異世界トラベルした先々で自分のウンコがバカ売れして大儲けする話 【前編】

自分の世界ではなんでもないものが、異世界では突然宝になる。そういうことなんですよ。 ウンコが売れたら最高やん。
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帽子男 @alkali_acid

ゴブリンは肩をすくめて駆け去った。今日の予定に加わったろくでもないつとめを指折り数えながら。

2018-10-04 21:36:18
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「ギヒヒヒ、まぬけのエルフめ。なにが旦那だ女房だ。闇の国のおかしな空気でとち狂うにしたって、つまらねえままごともいい加減にしろってんだ」 ひとりになると好き放題罵りながら、ちびの盗賊は急ににやりとした。利き手を握って開くと、大粒の黄玉がはまった指輪が掌にあらわれる。

2018-10-04 21:38:23
帽子男 @alkali_acid

「人間どもといちゃついて、すっかり油断しくさりやがって…あいつのお宝を盗んでやったぜギヒヒヒ!」 「どんなお宝だ」 「なんでも叡智の指輪とか言ってな。はめると言葉や文字がたちどころに分かって、ぐんぐん頭に入って来るんだと」 「便利ではないか」 「ギヒヒ、まあ…ギ?」

2018-10-04 21:40:03
帽子男 @alkali_acid

腐敗と汚穢の街、ゴブリンタウンの王に仕える精鋭、腐肉漁りの兄弟団の見習いだった若者は、またしても背後に気づかれぬうちに接近を受けて凍り付いた。 「し、シルヴィ」 「その呼び方は久しぶりだな」 ドラゴニアの竜騎士にして、闇の国の第一の妃となったシルヴィアが二歩も離れぬあたりにいる。

2018-10-04 21:42:37
帽子男 @alkali_acid

「あんたのことだから、仲良しのルーナ達と一緒にいるんじゃ」 緑肌の若者が縮こまるのへ、銀髪のおとめが首を傾ける。 「私が貴様のそばにいるのはさほどに迷惑か」 「いや、そうじゃねえが」 「厠の始末をして、塩をとりにゆくのだろう。手伝う」 「ギ?あんたが?お姫様が?」

2018-10-04 21:44:51
帽子男 @alkali_acid

「姫などではない。私はドラゴニアでは身分の低い貧乏貴族の娘だった」 「ギヒヒ。おいら達ゴブリンからすればお姫様さ」 並んで歩く大小の影。 「向こうでこんなに清潔な暮らしをしていた覚えもないな」 「ギヒヒ。まったく息が詰まるぜ風呂だの掃除だの」

2018-10-04 21:47:03
帽子男 @alkali_acid

シルヴィアが淡く笑って、耳にかかった絹糸のような髪をはねる。 「貴様がまめまめしく働きすぎるのだ。だからみんなついあれこれ頼む。もっと手を抜いたらどうだ」 「ギヒヒ。そうしてえが強いものには逆らえねえ」 「貴様はいつもそう言うが、強いか弱いかをどういう物差しで…」

2018-10-04 21:49:03
帽子男 @alkali_acid

「ギヒ、さてこの辺だ」 ボルボが呪符を出して振ると、ほうきやはたきを持った骸骨の群が跳ねながら集まって来る。ツィーツィーが闇の国に眠る魔性の骸から作り上げたキョンシーだ。もっぱら雑用をしている。 「厠の壺のしまつと、塩とりだ!働いてもらうぜ、いにしえのつわものさん方よ」

2018-10-04 21:51:10
帽子男 @alkali_acid

しばらくするとかすかな地響きがして、何かもっと大きな屍が弾んでくる。 腕組みをして見守っていた竜騎士は鼻白んだ。 「おい…まさか」 「ギヒ、手伝ってくれるんじゃないんで?」 「わ、私のプラティムを…」 「ドラゴンのキョンシーなら重たい便壺を運ぶのにちょうどいいやギヒヒ」

2018-10-04 21:52:58
帽子男 @alkali_acid

シルヴィアは青筋を立てて怒鳴りつけようとする。 だが骸骨だけになり、眼窩に燐の灯をともしたかつての伴侶、天竜プラティムのなれのはてたるドラゴンキョンシーは、死してなお旧主に忠誠を示し、すっかり様変わりした鼻先をこすりつける。 「くっ…」 「竜騎士さん。どうすんで」

2018-10-04 21:55:51
帽子男 @alkali_acid

ドラゴニアの武人は歯ぎしりして、ゴブリンタウンの屍漁りをねめつけた。 「貴様はやはり最低のくずだな」 「ギヒヒ、違ぇねえ」

2018-10-04 21:56:52
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 闇の国の宮殿で使っている塩は、都からかなり離れた平野で採れる。数えきれないほどの人馬がそのまま白い結晶の柱になって並ぶ場所があり、そこから削り取ってくるのだ。 「人の形をした塩か。いったい、かつて何があったのだと思う」 「ギヒ、知ったこっちゃねえ。毒じゃねえんだしよ」

2018-10-04 21:59:01
帽子男 @alkali_acid

ゴブリンの男と人間の女。あまり似合わぬ連れ合いが、のんびり言葉をかわしつつ、草の生えそろい始めた原っぱを進んでゆく。 竜や角のある兵士のむくろを引き連れ、捨て場所まで運ぶいくつもの便壺とともに。

2018-10-04 22:03:38
帽子男 @alkali_acid

「宮殿の地下の書庫を探れば分かるかもしれんな」 「ギヒヒ、ならツィーツィーに聞いてみな。あの東洋のエルフさんはひまさえありゃあそこにこもって石でできた本をめくってら」 「あの子は学問好きだからな。そういえばあの指輪は返してやれ。ツィーツィーには必要な品だ」 「ギ…」

2018-10-04 22:03:53
帽子男 @alkali_acid

盗賊は面白くなさそうに、魔法の指輪を取り出して眺める。 「ツィーツィーはもう、こいつがなくたって、あそこの本を好き勝手読めると思うぜ。もともと頭のいい女には要らねえお宝だ」 「それでも叡智の指輪は、ツィーツィーが使うのが一番ふさわしいではないか」 「高く売れるのに…」

2018-10-04 22:05:52
帽子男 @alkali_acid

言いさしたところで、騎士の冷たい眼差しを受けてうなだれる。 「ギ…おっしゃるとおりにしますよ…まったく…」 「強いものには逆らわない…か…私はそんなに強そうか?」 「そりゃああんた。やっとう振り回してるとこはとてもかなわねえ」 「だが、貴様とて…」

2018-10-04 22:07:40
帽子男 @alkali_acid

シルヴィアはじっとボルボの横顔を見つめて、ふいと目をそらす。 「…いや、いい」 「あん?」 「それより、便壺だが、案外匂わぬものだな」 「ギヒヒ、そりゃね。ギヒヒヒヒ」 ゴブリンがにまつくのに、ドラゴニア人は半眼になる。 「今度は何を企んでいる」

2018-10-04 22:09:24
帽子男 @alkali_acid

「ギヒヒ、あんたの知ったこっちゃねえ」 「教えろ」 「あんたにゃ関係ねえって」 「あの便壺には私が出したものも入っているだろうが」 「ギヒヒ、品がねえなあお姫様が」 「ゴブリンと交わっていればな」

2018-10-04 22:10:45
帽子男 @alkali_acid

緑肌の若者は鉤鼻を搔いてから、銀髪のおとめに語り出した。 「こいつはゴブリンタウンの秘伝なんだが、まあいいや。あそこはあんたが燃やしちまってもうねえからな」 「…む」 「おいら達ゴブリンは、ウンコから毒を作るのさ。糞毒っていうね」 「…ああ、知っている」

2018-10-04 22:13:32
帽子男 @alkali_acid

シルヴィアは、糞毒にはさまざまな因縁があった。闇の国に入り込むきkっかけでもあった。だがどういう風にできるのかまでは考えたためしがなかった。 「糞毒は作り方が色々ある。醸す温みや混ぜるもんを変えて、できあがってくる毒の効き目もさまざまになる」

2018-10-04 22:15:54
帽子男 @alkali_acid

「ほ、ほう」 玲瓏のおもてをかすかにひきつらせながら、おとめが相槌を打つのへ、若者は黄色い三白眼をいたずらっぽくきらめかせる。 「おやおや、お姫様にはしんどい話かいギヒヒ」 「うるさい!続けろ」 「ギヒヒ、騎士さんや剣豪さん、エルフさんの栄養たっぷりのウンコなら」

2018-10-04 22:18:29
帽子男 @alkali_acid

「ぐっ…」 「ドグサレクサナシゲデゲデってのができる」 「…なんだそれは」 「無味無臭の猛毒さ。ちょいと手間はかかるがね。まず、おいらが混ぜ合わせた毒床を便壺に仕込んでおくと、小さな命がみるみるたまったウンコを食い尽くし別の代物に変えちまうのよ」 「む…ぅ」 「だから匂わねえ」

2018-10-04 22:20:41
帽子男 @alkali_acid

「そ、それで」 泣きそうになりながらも、シルヴィアは先をうながした。ボルボはせせら笑って口をつぐんだが、意地になって肘打ちをしてくる相棒に負けてまた喋り出した。 「ギヒヒ。つくづく、しぶといねえ騎士さんは」 「うるさい」

2018-10-04 22:22:39
帽子男 @alkali_acid

「ドグサレクサナシゲデゲデの素ができると、便壺のなかやまわりにいるほかの腐れ臭みのもとは皆枯れ果てちまう。だから厠のまわりは、ほかの場所よりきれいなぐらいだぜ。病の因もねえ」 「うう…」 「だがそれだけじゃ毒にはならねえ、そこに塩を混ぜて初めて…ギヒヒ」

2018-10-04 22:24:41
帽子男 @alkali_acid

「では貴様…初めから」 「ギヒヒヒ」 「塩とりと厠の始末が重なるように」 「知らねえなあ」 「…毒を作ってどうするつもりだ。まさか我等に使うつもりか」 「ギヒヒ、それもいいが。こいつは売りもんになる。ゴブリンの毒を欲しがる奴等は、そこらじゅうにいるからな」

2018-10-04 22:26:15
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