトイ!お前まで!」 「私も行く!カズサ見てて!私達だって役に立つの!」 結局、山吹の翼を持つ少女も旋風とともに戦列に加わる。

2018-07-08 19:43:56
帽子男 @alkali_acid

「ああもう!何でこうなる!!」 年嵩の女は神鋼の付け爪を飛び出させて、闘いの態勢に入ると、遅れて駆けだした。

2018-07-08 19:44:51
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 風刃と火球、水柱。 氷柱と雹、霰、雪。 白銀の野の上で、子供等は飛び回りながら互いの術をぶつけあった。 「愚かなり生贄ども!わざわざお前達をむさぼりくう人食いの手先を救いに来るとは!」 「なにいってんだ!」 「ムンリトかえせ!」 「そうだよ!」

2018-07-08 19:50:46
帽子男 @alkali_acid

赤、青、黄、白の光が宙で交錯する。 だが三対一でも、氷の宮殿の主の方が、牧場育ちの家畜より分があるようだった。 「命を奪う前に教えてやろう!余の名はハヴァフ!冬鬼の族長なり!火妖、海霊、天魔といえども、人食いに養われてきたお前達に勝ち目はないぞ!」

2018-07-08 19:53:23
帽子男 @alkali_acid

「うるさい!」 「馬鹿!」 「あなたなんか、神仙に比べたら怖くない!」 なおも果敢に攻めかかるサルウ、シュトイ、ウィリンカの三人に、ハヴァフは白い肌をおおう氷の結晶を怪しく煌めかせると、腕を高く掲げ、巨大な槍を三本作り上げた。 「皆串刺しにしてくれる」

2018-07-08 19:55:33
帽子男 @alkali_acid

対する赤の子は特大の火球を、青の子は水柱のよりあわさった綱を、黄の子は竜巻を織り合わせながら、それぞれ威嚇の輝きを放つ。 「やっつけてやる!」 「いくぞ!」 「せーのっ」 そこへようやく追いついたカズサは目を見開き、ついで四つの乳房を揺らして背をそらせ、大音声を発した。

2018-07-08 19:57:59
帽子男 @alkali_acid

「いい加減にしなさい!!!!」 牧場の子等はびくりとして術を中途で解くと、地上に降りた。なぜか氷の宮殿の主までが従う。 「カズサ。こいつが」 「そうだよ」 「もうちょっとでやっつけられて」 牧童は不機嫌に喉を鳴らした。

2018-07-08 19:59:38
帽子男 @alkali_acid

「けんかはおしまいだ…お前も!いいな!」 小さな冬鬼は首を竦めてから弱々しく話しかけようとした。 「か、カズサと言ったか。余はお前だけは…」 「しずかに!」 だが鞭のような叱咤がさえぎって、最後まで言わせなかった。

2018-07-08 20:01:49
帽子男 @alkali_acid

獣人の雌は四つ足で、白い子に近づき、匂いをかぐ。 「お前がムンリト…樹人の仔をさらったのか」 「い、いかにも。あやつは人食いの手先ゆえ」 「ムンリトは人食いの手先ではない…それは…私だ」 「し、しかし」 「人食いの…神仙に恨みがあるなら、私を狙え。ムンリトは生贄のひとりだ」

2018-07-08 20:04:05
帽子男 @alkali_acid

年嵩の女が見つめると、男児は肩を落とした。 「余は…お前だけは…傷つけるつもりはない…ただ…冬鬼の領土で…勝手に…そやつらが…ふざけ回って…」 「お前たちの住処を切り取って、私の前の主が牧場を作ったのは、許しがたい行いだった。償えるとは思わないが、謝ろう」 「…む」

2018-07-08 20:06:30
帽子男 @alkali_acid

カズサはうずくまったままハヴァフに語り掛ける。 「出てゆけというなら、出てゆこう。どこかにまた私達の暮らせる場所を見つける。だがムンリトには何の罪もない。あの子はただ私達皆を助けてくれただけだ」 「…あやつは…何かすごく気に入らぬ…しゃべり方も…」 「変わっているが、よい子だ」

2018-07-08 20:08:37
帽子男 @alkali_acid

冬鬼は獣人を見返す。 「その…カズサ。お、お前は、出てゆかなくてもよい…余と二人で暮らせば」 「二人?ほかの冬鬼は?」 「おらぬ…人食いどもの手先が…昔…」 「そうか…済まなかった…私は…先にも言ったが…私も手先だ」 「よい。その、カズサはよいのだ」 牧童は悲しげに鼻を鳴らした。

2018-07-08 20:10:37
帽子男 @alkali_acid

「そう…そうやって…誰もが…私を…とにかく、私はこの子等のそばを離れはしない。この子等がそう望まぬ限り…皆で出てゆくか、とどまるかどちらかだ」 「む…む…」 かたえで聞いているサルウとシュトイが顔を合わせ肘でつつき合う。ウィリンカはけげんそうだ。

2018-07-08 20:12:30
帽子男 @alkali_acid

赤の子が思い切って話しかける。 「お前さあ!ひとりがつまんないなら、俺達と一緒に牧場で暮らせばいいじゃん」 「そうそう。俺達を食べようとしてた神仙はもうムンリト…あの、俺達がやっつけたし。だろウィリンカ」 「…えっと…その…カズサがよければ…」 家畜が全員、牧童をうかがう。

2018-07-08 20:14:43